惑わし

玉城真紀

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話声

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次の日から俺は、家の修繕に取り掛かった。
倒れた家具を元に戻し、散乱した小物類を拾い片づける。左程多くない部屋数でもこれが中々の重労働だ。
「ん~腰が痛い!」
俺は両手を腰に当て体を存分に伸ばす。
どのくらいやったのか、時計がない部屋では時間の経過が分からない。窓からは陽がさし部屋の中の誇りをキラキラと光らせている。だいたい昼頃だろうか。
「よし、頑張るか」
家族が離れてからというもの、頑張るという事に疲れ生きるのを諦めた俺の心が前向きになっていた。体は疲れるが気持ちは疲れていない。
「この機会に模様替えなんてどうかな」
片付け途中の部屋を見渡しながら作業を開始する。途中、立花がお昼の差し入れを持ってきてくれたので、部屋のあれこれを話しながらお昼を一緒に食べた後また作業に入る。
夢中になって片付けているうちに、部屋の中が薄暗くなっているのに気が付いた。
「おっと、もう暗くなってきたか」
自由の町は、自由がある分ライフラインがない中での生活。しかし、立花の家に行けば水や食料はもらえるらしい。灯りはキャンプ用のランタン。
俺は、そんな都合よく立花から色々もらえるのか確認するため、作業をいったんやめると立花の家に向かった。

寒さが体にこたえる。動いている時はいいのだが、外の寒さがそんな一時の温かさをすぐに帳消しにした。この町は舗装された道路が、町の入り口から一本縦に伸びそれぞれの家まで枝分かれしている。しかし、その道路も人が利用しないせいか、ひび割れたり周りの雑草や枯れ葉が道路を覆っている。
俺はその落ち葉をカサリカサリと踏みしめながら立花の家へ歩いて行った。
(確か立花の家は、町の入り口辺りだったな・・・)

街灯もなく、廃墟タウンの中の三軒の家から漏れるほんのわずかな明かりを頼りに歩いて行く。
自分が踏みしめる落ち葉の音以外何も聞こえない。鳥の声も、車の音も人の話し声も・・次第に、自分は本当に歩いているのだろうか?などと馬鹿げた錯覚に陥ってくる。
ようやく立花の家の前まで来た。家からはランタンの明かりがぼんやりと漏れている。
鍵のかかっていない玄関をノックする。一応人がいる家だ。いきなり開けるのも気が引ける。
「立花さん。こんばんは」
声を掛けるが返事がない。
何度かノックをして声を掛けてみる。耳を澄ましてみるが、家の中から物音一つ聞こえてこない。
「留守か」
もう辺りは暗闇に包まれている。一体どこに行っているのか。
俺は諦めて家に戻ろうとした時、何処からか微かに人の声がしたような気がした。
「?」
耳を澄ましながら、話声のする方にゆっくりと歩いて行く。
この時期、木の葉がほとんど下に落ちて地面を覆っているので、音をたてないように歩くというのは至難の業だ。
俺は一歩一歩、足音をなるべく立てないよう慎重に歩く。
先程よりも話声が少し大きくなってきた。どうやら、町から出たすぐの所(グズグズに崩れた石柱の辺り)で立花が誰かと話しているようだ。
(相手は誰だ?)
しかし、街灯も何もない暗闇。姿を確認することが難しい。
・・チリン
鈴の音だ。
確か、立花は腰に鈴をつけていた。
しかし、その鈴の音に違和感を感じる。鈴の音が一つだけではないような気がするのだ。二つの鈴が同時になる音も聞こえている。
(もう一人の奴も鈴を持っているのか?)
たかだか鈴の音だが、俺は興味を惹かれた。
昔は、鍵やら鞄などにキーホルダーや鈴をつけている人は多かったが、いまはそういう人を見かけるのが少ない。だから気になったのだろうか。
「しっかりしな」
立花ではない声が聞こえてくる。女だ。何となく年配の女のような声。
「はあ・・・でも・・・・・まどわ・・・」
立花の自信なさげな声が所々だが聞こえてくる。
(まどわ?なんだ?)
俺はよく話を聞こうと近づく。盗み聞きなので、堂々と出て行くことは出来ない。草陰に隠れながら慎重に近づいていく。
「うっ」
突然、頭に激痛が走る。
俺はその痛みに耐えきれずしゃがみ込んでしまった。初めは誰かに殴られたのかと思ったが、周りには誰もいない。
痛みは頭の中から来るようだ。頭の内側から頭蓋骨を金槌で殴られているような痛み。俺は頭を抱えその場に倒れた。次第に意識が遠のいていく。
薄れゆく意識の中、俺の名前を呼びながら走り寄る立花の姿。そして・・・その後ろの方に立つ一人の老女。この場に似つかわしくない着物を上品に着こなしている。
(誰・・だ)
俺の意識はそこでふつりと切れた。

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