13 / 32
ちひろ
しおりを挟む
順調に片づけが進み、この家に住み着いてから一週間が過ぎた。
家の中も何とか人が住める状況になり、外壁も修繕した。割れた窓ガラスは新しくガラスを入れることが出来ないので、簡単に板を打ち付け外の外気が入らないようにした。
まだまだ、直さなくてはいけない所が残っていたが俺は報告と、自分のコレクションを持ってくるため立花の家に向かった。
今日の天気は良くない。雨でも降るかと思っていたが雨ではなく雪が降ってきた。
「う~寒い」
白い息を盛大に吐きながら立花の家の方へ歩いて行く。
「あれ?」
自分が向かう方向から立花が歩いてくるのが見える。その後ろに誰かいる。誰かと一緒のようだ。立花は俺の姿を見つけると、嬉しそうに手を大きく振り近寄ってきた。
「田中さん久しぶり!家の方片付いた?」
「ああ少しはね。今それを言いに行こうと思ってたんだ」
「じゃあ丁度良かった。田中さんに紹介しようと思って連れてきたんだよ」
立花は、自分の後ろの方に隠れるようにしている女を紹介した。
その女は十代位の可愛らしい女だった。
眼がやけに大きいがチャームポイントと言えばそうなるだろう。鼻や唇の形もいい。長い黒髪が冷たい風になびいている。高そうな白いコートを着て、襟元に黒のマフラーを何十にも巻いている。そのためか、左程大きくない顔が余計に小さく見えた。
女は俺を警戒するように大きな目で見ると
「こんにちは」
とかすれた声で挨拶してきた。
「あ・・どうも」
俺は少しだけ頭を下げる。
この女は何だ?立花の彼女か?女を見ながら色々考える。
「この人ね、う~ん。名前は・・・ちひろ・・・そうだね。ちひろちゃんでいいね。今日からこの町に住むんだよ」
「え⁉ここに?」
「そ。それがさ、雪降って来ただろ?家の方選んでもらおうと思ったんだけど、無理だよなこれじゃ」
立花は忌々しそうに空を見る。
「で、田中さんの家の方が片づけ終わってたら、部屋貸してくれないかなって思って来たんだよ」
「え?俺の家に?」
「だって、俺の部屋一つしか片付いてないし、他の奴より田中さんの方が信頼できるから」
何処をどう見て、俺に信頼を持ったのか分からないが立花はさらりと言う。
「・・・確かに片づけは大分終わってるけど、二階はまだ散らかってるんだ。一階だけで住もうと思ってるから」
「一階は何部屋あるんだい?」
「キッチン、風呂、トイレ覗いて三つ」
「十分じゃん!その内の一部屋貸してくれないかな。その内自分の家選んでもらうからさ。ね?」
立花はちひろに向かって同意を求める。
ちひろは小さくうなずいた。
確かに、他のメンバーを考えると立花が俺を選んだのは分からなくもないが、本当に俺でいいのか?仮にも俺は男だぞ?人生終わりにしようと一度は死を選んだが、男という事には変わりがない。
俺は立花の神経を少し疑った。
こんな男しかいない場所に連れてこないで、警察にでも渡した方がこの子のためになるんじゃないのか?
