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秘密の場所
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小屋での生活が始まったチヨとハルは今までと変わらず明るく元気だった。毎日、自分達で遊ぶことを見つけては二人で笑いあいながら楽しく過ごしている。そんな二人を見て、母親は少しだけ安心した。勿論、奥の格子がある座敷牢のような場所には二人を入れるなんて事はせず、格子の前のスペースで生活をしている。こんな狭い所での生活で子供達に悪い影響が出ないかといつも気が気ではなかった。
ある日、母親は夕飯の膳を小屋に持って行き二人が食事をしている最中に思い切ってあることを提案してみた。
「ねえ。チヨ、ハル。お母さん一つ考えている事があるんだけど」
「なあに?」
チヨは面をずらすこともせずに器用に大きく口が開いた般若の口から自分の口へご飯を運んでいる。
その手を休めて母親の方へ顔を向ける。
「あのね。家の者が寝静まった時にお母さん迎えに来るから、そっと外に出て見ない?」
「え?」
チヨの驚きは面からも伝わってくるかのようだった。
「本当?」
「本当?」
二人同時に言う。
「ええ。眠いとは思うけど、どう?」
「やった~!」
二人は躍り上がって喜んだ。チヨは立ち上がった瞬間にお膳をひっくり返してしまったがそんな事は気にせずに、ハルと手を取り喜び合っている。
母親にとって思い切った事だったが、二人の喜ぶ姿を見て決めて良かったと思った。
運よく、チヨとハルがこの小屋に入ると決まった日から夫とは余り話をしなくなり、寝室も別にしてもらった。なので、深夜は比較的自由に動けるのではと踏んだのだ。
しかし、問題が一つあった。
この家には女中達が使う女中部屋というものがあるのだが、その部屋が小屋に近いことだ。女中は家の者、全員が寝静まってから床に入るらしい。その時に見られでもしたら大変な事になる。なので母親は、二人に話す前にきぬに相談をしてみた。相談を受けたきぬは初め難しい顔をしていたが
「分かりました。こちらの動きなどは私が目を光らせておきます。仕事は順番で行っていますので、きぬが夜番の時などに外に行かれてはどうでしょうか。その時はお伝えします」
と提案してくれた。
夜番とは、皆が寝た後に家の戸締りの確認をすることらしい。母親は喜んできぬにお礼を言い少しばかりのお金を渡そうとしたが
「お金が欲しくて協力するのではありません。チヨ様と奥様のためです」
ぴしゃりと断られてしまった。ともかくこれで、心配はないと思うが気は抜けない。
母親はチヨがひっくり返してしまったお膳を片付けながら、きぬの事や連れて行きたい場所などの話をする。その話を体を乗り出し夢中になって聞いている双子を見ると、久しぶりに自然に笑顔が出てくる。
「ねえねえ。お母さん。連れて行きたい所ってどんな所?」
「私お祭りに行きたい!」
「お祭り⁉行きたい!」
双子が騒ぎ始めたので、母親は人差し指を口元に持っていきながら
「ごめんね。お祭りはやっていないの。でも、お祭りのようにとても綺麗な所よ」
「本当!」
「早く行きたい!」
「フフ。大丈夫よ。あの場所は逃げたりしないから」
実は母親がこの村に嫁いできたばかりの時、年甲斐もなく実家が恋しくなった時があった。誰にもそんな事を言えずに堪えていたが、とうとう我慢できずに実家に帰ろうと夜中に家を出た事がある。その時に偶然見つけた場所である。
その光景を見て気持ちが和らぎ、もう一度頑張ってみようと、家に帰ったのを今でも鮮明に覚えている。こんな所に閉じ込められている二人の気持ちが、あの時の私のように少しでも和らいでくれればと思った。今日もあの時と同じ時期なので、きっとあの光景が見られるだろう。
二人は食事もそこそこにどんな所だろうと想像しながら楽しそうに話し合っている。心なしか、恐ろしい般若の表情が柔らかく見えた。
「じゃあ。夜遅くになってしまうけど迎えにきますからね。ちょっと早く寝ていた方がいいかもしれませんよ」
「は~い」
二人は元気よく返事をすると、いそいそと布団を敷き始めあっという間に横になった。
「フフ」
