ひまわり

Itsuki9

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第二章

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僕は最寄りの駅の前で立っていた。

せっかくの休日。

天気は気持ちのいいほどに晴れていて、とても暖かい。

これ以上にないほどの読書日和。

早く家に帰って本を読みたいが、それはできない。

「お待たせ。待った?」

「僕も今来たところだから大丈夫」

「そっか、じゃあ行こ!」

なぜなら読書よりも先約があるからだ。

僕にはこれを断るには読書という理由だけでは、全くこれっぽっちも足りない。

約束の時間通りに来た彼女は、僕の手を引いて駅の中へと進んでいく。

僕は彼女の私服を初めて見た。

そして女の子との待ち合わせも初めてだった。

彼女はどれだけの『初めて』をくれるのだろう。

「行くってどこへ?」

駅の中へ入り、どこの駅に降りるか確認した彼女は、また進んでいく。

歩きながら彼女は僕の方へ振り返る。

「行ってからのお楽しみ。大丈夫!小野くんもきっと楽しめるから」

僕は諦めて、彼女に連れて行かれるがままとなった。

電車に乗り、少し時間が経つとその電車を降りて、駅から出る。

そしてバスに乗る。

僕はこの時点で彼女の行きたいと言っていた場所がどこなのかわかった。

「着いたー!」

僕たちはたくさんの人たちが乗る満員バスから降りる。

そして目の前には遊園地があった。

僕たちが乗っていたバスは遊園地前で止まるバスだったのだ。

「晴矢さんが来たがってた場所ってここ?」

聞く意味の無い質問だが、念のため聞いてみる。

できれば首を横に振ってほしいところだが、僕の言う通りにならないのが彼女だ。

満面の笑みを浮かべた彼女を見て、僕の淡い期待は砕け散る。

「よーし!行こう小野くん!まず何から乗ろうかな。小野くん何からがいい?」

「晴矢さんに任せるよ」

「そう?じゃあこれ!」

「…………」

遊園地のゲートをくぐり、僕と彼女が地図を見ながら向かった場所は、この遊園地一のジェットコースターだった。

僕は顔が青ざめてしまっただろう。

だが隣の彼女の目を見ると、いつもよりキラキラしていた。

因みに僕はジェットコースターという乗り物が苦手だ。

僕は自分の頬を両手ではたいて、気合を入れた。

「よし。乗ろう」

不幸なのか幸なのかよくわからないが、順番待ちをせずに、乗ることが出来るようだ。

「おお!小野くん。今日は男らしいね」

「僕も男だからね。あとその言い方結構傷つく」

「ごめんごめん。小野くんは男の子だもんね」

彼女はそれだけ言って、僕もそれに続く。

隣にいる彼女はまだ楽しそうにしていた。

時間が来るとアナウンスが流れ、車体がどんどん上へ登っていく。

下を見るなと思いつつも見てしまう僕は、恐怖という感情しか覚えなかった。

「小野くん」

「なに?」

「手、握っても…いい?」

僕はその言葉を聞くと同時に、彼女の方を見た。

彼女も僕と同様に怖いらしい。

僕は何も言わずに彼女の手を握った。

すると彼女の表情が柔らかくなった気がした。

車体はもうすぐ頂上に到達する。

「ありがとう」

その言葉がトリガーになったかのように、車体が急降下する。

彼女が何か叫んでいた気がしたが、僕はそれがなんて言っていたのか、気にする余裕が全くなかった。

ジェットコースターは気が付くと終わっていて、清々しい顔で彼女は笑っていて、僕は死ぬ寸前のような顔でベンチに横になっていた。

「楽しかった!登っていく時は、あんなに怖かったのに」

「…それはよかった」

「小野くんのおかげだね!小野くんがてをにぎってくれたから」

僕は何も言えず、自分の目を自分の腕で覆い隠す。

彼女の笑顔を見ると、月曜日に見たあの表情を思い出してしまう。

あれは何だったのか。

今日それを確認できたらいいと僕は思っている。

「大丈夫?小野くん」

「あ、うん。もう大丈夫、動けるよ。次は何乗る?」

「よし!その意気だ!じゃあこれに乗ろ!」

彼女が指したのは、コーヒーカップを指さした。

確かに恋人っぽい。

僕は彼女に従い、コーヒーカップに乗る。

その後、もう一度ジェットコースター乗ったり、お化け屋敷にも入ったりした。

僕と彼女は時間を忘れ楽しんでいた。

こんなに楽しむとは予想外だった。

「次はどれ乗る?」

「それなんだけど……。私お腹すいてきちゃった。なにか食べない?」

「そういえば僕も」

腕時計を見ると、とっくに十二時を過ぎて、三時を指していた。

僕たちは、次に何乗るかという話し合いも兼ねて、昼食にすることにした。

昼食は、遊園地にあるイートスペースで取ることにした。

僕と彼女は二人とも焼きそばを買い、それを食べる。

遅めの昼食だ。

「晴矢さん」

「ん?」

僕は彼女が焼きそばを食べている途中に声をかけたため、彼女はこちらを向かずに返事する。

それに構わず話を続ける。

「なんで今日は僕とこんなところに来たの?」

僕の質問の意味がわからなかったのか、彼女は首を傾げる。

彼女は、焼きそばを飲み込んでから、僕の質問に答えようとした。

「言ったじゃん。付き合ってるさることが信じられないから恋人っぽいことしてみようって」

「そうじゃなくて。確かにそれが理由かもしれない。でも僕たちはまだ付き合ったばかりだ。まだこのデートは早いんじゃないかと思う。なんだか晴矢さんは、急いでいるように感じる」

