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第2部
2038年5月7日(金) 5
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絨毯が敷かれた廊下は、左右の壁に等間隔で設置された高級ブラケット・ライトで薄っすらと照らされていた。両壁に間隔を空けて並んでいるドアには重厚な木彫りの装飾が施されていて、扉の枠を金細工が囲んでいる。その豪勢なドアが並ぶ廊下は広いエレベーターホールへと続いていた。ホールには金色のエレベーターの扉が三つ並んでいる。その三機のエレベーターの向かい側には、高層ビルの中央の吹き抜けを斜めに複雑に交差するコンクリート製の柱の中に、夜空を透かした天窓から遥か下まで垂れた巨大なシャンデリアの中腹が見えていた。無数の高級クリスタルで美しく飾られた縦長のシャンデリアは、内部で反射させ増幅させた眩い光で各階のエレベーターホールを照らしている。
最上階から数階下のエレベーターホールには、廊下の入り口の左右に二人の男が立っていた。男たちは白い戦闘服の上に白色の甲冑を装着していて、白いヘルメットを被り、顔は口元以外を黒い偏光バイザーで覆っている。左側の壁を背にして立っている兵士は最新式の自動小銃を腰の前で抱えたまま、シャンデリアの強い光を見つめていた。右側の兵士が振り向いて、角から廊下の奥を確認しながら、左側の若い兵士に言った。
「油断するな。まだ任務中だ」
シャンデリアを眺めていた若い兵士は、視線を足下の毛並みの良い絨毯に落とすと、溜め息混じりに言った。
「了解です、中尉」
中尉はヘルメットに内蔵された無線で仲間と通信していた。
「山本軍曹、異常は無いか」
白いヘルメットのイヤホンから太く低い男性の声で返事が聞こえた。
『異常ありません。今のところ』
中尉は再び確認した。
「綾軍曹、そっちは」
若い女性の声が返ってきた。
『いえ。敵影なし。今のところ、異常ありません』
「そうか。警戒を怠るな」
『了解』
『了解』
その無線通信を聞いていた左側の若い兵士が口を開いた。
「しかし、中尉殿も大変ですねえ。こんな変な戦闘服着せられて。どうして司時空庁のSTSなんかに回されたんです? しかも、本庁ビルとか極秘施設の警備ならともかく、こんな高級ホテルみたいな所に配置だなんて」
「交代まであと少しだ。警備に集中しろ、伍長」
伍長は小型の自動小銃を抱えたまま両肩を上げると、三つ並んだエレベーターの金色の扉を顎先で指しながら中尉に言った。
「集中できませんよ、こんな所じゃ。場違い過ぎて。タイムマシンの発射施設って、中は多少豪勢なんだろうとは思っていましたが、まさか、ここまで豪華だとは思っていませんでしたからね。これなら、こんなコスプレみたいな戦闘服じゃなくて、タキシードでも支給してもらった方が……」
「場違いだから配属されたのさ」
そう言って中尉は相手にしなかったが、伍長は再び話しかけてきた。
「だいたい、俺たちは分かりますが、なんで中尉殿たちまで国防軍からSTSに配属換えなんですか。おかしいですよ。中尉殿の部隊は皆さん軍曹レベル以上で、国防軍の実戦エリート部隊なのに、こっちは只の警備員じゃないですか」
中尉は黙って吹き抜けの方に移動すると、腰高の壁から身を乗り出して下を覗きこみ、小さく見える一階ロビーを確認しながら答えた。
「それだけ重要な任務だってことだ」
中尉は一階のロビーの様子を顔の前の偏光バイザーの内側パネルに拡大した。玄関ホールに向けて銃を構える仲間のSTSの三人の兵士が映し出される。彼らの視線と銃口の先には、カートに段ボール箱を積んだ作業着姿の男とアタッシュケースを提げた施設関係者らしきスーツ姿の男たちの姿が見えた。男たちのうちの一人が兵士の一人に何か書面を見せている。その兵士は内容を確認し、通行を許可したようだった。他の兵士たちが銃口を下げる。
ホールに異常が無いと判断した中尉は、手すりから乗り出した身を戻して、背後を確認した。伍長は口を開け、疲れた様子で首を回している。
中尉が元の位置に戻ってくると、伍長は無線マイク越しに再び話し掛けてきた。
「そんなに重要な任務ですかねえ。仲間は南米の戦線で戦っているって言うのに、こっちは施設警備。しかも、警備するのは、タイムマシンの搭乗者用の宿泊待機施設ですよ。待機施設って言っても、これ、迎賓館じゃないですか。まるでセレブ用の高級ホテル。俺たちが払っている税金で国がこんな物を建てて金持ちを接待しているのかと思うと、警備にも気合が入りませんよ」
中尉は頭だけを伍長の方に向けて、彼に言った。
「もし敵が攻撃してきたら、敵はそんな泣き言を聞いてはくれんぞ。この空間で敵と遭遇したら至近距離での戦闘だ。少しの反応の遅れが命取りになる。無駄口を叩いてないで、いつでも瞬時に対応できるように集中力を切らすな。呼吸も整えろ」
「交代の時間が変更になったんで、リズムが狂っちまったんですよ。そもそも……」
「伍長」
中尉は偏光バイザー越しに伍長をにらみ付けた。伍長は恐怖して、すぐに背筋を正す。
「し、失礼しました。了解です。集中します」
その時、手前のエレベーターの上のパネルが光り、そこにデジタル表示された数字が変化を始めた。中尉は、そのエレベーターの正面へと移動しながら、ヘルメットに左手を添えて通信する。
「こちらディフェンス・ワン。右端のエレベーターで誰か上がってくる。ディフェンス・ツー、確認は」
返事が無かった。中尉は速やかに中央のエレベーターの前に移動し、その位置から右端のエレベーターの金色の扉に向けて自動小銃を構えると、伍長に指示した。
「左に五度移動しろ。そこは狙われやすい」
気だるそうに自動小銃を構えた伍長は、少しだけ移動し、廊下の中央を塞いで立った。それを見て、中尉が言った。
「しっかり構えろ。敵の襲撃かもしれん」
伍長は肩の高さに小銃を構え直しながら答えた。
「大丈夫ですよ。きっと、ディナーを運んできたんでしょ」
「様子が変だ。予定の時刻よりも遅れている。気を抜くな」