母親も凄く楽しみだ。お膳を持ち小屋を出ると真っ直ぐ台所に行きお膳を置く。
「奥様」
声がした方を見るときぬが立っていた。
「きぬ。前に話していたことを今日実行しようと思うの」
「それはいいですね。今日は私が夜番なので大丈夫です。フフフ。どおりで奥様ニコニコしていると思いました」
周りに気がつかれないように注意しなくてはと思っていたのに、自然と顔が緩んでいたらしい。
「あの子達も凄く喜んでいたわ。きぬ有難う」
「おやめください奥様。私はチヨ様とハル様。そして奥様の味方です。誰が何て言おうとも」
きぬは小さな胸を張り小鼻を膨らませながら言った。
「フフ」
母親は久しぶりに幸せな気持ちで満たされていた。
母親はきぬにお膳の片づけを頼み自室に戻ると、この時のためにと作った二つの帯留めを小さな箱から出した。
それは、小此鬼家に嫁いでくるときに母から手渡された、若葉色の貝で出来た扇子の帯留めを綺麗に二つに割り作ったものだ。
母からこの帯留めを貰った時はとても嬉しかった。
自分が凄く大人になったような気がしたものだった。嫁ぎ後、寂しい時などその帯留めを見ては気持ちを入れ替え頑張ってきた。二人にもこの帯留めを持つことで様々な事があっても、もしお互い気持ちがすれ違う時があっても、帯留めを見て気持ちを変え前に進んでほしいという思いを込めて作ったのだ。
そして今日、これを渡すことが出来る。
母親は、二つの帯留めを見ながらチヨとハルの顔を思い出していた。
「奥様。ご用意が出来ました」
きぬが呼びに来た。
あの時(誕生日の日)から母親はみんなと一緒に食事をせず、一人台所で簡単にすますようにしている。気まずい雰囲気の中食事をしても美味しくないし、さっさと食事を終わりにして双子の方へ行きたいからだ。
「はい」
他の者に悟られないよういつものように振舞いながら台所へ行き食事を済ませ部屋に戻ると、深夜出かける事になるので早めに床についた。しかし、余程気持ちが落ち着かないのか眠ることが出来ない。それに最近体がだるく感じる。きっと疲れているのだろう。でも、今日の夜は楽しみが待っている。
「このまま起きてますか。フフ」
自然に笑顔が出てくる。
やがて家の中が静かになり、何となく家自体が沈んだようになった時
「さてと」
はやる気持ちを抑えながら、母親は寝床から抜け出すとそっと小屋の方へ歩いて行った。幸い小屋の引き戸は音をたてずにスッと開いてくれた。
「あ」
「あ」
チヨとハルは起きていた。恐らく母親と同じ気持ちだったのだろう。
「お母さん早く行こう」
「お母さん早く行こう」
二人は待ってましたとばかりに、母親に飛びつくとこちらに顔を向けて飛び跳ねる。
「し~。静かにしないと行けなくなってしまいますよ」
母親は二人の方に顔を近づけて笑いながら言った。
「それじゃあ行きましょうか。静かにゆっくりついてきてね。いい?絶対に喋ってはいけませんよ」
「は~い」
「は~い」
二人は小声で返事をした。
三人で外に出ると、母親は先程と同じくゆっくりと戸を閉め双子が母親を挟む形で手をつなぎ目的の場所に向かう。こんな時間に外を歩いている所を見られでもしたら大変な事になってしまう。予め考えていた道順でそっと子供達を連れていく。
今夜は大きな月が雲一つない空に浮かんでいるお陰で、歩くのに不自由はなかった。月からも「いってらっしゃい」と言われているかのような気がしてくる。
丘への道を通っていると、昔自分が家を出て実家に帰ろうとした時を思い出す。しかし、帰らなくてよかった。こんなかわいい子供達と会えたのだから。自分の手を握る我が子の手をしっかりと握ると、温かさと同時に幸せな気分になる。
そして何とか、誰にも会わずに目的の場所に着いた。子供達は少し疲れた様子で息が上がっている。
「山道だったからね。大丈夫?」
「うん大丈夫」
「うん大丈夫」
子供達の声は弾んでいた。安心した母親は改めて周りを見回す。
そこは、小高い丘になっている所で人が入らないため膝のあたりまで草がぼうぼうと生えている。近くには小川がチロチロと流れており、月の光がキラキラと小川に反射して、まるで光の川のように見える。その近くには、一本だけこの場所の主の様な顔をして生えている大きな楠がある。
