梟(フクロウ)の山

玉城真紀

文字の大きさ
5 / 31

秘密の場所

しおりを挟む
それから幾日か過ぎたある日。
洗濯をしているおいちの元に梅二が駆け寄ってきた。
「姉ちゃん。姉ちゃん」
「何よ。そんなに慌てて」
「これから佐一郎兄ちゃんと会うんだけど一緒に行く?」
「え?どうして私が?」
「一昨日、佐一郎兄ちゃんと会った時「今度連れておいで」って言われたんだ。あの秘密の場所に来てもいいんだって」
「そう・・でも、家を空けるとなると・・」
おいちはそう言いながら頭の中では、あの優しく微笑んだ佐一郎の顔を思い出していた。
「大丈夫。利一兄ちゃんに頼んだから」
抜かりはなさそうだ。
「じゃあ行って見ようかな」
「やったね。佐一郎兄ちゃんも喜ぶよ。じゃあ。洗濯が終わったら行こう」
梅二は飛び上がって喜ぶと家の中へ入って行った。
いそいそと洗濯を終わらせたおいちが、梅二を探していると
「姉ちゃん。こっちこっち」
庭の隅の方から声がする。周りを気にしながら急いで行って見ると梅二が布に包んだ何かを持ちながらおいちを手招きしている。
「あんた。こんな所で何してるの?」
「ここから行くんだよ」
そこは家の裏にあたる場所で道はなく、鬱蒼とした森が広がるばかりだ。その先を進むと恐らく山を越え狭山村へ行ける。しかし、その山は入ってはいけないと言われている山だ。富木村の人達が狭山村へ行く時は違う道を通り別の山を越えて行く。
「梅二。まさかあの山に行くの?」
「そうだよ」
「でも、あの山は入っちゃいけないって言われている山なんだよ。確か・・」
「狐や狸に化かされるからだろ?大丈夫。俺、何回も行ってるけど化かされたことなんて一度もないよ。フクロウは結構切るみたいだけどね。さ、行こう」
一人で張り切っている梅二は、おいちの手を取りドンドン森の中へと入って行った。
始めは難なく歩けた森の中も、次第に藪漕ぎをするぐらいの深い道のりになっていく。しかし、梅二が普段からこの道を通って秘密の場所へ行っているからか、倒された草木があちこち見られた。
いくら歩いても、中々目的の場所に着かないことに次第に不安になってきたおいちは、前を歩く梅二に声を掛ける。
「ねぇ梅二。まだつかないの?」
「もう少し」
またしばらく歩く。
「ねぇ梅二。まだなの?」
「もう少し」
こんなやり取りを続けているうちに、おいちは帰りたくなってきた。
「ねぇ梅二。もう姉ちゃん帰ろうかな」
「着いたよ」
「え?」
これまでと違う返事が返ってきた事にホッとしながら梅二の後に続く。
森を抜け着いた先は、少しだけ開けた場所に出たがその先に地面がない。崖になっているのだ。
「待ってたよ」
呆然としているおいちに声を掛けたのは、先に来ていた佐一郎だった。佐一郎は、崖っぷちに平然と笑いながら立っている。
「佐一郎兄ちゃん!連れて来たよ!」
梅二は嬉しそうにそう言いながら、佐一郎の元へ駆け寄る。
「あっ!危ない!」
咄嗟に叫んでしまった。おいちには、梅二が崖の方へ落ちてしまうように見えたからだ。
そんなおいちの心配をよそに、梅二は佐一郎の側に来ると持っていた布を差し出す。
「お?持ってきてくれたのかい?俺も持ってきたよ」
「本当?やったね」
唖然とするおいちの前で、二人はお互いに持ち寄った物を見せ合いだした。
梅二が布に巻いて持ってきたのは、蒸かした芋だった。佐一郎が持ってきたものは、赤い木の実がついた枝を数本。
「姉ちゃん何突っ立ってるの?こっちにおいでよ」
梅二は、佐一郎が持ってきた木の実を枝からむしりソレを口に運びながらおいちに声を掛ける。
おいちは足がすくんでいた。
自分が立っている場所から見える景色は、はるか向こうの山並みが見えるのだが、地面が途中で寸断されている。その先はどうなっているのか。おいちは崖と言いうものを初めて見たのだ。
「大丈夫だよ。この景色を見たら怖さなんて吹っ飛んじゃうから」
佐一郎があの優しい笑顔を見せながら言った。
「本当?」
「ああ。本当さ」
おいちは、少しずつ足を前に出し佐一郎と梅二がいる場所まで歩いて行く。わずかな距離なのに、恐ろしさがおいちの足を遅くする。
牛歩のように歩くおいちは、ようやく二人の元へたどり着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...