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おたふく
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相馬の家に着いたのは午後三時になる頃だった。
叔母さんに挨拶をし葬式の時のお礼などした後、早速物置の方を見に行く。叔母さんはこれから用事があるとかで出かけて行てしまった。かえって誰もいない方がゆっくり探せるので都合がいい。
物置はよくあるタイプで庭の隅にあった。二枚扉のスライド式で自転車なら二台ほど入るぐらいの大きさのものだ。引き戸は、鍵はかかっておらず少しさび付いているようでガタついていたが、何とか開いてくれた。
荷物が乱雑に置かれている中からは、草の匂いがプンと匂ってきた。殆どが段ボールに入れられてあるが柱時計や置物など、かさばるようなものはむき出しで置いてあった。
「よし。片っ端から見て行こうぜ」
「うん」
俺達は手分けして段ボールを外に出し中を確認していく。殆どが服や着物、食器、細かい物だとアクセサリーや愛読していた本など。確かに遺品には間違いないが、さすがに祖母ちゃん家で飼っていた犬の首輪を見つけた時は、こんなものまで・・・・・・と呆れてしまった。
整理出来ていないと言っていたので仕方ないが。俺達は黙々と段ボールや袋を外に運び中身を見ていく。
「お?これ重いな」
物置の中から橋本の声がした。
「どれ?」
橋本は積み重ねられていた段ボールの一番下の段ボールに手をかけていた。二人で持ち上げる。結構重い。
ドスンと音をたて外に出された段ボールを開けてみると
「なんだこれ?」
段ボールの中にピッタリと隙間なく朱色の何かが入っている。面倒なので橋本と二人で段ボールを、プッチンプリンの要領で上に持ち上げ中身を出した。バタバタバタと出てきたのはアルバムだった。朱色、キャラクターの柄、水色の布地、色々な表紙のアルバムだ。
「やった!アルバムじゃん!」
橋本は宝物を見つけたかのように喜んだ。
二人でその場に座り込みアルバムを手に取りめくっていく。
俺はキャラクター柄のアルバムを見始めたのだが、中は小さい頃の俺と相馬の写真が最後まで入っていた。成る程、孫の写真はキャラクター柄のアルバムに仕舞った訳か。
次に、水色の布地で出来た表紙のアルバム。これには祖母ちゃんと爺ちゃんの写真が中心だった。爺ちゃんは俺が産まれる前に病気で死んだと聞かされていたので、遺影の写真以外は見た事がなかった。すべてモノクロで、どこかに旅行へ行った時の写真なのか、看板の近くや建物の前で二人並んで撮ったものだ。みな表情が硬い。ただ、爺ちゃんが撮ったと思われる祖母ちゃんのスナップはとてもいい笑顔で撮られていた。そんな写真をほのぼのとした気持ちで見ていた俺は、ふと橋本の方を見た。橋本は朱色の表紙のアルバムを手に真剣に見ている。
「なあ。何かあったか?」
「ん~」
俺は手にしていたアルバムを脇に置くと、橋本の隣に行き覗き込んだ。そのアルバムの写真には俺が知っている人は一人もいなかった。
かなり古い写真のようで、殆どの写真が色あせや劣化が酷く写真によっては半分ぐらい何が写っているのか分からないものもあった。モノクロ写真で写っている人すべてが着物を着ており、田んぼが広がるあぜ道で気をつけの姿勢で笑顔もなく写る大人。男性が一人で写っている物や女性が二人並んで写っている物。不思議と大人達は表情が硬い。その反面、子供達は満面の笑みで写っていた。その写真は、小さい子を前にして後ろには少し大きい子が並んでいる写真だった。右端の子に至ってはおんぶ紐で赤ちゃんをおんぶしながら手を大きく上げている。