丘の端の方に来ると、自分たちが住んでいる村が眼下に広りソレは綺麗な夜の風景画のようだった。
「あの時と変わらないのね」
母親はぽそりと言った。そう言えば、子供達はどうなんだろう。自分の思いにふけってしまい、すっかりほっといてしまった事に気がつき慌てて
「チヨ、ハル。お母さんが連れて来たかった場所というのはここなの。どう?」
少し心配しながら聞く。
「凄いね。夜なのにお月様が村を照らしてて、良く見える」
とチヨ。
「うん凄いね。こんな高い所来たことないからびっくりしちゃった。ここからお家まで飛んでいけそうだね」
とハル。
般若の面で表情は分からないが、思い思いの感想を言う子供達は、丘から見える月明かりに照らされた村の様子に釘付けのようだった。
「もっと凄いものがあるのよ」
母親は子供達を促し小川の方へ行く。三人が草を分けガサガサと歩いていくと、その音や振動に驚いた何かが一斉に辺りに飛び出した。
それは蛍だった。
沢山の蛍が優しい光を放ちながら飛んでいる。幻想的な光景である。昔、母親はこの光景を見て実家に戻ることをやめたのだ。自分の悩みがとてもちっぽけなものに感じたからだ。
ふと子供達を見る。二人は飛び交う蛍の方を見て微動だにしない。この光景を見て、子供達も何か感じているのだろうと思い、母親は黙っていた。
どの位そうしていただろう。足がしんしんと冷えてくるのを感じた頃。
「お母さん」
チヨだ。
「なあに?」
「この光ってるのはなあに?飛んでるのはなあに?」
「蛍よ」
「蛍・・・・・・」
「蛍って?」
とハル。
「ん~虫なの」
「え⁈これ全部虫が光ってるの?」
二人同時に行った。母親は少し心配になりながら
「そう。蛍って言う虫のお尻が光っているのよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
黙り込んでしまった二人を見て
「可愛い虫よ。この季節に現れる虫でね。蛍はね十日位しか生きられないんだって。その間に一生懸命生きるのよ」
「え?十日しか生きられないの?」
「え~可哀そう」
「二人は蛍嫌だったかしら?」
「全然!私蛍大好き!だって、お尻が光るなんて面白いもの」
とハル。
「私も蛍大好き。たった十日しか生きられないのにこうやって精一杯生きてる。それに・・・・・・とても綺麗」
とチヨ。
二人がとても気に入ってくれたようなのでホッとした。
その後、暫くその場で蛍を見たり小川の水を手ですくったりと子供達は楽しそうにそのわずかな時間を満喫していた。
ある日、母親は夕飯の膳を小屋に持って行き二人が食事をしている最中に思い切ってあることを提案してみた。
「ねえ。チヨ、ハル。お母さん一つ考えている事があるんだけど」
「なあに?」
チヨは面をずらすこともせずに器用に大きく口が開いた般若の口から自分の口へご飯を運んでいる。
その手を休めて母親の方へ顔を向ける。
「あのね。家の者が寝静まった時にお母さん迎えに来るから、そっと外に出て見ない?」
「え?」
チヨの驚きは面からも伝わってくるかのようだった。
「本当?」
「本当?」
二人同時に言う。
「ええ。眠いとは思うけど、どう?」
「やった~!」
二人は躍り上がって喜んだ。チヨは立ち上がった瞬間にお膳をひっくり返してしまったがそんな事は気にせずに、ハルと手を取り喜び合っている。
母親にとって思い切った事だったが、二人の喜ぶ姿を見て決めて良かったと思った。
運よく、チヨとハルがこの小屋に入ると決まった日から夫とは余り話をしなくなり、寝室も別にしてもらった。なので、深夜は比較的自由に動けるのではと踏んだのだ。
しかし、問題が一つあった。
この家には女中達が使う女中部屋というものがあるのだが、その部屋が小屋に近いことだ。女中は家の者、全員が寝静まってから床に入るらしい。その時に見られでもしたら大変な事になる。なので母親は、二人に話す前にきぬに相談をしてみた。相談を受けたきぬは初め難しい顔をしていたが
「分かりました。こちらの動きなどは私が目を光らせておきます。仕事は順番で行っていますので、きぬが夜番の時などに外に行かれてはどうでしょうか。その時はお伝えします」
と提案してくれた。
夜番とは、皆が寝た後に家の戸締りの確認をすることらしい。母親は喜んできぬにお礼を言い少しばかりのお金を渡そうとしたが
