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心霊写真
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やけに張り切った橋本が、冷蔵庫にあったもので夕飯を作ってくれた。簡単な炒飯とスープだったがこれが意外に美味い。
「お前料理上手かったのな」
「俺は何やらせても上手いんだよ」
口に炒飯を詰め込みながら橋本は言った。俺は一皿だけで十分だったが、橋本は三杯もおかわりしている。
「お前、よく食うな」
呆れて言う俺をしり目に
「はぁ~食った食った」
と満足そうに腹を撫でている橋本を見て笑いが出てきた。
「よし、腹ごなしにお前の手伝ってやるよ」
「は?手伝うって何を?」
突然の事に橋本が言っている事がすぐに分からなかった。
「何って、親の荷物整理するんだろ?それを手伝うって言ったんだよ」
「ああそうか」
「行くぞ」
橋本はそう言うと二階に上がって行く。
食休みぐらいさせてほしかったが、折角手伝ってくれるのだ。二人分の皿を流しに置くと俺も二階に上がった。後は、俺の部屋にある荷物を片付けるだけなので、二人でやればすぐに終わるだろう。会社の方に申請している休みはまだ残っているし、こっちで少しゆっくりしていこう。これからの事を頭で計算しつつ橋本と片付け始める。橋本は主にゴミの分別をやってくれた。
「はぁ~。少ないと思ってたけど、こうやって見ると結構あるのな」
もう疲れたのか橋本は手を休め俺の小さい頃の写真が入っているアルバムを見だした。
「そうだな。でも、手伝ってくれてるお陰で助かるよ」
荷物の整理を続けながら橋本に言った。
「一宿一飯の恩義というやつだな。ハハハ・・・・・・ん?」
笑っていた橋本が急に黙ったので
「どうした?」
見ると橋本は、アルバムをめくったり戻したりと何かを確認するように見ている。
「何だよ。それ俺の小さい頃のアルバムなんだ。可愛いだろ?」
冗談を言ったつもりだったが、橋本はその言葉が耳に入らない様子だ。俺は妙に思い、橋本の側に行った。
「おい。お前これ気がついてたか?」
「は?何が?」
「これ見てみ」
橋本は、顔を上げることなくある写真を指した。
それは、俺が祖母ちゃん家の縁側でうつ伏せになり、頭を持ち上げカメラの方を見て笑っている写真だった。俺は覚えていないが何歳頃のだろう。見た感じハイハイが出来た頃のように見える。
両親が撮ったのか、祖父母が撮ったのかは分からないが満面の笑みで写る俺は凄く幸せそうだ。
「これがどうかしたのかよ」
何の不思議もない写真だけに、橋本の言いたいことが分からなかった。
「ここだよ」
橋本はその写真の上の方を指さす。そこは少しぼやけているが部屋の奥が写っている。俺は橋本の横に座り写真が良く見えるように覗き込む。この部分は確か・・・・・・今はもう取り壊されている祖母ちゃん家の間取りを思い出しながら見る。そうだ。廊下があって、その向こうに祖母ちゃん達が寝ていた部屋があったんだっけ。
「ん?」
「分かったか?」
「ん~」
「何だよ分かんねぇのかよ。ここ。ここに女の子いるだろ?」
「女の子?」
顔を近づけたり離したりしてよく見る。
「あっ‼」
「な?いるだろ?」
分かりにくいが、確かに女の子が祖母ちゃん達の寝室に立っているように見えなくもない。
「ん~。確かに女の子に見えるけど、何かの布とか家具が偶然そう見えただけじゃないのか?」
「まあね。そう言ったらそうかもしれないけど・・・・・・でもやっぱりいるよ・・・・・・何となく・・・・・・着物着て・・・・・・七歳か八歳位かな」
具体的にそう言われると、もうそれにしか見えなくなってくる。
「ここはお袋の実家なんだけどお袋二人姉妹でさ、お袋の妹の子供。従弟は男一人なんだよ。女はいないんだ。それとも近所の子でも遊びに来てたのかな」
「でも、お前この時代でこんな着物着てるのっておかしくね?それにさ・・・・・・」
「何だよ」
「ん~なんて言っていいのか分かんないんだけど・・・・・・あ、それにさ、こっちも見て見ろよ」
ページをめくりまた一つの写真を指さす。