(昔は、写真を取られると魂を抜かれるなんて言う迷信を信じていた大人がいたのかもしれないな。それにしてもこんな小さな子が子守していたのか)
俺には想像ができなかった。感慨深く写真を見ていると、橋本が
「これこれ」
と言いながら一番下の写真を指さした。
その写真は大人達の集合写真だった。
女性ばかりが写る写真で、真ん中に年配の人を挟んで左右に女性達が並んで立ちその後ろに前列の間から見えるような形でまた女性が並んでいる。
「旅行の写真って感じじゃないね。後ろは山だし」
何の変哲もない写真だが、橋本は何か引っかかるらしくアルバムからその写真を慎重に外した。ピッタリとくっついているその写真をシールをはがすかのようにぺりぺりと音をたてながらゆっくりと外すと写真の裏を見る。そこには
「下田村婦人会」
と書かれていた。
「ビンゴ」
橋本は得意げに俺を見る。成る程、写真の裏とは気がつかなかった。
「下田村?聞いたことないな」
そう言いながら俺は携帯を取り出し早速検索する。
「あった!今は山根村と合併して下根町になってる」
「よし!決まりだな。行こうぜ下根町へ」
「え?だってそこがきぬがいた場所とは限らないよ?」
「いいんだよ。小さな手掛かりが重大なヒントだって事はよくあるんだぜ?」
俺達は外に出された段ボールを急いで物置に片付けると俺と橋本はそれぞれ一旦家に戻った。泊りになるかもしれないのでそれなりに準備しなくてはならない。と言っても、俺は玄関にある自分の鞄を持って行くだけなのでそう時間はかからなかった。
福島まで行くのには橋本が車を出してくれると言うので、自分の荷物を持ち橋本の家へ。先に家に戻っていた橋本は車庫から出した車の横で待っていた。
「早いなお前」
「まあね。さ、行こうか」
橋本の家を出発したのは午後五時半。福島に着くころには夜になっているだろう。明日でも良かったが、あの家で夜を迎えたくなかった俺にはちょうど良かった。それに、早く気味が悪いものと縁を切りたかったというのもある。
橋本の運転で福島に向かう道中、俺達二人は興奮していたのか休憩を入れずに福島まで一気に行った。ナビが福島県に入った事を告げる頃にはもう真っ暗になっていた。橋本は流石に疲れたのか
「泊まるところ探そうぜ」
と、車をコンビニの駐車場に入れると携帯を取り出し探し出す。潤沢に旅費がある訳でもないのでなるべく安い宿を探すよう橋本に言うと、俺はその間にコンビニで飲み物を買うため車から降りた。車に戻り、橋本に買ってきた飲み物を渡すと
「サンキュー。あったよ安い所。しかも、場所は下根町。電話したら部屋は開いてるって言うからラッキーだよ」
目的の場所に宿があったのは助かった。
俺は正直疲れていた。
運転している橋本はもっと疲れているだろう。ナビに目的地を入力しコンビニを出る。初めて福島に来る俺は、今どの辺りを走っているのかさっぱりわからない。車は次第に街から外れ民家も少ない場所を走り出した。
「こんな所に宿なんかあるのか?」
「ナビを信じろよ」
俺はチラリとカーナビを見る。知らない名前がカーナビの右上にアルファベットで書かれている。
(どこのメーカーだよ)
余計に不安になるので考えるのをやめた。その内車は山を登り始めた。
「おいおい。山登ってるんじゃないか?」
「ナビを信じろよ」
お前のナビに対してのその絶大な信頼はどこから来るんだ?