「お金が欲しくて協力するのではありません。チヨ様と奥様のためです」
ぴしゃりと断られてしまった。ともかくこれで、心配はないと思うが気は抜けない。
母親はチヨがひっくり返してしまったお膳を片付けながら、きぬの事や連れて行きたい場所などの話をする。その話を体を乗り出し夢中になって聞いている双子を見ると、久しぶりに自然に笑顔が出てくる。
「ねえねえ。お母さん。連れて行きたい所ってどんな所?」
「私お祭りに行きたい!」
「お祭り⁉行きたい!」
双子が騒ぎ始めたので、母親は人差し指を口元に持っていきながら
「ごめんね。お祭りはやっていないの。でも、お祭りのようにとても綺麗な所よ」
「本当!」
「早く行きたい!」
「フフ。大丈夫よ。あの場所は逃げたりしないから」
実は母親がこの村に嫁いできたばかりの時、年甲斐もなく実家が恋しくなった時があった。誰にもそんな事を言えずに堪えていたが、とうとう我慢できずに実家に帰ろうと夜中に家を出た事がある。その時に偶然見つけた場所である。
その光景を見て気持ちが和らぎ、もう一度頑張ってみようと、家に帰ったのを今でも鮮明に覚えている。こんな所に閉じ込められている二人の気持ちが、あの時の私のように少しでも和らいでくれればと思った。今日もあの時と同じ時期なので、きっとあの光景が見られるだろう。
二人は食事もそこそこにどんな所だろうと想像しながら楽しそうに話し合っている。心なしか、恐ろしい般若の表情が柔らかく見えた。
「じゃあ。夜遅くになってしまうけど迎えにきますからね。ちょっと早く寝ていた方がいいかもしれませんよ」
「は~い」
二人は元気よく返事をすると、いそいそと布団を敷き始めあっという間に横になった。
「フフ」
母親も凄く楽しみだ。お膳を持ち小屋を出ると真っ直ぐ台所に行きお膳を置く。
「奥様」
声がした方を見るときぬが立っていた。
「きぬ。前に話していたことを今日実行しようと思うの」
「それはいいですね。今日は私が夜番なので大丈夫です。フフフ。どおりで奥様ニコニコしていると思いました」
周りに気がつかれないように注意しなくてはと思っていたのに、自然と顔が緩んでいたらしい。
「あの子達も凄く喜んでいたわ。きぬ有難う」
「おやめください奥様。私はチヨ様とハル様。そして奥様の味方です。誰が何て言おうとも」
きぬは小さな胸を張り小鼻を膨らませながら言った。
「フフ」
母親は久しぶりに幸せな気持ちで満たされていた。
母親はきぬにお膳の片づけを頼み自室に戻ると、この時のためにと作った二つの帯留めを小さな箱から出した。
それは、小此鬼家に嫁いでくるときに母から手渡された、若葉色の貝で出来た扇子の帯留めを綺麗に二つに割り作ったものだ。
母からこの帯留めを貰った時はとても嬉しかった。
自分が凄く大人になったような気がしたものだった。嫁ぎ後、寂しい時などその帯留めを見ては気持ちを入れ替え頑張ってきた。二人にもこの帯留めを持つことで様々な事があっても、もしお互い気持ちがすれ違う時があっても、帯留めを見て気持ちを変え前に進んでほしいという思いを込めて作ったのだ。
そして今日、これを渡すことが出来る。
母親は、二つの帯留めを見ながらチヨとハルの顔を思い出していた。
「奥様。ご用意が出来ました」
きぬが呼びに来た。
あの時(誕生日の日)から母親はみんなと一緒に食事をせず、一人台所で簡単にすますようにしている。気まずい雰囲気の中食事をしても美味しくないし、さっさと食事を終わりにして双子の方へ行きたいからだ。
「はい」
他の者に悟られないよういつものように振舞いながら台所へ行き食事を済ませ部屋に戻ると、深夜出かける事になるので早めに床についた。しかし、余程気持ちが落ち着かないのか眠ることが出来ない。それに最近体がだるく感じる。きっと疲れているのだろう。でも、今日の夜は楽しみが待っている。
「このまま起きてますか。フフ」
自然に笑顔が出てくる。
やがて家の中が静かになり、何となく家自体が沈んだようになった時
「さてと」
はやる気持ちを抑えながら、母親は寝床から抜け出すとそっと小屋の方へ歩いて行った。幸い小屋の引き戸は音をたてずにスッと開いてくれた。
「あ」
「あ」