中尉は腰を落として小銃を構え、銃身の先のガンサイトを両開きの黄金の扉の中央に合わせた。変化するデジタル表示の数字を視界の隅に捉えながら、それを数えていく。数字は徐々にそのフロアの階数に近づいていた。
「軍曹」
中尉の呼びかけに、ヘルメットのイヤホンから男性の太い声が返ってきた。
『分かってます。こっちは任せて下さい』
「綾」
『見えています。大丈夫です』
女の声は落ち着いていた。
エレベーターの到着を知らせるチャイムが静かに鳴り、右端のエレベーターの上のパネルが白く点滅した。続いて、その下の金色の扉が左右にゆっくりと開く。中尉と伍長は肘を張って小銃を構えた。
エレベーターの中から、食器の音を小さく鳴らしながら、白い布を四方に垂らしたワゴンが出てきた。ワゴンの上には銀色の丸い蓋が被せられた皿や、ワインボトル、グラスが乗せられている。そのワゴンを押しながら、黒のスラックスに赤いジャケットを着て頭に四角い小帽子を乗せた男が姿を現した。男は自分に銃口を向けている二人の武装兵士を見て驚き、足を止めた。
伍長は一度深く息を吐くと、小銃を降ろして中尉に言った。
「ね、言ったでしょ。ディナーだ」
中尉は銃口をエレベーターの中に向けたまま、ゆっくりとその正面に移動して、中を確認した。中には他に誰も乗っていなかった。
銃口を下げた中尉は、その男に尋ねた。
「遅れた理由は」
男は両手を顔の前に上げて、怯えながら答えた。
「調理の方が少し遅れたようでして……」
汗に濡れた男の掌を見て、中尉は頭を傾けて男に行くように促した。
エレベーターの扉が閉まり、男はワゴンを押しながら廊下の方へと進んでいった。伍長が道を開けてワゴンを通そうとする。
「待て!」
男はワゴンに手を掛けたまま立ち止まり、恐る恐る少しだけ振り向いた。中尉が中央のエレベーターの前から男に向けて自動小銃を構えていた。男は唾を飲み込む。
中尉が男に尋ねた。
「おまえ、どうして手袋をしていない」
男は正面に立つ伍長の顔を見て答えた。
「いえ、忘れてしまったもので。以後、気をつけます」
中尉は小銃を構えたまま、伍長に言った。
「こいつ、戦闘ブーツを履いているぞ。通すな」
それを聞いた伍長は慌てて小銃を構え直し、銃口をその男に向けた。そのままワゴンの前に出て進行を塞ぎ、そこから一歩だけ後退する。
男は二人の兵士に直線上で前後から挟まれていた。彼は怯えた顔で両肩を上げたまま、揉み上げから汗を垂らす。滴が顎を伝い、顎先から垂れて男の黒いブーツの上に落ちた。
男は顔を引きつらせながら笑顔を作り、少し後ろを向いて答えた。
「あの、これは……会社から支給されたもので、皆、この靴を履いています。本当です」
男は半泣き顔で無理に笑った。
伍長は銃を構えたまま、少し顔を上げて、ワゴンの向こうの男の靴を見ようとした。
赤いジャケットの男はガタガタと震えながら、伍長に言った。
「う、撃たないで。ただ、お客様に食事を届けるだけですから。とにかく、撃たないで。わた、私は只の給仕です。う、う、嘘だと思ったら、下の兵隊さんに確認して下さい」
中尉は男に視線と銃口を向けたまま、吹き抜けのホールの手すりの前までゆっくりと移動した。素早く下を覗き込んで、一階フロアを確認する。三名の警備兵が大の字で床に倒れていた。背後で一発の銃声が響く。中尉が振り返ると、バイザーの上から額を撃たれた伍長が直立したまま廊下の方にゆっくりと倒れていた。
反射的に引き金を引いた中尉に男はピストルを連射してきた。中尉は素早く右に飛んで小銃を撃った。それと同時に、彼の背後の手すりに火花が散る。中尉は柔らかい絨毯の上に転がったまま小銃を撃ち続けた。赤いジャケットの男は体を揺らしながら後退してワゴンにぶつかると、その向こう側にひっくり返った。素早く体勢を立て直した中尉は、男が落とした最新式のピストルを目視で確認し、自動小銃を構えたまま、慎重にワゴンに近づく。すると、ワゴンの白い布が高く捲り上げられ、ワゴンの上に乗せられていた料理やグラスが宙に舞った。中尉が一瞬だけ後退した隙に、口から血を流したさっきの男がワゴンのテーブルの下から小型の機関銃を取り出し、それを構えた。中尉は腰を落として正確に男を射撃する。至近距離から撃たれた男は、手に握った小型の機関銃で天井を撃ちながら後方に吹き飛ばされ、そのままエレベーターの金色の扉に激しく衝突した。床に崩れ落ちた彼は、体の下から赤い血を染み出したまま動かなかった。
中尉は煙を浮かせた自動小銃の先端をその男に向けたまま、無線のマイクと肉声で、廊下に倒れている伍長に呼びかけた。
「伍長。伍長! ――くそっ!」
伍長からの返事は無かった。
据銃したまま前進した中尉は、ひっくり返ったワゴンの横を通り、男の前に着くと、男の手に握られていた薄型の小型機関銃を蹴り払った。横たわっている男の喉下に左手を添えて脈拍が無いことを確認した彼は、今度はその左手を白いヘルメットの耳の所に当ててボタンを押した。無線で本部に報告する。
「敵襲あり。第一波を排除。伍長がやられた。一階のロビーでも三人やられて……」
無線通信をしながら、中尉はワゴンに目を遣った。床に散乱した皿や料理、割れた瓶から零れたワインやシャンパンを染み込ませた白い布の他に、深緑色の小箱を発見した。小箱の隙間から赤い点滅が見え、その横に何本かの電気コードがはみ出している。
「くそっ!」
中尉は全速力で吹き抜けの方に走り、手すりを越えて、そこから吹き抜けの中に飛び降りた。それとほぼ同時に小箱から閃光が放たれ、熱と音を放出して爆発した。凄まじい振動がフロアを揺らし、辺りに埃を散らす。
黒煙が立ち込める中、籠った音のチャイムが鳴り、中央と左端のエレベーターの扉が開いた。それぞれの中から、迷彩服姿の武装した大柄な男たちが、大型の機関銃を構えて順序良く飛び出してくる。目にサングラスのような暗視ゴーグルを装着した男たちは、ホールに出るとすぐに隊列を組み、その横に一人はみ出した髭の男の合図で速やかに前進を開始した。彼らは機関銃を構えたまま、列を保って、明かりの消えた廊下の奥へと足音を立てずに進んでいく。
先頭の男が拳を握った左手を上げて停止した。他の男たちも合わせて停止する。先頭の男は煙の立ち込めた薄暗い廊下の突き当たりに大きな白い人影を見つけていた。STSの白い戦闘服と防具に身を包んでいるその大男は、腰の横でバルカン砲を抱えていた。