その写真も場所は祖母ちゃんの家で撮られたもので、庭でボール遊びをしている小さい頃の俺が写っていて、その後ろには祖母ちゃんの家が写っている。
「これが何?」
「ここだ」
橋本は写真の左上の方を指さす。
「え・・・・・・」
指を指した部分は玄関だ。開けっ放しの引き戸の奥の方、光が届かない所に一枚目に写っていた女の子が同じように立っている。
「それと・・・・・・」
俺に構わず橋本は別の写真に指を立てる。そこにも写っている。同じような女の子が。
「ちょ、ちょっと貸して」
俺は橋本から慌ててアルバムを取り、その三枚の写真を何度も見比べる。どれも鮮明には写ってはいないが何度見ても、そこだけコピーしたかのように同じ女の子が写りこんでいた。
「な?じっくり見ればもっと見つかるような気がしないか?もしかしてこれ・・・・・・心霊写真ってやつか?」
橋本は嬉しそうな声を出した。
冗談じゃない。呪われる覚えもないし、俺はそういうのがとにかく苦手だ。自分の思い出の写真にそんな気味の悪い物が写っているなんて考えるだけでも鳥肌が立つ。
「やめろよ。そんなんじゃないよ」
「でもさ、皆ぼやけた背景と同化するように写っていてはっきり見えないけど、おかしくね?全部、立ってこっち見てるんだよな」
自分が見ている物を改めて人に言われると更にゾッとする。
「も、もういいよ。片付けやろうぜ」
「ああ。いいよ。やってて。俺他にもないか見つけるから」
橋本は俺の手からアルバムを取るとぺらぺらとめくり探し始めた。俺はそんな橋本をほっておいて片づけを始めた・・・・・・が
「あ」
「おい」
俺と橋本は同時に言葉が出た。俺はゆっくりと橋本の方を振り向くと、橋本も俺を見ている。その顔を見て、何となく俺がこれから言う事と橋本が言う事は同じだと思った。
橋本が話し始める。
「俺思ったんだけど、お前がこの部屋で聞いた声ってこの写真の女の子に関係あるんじゃないか?」
やっぱりそうだ。
「ああ。俺も今そう思った」
何の因果関係があるのかなどは知らないが、気味が悪い物だけを取り上げて考えてみるとそれしかないように思えてくる。俺は手を休め橋本の近くに座ると
「でも、ぼやけてるからはっきりとは分からないけど、見た感じ知らない子なんだよね」
「ふ~ん。・・・・・・な、本当に写真に写ってるの気がつかなかったのか?俺はすぐわかったぜ。これ」
橋本は写真を見ながら言った。
確かに、わかりずらい物もあるがこれが分からなかったのかと疑う写真も中にはある。
「自分の小さい頃のアルバムなんてそんなしょっちゅう見るもんじゃないし、昔見た時は気がつかなかったな。気がついてればお袋に聞いてると思うよ」
「ふ~ん」
橋本はアルバムをパタンと音をたてて閉じると考え込んだ。
「お前が小さい頃に亡くなった友達とかは?」
「いない」
「親戚」
「いない」
「ん~」
橋本が考え込んだその時、俺の携帯が鳴った。
静かな場所で突然鳴り出す電話の音に俺達は飛び上がるほど驚いた。
急いで携帯を見ると相馬からだった。
「もしもし」
「あ、もしもし。お前大丈夫か?」
何やら焦っているようだ。
「え?大丈夫って何が?」
「何がって・・・・・・ごめん。ちょっと心配になったものだから」
「?・・・・・・相馬には本当に世話になったよな。叔母さんにもよろしく言っといて。後で挨拶に行こうと思ってるけどさ」
「そんなの当り前だろ。いつまでこっちにいられるんだ?」
「暫くはいようと思ってる」
「そうか」
暫く沈黙が続く。その沈黙が不安に変わる頃、ようやく相馬が話し出した。
「あのさ、これからお前ん家行ってもいいかな」
「え?あ・・・・・・うんいいよ。あの・・・・・・友達来てるけど」
「友達?もう遊んでるのかよ」
責めるような言い方に、俺は慌てて
「いや。偶然コンビニで会ってさ。俺の親の事もよく知ってる奴だし、線香あげに来たいって言うから」
「・・・・・・まあいいや。これから行くよ」
「分かった」
何か様子が変だ。突然来るって言うのも何の用事があるのだろう。
「誰?」
「ん?相馬。俺のいとこだよ」
「これから来るのか?なんかあったんじゃないか?」
「分からないけど、まぁ来た時に聞いてみるよ」