チヨとハルは起きていた。恐らく母親と同じ気持ちだったのだろう。
「お母さん早く行こう」
「お母さん早く行こう」
二人は待ってましたとばかりに、母親に飛びつくとこちらに顔を向けて飛び跳ねる。
「し~。静かにしないと行けなくなってしまいますよ」
母親は二人の方に顔を近づけて笑いながら言った。
「それじゃあ行きましょうか。静かにゆっくりついてきてね。いい?絶対に喋ってはいけませんよ」
「は~い」
「は~い」
二人は小声で返事をした。
三人で外に出ると、母親は先程と同じくゆっくりと戸を閉め双子が母親を挟む形で手をつなぎ目的の場所に向かう。こんな時間に外を歩いている所を見られでもしたら大変な事になってしまう。予め考えていた道順でそっと子供達を連れていく。
今夜は大きな月が雲一つない空に浮かんでいるお陰で、歩くのに不自由はなかった。月からも「いってらっしゃい」と言われているかのような気がしてくる。
丘への道を通っていると、昔自分が家を出て実家に帰ろうとした時を思い出す。しかし、帰らなくてよかった。こんなかわいい子供達と会えたのだから。自分の手を握る我が子の手をしっかりと握ると、温かさと同時に幸せな気分になる。
そして何とか、誰にも会わずに目的の場所に着いた。子供達は少し疲れた様子で息が上がっている。
「山道だったからね。大丈夫?」
「うん大丈夫」
「うん大丈夫」
子供達の声は弾んでいた。安心した母親は改めて周りを見回す。
そこは、小高い丘になっている所で人が入らないため膝のあたりまで草がぼうぼうと生えている。近くには小川がチロチロと流れており、月の光がキラキラと小川に反射して、まるで光の川のように見える。その近くには、一本だけこの場所の主の様な顔をして生えている大きな楠がある。
丘の端の方に来ると、自分たちが住んでいる村が眼下に広りソレは綺麗な夜の風景画のようだった。
「あの時と変わらないのね」
母親はぽそりと言った。そう言えば、子供達はどうなんだろう。自分の思いにふけってしまい、すっかりほっといてしまった事に気がつき慌てて
「チヨ、ハル。お母さんが連れて来たかった場所というのはここなの。どう?」
少し心配しながら聞く。
「凄いね。夜なのにお月様が村を照らしてて、良く見える」
とチヨ。
「うん凄いね。こんな高い所来たことないからびっくりしちゃった。ここからお家まで飛んでいけそうだね」
とハル。
般若の面で表情は分からないが、思い思いの感想を言う子供達は、丘から見える月明かりに照らされた村の様子に釘付けのようだった。
「もっと凄いものがあるのよ」
母親は子供達を促し小川の方へ行く。三人が草を分けガサガサと歩いていくと、その音や振動に驚いた何かが一斉に辺りに飛び出した。
それは蛍だった。
沢山の蛍が優しい光を放ちながら飛んでいる。幻想的な光景である。昔、母親はこの光景を見て実家に戻ることをやめたのだ。自分の悩みがとてもちっぽけなものに感じたからだ。
ふと子供達を見る。二人は飛び交う蛍の方を見て微動だにしない。この光景を見て、子供達も何か感じているのだろうと思い、母親は黙っていた。
どの位そうしていただろう。足がしんしんと冷えてくるのを感じた頃。
「お母さん」
チヨだ。
「なあに?」
「この光ってるのはなあに?飛んでるのはなあに?」
「蛍よ」
「蛍・・・・・・」
「蛍って?」
とハル。
「ん~虫なの」
「え⁈これ全部虫が光ってるの?」
二人同時に行った。母親は少し心配になりながら
「そう。蛍って言う虫のお尻が光っているのよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
黙り込んでしまった二人を見て
「可愛い虫よ。この季節に現れる虫でね。蛍はね十日位しか生きられないんだって。その間に一生懸命生きるのよ」
「え?十日しか生きられないの?」
「え~可哀そう」
「二人は蛍嫌だったかしら?」
「全然!私蛍大好き!だって、お尻が光るなんて面白いもの」
とハル。
「私も蛍大好き。たった十日しか生きられないのにこうやって精一杯生きてる。それに・・・・・・とても綺麗」
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