「いらっしゃいませえ」
そう言った大男は、抱えていたバルカン砲の発射ボタンを押した。六本の銃筒が高速で回転しながら、その先端から火を噴く。猛烈な音と共に無数の太い閃光が廊下を走った。前進しようとしていた男たちは、先頭の男から順に薙ぎ倒されていく。隊列の後方の兵士たちは発砲しながらエレベーターホールまで後退し、廊下の入り口で左右に別れて壁に身を隠した。彼らは口々に言った。
「チクショウ! 何だアレは。あんな強力な武器を装備しているとは聞いてないぞ」
「一級レベルの重火器じゃねえか。一人で持っているぞ。あいつ、バケモノかよ」
「どうする」
壁に身を隠しながら、男たちは反撃の作戦を練った。髭の男が後方から指示を出した。
「擲弾筒はあるか。手榴弾を撃ち込め」
「了解!」
吹き抜けのホール側の壁に隠れていた男が、腰から筒状の発射装置を取り出すと、蓋を外し、着ていたベストから手榴弾を外してピンを抜いた。その瞬間、鈍い音と共に、その男は後頭部から壁に血を散らして、床に倒れた。彼が握っていた手榴弾が床に転がる。続いて、空を切る音の後に、隣の男も壁に体を打ち付けて床に倒れた。反対側の壁に隠れていた男たちは一斉に床に伏せる。髭の男が素早く機関銃で手榴弾の近くの床を撃ち、その手榴弾を吹き抜けの方に弾き飛ばした。空中で手榴弾が爆発し、巨大なシャンデリアを激しく揺らす。キシキシと音がした。エレベーターホールを照らしていた側のシャンデリアのクリスタルが高音を鳴らして上から下に一斉に崩れ落ちる。一階フロアで高く凄まじい炸裂音が響いた。
髭の男は、片面だけになって点滅しながらも強い光を放ち続けているシャンデリアの方に目を凝らしながら、叫んだ。
「くそう! 狙撃手がいるぞ。どこだ!」
丸刈りの男が半身を起こし、吹き抜けの方を指差しながら叫んだ。
「シャンデリアの向うです。明かりが強くて見えません!」
その丸刈りの男は、次の瞬間に銃撃を受け、仰け反るようにして床に倒れた。隣にいた長髪の男はシャンデリアの光の方に機関銃を乱射した。シャンデリアのクリスタルが割れて飛び散り、残っていた装飾が次々と音を立てて落下する。その男は興奮したように声を上げながら射撃を続けた。その横にいた短髪の男も前に出て、当てずっぽうにシャンデリアの方角に機関銃を連射する。すると、廊下の奥から轟音と共に再び猛烈な閃光が幾筋も流れ、前に出た短髪の男を直撃して横に薙ぎ倒した。
髭の男が遅れて指示を出した。
「前に出るな。バルカン砲にやられるぞ。壁から前に出るな!」
「くそお!」
シャンデリアに向けて射撃を続けていた長髪の男が、壁に身を隠したまま銃の角度を変え、火を噴く銃口を廊下の奥に向けた。反対側の血の付いた壁の上に、横に並んで穴が開けられていく。次の瞬間、シャンデリアのクリスタルの間を抜けて飛んできた弾丸が彼の側頭部に命中した。長髪の男は膝を折って後ろに倒れると、天井に向けて機関銃を構えたままの姿勢で髭の男に靠れ掛かった。髭の男は仲間の死体を避け払い、しゃがんだまま周囲を見回した。顔に汗を浮かべている。
生き残ったのは自分一人だけだと確認した彼は、左端のエレベーターの扉が開いているのに気付くと、身を低くしたまま駆け出した。その髭の男は大声で叫びながらシャンデリアの後ろに向けて機関銃を撃ち続けた。そのままエレベーターに向かって壁際を走っていく。彼の後を追うように、吹き抜けの向うから飛んできた銃弾が右端のエレベーターと中央のエレベーターの金色の扉を叩き、順に間隔を空けて穴を開けていった。廊下の奥から轟音と共に凄まじい銃撃が光の筋を作って髭の男を追う。彼はバルカン砲の激しい銃撃を避けて、左端のエレベーター中に飛び込んだ。床に転がった髭の男が顔を上げると、中には白いスーツ姿の男が一人、背を向けて立っていた。彼は左端の隅に身を隠しながら、エレベーター扉の開放ボタンを押している。
その白いスーツ姿の男は、床の上の髭の男に尋ねた。
「全滅か」
髭の男は汗を拭きながら立ち上がり、狙撃手から死角になるよう、スーツの男の後ろの壁際に背中を押し付けて、蒼白の顔で答えた。
「ああ。手強すぎる。早く扉を閉めろ。撤退だ」
開いた扉の向こうでは、バルカン砲から絶え間なく発射される弾丸が、横縞を作って流れていた。
スーツ姿の男は振り向くと、髭の男の襟首を両手で掴み、刀傷が付いた隻眼の顔を近づけてから、言った。
「では、隊長が責任をとらんといかんな」
刀傷の男は髭の男を外に放り投げた。何本もの光の筋を描いている弾道の中に投げ込まれた髭の男は、身を散らして横に押し倒される。刀傷の男はスーツのポケットから小型のケースを取り出すと、そのスイッチを入れてエレベーターホールに投じた。血の付いた絨毯の上に転がったそのケースから白煙が一気に噴出され、瞬時にホール内を白霧で埋め尽くし、周囲の視界を遮断した。
吹き抜けの向うの斜めに交差するコンクリートの柱の間で、長い黒髪の女が射撃用の高性能ライフルのスコープから顔を離して舌打ちする。
「チッ。赤外線遮断型の煙幕。やられた、準備がいい……」
廊下の奥の大男は、弾を撃ち終えたバルカン砲を投げ捨て、太腿の横から小型の自動小銃を素早く外すと、それを肩の高さで構え直した。そのままエレベーターホールの白煙に向かって撃ちながら突進する。彼のヘルメットのイヤホンに通信が入った。
『敵は煙幕で体温熱を遮断しているわ。熱感知バイザーでも見えないわよ。気をつけて』
大男が白煙の中に飛び込んだ瞬間、彼の視界に、床の上に置かれた円盤状の小型機械が飛び込んできた。急停止した彼は思わず叫んだ。
「おいおい、熱溶解爆弾かよ。やべえ!」
巨体を素早く翻すと、元来た廊下を全速力で駆け戻る。
床に置かれた円盤状の小型機械は赤く発色していて、次第にオレンジ色に変色し、やがて白くなっていった。それに伴い、床に倒れている男たちの死体が体中から徐々に煙を立たせ始めた。大男は廊下の途中のドアに体当たりしてそれを壊し、部屋の中に飛び込んだ。その瞬間、エレベーターホールの周囲が白い光に包まれ、漂っていた白煙が一気に吹き飛ばされた。