「そうだ。そのいとこにこの写真の子の事聞けば?知ってるかもしんないじゃん」
「うん」
時計を見ると二時になろうとしている所だった。
「お前料理上手かったのな」
「俺は何やらせても上手いんだよ」
口に炒飯を詰め込みながら橋本は言った。俺は一皿だけで十分だったが、橋本は三杯もおかわりしている。
「お前、よく食うな」
呆れて言う俺をしり目に
「はぁ~食った食った」
と満足そうに腹を撫でている橋本を見て笑いが出てきた。
「よし、腹ごなしにお前の手伝ってやるよ」
「は?手伝うって何を?」
突然の事に橋本が言っている事がすぐに分からなかった。
「何って、親の荷物整理するんだろ?それを手伝うって言ったんだよ」
「ああそうか」
「行くぞ」
橋本はそう言うと二階に上がって行く。
食休みぐらいさせてほしかったが、折角手伝ってくれるのだ。二人分の皿を流しに置くと俺も二階に上がった。後は、俺の部屋にある荷物を片付けるだけなので、二人でやればすぐに終わるだろう。会社の方に申請している休みはまだ残っているし、こっちで少しゆっくりしていこう。これからの事を頭で計算しつつ橋本と片付け始める。橋本は主にゴミの分別をやってくれた。
「はぁ~。少ないと思ってたけど、こうやって見ると結構あるのな」
もう疲れたのか橋本は手を休め俺の小さい頃の写真が入っているアルバムを見だした。
「そうだな。でも、手伝ってくれてるお陰で助かるよ」
荷物の整理を続けながら橋本に言った。
「一宿一飯の恩義というやつだな。ハハハ・・・・・・ん?」
笑っていた橋本が急に黙ったので
「どうした?」
見ると橋本は、アルバムをめくったり戻したりと何かを確認するように見ている。
「何だよ。それ俺の小さい頃のアルバムなんだ。可愛いだろ?」
冗談を言ったつもりだったが、橋本はその言葉が耳に入らない様子だ。俺は妙に思い、橋本の側に行った。
「おい。お前これ気がついてたか?」
「は?何が?」
「これ見てみ」
橋本は、顔を上げることなくある写真を指した。
それは、俺が祖母ちゃん家の縁側でうつ伏せになり、頭を持ち上げカメラの方を見て笑っている写真だった。俺は覚えていないが何歳頃のだろう。見た感じハイハイが出来た頃のように見える。
両親が撮ったのか、祖父母が撮ったのかは分からないが満面の笑みで写る俺は凄く幸せそうだ。
「これがどうかしたのかよ」
何の不思議もない写真だけに、橋本の言いたいことが分からなかった。
「ここだよ」
橋本はその写真の上の方を指さす。そこは少しぼやけているが部屋の奥が写っている。俺は橋本の横に座り写真が良く見えるように覗き込む。この部分は確か・・・・・・今はもう取り壊されている祖母ちゃん家の間取りを思い出しながら見る。そうだ。廊下があって、その向こうに祖母ちゃん達が寝ていた部屋があったんだっけ。
「ん?」
「分かったか?」
「ん~」
「何だよ分かんねぇのかよ。ここ。ここに女の子いるだろ?」
「女の子?」
顔を近づけたり離したりしてよく見る。
「あっ‼」
「な?いるだろ?」
分かりにくいが、確かに女の子が祖母ちゃん達の寝室に立っているように見えなくもない。
「ん~。確かに女の子に見えるけど、何かの布とか家具が偶然そう見えただけじゃないのか?」
「まあね。そう言ったらそうかもしれないけど・・・・・・でもやっぱりいるよ・・・・・・何となく・・・・・・着物着て・・・・・・七歳か八歳位かな」
具体的にそう言われると、もうそれにしか見えなくなってくる。
「ここはお袋の実家なんだけどお袋二人姉妹でさ、お袋の妹の子供。従弟は男一人なんだよ。女はいないんだ。それとも近所の子でも遊びに来てたのかな」
「でも、お前この時代でこんな着物着てるのっておかしくね?それにさ・・・・・・」
「何だよ」
「ん~なんて言っていいのか分かんないんだけど・・・・・・あ、それにさ、こっちも見て見ろよ」
ページをめくりまた一つの写真を指さす。
その写真も場所は祖母ちゃんの家で撮られたもので、庭でボール遊びをしている小さい頃の俺が写っていて、その後ろには祖母ちゃんの家が写っている。
「これが何?」
「ここだ」
橋本は写真の左上の方を指さす。
「え・・・・・・」