「ここじゃ寒いから、家の中に入ろう」
ちひろが小刻みに震えている事に気が付いた俺は急いでそう言いい、家の方へと歩いて行く。
玄関を開け一旦ちひろだけを入れると
「ちょっと待っててね」
そう声を掛けると、外でキョトンとしている立花の腕をつかみ家から離れた。
「おい。正気か?あんな若い女を何でこんな所に連れてくるんだ?俺と同じだろ?樹海で自殺しようとしていた所を助けたんだろ?こんな所に連れてこないで、警察に渡した方がいい!」
俺は少し頭に来ていたので早口に立花にまくしたてた。
立花は、突然の事に驚いた様子だったが何故か一瞬泣きそうな表情をした後、また元の顔に戻り
「そうだよね。でも本人がこの町にいたいって言うからさ」
「そうだとしてもだ!駄目だろ?」
「何が?」
「・・・何がって・・・」
「男だから?良からぬことになるかもって?大丈夫だよ田中さんなら」
立花は根拠もない「大丈夫」を強調して言った。
「じゃあ。立花が俺の家に来い。で、お前の家にあの子を住まわせるんだ」
「・・・・それは・・・」
飄々としていた立花が初めて言葉に詰まる。暫く考えた後
「それは出来ない」
「なんで!」
「なんでも」
「訳わからん。俺は断る。・・真面目そうな後藤の家にでも連れて行ったらどうだ?」
俺は何気なく後藤の名前を出した。
すると立花は凄く慌て出し声を荒げて
「駄目駄目!後藤さんは絶対だめだ!」
と言った。
突然の変わりように俺は驚いたが、立花はすぐに元に戻ると
「田中さん頼みますよ。俺もちょくちょく顔出しますから。お願いします」
と深々と頭を下げ俺に頼み込んだ。
「あの~」
後ろで声がする。
ちひろが玄関を少しだけ開け、不安そうな顔をしながら顔を覗かせている。恐らく俺達が自分の事で言い争っているとでも分かったのだろう。不安そうな表情から泣きそうな表情に変わっていく。
「・・分かったよ」
俺は、まだ頭を下げている立花に言った。
「本当!良かった~。あ、ちひろちゃん。田中さんが大丈夫だって。安心してここにいるんだよ!」
立花は後ろにいるちひろにそう声を掛けるとさっさと帰って行った。
大変な事になった。
一つ屋根の下で、若い女との同棲が唐突に始まってしまったのだ。
玄関からまだ不安げに俺を見るちひろにちょっとだけ頭を下げると
「あの~なんだ。取り敢えず・・・よろしく」
「あ・・・よろしくお願いします」
何とも微妙な空気だ。
ひとまず俺も家に入り、ちひろに使ってもらう部屋を考える。
一階は、玄関を入り右手に和室。左手に風呂とトイレ。奥に進みドアを開けると二つ部屋がある。その二つの部屋はガラスの引き戸で仕切られているが、ガラスが割れていたので板を全面に貼ってある。俺はこの板を張り付けた事を心から喜んだ。
こんな事になると思って貼ったわけではないが、ちひろに片側の部屋を使ってもらうとしたらガラスだと気になって仕方がない。
「どうする?この三部屋しかないんだけど、どの部屋を使いたいかな」
何となく俺はちひろに部屋の決定を委ねた。
「・・・どこでもいいんですけど・・・じゃあ。こっちの和室で」
その和室は三部屋の中でも一番ひどい荒れ方をした部屋だった。畳は腐り襖も剥がれて異臭がしていた。何とか寝られるまでには修繕したが、若い子が和室を選んだことに少し驚いた俺は
「ここでいいの?こっちの部屋の方が和室より広いしいいと思うけど」
「いいんです。和室の方が落ち着きますから」
「畳がぶかぶかしてる所もあるけどいいの?」
「はい」
遠慮しているのだろうか。ろくに部屋も見ずに玄関からすぐの部屋を選んだちひろを不思議に思ったがすぐに
(そうか!玄関が近いから選んだんだ。確かにそうかもしれない。俺が変な事しようとした時にすぐに逃げられるように)
そう解釈した俺は、勝手に不機嫌になりながらも和室を選んだちひろを頭のいい子だとも思った。
「じゃ、ここ使って・・・大丈夫?寒い?」
まだちひろが震えている事に気が付き、俺は立花から支給された毛布を何枚も持ってちひろに渡した。
「すみません」
抱えきれない毛布を受け取ったちひろは、和室に入るとコートを着たまま毛布にくるまりそのまま寝てしまった。
寒いのもあるが疲れていたのだろう。すぐに寝息を立て始めたちひろを見て俺は可哀そうになった。
(あんな若いのにこの時期に樹海に入り死のうとしたのか。いくらでもやり直せると思うが)
自分の事を棚に上げ、そんな事を考えながら和室を閉めた。
今日は雪が降ったせいかとても寒い。
暖房器具のない家の中は冷蔵庫の様に冷え切っていた。
「これじゃ。樹海じゃなくても死んじまうな」
どうにかして暖を取れないか考えていた時
「田中さ~ん」