光が消えると、そこに残っていたのは、熱気と悪臭と黒煙だけだった。絨毯は焼き払われ、床のコンクリートがむき出しになって焦げている。天井と壁も黒く炭化し、どのエレベーターの扉も反って変形して、表面の金箔が溶けていた。襲撃してきた男たちの死体は跡形も無く焼き消されていて、人型の黒い跡だけが床に残されている。
左端のエレベーターの扉が内側からこじ開けられ、中から刀傷の男がハンカチで口を覆いながら顔を出した。扉の陰から周囲を注意深く見回すと、焼け残った警備カメラに気付き、一度エレベーターの中に体を戻す。白いスーツの内側からリボルバー式の拳銃を取り出した彼は、それを扉の隙間から突き出し、器用にカメラのレンズを撃ち抜いた。
左手に握ったハンカチで口と鼻を覆ったまま、半開きのエレベーターの扉の隙間から体を横にして出てきた刀傷の男は、拳銃を持った右手で顔の前の黒煙と悪臭を払いながら、ゆっくりと周囲を見回した。吹き抜けの向うの狙撃手が居ないことと廊下の奥の大男が居ないことを確認した彼は、悠然と廊下の方に向かって歩き出す。その時、彼の背後に吹き抜けの方から白い人影が飛び込んできた。壁から蜘蛛の糸のように伸びた粘着性の特殊合成ゴムでできたワイヤーを使ってエレベーターホールに飛び込んできた中尉は、着床するとすぐに、握っていたピストル型の機械のスイッチを押した。その機械の先端から吹き抜けの向こうの壁まで伸びていたピンク色の「粘性ワイヤー」が一瞬で凝固し、そのままひび割れると、粉状になって霧散する。その時には既に、中尉は腰から抜いたグロッグを刀傷の男の背中に向けていた。
隙を突かれた刀傷の男は、ピタリと動きを止めた。
中尉は、両手で構えたグロッグの銃口を刀傷の男の背中に向けたまま、言った。
「貴様、仲間の兵隊を囮に使ったな」
刀傷の男は前を向いたまま、拳銃を握った右手とハンカチを握った左手をゆっくりと上げて、答えた。
「相手のレベルが高いと、多少の犠牲は仕方ないさ」
「貴様……」
「おっと、降参だ。勝ち目は無い」
刀傷の男は両手を広げてハンカチと銃を床に落とした。中尉が前に出た瞬間、刀傷の男が左から素早く振り返った。それと同時に青白い光線が左上から弧を描いて中尉の目の前を斜めに横切る。反射的に体を逸らした中尉は、それをかわして素早く後退した。
彼が構えていたグロッグの先端は斜めに切断されていた。断面が赤く輝いて熱を発している。中尉のヘルメットも額から顔の前のバイザーにかけて切りつけられていて、そこから煙を発していた。中尉はすぐにヘルメットを外し、壊れたグロッグと共に投棄した。端整な顔を晒した中尉は、厳しい表情で刀傷の男をにらむ。
こちらを向いて構えている刀傷の男の左手には両刃のナイフが握られていた。そのナイフの刃の部分は青白く輝いている。
中尉は素早く腿の横のケースから戦闘用ナイフを抜くと、それを構えて言った。
「使用禁止武器の『レーザーナイフ』か。とことんゲスな野郎だ」
「いやあ、仕事の道具には拘る主義でね」
不気味な笑みを浮かべてそう言った刀傷の男は、ニヤつきながら中尉に切りかかってきた。中尉は青白い高熱レーザーで覆われた刃を避けると、男の脇腹を蹴る。刀傷の男は苦しそうな顔で体を曲げたが、中尉が近づくと、すぐに青い光を放つナイフを振り回してきた。中尉は自分の戦闘用ナイフでその刃を受ける。レーザーナイフの刃は中尉のナイフの刀身を一瞬で二つに切り落とした。辛うじて刀傷の男の胸を蹴り押して後退させ、間合いを取った中尉は、刃を切断されたナイフを捨て、今度は素手のまま構えをとった。刀傷の男は、また口元に薄っすらと笑みを浮かべると、青く光るナイフで切りつけてきた。中尉がそれを紙一重で避け、刀傷の男が再びそれを高く振り上げた瞬間、彼が左手に握っていたナイフが火花を上げて弾き飛ばされた。
左手を庇いながら刀傷の男が吹き抜けの向こうを探すと、さっきとは違う位置で、黒髪の女が高性能ライフルのスコープを覗きながら据銃していた。
「なんだ。あいつ、まだ居たのか」
そう言って顔をしかめた刀傷の男の後ろで、廊下の中ほどのドアの扉が蹴り飛ばされ、反対側の壁に当たった。部屋の中からさっきの大男が、咳き込みながら体を出してくる。
刀傷の男は舌打ちをすると、吹き抜けの方に向かって一気に駆け出した。白いジャケットの袖から鉤爪状のフックを引き出して、それを手すりに掛けると、吹き抜けの中に飛び降りる。鉤爪からは細い強化繊維の糸が伸び、彼はその糸を使って二つ下の階のエレベーターホールを目掛けて降下した。高速で降下する彼を追う様に、吹き抜けに面した壁を狙撃弾が叩いていく。
刀傷の男はホールに飛び込むと、素早く体勢を立て直し、フットボール選手のように右に左に体を動かしながら非常階段の方に向かって走った。彼の足跡をつけた床の絨毯が狙撃弾に毛を散らす。刀傷の男は階段の入り口の金属製の耐火扉を開けると、その中に素早く体を入れた。閉めたドアに更に一発の銃弾が撃ち込まれた。
ライフルから薬莢を弾き出しながら、長い黒髪の女が苛立ったように言う。
「もう、このシャンデリア、邪魔!」
彼女のイヤホンに中尉から通信が入った。
『綾、もういい。降りて来い。これ以上、被害を出す訳にはいかん』
その女は、美しい黒髪をかき上げながら、喉に巻いた声帯マイクで返事をした。
「了解。撤収します。ですが、シャンデリアを壊したのは私じゃないですから」
『分かっている』
中尉は片笑みながら答えた。
廊下の方から大柄な兵士が歩いてきた。その大男は頭を掻きながら床にしゃがみ、足下に焼き付いている黒い人の形の影を覗き込んで言った。
「あーあ、真っ黒け。宇城中尉、こいつら、何者なんです?」
中尉は床に落ちていたリボルバー式の拳銃を拾い上げて言った。
「さあな。だが、山本の攻撃に対する対処の仕方や、綾の狙撃に対する反応の早さからすると、ただの素人集団ではないようだ。最初の男も、かなり訓練されていたようだし、武器も最新式のものだった」
「へえー。傭兵ですかね。それにしては、手ごたえが無かったですけどね」
「何しに来たんでしょうね」
粘性ワイヤーを使って振り子のように弧を描いて移動してきた黒髪の女が、軽やかに二人の前に着床して、そう言った。
彼女は長い黒髪をかき上げながら、さらに中尉に尋ねた。