指を指した部分は玄関だ。開けっ放しの引き戸の奥の方、光が届かない所に一枚目に写っていた女の子が同じように立っている。
「それと・・・・・・」
俺に構わず橋本は別の写真に指を立てる。そこにも写っている。同じような女の子が。
「ちょ、ちょっと貸して」
俺は橋本から慌ててアルバムを取り、その三枚の写真を何度も見比べる。どれも鮮明には写ってはいないが何度見ても、そこだけコピーしたかのように同じ女の子が写りこんでいた。
「な?じっくり見ればもっと見つかるような気がしないか?もしかしてこれ・・・・・・心霊写真ってやつか?」
橋本は嬉しそうな声を出した。
冗談じゃない。呪われる覚えもないし、俺はそういうのがとにかく苦手だ。自分の思い出の写真にそんな気味の悪い物が写っているなんて考えるだけでも鳥肌が立つ。
「やめろよ。そんなんじゃないよ」
「でもさ、皆ぼやけた背景と同化するように写っていてはっきり見えないけど、おかしくね?全部、立ってこっち見てるんだよな」
自分が見ている物を改めて人に言われると更にゾッとする。
「も、もういいよ。片付けやろうぜ」
「ああ。いいよ。やってて。俺他にもないか見つけるから」
橋本は俺の手からアルバムを取るとぺらぺらとめくり探し始めた。俺はそんな橋本をほっておいて片づけを始めた・・・・・・が
「あ」
「おい」
俺と橋本は同時に言葉が出た。俺はゆっくりと橋本の方を振り向くと、橋本も俺を見ている。その顔を見て、何となく俺がこれから言う事と橋本が言う事は同じだと思った。
橋本が話し始める。
「俺思ったんだけど、お前がこの部屋で聞いた声ってこの写真の女の子に関係あるんじゃないか?」
やっぱりそうだ。
「ああ。俺も今そう思った」
何の因果関係があるのかなどは知らないが、気味が悪い物だけを取り上げて考えてみるとそれしかないように思えてくる。俺は手を休め橋本の近くに座ると
「でも、ぼやけてるからはっきりとは分からないけど、見た感じ知らない子なんだよね」
「ふ~ん。・・・・・・な、本当に写真に写ってるの気がつかなかったのか?俺はすぐわかったぜ。これ」
橋本は写真を見ながら言った。
確かに、わかりずらい物もあるがこれが分からなかったのかと疑う写真も中にはある。
「自分の小さい頃のアルバムなんてそんなしょっちゅう見るもんじゃないし、昔見た時は気がつかなかったな。気がついてればお袋に聞いてると思うよ」
「ふ~ん」
橋本はアルバムをパタンと音をたてて閉じると考え込んだ。
「お前が小さい頃に亡くなった友達とかは?」
「いない」
「親戚」
「いない」
「ん~」
橋本が考え込んだその時、俺の携帯が鳴った。
静かな場所で突然鳴り出す電話の音に俺達は飛び上がるほど驚いた。
急いで携帯を見ると相馬からだった。
「もしもし」
「あ、もしもし。お前大丈夫か?」
何やら焦っているようだ。
「え?大丈夫って何が?」
「何がって・・・・・・ごめん。ちょっと心配になったものだから」
「?・・・・・・相馬には本当に世話になったよな。叔母さんにもよろしく言っといて。後で挨拶に行こうと思ってるけどさ」
「そんなの当り前だろ。いつまでこっちにいられるんだ?」
「暫くはいようと思ってる」
「そうか」
暫く沈黙が続く。その沈黙が不安に変わる頃、ようやく相馬が話し出した。
「あのさ、これからお前ん家行ってもいいかな」
「え?あ・・・・・・うんいいよ。あの・・・・・・友達来てるけど」
「友達?もう遊んでるのかよ」
責めるような言い方に、俺は慌てて
「いや。偶然コンビニで会ってさ。俺の親の事もよく知ってる奴だし、線香あげに来たいって言うから」
「・・・・・・まあいいや。これから行くよ」
「分かった」
何か様子が変だ。突然来るって言うのも何の用事があるのだろう。
「誰?」
「ん?相馬。俺のいとこだよ」
「これから来るのか?なんかあったんじゃないか?」
「分からないけど、まぁ来た時に聞いてみるよ」
「そうだ。そのいとこにこの写真の子の事聞けば?知ってるかもしんないじゃん」
「うん」
時計を見ると二時になろうとしている所だった。
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