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プロローグ「ガール・ミーツ・ジャック」
3話「理由」
しおりを挟む気が付けば、私は新テレビ塔のエントランスに立っていた。
隣には川上莉子がいて、見上げても飛行機は既にない。彼女の話では近くの空港まで運んだらしい。
「物理という概念も魔法という理論も、彼女の支配から逃れることはできない。か」
吊るされたモニターに川上莉子の引退を惜しむ映像が流れていた。
アーティスト第三席、『絶対領域』の川上莉子。
彼女自身を中心に、彼女しか感じ取れない領域を展開し、その領域内におけるすべてを支配する最強の能力者。
これは確かに、惜しい引退だ。
「で、夜から配信でしょ? 準備とか色々あるだろうか、ユニットの活動は明日からねー」
性格に難があるのは否めないけれど。
「場所はそうだなぁー、私の家にしよう。時間は追って連絡するから」
「はぁ……やる気のない人を無理に誘ったっていいことないでしょーに」
「あーるよ、八八地《ややち》歌ってみたとか上げてるし、音楽好きでしょ?」
相も変わらないニヤっとした顔が癪だけど、間違ってないから「そうだけど?」って返した。
「なら大丈夫、きっと一発で惚れるから。私の作曲センスに」
「期待シテオキマスー」
川上莉子が音楽活動してるなんて聞いたことないんだけど、どこからそれだけの自信が溢れて来るのやら。
「そうそう! そういう感じで大いに期待しておいて!」
これはあれだ。ダメだ。彼女と上手くやっていくイメージが持てない。
別れ際、「じゃ、LINE《リーネ》交換しよ?」っとスマホを差し出された。
それが起こったのは、ちょうどその時だった。
「八八地《ややち》、リンク」
街中の不特定多数全員が、一瞬耳を疑った。
日常生活ではまず耳にすることのない爆発音。
その中で、彼女《りこ》だけは咄嗟に私の手を握りしめていた。
「う、うん」
繋いだ手から熱が伝わる。
手の甲に淡い赤色で文様が浮かび上がると、手の感覚が曖昧になっていく。
触れあっているのは間違いないのに、溶けて交わって一つになったような感覚。もう私と莉子の間に、境界は存在しない。
「さっきの爆発飛行機だ、間違いない」
それが展望台に突っ込む予定だったあの機体だってこと、言われなくても想像できた。
「乗客は!?」
「逃げ遅れは数名」
街から最寄りの空港まで5キロ程度。莉子が展開できる領域は半径でもそれ以上なんだ。
みーとぱい先生、無事だろうか。
「でもこれ、やばいね」
そう言った彼女の唇は釣り上がって、楽しそうにさえ思えた。
「というと?」
「私が空港に運んだ時点で、機体に損傷はなかった」
「爆発物があったとか、ハイジャック犯の仕業ってこと?」
「私の領域は全てを支配できる性質上、原子レベルで物体を掌握しているの、それはありえない」
「……意味わかんないって」
「領域内に取り込めば目視しなくても機内の様子がわかるってこと、爆発物もなかったし、犯人に魔法適性はない。そもそも機体を止めた段階で、犯人全員の意識を消失させて拘束してある」
「それってつまり……」
機体に損傷がなく、爆発物もない。機体がアルミニウム合金で出来ている以上、魔法的な力を使っての犯行は不可能。
ただ一部、例外を除いては。
「ほぼ間違いなく、アーティストの誰かによる犯行。でしょうね」
徐に手を離して、「テロを取り締まる側がテロに加担するなんてねぇ」とまるで他人事の様に呟いた。
「驚かないの? 八八地《ややち》は?」
私に訊いてくるくせに、莉子にだってその様子はない。
「……私が今日、どうしてここに来たと思ってるのさ」
おそらくそれは、私しか知らないんだと思う。
「へぇー……面白いじゃん」
一見すると世界は今日もいつもどおりだから、気が付かないのも無理はない。
「アーティストってさ、内閣府直属なんだよ?」
ただ言葉にしても信じられないようなことばっかりが起こっているのに、みんなどこか他人ごとで、いつもうわの空。
「アーティストの意思は国の意思。それを知ってて止めに来たって言うなら八八地《ややち》──」
だから私は、私自身でどうにかするしかないって悟ったんだ。たとえそれが、世界を敵に回すことだとしても。
「この国を根底から覆そうってわけ?
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