「さっきの奴、もしかして……」
中尉は吹き抜けから一階のロビーを見ながら答えた。
「ああ、奴だ。だが、相手が何者であれ、俺たちは国防兵士としての任務を全うするだけだ。国家に刃を向ける奴は、素人でも玄人でも、全て敵だ。それを忘れるな」
「了解」
床の兵士たちの跡形を見回しながら、大男はそう答えた。黒髪の女は壊れたシャンデリアを気にしている。中尉は手すりから下を見下ろしていた。
一階のロビーでは、隊列を組んだ白い戦闘服のSTS兵士たちが小銃を構えたまま前進していた。そして、そのタイムマシンの搭乗者の豪勢な宿泊施設に、ようやく非常警報が鳴り始めた。
繰り返すサイレン音の中を、三人の兵士たちは廊下の奥へと歩いていった。
最上階から数階下のエレベーターホールには、廊下の入り口の左右に二人の男が立っていた。男たちは白い戦闘服の上に白色の甲冑を装着していて、白いヘルメットを被り、顔は口元以外を黒い偏光バイザーで覆っている。左側の壁を背にして立っている兵士は最新式の自動小銃を腰の前で抱えたまま、シャンデリアの強い光を見つめていた。右側の兵士が振り向いて、角から廊下の奥を確認しながら、左側の若い兵士に言った。
「油断するな。まだ任務中だ」
シャンデリアを眺めていた若い兵士は、視線を足下の毛並みの良い絨毯に落とすと、溜め息混じりに言った。
「了解です、中尉」
中尉はヘルメットに内蔵された無線で仲間と通信していた。
「山本軍曹、異常は無いか」
白いヘルメットのイヤホンから太く低い男性の声で返事が聞こえた。
『異常ありません。今のところ』
中尉は再び確認した。
「綾軍曹、そっちは」
若い女性の声が返ってきた。
『いえ。敵影なし。今のところ、異常ありません』
「そうか。警戒を怠るな」
『了解』
『了解』
その無線通信を聞いていた左側の若い兵士が口を開いた。
「しかし、中尉殿も大変ですねえ。こんな変な戦闘服着せられて。どうして司時空庁のSTSなんかに回されたんです? しかも、本庁ビルとか極秘施設の警備ならともかく、こんな高級ホテルみたいな所に配置だなんて」
「交代まであと少しだ。警備に集中しろ、伍長」
伍長は小型の自動小銃を抱えたまま両肩を上げると、三つ並んだエレベーターの金色の扉を顎先で指しながら中尉に言った。
「集中できませんよ、こんな所じゃ。場違い過ぎて。タイムマシンの発射施設って、中は多少豪勢なんだろうとは思っていましたが、まさか、ここまで豪華だとは思っていませんでしたからね。これなら、こんなコスプレみたいな戦闘服じゃなくて、タキシードでも支給してもらった方が……」
「場違いだから配属されたのさ」
そう言って中尉は相手にしなかったが、伍長は再び話しかけてきた。
「だいたい、俺たちは分かりますが、なんで中尉殿たちまで国防軍からSTSに配属換えなんですか。おかしいですよ。中尉殿の部隊は皆さん軍曹レベル以上で、国防軍の実戦エリート部隊なのに、こっちは只の警備員じゃないですか」
中尉は黙って吹き抜けの方に移動すると、腰高の壁から身を乗り出して下を覗きこみ、小さく見える一階ロビーを確認しながら答えた。
「それだけ重要な任務だってことだ」
中尉は一階のロビーの様子を顔の前の偏光バイザーの内側パネルに拡大した。玄関ホールに向けて銃を構える仲間のSTSの三人の兵士が映し出される。彼らの視線と銃口の先には、カートに段ボール箱を積んだ作業着姿の男とアタッシュケースを提げた施設関係者らしきスーツ姿の男たちの姿が見えた。男たちのうちの一人が兵士の一人に何か書面を見せている。その兵士は内容を確認し、通行を許可したようだった。他の兵士たちが銃口を下げる。
ホールに異常が無いと判断した中尉は、手すりから乗り出した身を戻して、背後を確認した。伍長は口を開け、疲れた様子で首を回している。
中尉が元の位置に戻ってくると、伍長は無線マイク越しに再び話し掛けてきた。
「そんなに重要な任務ですかねえ。仲間は南米の戦線で戦っているって言うのに、こっちは施設警備。しかも、警備するのは、タイムマシンの搭乗者用の宿泊待機施設ですよ。待機施設って言っても、これ、迎賓館じゃないですか。まるでセレブ用の高級ホテル。俺たちが払っている税金で国がこんな物を建てて金持ちを接待しているのかと思うと、警備にも気合が入りませんよ」
中尉は頭だけを伍長の方に向けて、彼に言った。
「もし敵が攻撃してきたら、敵はそんな泣き言を聞いてはくれんぞ。この空間で敵と遭遇したら至近距離での戦闘だ。少しの反応の遅れが命取りになる。無駄口を叩いてないで、いつでも瞬時に対応できるように集中力を切らすな。呼吸も整えろ」
「交代の時間が変更になったんで、リズムが狂っちまったんですよ。そもそも……」
「伍長」
中尉は偏光バイザー越しに伍長をにらみ付けた。伍長は恐怖して、すぐに背筋を正す。
「し、失礼しました。了解です。集中します」
その時、手前のエレベーターの上のパネルが光り、そこにデジタル表示された数字が変化を始めた。中尉は、そのエレベーターの正面へと移動しながら、ヘルメットに左手を添えて通信する。
「こちらディフェンス・ワン。右端のエレベーターで誰か上がってくる。ディフェンス・ツー、確認は」
返事が無かった。中尉は速やかに中央のエレベーターの前に移動し、その位置から右端のエレベーターの金色の扉に向けて自動小銃を構えると、伍長に指示した。
「左に五度移動しろ。そこは狙われやすい」
気だるそうに自動小銃を構えた伍長は、少しだけ移動し、廊下の中央を塞いで立った。それを見て、中尉が言った。
「しっかり構えろ。敵の襲撃かもしれん」
伍長は肩の高さに小銃を構え直しながら答えた。
「大丈夫ですよ。きっと、ディナーを運んできたんでしょ」
「様子が変だ。予定の時刻よりも遅れている。気を抜くな」
中尉は腰を落として小銃を構え、銃身の先のガンサイトを両開きの黄金の扉の中央に合わせた。変化するデジタル表示の数字を視界の隅に捉えながら、それを数えていく。数字は徐々にそのフロアの階数に近づいていた。
「軍曹」
中尉の呼びかけに、ヘルメットのイヤホンから男性の太い声が返ってきた。
『分かってます。こっちは任せて下さい』
「綾」
