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決意
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気がつくと辺りはオレンジ色に染まりつつあった。
朝、家を出てすぐに秘密の場所に来たが予想外の父親の登場で心が揺らぎ考え込んでしまった梅二は、その場所で一日を過ごしてしまった。
元々、行く当てなど決めていなかったのでこの場所で一晩過ごしたとしても何の支障もないのだが、やはり明るい日中よりも暗い夜がくると人は不安は大きくなるようだ。
梅二は、ずっと抱えていた荷物を脇に置き用意していた大きな布を地面に敷くと、その場にごろりと横になった。
(こんな事じゃ、家を出た意味がないな)
次第に辺りは暗くなる。山の方からは、夜の番をするために出てきたフクロウが早くも鳴きだしている。
(フクロウか・・・アイツ昼間は何してるんだろう・・・)
ふとそう思った時だ。今まですっかり忘れていたことを突然思い出しがばりと体を起こすと、すぐ隣にある真っ暗な山の中を見る。
耳を澄ましてもフクロウの鳴き声以外何も聞こえない。しかし、ジッと暗い山の中を見ていると、利一と焚き木を取りに山に入った帰りに出会ったアイツが、今にもその暗闇の中で大きな口を横に広げニィと笑いながらこちらに歩いて来るような感じがしてくる。
「よし」
梅二はすぐに荷物をまとめると、人形を手に暗い山の中に入って行った。
夜の山に自ら入って行くというのは無謀かと思われるだろうが、梅二はこの山の事は隅々まで知っている。西側にはキノコが多く生えているだとか、南側には綺麗な花が咲いているが虫が多いとか等色々である。富木村の人達が「この山には入るなよ。化かされるから」と言っていたのを聞いて興味が湧き、コッソリと昼間山に入っては探検に明け暮れた。実は秘密の場所も梅二が見つけたもの。佐一郎は自分が見つけたかのように言っているがソレは違う。あの時は佐一郎の事を何とも思わなかったが、嫌な男である。
(確かこっちの方へ歩いたと思ったけど)
あの時の事を思い出しながら足を進める。
暫く歩くが、どうやらいないようだ。
(じゃあこっちか)
方向を変えまたひたすら歩く。頭の上で、フクロウがホウホウとあざ笑っているかのように鳴いている。
その鳴き声を聞きながら歩いて行く梅二は、アイツと出会った時の事を思い出していた。
あの口を大きく広げ笑ったあの黒い奴。佐一郎も出会ったと言っていたが同じ奴なのだろうか。でも梅二の時は、佐一郎と違う所がある。
アイツは喋ったのだ。
アイツが言った言葉の意味が解らず、おいちに話してみたが時が悪かった。あの奇妙な祝言に行く途中で話してしまったので、きちんと伝えることが出来なかった。おいちがそれどころじゃなかったのもあるが。
(俺はお前さ)
アイツはそう言った。
あの時は、アイツの顔が恐ろしくてその言葉の意味なんか考える余裕もなかった。
山の中を歩き続け、次第に足の裏が痛くなり出した頃、梅二は少しだけ開けた場所に出ると適当に座り足を休める。
「はぁ~疲れた」
梅二がこれだけ山の中を歩き回る理由。それはアイツに会うためだった。得体のしれないものと会うという事は恐ろしい事だ。なるべくなら会いたくない。
しかし、今の梅二には、アイツと会う事で何かが変わるのではないか、あの言葉の意味が解るのではないかと言う考えがあった。
それに、父親と話した事で気弱になった自分の気持ちを変えたいとも思っていた。
その後もほうぼう歩き回るのだが、結局アイツに出会うことは出来なかった。
梅二は仕方なく秘密の場所に戻り始めた。
(どうすれば会えるのか。いつも夜に出てくるわけでもないんだな)
そんな事を考えながら歩き、秘密の場所の近くまで来た。すると誰かの話声が聞こえてくる。
(誰だ?)
なるべくなら、誰にも自分の姿を見られたくない梅二は音をたてない様静かに声のする方へと歩いて行く。声のする場所が、どうやらこれから自分が行こうとしている秘密の場所から聞こえてくるのが分かった。
ここを知っている人間は、おいちと梅二。そして佐一郎だけだ。それとも帰ったはずの父親がまた来たのかとも思ったが、声は一人ではなく誰かと話しているようだ。
声がする方へと近づくにつれ、梅二は自分の体が冷たくなっていくのが分かった。
さっきまで自分が寝ていた場所に、佐一郎とあの祭りの時に声を掛けた女だろう。見たことのない女と二人で崖の方を向いて楽しそうに話している。
時折、女の甲高い笑い声が梅二の癇に障る。
自分のすぐ後ろの森の中から、梅二が見ている事等知らない佐一郎は女の髪を優しく撫でる。
梅二は、その後もジッと佐一郎たちの事を見ていた。見ている間、夜の番人のフクロウがホウホウと鳴く。それは二羽、三羽と増えているのか鳴いている声が多くなったような気がした。
暫くして佐一郎と女が着物の乱れを直し二人で談笑した後、帰るのか梅二が立つ場所の方へと向かってきた。その二人の動きでようやく我に返った梅二は急いで物陰に身をひそめる。
暗闇の中、自分の足元に小さくうずくまる梅二がいる事も知らない佐一郎は、女の肩を抱き森の中へと入って行った。
静かになった森の中では、ホウホウとフクロウが鳴く。
さっきは多く集まってきたと思ったフクロウだったが、今は一羽の鳴き声しか聞こえない。