僕は真剣な顔で言う。

彼女も少し表情が固くなったが、何も言い返してこない。

「それに、周りの人達に不必要に言って回っている。内緒って言われたけど、ごめん、気になって」

焼きそばと一緒に買ってきた水を一口飲み、緊張で乾いた口を潤す。


『晴矢さんは、僕に何を隠しているの?』


僕は一週間前から聞きたかったことを聞いた。

少し間が空いてから、彼女は立ち上がった。

「もう話してもいいのかな。小野くんには」

その言葉を聞いた僕は、彼女と同じように立ち上がる。

「観覧車、乗ろ。本当は最後に乗ってその時に話そうと思っていたけど、小野くんが気になるなら仕方ないよね」

そう言って、焼きそばのゴミを捨てに行った。

僕たちは結構並んでいる観覧車の列に圧倒されながらも、なんとか耐え抜き、ついに順番が回ってきた。

人気アトラクションである観覧車の列はとてつもないもので、日が傾いてしまった。

彼女の当初の予定通り、観覧車が最後になりそうだ。

「わー高いね!」

「………」

僕は外の景色を見ることができなかった。

彼女以外を見れなかった。

「そんなに気になるのか…。よし話します」

彼女は覚悟を決めたような顔になった。

僕はその顔を見てつい息を飲んでしまう。

彼女は一度深呼吸をした。

「私は、夏休みまでしかここにはいれないの」

「……え?」

僕は彼女が何言っているのかわからなかった。

頭が理解しようとしても、考えることを、理解することを拒否しているようだった。

「ど、どう…いう」

「そのままの意味だよ」

彼女は少し微笑んだ。

その微笑みはなんだか寂しそうだった。


『私、九月に転校するの』


「……」

僕は完全に言葉を失ってしまった、

何も言えなかった。

「正確には、八月には引っ越すんだけど、八月ってほら夏休みだから」

彼女は外の方に顔をそむけた。

僕はその仕草で、それのせいで彼女の言葉に嘘がないことを悟ってしまった。

「他の人には…?晴矢さんの友達には話してないの…?」

僕は何を言えばいいのかわからなくなり、僕に関係の無いことを聞いてしまった。

「言ってないよ。言ってない。小野くんにしか」

「何で…?」

「それは小野くんが私がなにか隠してるって気付いたからだよ」

「そうじゃなくて。なんでほかの人には言わないの?」

僕は自分からこんな汗が出てくるなんて、知らなかった。

そして不思議に思った。

なぜ僕がこんなに驚いているのか。

「私、特別扱いが嫌いなの。私が転校するって言うと私の友達は、きっと特別扱いをしてくれると思う。転校する前にこれをしよう、あれをしようとしてくれるのは嬉しいけど、私は今が好きなの。今普通に接してくれて、いつも通り笑っていられる日常が好きなの。だから、友達には言わない。言いたくない」

僕は驚いた。

彼女でもこんな表情するのかと。

彼女は今にも泣きそうだった。

観覧車は頂点まで登り、下っていく。

「でも、変だよね。特別扱いが嫌いっていいながら、私は小野くんにだけは、特別扱いされたいと思ってるなんて。仕方ないじゃん。小野くんのこと好きになっちゃったんだから」

「なんで僕なんかを…」

僕は彼女と反対側の人間。

彼女が太陽なら、僕は月だろう。

それほどまでに逆の人間で、交わることのない存在だと僕は思っていた。

そんな彼女がどうして僕を選んだのか、それがどうしてもわからない。

「それは、私が小野くんに――」

彼女が言いかけたその時、観覧車は地上に戻ってきてしまった。

僕はこの観覧車を恨んだ。

もっとこの観覧車が大きければ。

「降りよっか」

「うん」

僕と彼女は観覧車から降りた。

空はすでに茜色に染まっていた。

このままでは僕は、彼女からさっき言いかけた言葉の続きを聞けないまま別れてしまう。

このままではダメだ。

ダメなはずなのに…。

「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ。それと今日のあの話は、みんなには内緒にしてね」

「…うん」

僕はうつむいたまま返事をした。

おそらく彼女は、こんな僕を見て、困ったように、でも寂しそうな笑顔を浮かべているのだろう。

「じゃあ小野くん。また学校で」

「晴矢さん!」

「小野くん?」

僕は声に出して、今にも行ってしまいそうな彼女を呼び止めた。

僕は振り返る彼女を見ると、頭の中が真っ白になった。

あれ…?なんて、なんて言えばいいんだ…?

「い、いや…なんでもない。ごめん呼び止めて。また学校で」

僕は結局何も言えないまま、何もできずに彼女を行かせてしまった。

僕にとって初めてのデートは、最悪の空気のまま、相手を家まで送ることもしないで終わった。

このデートを誰かに評価してもらえるとしたら、きっと百点満点中0点だろう。

そもそも僕には評価してくれる人なんていない。

家に帰っても最悪な気分は続いた。

晩御飯も食べず、本も読まずにただただベッドで横になっていた。

なぜ僕はあの時、彼女が秘密にしていたことについて触れてしまったのか、なぜ彼女が行ってしまう前に、何も言うことができなかったのか、なぜ彼女が引っ越すと言った時、言葉を失ってしまったのか、なぜ彼女のことしか考えてないのか。

なぜ。

なぜ。

なぜ。

なぜ僕は知り合ったばかりの彼女がいなくなってしまうことに対して、こんなに焦ってしまっているのか。

僕は、僕にとっての初めてのことが多すぎて思考速度が追い付かない。

無責任に僕に初めてを配ってくる彼女を憎んだ。

彼女が悲しそうな表情をしていた意味。

それは転校するのが嫌だからだろう。

それは理解できた。

でも、僕にはどうすることもできない。

どうすればいいのかわからない。

僕は布団をかぶり、これ以上考えることを放棄した。
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