『見えています。大丈夫です』
女の声は落ち着いていた。
エレベーターの到着を知らせるチャイムが静かに鳴り、右端のエレベーターの上のパネルが白く点滅した。続いて、その下の金色の扉が左右にゆっくりと開く。中尉と伍長は肘を張って小銃を構えた。
エレベーターの中から、食器の音を小さく鳴らしながら、白い布を四方に垂らしたワゴンが出てきた。ワゴンの上には銀色の丸い蓋が被せられた皿や、ワインボトル、グラスが乗せられている。そのワゴンを押しながら、黒のスラックスに赤いジャケットを着て頭に四角い小帽子を乗せた男が姿を現した。男は自分に銃口を向けている二人の武装兵士を見て驚き、足を止めた。
伍長は一度深く息を吐くと、小銃を降ろして中尉に言った。
「ね、言ったでしょ。ディナーだ」
中尉は銃口をエレベーターの中に向けたまま、ゆっくりとその正面に移動して、中を確認した。中には他に誰も乗っていなかった。
銃口を下げた中尉は、その男に尋ねた。
「遅れた理由は」
男は両手を顔の前に上げて、怯えながら答えた。
「調理の方が少し遅れたようでして……」
汗に濡れた男の掌を見て、中尉は頭を傾けて男に行くように促した。
エレベーターの扉が閉まり、男はワゴンを押しながら廊下の方へと進んでいった。伍長が道を開けてワゴンを通そうとする。
「待て!」
男はワゴンに手を掛けたまま立ち止まり、恐る恐る少しだけ振り向いた。中尉が中央のエレベーターの前から男に向けて自動小銃を構えていた。男は唾を飲み込む。
中尉が男に尋ねた。
「おまえ、どうして手袋をしていない」
男は正面に立つ伍長の顔を見て答えた。
「いえ、忘れてしまったもので。以後、気をつけます」
中尉は小銃を構えたまま、伍長に言った。
「こいつ、戦闘ブーツを履いているぞ。通すな」
それを聞いた伍長は慌てて小銃を構え直し、銃口をその男に向けた。そのままワゴンの前に出て進行を塞ぎ、そこから一歩だけ後退する。
男は二人の兵士に直線上で前後から挟まれていた。彼は怯えた顔で両肩を上げたまま、揉み上げから汗を垂らす。滴が顎を伝い、顎先から垂れて男の黒いブーツの上に落ちた。
男は顔を引きつらせながら笑顔を作り、少し後ろを向いて答えた。
「あの、これは……会社から支給されたもので、皆、この靴を履いています。本当です」
男は半泣き顔で無理に笑った。
伍長は銃を構えたまま、少し顔を上げて、ワゴンの向こうの男の靴を見ようとした。
赤いジャケットの男はガタガタと震えながら、伍長に言った。
「う、撃たないで。ただ、お客様に食事を届けるだけですから。とにかく、撃たないで。わた、私は只の給仕です。う、う、嘘だと思ったら、下の兵隊さんに確認して下さい」
中尉は男に視線と銃口を向けたまま、吹き抜けのホールの手すりの前までゆっくりと移動した。素早く下を覗き込んで、一階フロアを確認する。三名の警備兵が大の字で床に倒れていた。背後で一発の銃声が響く。中尉が振り返ると、バイザーの上から額を撃たれた伍長が直立したまま廊下の方にゆっくりと倒れていた。
反射的に引き金を引いた中尉に男はピストルを連射してきた。中尉は素早く右に飛んで小銃を撃った。それと同時に、彼の背後の手すりに火花が散る。中尉は柔らかい絨毯の上に転がったまま小銃を撃ち続けた。赤いジャケットの男は体を揺らしながら後退してワゴンにぶつかると、その向こう側にひっくり返った。素早く体勢を立て直した中尉は、男が落とした最新式のピストルを目視で確認し、自動小銃を構えたまま、慎重にワゴンに近づく。すると、ワゴンの白い布が高く捲り上げられ、ワゴンの上に乗せられていた料理やグラスが宙に舞った。中尉が一瞬だけ後退した隙に、口から血を流したさっきの男がワゴンのテーブルの下から小型の機関銃を取り出し、それを構えた。中尉は腰を落として正確に男を射撃する。至近距離から撃たれた男は、手に握った小型の機関銃で天井を撃ちながら後方に吹き飛ばされ、そのままエレベーターの金色の扉に激しく衝突した。床に崩れ落ちた彼は、体の下から赤い血を染み出したまま動かなかった。
中尉は煙を浮かせた自動小銃の先端をその男に向けたまま、無線のマイクと肉声で、廊下に倒れている伍長に呼びかけた。
「伍長。伍長! ――くそっ!」
伍長からの返事は無かった。
据銃したまま前進した中尉は、ひっくり返ったワゴンの横を通り、男の前に着くと、男の手に握られていた薄型の小型機関銃を蹴り払った。横たわっている男の喉下に左手を添えて脈拍が無いことを確認した彼は、今度はその左手を白いヘルメットの耳の所に当ててボタンを押した。無線で本部に報告する。
「敵襲あり。第一波を排除。伍長がやられた。一階のロビーでも三人やられて……」
無線通信をしながら、中尉はワゴンに目を遣った。床に散乱した皿や料理、割れた瓶から零れたワインやシャンパンを染み込ませた白い布の他に、深緑色の小箱を発見した。小箱の隙間から赤い点滅が見え、その横に何本かの電気コードがはみ出している。
「くそっ!」
中尉は全速力で吹き抜けの方に走り、手すりを越えて、そこから吹き抜けの中に飛び降りた。それとほぼ同時に小箱から閃光が放たれ、熱と音を放出して爆発した。凄まじい振動がフロアを揺らし、辺りに埃を散らす。
黒煙が立ち込める中、籠った音のチャイムが鳴り、中央と左端のエレベーターの扉が開いた。それぞれの中から、迷彩服姿の武装した大柄な男たちが、大型の機関銃を構えて順序良く飛び出してくる。目にサングラスのような暗視ゴーグルを装着した男たちは、ホールに出るとすぐに隊列を組み、その横に一人はみ出した髭の男の合図で速やかに前進を開始した。彼らは機関銃を構えたまま、列を保って、明かりの消えた廊下の奥へと足音を立てずに進んでいく。
先頭の男が拳を握った左手を上げて停止した。他の男たちも合わせて停止する。先頭の男は煙の立ち込めた薄暗い廊下の突き当たりに大きな白い人影を見つけていた。STSの白い戦闘服と防具に身を包んでいるその大男は、腰の横でバルカン砲を抱えていた。
「いらっしゃいませえ」