俺は窓の外にいつの間にか無くなった灯りを求めてキョロキョロ見まわす。しかし、視界に入ってくるのは鬱蒼とした木々だけだ。その間も車は唸り声をあげて山道を登って行く。
「大丈夫か?この車」
「俺の車を信じろよ」
そうきたか・・・・・・
車の苦しそうな唸り声が小さくなった頃、周りの木々が少なくなり開けた場所に出た。
「あれだ」
橋本は前を指さした。見ると確かに平屋の建物がある。建物の近くにだけ街灯があり、その街灯の下に小さな看板が弱弱しく光を放ちながら「森林荘」と言う字を浮き出させている。森林というよりは樹海荘という名の方が合っているのではないか。と俺は思った。
舗装されていない砂利道の駐車場に車を止め宿の中に入ると古い家屋の匂いがする。上がり框に綺麗に並んでいるスリッパに履き替え受付カウンターらしき所へ行くが、中には誰もいない。
「すみませ~ん」
橋本が奥に向かって何度か声を掛けると、廊下の奥の暗闇からパタパタと走る足音が近づいてきた。
「はいはい。いらっしゃいませ」
息を切らしながら走ってきたのは、ここの女将さんだろうか。ふくよかな体形に着物をまとい、更に体に負けないふくよかな顔。まるでおかめみたいな顔をした人だった。ショートカットの髪型が余計に顔の大きさを強調している。腰の部分からつけた白いエプロンで手を拭きながら走ってきた。
「あの、先程お電話した橋本ですが」
「あ、橋本さんね。はいはい。丁度今お部屋の準備をしていたものだから。はいはい。ではご案内しますね。こちらへどうぞ」
はいはい。が口癖なのだろうか。部屋へ案内している間も、後ろを振り返りおたふくの顔を更ににこやかにして「どこから来たのか」「二人旅か」等話しかけてくる。
殆ど橋本がおたふくと・・・・・・いや、女将と楽しそうに話していた。
俺はと言うと、案内されている間建物の中を物珍しそうに見ていた。中々の古さで土壁の壁は所々ひびが入り、軋む廊下の隅の方にバケツがあるので何だろうと思い覗き込むと「あ、それね。雨漏りしてるからそこにバケツ置いてあるんですよ」という訳で、かなり安いと橋本は言っていたが、納得がいった。
「はいはい。こちらです」
女将は白鳥の間と書かれた(しかもドアに直接マジックで)部屋を開けて俺達を促す。入ってみると意外にも綺麗な事に驚いた。八畳ほどの小さな部屋ではあったが、畳は新しいのかイ草の良い匂いがし、テーブルを挟む二つの座椅子も新品のようだ。あるのはそれだけのシンプルな部屋だった。ただ一つ、気になる事と言えばこの部屋には窓がない。
「あれ?この部屋には窓がないんですね」
「え?ええ」
今まで饒舌に話していた女将が少し口ごもった。
「?」
俺は不思議に思い、理由を聞こうと思ったがすかさず女将が
「夕食はお済ですか?少し時間は過ぎてますがこちらでご用意いたしましょうか?」
と聞いて来たので聞きそびれてしまった。
俺は仕方なく
「いいんですか?じゃあお願いします」
と言うと、女将は承知しましたと言うように頭を下げ部屋から出て行った。
「ふわ~マジ疲れた~」
橋本は八畳位の畳の上にゴロンと大の字に寝る。
「お疲れさん」
俺はねぎらいの言葉をかけながら、シンプルすぎる部屋にある押し入れを開けて見ると布団と浴衣が二組綺麗にたたんで仕舞われていた。
「この部屋さ。ホント何にもないな」
「あ?ああ。別にいいんじゃね?寝られればいいよ俺は」
楽しい旅行目的で来たわけでもないしいいか。俺は夕食が出来るまで、余り情報のない下田村を携帯で検索しながら時間を潰していた。隣では橋本がいびきをかきながら寝てしまっている。
その後、山菜や魚、肉。名物は何だろうと思うような不思議な食事が運ばれてきたので食べ始めた。しかし、これがやけに旨い!あっという間に二人で食べてしまった。
「美味かったな~」
「意外だよね。こんな美味いものが出てくるとは思わなかったよ」
「ははは。ホントな。後は風呂に入るだけだな」
そう橋本に言われ、この部屋に来る時に目にした案内を思い出した。
「大浴場あるみたいだよ」
「じゃ、行ってみようぜ」
俺と橋本は部屋を出て大浴場へ向かうが、向かっている間宿の中は凄く静かだった。
「他に泊り客いないのかな」
「いないんじゃね?俺達の貸し切りだな!ハハハ」
橋本は嬉しそうだ。
その後、大浴場とはよく言ったものだと呆れるぐらいの小さな浴場に入り部屋へ戻った。
「ははは。しかしこの宿って面白いな。あれで大浴場だってさ」
橋本はここが気に入ったようだ。