玄関の方から立花の声がする。
行って見ると、立花が玄関口で石油ストーブと灯油缶二つを持ち立っている。
「これも渡さなくちゃいけないのに忘れてた」
悪びれた様子もなく笑いながら立花は言う。
助かった。
「ありがとう。今日は冷えるからね。助かったよ」
「ちひろちゃん大丈夫かな」
「ああ。この部屋で寝てるよ。疲れてるみたいだ」
閉めてある引き戸を指さし俺は言った。
「そうなんだ。じゃ、俺他の人達にも灯油持ってかなきゃいけないから」
そう言い立花は行ってしまった。
立花のお陰で、暖房器具が手に入ったわけだが・・さて、何処に置くかが問題だ。俺の部屋に置きたいのはやまやまだが、それではちひろが寒い。ちひろの部屋に置くとなると俺が寒い。
「どうしたものか」
「あ、ストーブあるんですね」
ちひろが起きたようだ。和室から顔を覗かせ嬉しそうに言う。
「あ、そう。これ使いなよ」
さっきまで悩んでた俺だが、ちひろの顔を見たら咄嗟に心にもないことを言ってしまった。しょうがない。後で立花の家に行って相談しよう。
「え・・・でも・・私が使ったら田中さんが寒くないですか?」
「大丈夫。立花にもう一つあるか聞いてくるから。遠慮なく使いな」
(でもなかったらどうしようか)
言ってる事と心の中の俺は真逆だったが、口から出た方が優先されてしまう。仕方がない。
「すみません」
ちひろはホッとしたように少し笑うと、和室の襖を全開に開けた。入れろという事なのだろう。
俺はストーブを和室の隅に置いた。和室に入った瞬間、俺が知っている和室の匂いがしなかった。何て言うか・・・女の匂い。
たったわずかな時間で、こうも匂いが変わるものだろうか。
俺は、よこしまな考えになるのを払拭するように咳ばらいをすると
「じゃ、立花の家に行ってくるから」
と家を出た。
家の中も何とか人が住める状況になり、外壁も修繕した。割れた窓ガラスは新しくガラスを入れることが出来ないので、簡単に板を打ち付け外の外気が入らないようにした。
まだまだ、直さなくてはいけない所が残っていたが俺は報告と、自分のコレクションを持ってくるため立花の家に向かった。
今日の天気は良くない。雨でも降るかと思っていたが雨ではなく雪が降ってきた。
「う~寒い」
白い息を盛大に吐きながら立花の家の方へ歩いて行く。
「あれ?」
自分が向かう方向から立花が歩いてくるのが見える。その後ろに誰かいる。誰かと一緒のようだ。立花は俺の姿を見つけると、嬉しそうに手を大きく振り近寄ってきた。
「田中さん久しぶり!家の方片付いた?」
「ああ少しはね。今それを言いに行こうと思ってたんだ」
「じゃあ丁度良かった。田中さんに紹介しようと思って連れてきたんだよ」
立花は、自分の後ろの方に隠れるようにしている女を紹介した。
その女は十代位の可愛らしい女だった。
眼がやけに大きいがチャームポイントと言えばそうなるだろう。鼻や唇の形もいい。長い黒髪が冷たい風になびいている。高そうな白いコートを着て、襟元に黒のマフラーを何十にも巻いている。そのためか、左程大きくない顔が余計に小さく見えた。
女は俺を警戒するように大きな目で見ると
「こんにちは」
とかすれた声で挨拶してきた。
「あ・・どうも」
俺は少しだけ頭を下げる。
この女は何だ?立花の彼女か?女を見ながら色々考える。
「この人ね、う~ん。名前は・・・ちひろ・・・そうだね。ちひろちゃんでいいね。今日からこの町に住むんだよ」
「え⁉ここに?」
「そ。それがさ、雪降って来ただろ?家の方選んでもらおうと思ったんだけど、無理だよなこれじゃ」
立花は忌々しそうに空を見る。
「で、田中さんの家の方が片づけ終わってたら、部屋貸してくれないかなって思って来たんだよ」
「え?俺の家に?」
「だって、俺の部屋一つしか片付いてないし、他の奴より田中さんの方が信頼できるから」
何処をどう見て、俺に信頼を持ったのか分からないが立花はさらりと言う。
「・・・確かに片づけは大分終わってるけど、二階はまだ散らかってるんだ。一階だけで住もうと思ってるから」
「一階は何部屋あるんだい?」
「キッチン、風呂、トイレ覗いて三つ」
「十分じゃん!その内の一部屋貸してくれないかな。その内自分の家選んでもらうからさ。ね?」
立花はちひろに向かって同意を求める。
ちひろは小さくうなずいた。
確かに、他のメンバーを考えると立花が俺を選んだのは分からなくもないが、本当に俺でいいのか?仮にも俺は男だぞ?人生終わりにしようと一度は死を選んだが、男という事には変わりがない。
俺は立花の神経を少し疑った。
こんな男しかいない場所に連れてこないで、警察にでも渡した方がこの子のためになるんじゃないのか?