そう言った大男は、抱えていたバルカン砲の発射ボタンを押した。六本の銃筒が高速で回転しながら、その先端から火を噴く。猛烈な音と共に無数の太い閃光が廊下を走った。前進しようとしていた男たちは、先頭の男から順に薙ぎ倒されていく。隊列の後方の兵士たちは発砲しながらエレベーターホールまで後退し、廊下の入り口で左右に別れて壁に身を隠した。彼らは口々に言った。
「チクショウ! 何だアレは。あんな強力な武器を装備しているとは聞いてないぞ」
「一級レベルの重火器じゃねえか。一人で持っているぞ。あいつ、バケモノかよ」
「どうする」
壁に身を隠しながら、男たちは反撃の作戦を練った。髭の男が後方から指示を出した。
「擲弾筒はあるか。手榴弾を撃ち込め」
「了解!」
吹き抜けのホール側の壁に隠れていた男が、腰から筒状の発射装置を取り出すと、蓋を外し、着ていたベストから手榴弾を外してピンを抜いた。その瞬間、鈍い音と共に、その男は後頭部から壁に血を散らして、床に倒れた。彼が握っていた手榴弾が床に転がる。続いて、空を切る音の後に、隣の男も壁に体を打ち付けて床に倒れた。反対側の壁に隠れていた男たちは一斉に床に伏せる。髭の男が素早く機関銃で手榴弾の近くの床を撃ち、その手榴弾を吹き抜けの方に弾き飛ばした。空中で手榴弾が爆発し、巨大なシャンデリアを激しく揺らす。キシキシと音がした。エレベーターホールを照らしていた側のシャンデリアのクリスタルが高音を鳴らして上から下に一斉に崩れ落ちる。一階フロアで高く凄まじい炸裂音が響いた。
髭の男は、片面だけになって点滅しながらも強い光を放ち続けているシャンデリアの方に目を凝らしながら、叫んだ。
「くそう! 狙撃手がいるぞ。どこだ!」
丸刈りの男が半身を起こし、吹き抜けの方を指差しながら叫んだ。
「シャンデリアの向うです。明かりが強くて見えません!」
その丸刈りの男は、次の瞬間に銃撃を受け、仰け反るようにして床に倒れた。隣にいた長髪の男はシャンデリアの光の方に機関銃を乱射した。シャンデリアのクリスタルが割れて飛び散り、残っていた装飾が次々と音を立てて落下する。その男は興奮したように声を上げながら射撃を続けた。その横にいた短髪の男も前に出て、当てずっぽうにシャンデリアの方角に機関銃を連射する。すると、廊下の奥から轟音と共に再び猛烈な閃光が幾筋も流れ、前に出た短髪の男を直撃して横に薙ぎ倒した。
髭の男が遅れて指示を出した。
「前に出るな。バルカン砲にやられるぞ。壁から前に出るな!」
「くそお!」
シャンデリアに向けて射撃を続けていた長髪の男が、壁に身を隠したまま銃の角度を変え、火を噴く銃口を廊下の奥に向けた。反対側の血の付いた壁の上に、横に並んで穴が開けられていく。次の瞬間、シャンデリアのクリスタルの間を抜けて飛んできた弾丸が彼の側頭部に命中した。長髪の男は膝を折って後ろに倒れると、天井に向けて機関銃を構えたままの姿勢で髭の男に靠れ掛かった。髭の男は仲間の死体を避け払い、しゃがんだまま周囲を見回した。顔に汗を浮かべている。
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その白いスーツ姿の男は、床の上の髭の男に尋ねた。
「全滅か」
髭の男は汗を拭きながら立ち上がり、狙撃手から死角になるよう、スーツの男の後ろの壁際に背中を押し付けて、蒼白の顔で答えた。
「ああ。手強すぎる。早く扉を閉めろ。撤退だ」
開いた扉の向こうでは、バルカン砲から絶え間なく発射される弾丸が、横縞を作って流れていた。
スーツ姿の男は振り向くと、髭の男の襟首を両手で掴み、刀傷が付いた隻眼の顔を近づけてから、言った。
「では、隊長が責任をとらんといかんな」
刀傷の男は髭の男を外に放り投げた。何本もの光の筋を描いている弾道の中に投げ込まれた髭の男は、身を散らして横に押し倒される。刀傷の男はスーツのポケットから小型のケースを取り出すと、そのスイッチを入れてエレベーターホールに投じた。血の付いた絨毯の上に転がったそのケースから白煙が一気に噴出され、瞬時にホール内を白霧で埋め尽くし、周囲の視界を遮断した。
吹き抜けの向うの斜めに交差するコンクリートの柱の間で、長い黒髪の女が射撃用の高性能ライフルのスコープから顔を離して舌打ちする。
「チッ。赤外線遮断型の煙幕。やられた、準備がいい……」
廊下の奥の大男は、弾を撃ち終えたバルカン砲を投げ捨て、太腿の横から小型の自動小銃を素早く外すと、それを肩の高さで構え直した。そのままエレベーターホールの白煙に向かって撃ちながら突進する。彼のヘルメットのイヤホンに通信が入った。
『敵は煙幕で体温熱を遮断しているわ。熱感知バイザーでも見えないわよ。気をつけて』
大男が白煙の中に飛び込んだ瞬間、彼の視界に、床の上に置かれた円盤状の小型機械が飛び込んできた。急停止した彼は思わず叫んだ。
「おいおい、熱溶解爆弾かよ。やべえ!」
巨体を素早く翻すと、元来た廊下を全速力で駆け戻る。
床に置かれた円盤状の小型機械は赤く発色していて、次第にオレンジ色に変色し、やがて白くなっていった。それに伴い、床に倒れている男たちの死体が体中から徐々に煙を立たせ始めた。大男は廊下の途中のドアに体当たりしてそれを壊し、部屋の中に飛び込んだ。その瞬間、エレベーターホールの周囲が白い光に包まれ、漂っていた白煙が一気に吹き飛ばされた。
光が消えると、そこに残っていたのは、熱気と悪臭と黒煙だけだった。絨毯は焼き払われ、床のコンクリートがむき出しになって焦げている。天井と壁も黒く炭化し、どのエレベーターの扉も反って変形して、表面の金箔が溶けていた。襲撃してきた男たちの死体は跡形も無く焼き消されていて、人型の黒い跡だけが床に残されている。
左端のエレベーターの扉が内側からこじ開けられ、中から刀傷の男がハンカチで口を覆いながら顔を出した。扉の陰から周囲を注意深く見回すと、焼け残った警備カメラに気付き、一度エレベーターの中に体を戻す。白いスーツの内側からリボルバー式の拳銃を取り出した彼は、それを扉の隙間から突き出し、器用にカメラのレンズを撃ち抜いた。