「失礼します」
手にお茶のセットを乗せたお盆とポットを持った女将がニコニコしながら入って来た。
「お風呂に入りますか?」
「ああ。お風呂はもう済ませました。大浴場って書かれてある所に行きましたから」
「そうですか。じゃあ床の方準備いたしますので」
「大丈夫ですよ。自分達で敷きますから。それより、少しお伺いしたい事があるんですが」
「はいはい」
おたふく顔をにこやかにしてこちらを見る。
「明日下田村に行こうと思っているんですが。確かこの近くでしたよね?」
「ええそうですね」
「どうやって行くか知ってますか?」
「ははは。ええ知ってますよ。ここが下田村です。今は下根町と名前が変わりましたけど」
驚いた。俺達はとっくに目的地に着いていたらしい。
「そ、そうなんですか⁈」
女将はお茶の葉を急須に入れながら
「お客さん。この時期下田村なんてなぁ~ンにもないのに何しに来たんですか?見ての通り誰一人お客なんていないでしょ?まぁ紅葉の時期はこの辺りは綺麗だから少しは賑わいますけどね」
湯飲みにお茶を注ぎながら俺の方をチラチラと見て言った。
「俺のひい祖母ちゃんの家を探しに来たんです」
「ひいお祖母ちゃんの家?あらまぁ。何でまた?」
本当の事を話て気味悪がられても嫌なので、良い所だと母親から聞いてたから一度は訪ねてみたいと思ってた。とそれらしく話した。
「ふ~ん。そうですか。下田村は人が少なくなってね。隣の山根村と合併したんですよ。もう今は人がいるかどうか。残っているのはうちだけだと思ったけど」
「そうですか」
「若い人はみんな他所に出てしまうからね。そうねぇ・・・・・・よし!明日行くんでしょ?私が下田村を案内してあげますよ」
「え?いいんですか?」
「マジで?」
橋本も驚いている。こんなにスムーズに事が進むとは。是非お願いしますとお願いすると、女将は、豪快に笑いながら承諾し部屋を出て行った。
女将の入れてくれたお茶を飲みながら
「何かスムーズに行き過ぎてないか?」
「は?いいじゃん。ラッキーなんだよ俺達。さっさと寝ようぜ。俺疲れたわ」
橋本は俺に敷かせた布団に潜り込んだ。俺は何となくとんとん拍子に事が進んでいる事に少しだけ不安を感じていた。
叔母さんに挨拶をし葬式の時のお礼などした後、早速物置の方を見に行く。叔母さんはこれから用事があるとかで出かけて行てしまった。かえって誰もいない方がゆっくり探せるので都合がいい。
物置はよくあるタイプで庭の隅にあった。二枚扉のスライド式で自転車なら二台ほど入るぐらいの大きさのものだ。引き戸は、鍵はかかっておらず少しさび付いているようでガタついていたが、何とか開いてくれた。
荷物が乱雑に置かれている中からは、草の匂いがプンと匂ってきた。殆どが段ボールに入れられてあるが柱時計や置物など、かさばるようなものはむき出しで置いてあった。
「よし。片っ端から見て行こうぜ」
「うん」
俺達は手分けして段ボールを外に出し中を確認していく。殆どが服や着物、食器、細かい物だとアクセサリーや愛読していた本など。確かに遺品には間違いないが、さすがに祖母ちゃん家で飼っていた犬の首輪を見つけた時は、こんなものまで・・・・・・と呆れてしまった。
整理出来ていないと言っていたので仕方ないが。俺達は黙々と段ボールや袋を外に運び中身を見ていく。
「お?これ重いな」
物置の中から橋本の声がした。
「どれ?」
橋本は積み重ねられていた段ボールの一番下の段ボールに手をかけていた。二人で持ち上げる。結構重い。
ドスンと音をたて外に出された段ボールを開けてみると
「なんだこれ?」
段ボールの中にピッタリと隙間なく朱色の何かが入っている。面倒なので橋本と二人で段ボールを、プッチンプリンの要領で上に持ち上げ中身を出した。バタバタバタと出てきたのはアルバムだった。朱色、キャラクターの柄、水色の布地、色々な表紙のアルバムだ。
「やった!アルバムじゃん!」
橋本は宝物を見つけたかのように喜んだ。
二人でその場に座り込みアルバムを手に取りめくっていく。
俺はキャラクター柄のアルバムを見始めたのだが、中は小さい頃の俺と相馬の写真が最後まで入っていた。成る程、孫の写真はキャラクター柄のアルバムに仕舞った訳か。