「ここじゃ寒いから、家の中に入ろう」
ちひろが小刻みに震えている事に気が付いた俺は急いでそう言いい、家の方へと歩いて行く。
玄関を開け一旦ちひろだけを入れると
「ちょっと待っててね」
そう声を掛けると、外でキョトンとしている立花の腕をつかみ家から離れた。
「おい。正気か?あんな若い女を何でこんな所に連れてくるんだ?俺と同じだろ?樹海で自殺しようとしていた所を助けたんだろ?こんな所に連れてこないで、警察に渡した方がいい!」
俺は少し頭に来ていたので早口に立花にまくしたてた。
立花は、突然の事に驚いた様子だったが何故か一瞬泣きそうな表情をした後、また元の顔に戻り
「そうだよね。でも本人がこの町にいたいって言うからさ」
「そうだとしてもだ!駄目だろ?」
「何が?」
「・・・何がって・・・」
「男だから?良からぬことになるかもって?大丈夫だよ田中さんなら」
立花は根拠もない「大丈夫」を強調して言った。
「じゃあ。立花が俺の家に来い。で、お前の家にあの子を住まわせるんだ」
「・・・・それは・・・」
飄々としていた立花が初めて言葉に詰まる。暫く考えた後
「それは出来ない」
「なんで!」
「なんでも」
「訳わからん。俺は断る。・・真面目そうな後藤の家にでも連れて行ったらどうだ?」
俺は何気なく後藤の名前を出した。
すると立花は凄く慌て出し声を荒げて
「駄目駄目!後藤さんは絶対だめだ!」
と言った。
突然の変わりように俺は驚いたが、立花はすぐに元に戻ると
「田中さん頼みますよ。俺もちょくちょく顔出しますから。お願いします」
と深々と頭を下げ俺に頼み込んだ。
「あの~」
後ろで声がする。
ちひろが玄関を少しだけ開け、不安そうな顔をしながら顔を覗かせている。恐らく俺達が自分の事で言い争っているとでも分かったのだろう。不安そうな表情から泣きそうな表情に変わっていく。
「・・分かったよ」
俺は、まだ頭を下げている立花に言った。
「本当!良かった~。あ、ちひろちゃん。田中さんが大丈夫だって。安心してここにいるんだよ!」
立花は後ろにいるちひろにそう声を掛けるとさっさと帰って行った。
大変な事になった。
一つ屋根の下で、若い女との同棲が唐突に始まってしまったのだ。
玄関からまだ不安げに俺を見るちひろにちょっとだけ頭を下げると
「あの~なんだ。取り敢えず・・・よろしく」
「あ・・・よろしくお願いします」
何とも微妙な空気だ。
ひとまず俺も家に入り、ちひろに使ってもらう部屋を考える。
一階は、玄関を入り右手に和室。左手に風呂とトイレ。奥に進みドアを開けると二つ部屋がある。その二つの部屋はガラスの引き戸で仕切られているが、ガラスが割れていたので板を全面に貼ってある。俺はこの板を張り付けた事を心から喜んだ。
こんな事になると思って貼ったわけではないが、ちひろに片側の部屋を使ってもらうとしたらガラスだと気になって仕方がない。
「どうする?この三部屋しかないんだけど、どの部屋を使いたいかな」
何となく俺はちひろに部屋の決定を委ねた。
「・・・どこでもいいんですけど・・・じゃあ。こっちの和室で」
その和室は三部屋の中でも一番ひどい荒れ方をした部屋だった。畳は腐り襖も剥がれて異臭がしていた。何とか寝られるまでには修繕したが、若い子が和室を選んだことに少し驚いた俺は
