惑わし

玉城真紀

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自由な町

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立花は自由な町に連れて行くと言った。
(自由な町?)

妙な言い方だ。
何を言ってるんだ?と不思議に思いながらついて行くと、樹海からさほど遠くない場所の森の中に入って行く。森の入口には、グズグズに崩れた石柱が二本両サイドに立っていた。
中に入ると、鬱蒼と草が生い茂る中に廃墟と化している家が所々に点在している場所に来た。大きな道路が町の真ん中を縦断しており、その左右に家が立ち並んでいる。立花の話だと、昔この辺りはバブルの絶頂期の頃金持ちが別荘を建てた地域だと言った。しかし、バブル崩壊後取り壊すこともなく持ち主がそのままにしたお陰で、廃墟タウンとなったらしい。土地の価格などの事も詳しく知っているようで、饒舌に俺に話してくる。
「おい、ここに住んでいるのか?」
「そうだよ」
・・・・・チリン
「他にも人はいるのか?」
「俺が知ってるのは、俺の他に三人。後は知らない」
「知らない?」
「ああ。ここは誰が住んでもいい町だから」
そう話すと、ピタリと足を止め振り返ると俺を見ながら
・・・・・・チリン
「ここに住むのが嫌になったら、隣の樹海に引っ越すのさ」
と、口元に嫌な笑いを浮かべながら言った。
俺はそれがどういう意味なのか、直ぐには分からなかったが再び歩き出した立花の後をついていく内に理解した。
(ここは、生と死の境の町ということか・・・それにしても、さっきから鈴の音が聞こえるが・・どこにあるんだ?)
前を行く立花の方を見ると、ベルトの所に縛り付けているのか、長い紐で繋がれた小さな鈴が可愛い音を鳴らしている。
(なんだ、あれか)
「ほら、ここが俺の家」
立花の声で我に返り、目の前にある家を見た。
結構立派な家だ。
持ち主はどんな仕事をした金持ちだったんだろうと、余計な考えがでる程大きな家だ。勿論今は、ガラスは割れ、屋根は所々落ち家の壁にはツタが張り巡らされ、異様な洋館という言葉がぴったりな家に成り下がっているが。
「この町の中で一番でかい家なんだ」
まるで自分が建てた様に自慢げに言う。
「ま、入ってよ」
玄関まで続く道は、きちんと草が刈られ玄関ポーチも多少直されている。立花が直したのだろう、意外にまめな男なのかもしれないと思った。
では、家の中はどうだろう。
俺は少しだけ期待しながら、鍵のかかっていない玄関を開ける立花の背中を見ていた。
「どうぞ」
玄関を押さえながら、ホテルのボーイさながらに俺を家の中へ導く立花を横目に家の中に入る。
「なんだこれ・・・」
それ以上の言葉が続かない。
家の外観は、下手すれば洋館のお化け屋敷のようなのに対し、中は別世界だった。玄関を入るとすぐに部屋になっており、その部屋は赤い絨毯が敷き詰められ体が沈みそうなソファに、猫足のテーブル。サイドボードの中には使われたことがないような光るティーセット達。物は少ないが、俺の足を止め言葉を失わさせるのには十分なギャップだった。
「驚いた?ここまでするの大変だったんだよ。少しずつ集めたり作ったりしてさ」
「作った?」
「そう。あのサイドボードなんて俺が作ったんだぜ?自慢の作品だよ」
立花は得意げにサイドボードを指さし言った。
「何かそう言う仕事でもしてるのか?じゃなかったら、普通あんなの作れないだろ」
「ハハハ。見様見真似でやっただけだよ。ん~後はセンスかな」
「センス・・・」
俺は、やった事のない力仕事につき、うまくいかず辞めさせられたことを思い出す。
「でもさ、まだこの部屋しか手を入れてないんだ。他の部屋とか二階とかは全然やってない。一人暮らしだからこの一部屋で間に合うから別にやらなくてもいいんだけど、おいおいね」
よく見ると、部屋の片隅に布団がたたんでおかれている。
この部屋でいつも過ごしているのか。
「今日は、仲間が一人増えたわけだし、夜ここにみんな集めて食事会でもしようか!顔見せも兼ねてさ!俺、声かけてくるわ」
そう言うと立花はいそいそと家から出て行った。
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