次に、水色の布地で出来た表紙のアルバム。これには祖母ちゃんと爺ちゃんの写真が中心だった。爺ちゃんは俺が産まれる前に病気で死んだと聞かされていたので、遺影の写真以外は見た事がなかった。すべてモノクロで、どこかに旅行へ行った時の写真なのか、看板の近くや建物の前で二人並んで撮ったものだ。みな表情が硬い。ただ、爺ちゃんが撮ったと思われる祖母ちゃんのスナップはとてもいい笑顔で撮られていた。そんな写真をほのぼのとした気持ちで見ていた俺は、ふと橋本の方を見た。橋本は朱色の表紙のアルバムを手に真剣に見ている。
「なあ。何かあったか?」
「ん~」
俺は手にしていたアルバムを脇に置くと、橋本の隣に行き覗き込んだ。そのアルバムの写真には俺が知っている人は一人もいなかった。
かなり古い写真のようで、殆どの写真が色あせや劣化が酷く写真によっては半分ぐらい何が写っているのか分からないものもあった。モノクロ写真で写っている人すべてが着物を着ており、田んぼが広がるあぜ道で気をつけの姿勢で笑顔もなく写る大人。男性が一人で写っている物や女性が二人並んで写っている物。不思議と大人達は表情が硬い。その反面、子供達は満面の笑みで写っていた。その写真は、小さい子を前にして後ろには少し大きい子が並んでいる写真だった。右端の子に至ってはおんぶ紐で赤ちゃんをおんぶしながら手を大きく上げている。
(昔は、写真を取られると魂を抜かれるなんて言う迷信を信じていた大人がいたのかもしれないな。それにしてもこんな小さな子が子守していたのか)
俺には想像ができなかった。感慨深く写真を見ていると、橋本が
「これこれ」
と言いながら一番下の写真を指さした。
その写真は大人達の集合写真だった。
女性ばかりが写る写真で、真ん中に年配の人を挟んで左右に女性達が並んで立ちその後ろに前列の間から見えるような形でまた女性が並んでいる。
「旅行の写真って感じじゃないね。後ろは山だし」
何の変哲もない写真だが、橋本は何か引っかかるらしくアルバムからその写真を慎重に外した。ピッタリとくっついているその写真をシールをはがすかのようにぺりぺりと音をたてながらゆっくりと外すと写真の裏を見る。そこには
「下田村婦人会」
と書かれていた。
「ビンゴ」
橋本は得意げに俺を見る。成る程、写真の裏とは気がつかなかった。
「下田村?聞いたことないな」
そう言いながら俺は携帯を取り出し早速検索する。
「あった!今は山根村と合併して下根町になってる」
「よし!決まりだな。行こうぜ下根町へ」
「え?だってそこがきぬがいた場所とは限らないよ?」
「いいんだよ。小さな手掛かりが重大なヒントだって事はよくあるんだぜ?」
俺達は外に出された段ボールを急いで物置に片付けると俺と橋本はそれぞれ一旦家に戻った。泊りになるかもしれないのでそれなりに準備しなくてはならない。と言っても、俺は玄関にある自分の鞄を持って行くだけなのでそう時間はかからなかった。
福島まで行くのには橋本が車を出してくれると言うので、自分の荷物を持ち橋本の家へ。先に家に戻っていた橋本は車庫から出した車の横で待っていた。
「早いなお前」
「まあね。さ、行こうか」
橋本の家を出発したのは午後五時半。福島に着くころには夜になっているだろう。明日でも良かったが、あの家で夜を迎えたくなかった俺にはちょうど良かった。それに、早く気味が悪いものと縁を切りたかったというのもある。
橋本の運転で福島に向かう道中、俺達二人は興奮していたのか休憩を入れずに福島まで一気に行った。ナビが福島県に入った事を告げる頃にはもう真っ暗になっていた。橋本は流石に疲れたのか
「泊まるところ探そうぜ」
と、車をコンビニの駐車場に入れると携帯を取り出し探し出す。潤沢に旅費がある訳でもないのでなるべく安い宿を探すよう橋本に言うと、俺はその間にコンビニで飲み物を買うため車から降りた。車に戻り、橋本に買ってきた飲み物を渡すと
「サンキュー。あったよ安い所。しかも、場所は下根町。電話したら部屋は開いてるって言うからラッキーだよ」
目的の場所に宿があったのは助かった。
俺は正直疲れていた。
運転している橋本はもっと疲れているだろう。ナビに目的地を入力しコンビニを出る。初めて福島に来る俺は、今どの辺りを走っているのかさっぱりわからない。車は次第に街から外れ民家も少ない場所を走り出した。
「こんな所に宿なんかあるのか?」
「ナビを信じろよ」
俺はチラリとカーナビを見る。知らない名前がカーナビの右上にアルファベットで書かれている。
(どこのメーカーだよ)
余計に不安になるので考えるのをやめた。その内車は山を登り始めた。
「おいおい。山登ってるんじゃないか?」
「ナビを信じろよ」
お前のナビに対してのその絶大な信頼はどこから来るんだ?
