梟(フクロウ)の山

玉城真紀

文字の大きさ
20 / 31

決意

しおりを挟む
気がつくと辺りはオレンジ色に染まりつつあった。
朝、家を出てすぐに秘密の場所に来たが予想外の父親の登場で心が揺らぎ考え込んでしまった梅二は、その場所で一日を過ごしてしまった。
元々、行く当てなど決めていなかったのでこの場所で一晩過ごしたとしても何の支障もないのだが、やはり明るい日中よりも暗い夜がくると人は不安は大きくなるようだ。
梅二は、ずっと抱えていた荷物を脇に置き用意していた大きな布を地面に敷くと、その場にごろりと横になった。
(こんな事じゃ、家を出た意味がないな)
次第に辺りは暗くなる。山の方からは、夜の番をするために出てきたフクロウが早くも鳴きだしている。
(フクロウか・・・アイツ昼間は何してるんだろう・・・)
ふとそう思った時だ。今まですっかり忘れていたことを突然思い出しがばりと体を起こすと、すぐ隣にある真っ暗な山の中を見る。
耳を澄ましてもフクロウの鳴き声以外何も聞こえない。しかし、ジッと暗い山の中を見ていると、利一と焚き木を取りに山に入った帰りに出会ったアイツが、今にもその暗闇の中で大きな口を横に広げニィと笑いながらこちらに歩いて来るような感じがしてくる。
「よし」
梅二はすぐに荷物をまとめると、人形を手に暗い山の中に入って行った。
夜の山に自ら入って行くというのは無謀かと思われるだろうが、梅二はこの山の事は隅々まで知っている。西側にはキノコが多く生えているだとか、南側には綺麗な花が咲いているが虫が多いとか等色々である。富木村の人達が「この山には入るなよ。化かされるから」と言っていたのを聞いて興味が湧き、コッソリと昼間山に入っては探検に明け暮れた。実は秘密の場所も梅二が見つけたもの。佐一郎は自分が見つけたかのように言っているがソレは違う。あの時は佐一郎の事を何とも思わなかったが、嫌な男である。
(確かこっちの方へ歩いたと思ったけど)
あの時の事を思い出しながら足を進める。
暫く歩くが、どうやらいないようだ。
(じゃあこっちか)
方向を変えまたひたすら歩く。頭の上で、フクロウがホウホウとあざ笑っているかのように鳴いている。
その鳴き声を聞きながら歩いて行く梅二は、アイツと出会った時の事を思い出していた。
あの口を大きく広げ笑ったあの黒い奴。佐一郎も出会ったと言っていたが同じ奴なのだろうか。でも梅二の時は、佐一郎と違う所がある。
アイツは喋ったのだ。
アイツが言った言葉の意味が解らず、おいちに話してみたが時が悪かった。あの奇妙な祝言に行く途中で話してしまったので、きちんと伝えることが出来なかった。おいちがそれどころじゃなかったのもあるが。
(俺はお前さ)
アイツはそう言った。
あの時は、アイツの顔が恐ろしくてその言葉の意味なんか考える余裕もなかった。
山の中を歩き続け、次第に足の裏が痛くなり出した頃、梅二は少しだけ開けた場所に出ると適当に座り足を休める。
「はぁ~疲れた」
梅二がこれだけ山の中を歩き回る理由。それはアイツに会うためだった。得体のしれないものと会うという事は恐ろしい事だ。なるべくなら会いたくない。
しかし、今の梅二には、アイツと会う事で何かが変わるのではないか、あの言葉の意味が解るのではないかと言う考えがあった。
それに、父親と話した事で気弱になった自分の気持ちを変えたいとも思っていた。
その後もほうぼう歩き回るのだが、結局アイツに出会うことは出来なかった。
梅二は仕方なく秘密の場所に戻り始めた。
(どうすれば会えるのか。いつも夜に出てくるわけでもないんだな)
そんな事を考えながら歩き、秘密の場所の近くまで来た。すると誰かの話声が聞こえてくる。
(誰だ?)
なるべくなら、誰にも自分の姿を見られたくない梅二は音をたてない様静かに声のする方へと歩いて行く。声のする場所が、どうやらこれから自分が行こうとしている秘密の場所から聞こえてくるのが分かった。
ここを知っている人間は、おいちと梅二。そして佐一郎だけだ。それとも帰ったはずの父親がまた来たのかとも思ったが、声は一人ではなく誰かと話しているようだ。
声がする方へと近づくにつれ、梅二は自分の体が冷たくなっていくのが分かった。
さっきまで自分が寝ていた場所に、佐一郎とあの祭りの時に声を掛けた女だろう。見たことのない女と二人で崖の方を向いて楽しそうに話している。
時折、女の甲高い笑い声が梅二の癇に障る。
自分のすぐ後ろの森の中から、梅二が見ている事等知らない佐一郎は女の髪を優しく撫でる。
梅二は、その後もジッと佐一郎たちの事を見ていた。見ている間、夜の番人のフクロウがホウホウと鳴く。それは二羽、三羽と増えているのか鳴いている声が多くなったような気がした。
暫くして佐一郎と女が着物の乱れを直し二人で談笑した後、帰るのか梅二が立つ場所の方へと向かってきた。その二人の動きでようやく我に返った梅二は急いで物陰に身をひそめる。
暗闇の中、自分の足元に小さくうずくまる梅二がいる事も知らない佐一郎は、女の肩を抱き森の中へと入って行った。
静かになった森の中では、ホウホウとフクロウが鳴く。
さっきは多く集まってきたと思ったフクロウだったが、今は一羽の鳴き声しか聞こえない。
「始まりだ」
梅二は、先程までの迷いが一切なくなり予定通り事を進める事にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...