左手に握ったハンカチで口と鼻を覆ったまま、半開きのエレベーターの扉の隙間から体を横にして出てきた刀傷の男は、拳銃を持った右手で顔の前の黒煙と悪臭を払いながら、ゆっくりと周囲を見回した。吹き抜けの向うの狙撃手が居ないことと廊下の奥の大男が居ないことを確認した彼は、悠然と廊下の方に向かって歩き出す。その時、彼の背後に吹き抜けの方から白い人影が飛び込んできた。壁から蜘蛛の糸のように伸びた粘着性の特殊合成ゴムでできたワイヤーを使ってエレベーターホールに飛び込んできた中尉は、着床するとすぐに、握っていたピストル型の機械のスイッチを押した。その機械の先端から吹き抜けの向こうの壁まで伸びていたピンク色の「粘性ワイヤー」が一瞬で凝固し、そのままひび割れると、粉状になって霧散する。その時には既に、中尉は腰から抜いたグロッグを刀傷の男の背中に向けていた。
隙を突かれた刀傷の男は、ピタリと動きを止めた。
中尉は、両手で構えたグロッグの銃口を刀傷の男の背中に向けたまま、言った。
「貴様、仲間の兵隊を囮に使ったな」
刀傷の男は前を向いたまま、拳銃を握った右手とハンカチを握った左手をゆっくりと上げて、答えた。
「相手のレベルが高いと、多少の犠牲は仕方ないさ」
「貴様……」
「おっと、降参だ。勝ち目は無い」
刀傷の男は両手を広げてハンカチと銃を床に落とした。中尉が前に出た瞬間、刀傷の男が左から素早く振り返った。それと同時に青白い光線が左上から弧を描いて中尉の目の前を斜めに横切る。反射的に体を逸らした中尉は、それをかわして素早く後退した。
彼が構えていたグロッグの先端は斜めに切断されていた。断面が赤く輝いて熱を発している。中尉のヘルメットも額から顔の前のバイザーにかけて切りつけられていて、そこから煙を発していた。中尉はすぐにヘルメットを外し、壊れたグロッグと共に投棄した。端整な顔を晒した中尉は、厳しい表情で刀傷の男をにらむ。
こちらを向いて構えている刀傷の男の左手には両刃のナイフが握られていた。そのナイフの刃の部分は青白く輝いている。
中尉は素早く腿の横のケースから戦闘用ナイフを抜くと、それを構えて言った。
「使用禁止武器の『レーザーナイフ』か。とことんゲスな野郎だ」
「いやあ、仕事の道具には拘る主義でね」
不気味な笑みを浮かべてそう言った刀傷の男は、ニヤつきながら中尉に切りかかってきた。中尉は青白い高熱レーザーで覆われた刃を避けると、男の脇腹を蹴る。刀傷の男は苦しそうな顔で体を曲げたが、中尉が近づくと、すぐに青い光を放つナイフを振り回してきた。中尉は自分の戦闘用ナイフでその刃を受ける。レーザーナイフの刃は中尉のナイフの刀身を一瞬で二つに切り落とした。辛うじて刀傷の男の胸を蹴り押して後退させ、間合いを取った中尉は、刃を切断されたナイフを捨て、今度は素手のまま構えをとった。刀傷の男は、また口元に薄っすらと笑みを浮かべると、青く光るナイフで切りつけてきた。中尉がそれを紙一重で避け、刀傷の男が再びそれを高く振り上げた瞬間、彼が左手に握っていたナイフが火花を上げて弾き飛ばされた。
左手を庇いながら刀傷の男が吹き抜けの向こうを探すと、さっきとは違う位置で、黒髪の女が高性能ライフルのスコープを覗きながら据銃していた。
「なんだ。あいつ、まだ居たのか」
そう言って顔をしかめた刀傷の男の後ろで、廊下の中ほどのドアの扉が蹴り飛ばされ、反対側の壁に当たった。部屋の中からさっきの大男が、咳き込みながら体を出してくる。
刀傷の男は舌打ちをすると、吹き抜けの方に向かって一気に駆け出した。白いジャケットの袖から鉤爪状のフックを引き出して、それを手すりに掛けると、吹き抜けの中に飛び降りる。鉤爪からは細い強化繊維の糸が伸び、彼はその糸を使って二つ下の階のエレベーターホールを目掛けて降下した。高速で降下する彼を追う様に、吹き抜けに面した壁を狙撃弾が叩いていく。
刀傷の男はホールに飛び込むと、素早く体勢を立て直し、フットボール選手のように右に左に体を動かしながら非常階段の方に向かって走った。彼の足跡をつけた床の絨毯が狙撃弾に毛を散らす。刀傷の男は階段の入り口の金属製の耐火扉を開けると、その中に素早く体を入れた。閉めたドアに更に一発の銃弾が撃ち込まれた。
ライフルから薬莢を弾き出しながら、長い黒髪の女が苛立ったように言う。
「もう、このシャンデリア、邪魔!」
彼女のイヤホンに中尉から通信が入った。
『綾、もういい。降りて来い。これ以上、被害を出す訳にはいかん』
その女は、美しい黒髪をかき上げながら、喉に巻いた声帯マイクで返事をした。
「了解。撤収します。ですが、シャンデリアを壊したのは私じゃないですから」
『分かっている』
中尉は片笑みながら答えた。
廊下の方から大柄な兵士が歩いてきた。その大男は頭を掻きながら床にしゃがみ、足下に焼き付いている黒い人の形の影を覗き込んで言った。
「あーあ、真っ黒け。宇城中尉、こいつら、何者なんです?」
中尉は床に落ちていたリボルバー式の拳銃を拾い上げて言った。
「さあな。だが、山本の攻撃に対する対処の仕方や、綾の狙撃に対する反応の早さからすると、ただの素人集団ではないようだ。最初の男も、かなり訓練されていたようだし、武器も最新式のものだった」
「へえー。傭兵ですかね。それにしては、手ごたえが無かったですけどね」
「何しに来たんでしょうね」
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彼女は長い黒髪をかき上げながら、さらに中尉に尋ねた。
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中尉は吹き抜けから一階のロビーを見ながら答えた。
「ああ、奴だ。だが、相手が何者であれ、俺たちは国防兵士としての任務を全うするだけだ。国家に刃を向ける奴は、素人でも玄人でも、全て敵だ。それを忘れるな」
「了解」
床の兵士たちの跡形を見回しながら、大男はそう答えた。黒髪の女は壊れたシャンデリアを気にしている。中尉は手すりから下を見下ろしていた。
一階のロビーでは、隊列を組んだ白い戦闘服のSTS兵士たちが小銃を構えたまま前進していた。そして、そのタイムマシンの搭乗者の豪勢な宿泊施設に、ようやく非常警報が鳴り始めた。
繰り返すサイレン音の中を、三人の兵士たちは廊下の奥へと歩いていった。
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