俺は窓の外にいつの間にか無くなった灯りを求めてキョロキョロ見まわす。しかし、視界に入ってくるのは鬱蒼とした木々だけだ。その間も車は唸り声をあげて山道を登って行く。
「大丈夫か?この車」
「俺の車を信じろよ」
そうきたか・・・・・・
車の苦しそうな唸り声が小さくなった頃、周りの木々が少なくなり開けた場所に出た。
「あれだ」
橋本は前を指さした。見ると確かに平屋の建物がある。建物の近くにだけ街灯があり、その街灯の下に小さな看板が弱弱しく光を放ちながら「森林荘」と言う字を浮き出させている。森林というよりは樹海荘という名の方が合っているのではないか。と俺は思った。
舗装されていない砂利道の駐車場に車を止め宿の中に入ると古い家屋の匂いがする。上がり框に綺麗に並んでいるスリッパに履き替え受付カウンターらしき所へ行くが、中には誰もいない。
「すみませ~ん」
橋本が奥に向かって何度か声を掛けると、廊下の奥の暗闇からパタパタと走る足音が近づいてきた。
「はいはい。いらっしゃいませ」
息を切らしながら走ってきたのは、ここの女将さんだろうか。ふくよかな体形に着物をまとい、更に体に負けないふくよかな顔。まるでおかめみたいな顔をした人だった。ショートカットの髪型が余計に顔の大きさを強調している。腰の部分からつけた白いエプロンで手を拭きながら走ってきた。
「あの、先程お電話した橋本ですが」
「あ、橋本さんね。はいはい。丁度今お部屋の準備をしていたものだから。はいはい。ではご案内しますね。こちらへどうぞ」
はいはい。が口癖なのだろうか。部屋へ案内している間も、後ろを振り返りおたふくの顔を更ににこやかにして「どこから来たのか」「二人旅か」等話しかけてくる。
殆ど橋本がおたふくと・・・・・・いや、女将と楽しそうに話していた。
俺はと言うと、案内されている間建物の中を物珍しそうに見ていた。中々の古さで土壁の壁は所々ひびが入り、軋む廊下の隅の方にバケツがあるので何だろうと思い覗き込むと「あ、それね。雨漏りしてるからそこにバケツ置いてあるんですよ」という訳で、かなり安いと橋本は言っていたが、納得がいった。
「はいはい。こちらです」
女将は白鳥の間と書かれた(しかもドアに直接マジックで)部屋を開けて俺達を促す。入ってみると意外にも綺麗な事に驚いた。八畳ほどの小さな部屋ではあったが、畳は新しいのかイ草の良い匂いがし、テーブルを挟む二つの座椅子も新品のようだ。あるのはそれだけのシンプルな部屋だった。ただ一つ、気になる事と言えばこの部屋には窓がない。
「あれ?この部屋には窓がないんですね」
「え?ええ」
今まで饒舌に話していた女将が少し口ごもった。
「?」
俺は不思議に思い、理由を聞こうと思ったがすかさず女将が
「夕食はお済ですか?少し時間は過ぎてますがこちらでご用意いたしましょうか?」
と聞いて来たので聞きそびれてしまった。
俺は仕方なく
「いいんですか?じゃあお願いします」
と言うと、女将は承知しましたと言うように頭を下げ部屋から出て行った。
「ふわ~マジ疲れた~」
橋本は八畳位の畳の上にゴロンと大の字に寝る。
「お疲れさん」
俺はねぎらいの言葉をかけながら、シンプルすぎる部屋にある押し入れを開けて見ると布団と浴衣が二組綺麗にたたんで仕舞われていた。
「この部屋さ。ホント何にもないな」
「あ?ああ。別にいいんじゃね?寝られればいいよ俺は」
楽しい旅行目的で来たわけでもないしいいか。俺は夕食が出来るまで、余り情報のない下田村を携帯で検索しながら時間を潰していた。隣では橋本がいびきをかきながら寝てしまっている。
その後、山菜や魚、肉。名物は何だろうと思うような不思議な食事が運ばれてきたので食べ始めた。しかし、これがやけに旨い!あっという間に二人で食べてしまった。
「美味かったな~」
「意外だよね。こんな美味いものが出てくるとは思わなかったよ」
「ははは。ホントな。後は風呂に入るだけだな」
そう橋本に言われ、この部屋に来る時に目にした案内を思い出した。
「大浴場あるみたいだよ」
「じゃ、行ってみようぜ」
俺と橋本は部屋を出て大浴場へ向かうが、向かっている間宿の中は凄く静かだった。
「他に泊り客いないのかな」
「いないんじゃね?俺達の貸し切りだな!ハハハ」
橋本は嬉しそうだ。
その後、大浴場とはよく言ったものだと呆れるぐらいの小さな浴場に入り部屋へ戻った。
「ははは。しかしこの宿って面白いな。あれで大浴場だってさ」
橋本はここが気に入ったようだ。
「失礼します」
手にお茶のセットを乗せたお盆とポットを持った女将がニコニコしながら入って来た。
「お風呂に入りますか?」
「ああ。お風呂はもう済ませました。大浴場って書かれてある所に行きましたから」
「そうですか。じゃあ床の方準備いたしますので」
「大丈夫ですよ。自分達で敷きますから。それより、少しお伺いしたい事があるんですが」
「はいはい」
おたふく顔をにこやかにしてこちらを見る。
「明日下田村に行こうと思っているんですが。確かこの近くでしたよね?」
「ええそうですね」
「どうやって行くか知ってますか?」
「ははは。ええ知ってますよ。ここが下田村です。今は下根町と名前が変わりましたけど」
驚いた。俺達はとっくに目的地に着いていたらしい。
「そ、そうなんですか⁈」
女将はお茶の葉を急須に入れながら
「お客さん。この時期下田村なんてなぁ~ンにもないのに何しに来たんですか?見ての通り誰一人お客なんていないでしょ?まぁ紅葉の時期はこの辺りは綺麗だから少しは賑わいますけどね」
湯飲みにお茶を注ぎながら俺の方をチラチラと見て言った。
「俺のひい祖母ちゃんの家を探しに来たんです」
「ひいお祖母ちゃんの家?あらまぁ。何でまた?」
本当の事を話て気味悪がられても嫌なので、良い所だと母親から聞いてたから一度は訪ねてみたいと思ってた。とそれらしく話した。
「ふ~ん。そうですか。下田村は人が少なくなってね。隣の山根村と合併したんですよ。もう今は人がいるかどうか。残っているのはうちだけだと思ったけど」
「そうですか」
「若い人はみんな他所に出てしまうからね。そうねぇ・・・・・・よし!明日行くんでしょ?私が下田村を案内してあげますよ」
「え?いいんですか?」
「マジで?」
橋本も驚いている。こんなにスムーズに事が進むとは。是非お願いしますとお願いすると、女将は、豪快に笑いながら承諾し部屋を出て行った。
女将の入れてくれたお茶を飲みながら
「何かスムーズに行き過ぎてないか?」
「は?いいじゃん。ラッキーなんだよ俺達。さっさと寝ようぜ。俺疲れたわ」
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