「始まりだ」
梅二は、先程までの迷いが一切なくなり予定通り事を進める事にした。
朝、家を出てすぐに秘密の場所に来たが予想外の父親の登場で心が揺らぎ考え込んでしまった梅二は、その場所で一日を過ごしてしまった。
元々、行く当てなど決めていなかったのでこの場所で一晩過ごしたとしても何の支障もないのだが、やはり明るい日中よりも暗い夜がくると人は不安は大きくなるようだ。
梅二は、ずっと抱えていた荷物を脇に置き用意していた大きな布を地面に敷くと、その場にごろりと横になった。
(こんな事じゃ、家を出た意味がないな)
次第に辺りは暗くなる。山の方からは、夜の番をするために出てきたフクロウが早くも鳴きだしている。
(フクロウか・・・アイツ昼間は何してるんだろう・・・)
ふとそう思った時だ。今まですっかり忘れていたことを突然思い出しがばりと体を起こすと、すぐ隣にある真っ暗な山の中を見る。
耳を澄ましてもフクロウの鳴き声以外何も聞こえない。しかし、ジッと暗い山の中を見ていると、利一と焚き木を取りに山に入った帰りに出会ったアイツが、今にもその暗闇の中で大きな口を横に広げニィと笑いながらこちらに歩いて来るような感じがしてくる。
「よし」
梅二はすぐに荷物をまとめると、人形を手に暗い山の中に入って行った。
夜の山に自ら入って行くというのは無謀かと思われるだろうが、梅二はこの山の事は隅々まで知っている。西側にはキノコが多く生えているだとか、南側には綺麗な花が咲いているが虫が多いとか等色々である。富木村の人達が「この山には入るなよ。化かされるから」と言っていたのを聞いて興味が湧き、コッソリと昼間山に入っては探検に明け暮れた。実は秘密の場所も梅二が見つけたもの。佐一郎は自分が見つけたかのように言っているがソレは違う。あの時は佐一郎の事を何とも思わなかったが、嫌な男である。
(確かこっちの方へ歩いたと思ったけど)
あの時の事を思い出しながら足を進める。
暫く歩くが、どうやらいないようだ。
(じゃあこっちか)
方向を変えまたひたすら歩く。頭の上で、フクロウがホウホウとあざ笑っているかのように鳴いている。
その鳴き声を聞きながら歩いて行く梅二は、アイツと出会った時の事を思い出していた。
あの口を大きく広げ笑ったあの黒い奴。佐一郎も出会ったと言っていたが同じ奴なのだろうか。でも梅二の時は、佐一郎と違う所がある。
アイツは喋ったのだ。
アイツが言った言葉の意味が解らず、おいちに話してみたが時が悪かった。あの奇妙な祝言に行く途中で話してしまったので、きちんと伝えることが出来なかった。おいちがそれどころじゃなかったのもあるが。
(俺はお前さ)
アイツはそう言った。
あの時は、アイツの顔が恐ろしくてその言葉の意味なんか考える余裕もなかった。
山の中を歩き続け、次第に足の裏が痛くなり出した頃、梅二は少しだけ開けた場所に出ると適当に座り足を休める。
「はぁ~疲れた」
梅二がこれだけ山の中を歩き回る理由。それはアイツに会うためだった。得体のしれないものと会うという事は恐ろしい事だ。なるべくなら会いたくない。
しかし、今の梅二には、アイツと会う事で何かが変わるのではないか、あの言葉の意味が解るのではないかと言う考えがあった。
それに、父親と話した事で気弱になった自分の気持ちを変えたいとも思っていた。
その後もほうぼう歩き回るのだが、結局アイツに出会うことは出来なかった。
梅二は仕方なく秘密の場所に戻り始めた。
(どうすれば会えるのか。いつも夜に出てくるわけでもないんだな)
そんな事を考えながら歩き、秘密の場所の近くまで来た。すると誰かの話声が聞こえてくる。
(誰だ?)
なるべくなら、誰にも自分の姿を見られたくない梅二は音をたてない様静かに声のする方へと歩いて行く。声のする場所が、どうやらこれから自分が行こうとしている秘密の場所から聞こえてくるのが分かった。
ここを知っている人間は、おいちと梅二。そして佐一郎だけだ。それとも帰ったはずの父親がまた来たのかとも思ったが、声は一人ではなく誰かと話しているようだ。
声がする方へと近づくにつれ、梅二は自分の体が冷たくなっていくのが分かった。
さっきまで自分が寝ていた場所に、佐一郎とあの祭りの時に声を掛けた女だろう。見たことのない女と二人で崖の方を向いて楽しそうに話している。
時折、女の甲高い笑い声が梅二の癇に障る。
自分のすぐ後ろの森の中から、梅二が見ている事等知らない佐一郎は女の髪を優しく撫でる。
梅二は、その後もジッと佐一郎たちの事を見ていた。見ている間、夜の番人のフクロウがホウホウと鳴く。それは二羽、三羽と増えているのか鳴いている声が多くなったような気がした。
暫くして佐一郎と女が着物の乱れを直し二人で談笑した後、帰るのか梅二が立つ場所の方へと向かってきた。その二人の動きでようやく我に返った梅二は急いで物陰に身をひそめる。
暗闇の中、自分の足元に小さくうずくまる梅二がいる事も知らない佐一郎は、女の肩を抱き森の中へと入って行った。
静かになった森の中では、ホウホウとフクロウが鳴く。
さっきは多く集まってきたと思ったフクロウだったが、今は一羽の鳴き声しか聞こえない。
「始まりだ」
梅二は、先程までの迷いが一切なくなり予定通り事を進める事にした。
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