「ここでいいの?こっちの部屋の方が和室より広いしいいと思うけど」
「いいんです。和室の方が落ち着きますから」
「畳がぶかぶかしてる所もあるけどいいの?」
「はい」
遠慮しているのだろうか。ろくに部屋も見ずに玄関からすぐの部屋を選んだちひろを不思議に思ったがすぐに
(そうか!玄関が近いから選んだんだ。確かにそうかもしれない。俺が変な事しようとした時にすぐに逃げられるように)
そう解釈した俺は、勝手に不機嫌になりながらも和室を選んだちひろを頭のいい子だとも思った。
「じゃ、ここ使って・・・大丈夫?寒い?」
まだちひろが震えている事に気が付き、俺は立花から支給された毛布を何枚も持ってちひろに渡した。
「すみません」
抱えきれない毛布を受け取ったちひろは、和室に入るとコートを着たまま毛布にくるまりそのまま寝てしまった。
寒いのもあるが疲れていたのだろう。すぐに寝息を立て始めたちひろを見て俺は可哀そうになった。
(あんな若いのにこの時期に樹海に入り死のうとしたのか。いくらでもやり直せると思うが)
自分の事を棚に上げ、そんな事を考えながら和室を閉めた。
今日は雪が降ったせいかとても寒い。
暖房器具のない家の中は冷蔵庫の様に冷え切っていた。
「これじゃ。樹海じゃなくても死んじまうな」
どうにかして暖を取れないか考えていた時
「田中さ~ん」
玄関の方から立花の声がする。
行って見ると、立花が玄関口で石油ストーブと灯油缶二つを持ち立っている。
「これも渡さなくちゃいけないのに忘れてた」
悪びれた様子もなく笑いながら立花は言う。
助かった。
「ありがとう。今日は冷えるからね。助かったよ」
「ちひろちゃん大丈夫かな」
「ああ。この部屋で寝てるよ。疲れてるみたいだ」
閉めてある引き戸を指さし俺は言った。
「そうなんだ。じゃ、俺他の人達にも灯油持ってかなきゃいけないから」
そう言い立花は行ってしまった。
立花のお陰で、暖房器具が手に入ったわけだが・・さて、何処に置くかが問題だ。俺の部屋に置きたいのはやまやまだが、それではちひろが寒い。ちひろの部屋に置くとなると俺が寒い。
「どうしたものか」
「あ、ストーブあるんですね」
ちひろが起きたようだ。和室から顔を覗かせ嬉しそうに言う。
「あ、そう。これ使いなよ」
さっきまで悩んでた俺だが、ちひろの顔を見たら咄嗟に心にもないことを言ってしまった。しょうがない。後で立花の家に行って相談しよう。
「え・・・でも・・私が使ったら田中さんが寒くないですか?」
「大丈夫。立花にもう一つあるか聞いてくるから。遠慮なく使いな」
(でもなかったらどうしようか)
言ってる事と心の中の俺は真逆だったが、口から出た方が優先されてしまう。仕方がない。
「すみません」
ちひろはホッとしたように少し笑うと、和室の襖を全開に開けた。入れろという事なのだろう。
俺はストーブを和室の隅に置いた。和室に入った瞬間、俺が知っている和室の匂いがしなかった。何て言うか・・・女の匂い。
たったわずかな時間で、こうも匂いが変わるものだろうか。
俺は、よこしまな考えになるのを払拭するように咳ばらいをすると
「じゃ、立花の家に行ってくるから」
と家を出た。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる