輪(りん)

玉城真紀

文字の大きさ
上 下
19 / 23

幽霊

しおりを挟む
「何かわかった?」

女将は振り返り後部座席に乗り込んだ俺達を交互に見ながら言った。

「ええ。一つは分かりました」

橋本は迷わず答える。

「本当?何が分かったの?」

「見てれば分かります。あ、車を家の前まで移動してもらえますか?」

「え?うんいいけど」

女将は俺の方を見て、どうしたの?と目で聞いてくるが俺にもさっぱりだったので、何も言わず肩を上下させ分からない事を表現した。
女将は小さくうなずくと、取り敢えず橋本の言う通りに家まで続く細い道を車で入って行き、家に向き合う形で車を停める。その後は橋本が何かを言い出すまで静かに待った。

十分位経った頃だろうか。運転席と助手席の間から体を乗り出し外を見ていた橋本が

「来た」

と、家の方を見て言った。俺と女将も咄嗟に家の方を見る。いつの間に来たのか、あのおばあさんが家の中に入って行くところだった。

「橋本」

俺は橋本の方を見るが

「いいから見てろ。今度は蔵の方だ」

俺と女将は言われた通りに蔵の方を見る。
すると、今までいなかった場所におばあさんが姿を現し、蔵の中に入る。

暫くすると又、家の前に現れ二つ並んだ蔵の間に入って行く。俺は自分が見ているものがわからなくなり

「何だ?何なんだ?」

と橋本に聞く。橋本は座席に体を沈ませ大きなため息をつく。そして

「やっぱりな」

と一言。

「もしかして・・・・・・あれって幽霊?」

女将が誰もいない蔵の方を見ながら言った。

「そうだと思う。アレは幽霊だ」

「幽霊⁈こんな昼間からか?」

「あら?幽霊は昼夜関係なく出るらしいわよ」

女将は当たり前の事のように言う。あんなにハッキリとした、まるで生きてる人間の様な幽霊・・・・・・

「じゃあ。もしアレが幽霊だとしたら何やってんだろう?家に入って蔵に入って、そして人の家に行って小屋に行っ・・・・・・」

鈍い俺でも気がついてしまった。言葉が続かない俺を見た橋本は、少し悲しそうな表情になると

「そう。アレはお前のひいお祖母ちゃんだよ。もしかしたらこの家はお前のひいお祖母ちゃんの生家なのかもな」

「え?何?この家は君のひいお祖母ちゃんの家なの?」

女将は俺と目の前にある家を交互に見て驚いている。

「じゃあ良かったじゃない!探してたんでしょ?でも何で幽霊となって出てるの?」

俺は女将に全てを話した。
俺が話している間、女将は黙って聞いていたが話が終わりに近づいてきた頃突然わっと泣き出した。これには俺も橋本も驚いた。

「だって、可哀そうすぎるわよ。ひっ。双子が産まれたって言うだけでそんな・・・・・・ひっ。あなたのひいお祖母ちゃんも辛かったでしょうね」

女将はしゃくり上げながらそう言ったと思うと、今度は怒りだした。

「許せないわ。自分のお家柄を守る為なのか何なのか分からないけど、産まれてきた子供に罪はないじゃない!何が災いよ!そんな迷信めいたものを信じて人が殺されるなんて!」

「・・・・・・でも、時代のせいなのかしら・・・・・・それともこんな閉鎖的な村だからかしら・・・・・・」

今度は考え込んでいる。コロコロと感情が変わる女将を見ていたら俺の気持ちが少しだけほぐれてきた。

「俺の考えが当たってれば、お前のひいお祖母ちゃんはずっとあの行動を繰り返してるんじゃないかな。お前分からなかったのか?あの人が手に何を持っていたか」

そうだ。あのおばあさんは歩いている時ずっと手に何かを持っていた。ずっと後ろ姿か斜め後ろからの姿しか見れないので、何かを持っているとは分かったがソレがなんなのかまでは分からなかった。

「橋本は分かったのか?何を持ってるんだ?あの人」

「俺も、チラッとしか見えなかったけど多分あれ、お膳だよ」

お膳・・・・・・確か日引の話だと小此鬼家では食事の時一人一人お膳で出される。と言っていた。

「お膳って。そんなの持ってどうするんだ?」

「分かった‼」

女将が大きな声を出した。

「あのおばあさんは、今でもチヨとハルに食事を持って行き続けてるのよ・・・・・・でも待って、日引さんの話だとあなたのひいお祖母ちゃん。きぬさんだっけ?きぬさんがチヨを殺したんでしょ?お膳を持って行く必要なんかある?それにここはきぬさんの奉公先じゃない。きぬさんの家でしょ?何でここからお膳を持って行くのよ」

確かにそうだ。きぬは奉公先でチヨたちの世話をしていたはずだ。自分の家から食事を運んでいたわけではない。
例え自分が犯してしまった罪の意識に苛まれ続けた末の行動だとしても少し違和感がある。

「何かこんがらがってきた」

俺は頭を抱えた。

その時。また幽霊が家の中へ入って行く。次に蔵の中へ。俺達三人はこの説明のつかない行動を切ないような、恐ろしいような気持ちで見ていた。
幽霊が蔵の間に入って行くのを見届けた後、俺は橋本の方を向き

「なあ橋本。お前は分かるのか?きぬが何であんな行動を繰り返すのか」

「ん~。俺は霊能者でも何でもないから分からないけど、日引さんが言ってたじゃん?お姑から貰ったにんにくみたいな物を食事に入れてたって。元気になる物かと思ってたら実は毒だった。それを知った時って物凄いショックだったんじゃないか?だから、その時の思いが強くてああいう行動をしているとか」

「毒入りの食事が乗ったお膳を運んでるって言うのか?」

「いや・・・・・・それは・・・・・・」

橋本は歯切れが悪くなってきた。

「何かちょっと違うような気がするわね」

女将が口をはさんだ。

「女将はどう思いますか?」

「難しいわ。亡くなった人が霊となってこの世に出てくるのは何かしらの未練があっての事だろうし・・・・・・」

女将は考え込んだ。

「よし!聞いてみよう!」

いきなり大きな声で女将は叫んだ。

俺と橋本は体をビクッとさせ

「な、き、聞くって誰に?」

「誰にって、本人に決まってるでしょ?」

「はぁ。あの幽霊に?何でお膳持って歩いてるんですか?なんて聞くのかよ」

「そうよ。だってその方がハッキリするじゃない?」

そう言うと女将は車を降りた。俺達も慌てて車を降りると

「さっき、君達はあの幽霊を追いかけたって言ったわよね。そこの蔵の所を入った後はどこへ行ったの?」

女将が何をしようとしているのか分からないが、俺はその後の事を教えた。

「そうか。じゃあ先回りすればいいじゃない?そうすれば聞けるわよ。あ、幽霊と話す事なんて出来るのかしら?まあ何とかなるでしょ。行きましょう」

そう言うとさっさと蔵の方へ歩いて行ってしまった。

なんて言う人なんだ。俺も橋本も呆気に取られてしまった。しかし、同じ行動を繰り返しているならば、先回りしたことで話せないにしても何か分かるかもしれない。俺は車の中からあの般若の面が入った箱を取り、それを持って女将を追いかけた。

歩きながら話した結果、俺達はあのあぜ道で待つことにした。あぜ道を通り入って行く場所も知っているので、丁度曲がる所に三人で立って待つ。しかし、いくら待っても来ない。


「遅いね」

「もうやめちゃったのかしら?」

「俺達が待ってるから別の道を通ってるのか?」

「あっ!おいあれ!」

橋本は大声をあげ小屋がある家の方を指さした。見ると、そこにあの幽霊の後ろ姿を見た。

「どういう事?」

「え?いつの間に?」

俺と女将は驚きながら幽霊の背中を見送る。

「分かった」

橋本は俺達の方に向き直ると、あぜ道を幽霊が来る方向へきぬの家の方へと歩いていく。五十メートルぐらい離れた所でこちらを向き立った。すると

「やっぱり!お~い。お前達の方へ歩いて行ってるぞ」

橋本が大声で俺達に教える。しかし自分たちの前には誰も歩いておらず、橋本が離れた所で一人叫んでいるだけだ。

「何もいないわよ~」

女将が答えると、橋本が走り寄り

「向こうでこちら側を見てみ。ちゃんと歩いてるの見えるから」

「本当?」

俺と女将はさっき橋本がいた場所まで走って行き、振り返り橋本の方を見た。
何もいない。のどかな風景が広がっているだけだ。


しかし、暫くするといつの間に現れたのかあの幽霊が歩く後ろ姿が見えた。

「これはやられたわね。前からは見れないって事か」

女将が腕を組みため息交じりに言う。俺は益々気味が悪くなり、橋本が立っている場所まで走って行く。

「あのさ、もう場所も分かったんだしこのお面をあの小屋の所に置いて線香あげて帰ろうぜ」

「はぁ?何言ってんだよ。そんなことしても何も終わらないと思うぜ」

「だってさ・・・・・・」

俺は自分の手の中にある箱を見つめた。何で俺がこんなことしなくちゃいけないのか。過去に自分の身内が犯した過ちを何故俺が。俺はだんだん頭に来た。

「くそっ‼」

手に持っていた箱を地面にたたきつける。

「おいおい」

橋本は呆れている。
叩きつけた拍子に中に入っていた般若の面が飛び出してしまった。それを見た女将は地面に落ちているお面を一つ取り

「どうしていいのか分からない時ってそうなるわよね。私もそう言う時あったな。それにしてもこれ凄いわね」

そう言うとお面を自分の顔につけた。

「あっ」
「あっ」

まさかお面をつけると思っていなかった俺達は慌てた。

「意外に視界が広いのね。・・・・・・え?」

女将はお面をつけたまま固まってしまった。俺は何か恐ろしいことが起きたのではと思い怖くなる。

「おいあんた。大丈夫か?どうした?」

橋本が声を掛けるが反応がない。何も言わず直立したままの女将が、ゆっくりと顔を左から右へ動かす。そのまま動かない女将に声を掛けようとした時、女将は慌ててお面をはぎ取ると目を大きく見開き

「見た」

「は?」

「見たわよ」

「は?何を?」

「あの幽霊の前よ!」

女将は興奮している。おかめ顔のほっぺが次第に上気してくる。

「見たって・・・・・・もしかして、そのお面を被ればみられるのか?」

勘のいい橋本は、地面に落ちているもう一つのお面を取り被ると幽霊が来る方向をじっと見始めた。

「お~ぅぅぅ」

突然変な声を出し体をのけぞらせる。次に何かを覗き込むような体制になるとそのまま何かを見送ると、静かにお面を取り

「何であんなものが乗ってるんだ?」

「乗ってるって・・・・・・まさかお膳の上の物が見えたのか?」

「ああ」

「何が乗ってたんだよ」

「石」

「石⁈」

「ああ。そんなに大きくはないんだけど・・・・・・このくらいかなぁ。その石が一つだけ乗ってた」

橋本は自分の手で拳を作る。

「何で石なんか・・・・・・」

「あなたも見て見るといいわ」

女将は自分が被っていたお面を手渡してきた。しかし、このお面を見つけてからと言うものおかしなことが起きている。気味が悪くてつけたくはなかったが

「あなたのひいお祖母ちゃんに会えるのよ?滅多にない事じゃない?一度は見るべきよ」

と言う女将の言葉で俺はそっとお面を顔に被った。
お面を被るとほんのりと温かい。さっきまで女将が被っていたからだと思うが、物がモノだけに寒気がする。俺は何とか我慢し幽霊が来るのを待った。


来た・・・・・・

後ろ姿しか見ていなかった幽霊がこちらを向きながら歩いてくる。手ぬぐいを巻いた頭からは雪のように真っ白な白髪が覗いている。顔は深いしわが刻まれており皺の中に細い目があるが皺と同化して開いているのかつぶっているのか分かりにくい。歯がないのか鼻から下が妙にクシャりとしているが、口を真一文字に閉じ感情は窺えない。元は白色だったのだろうが、薄汚れグレー色になっている着物を着ており、紺のモンペを履いているが裾をもんぺの中にいれているのだろう、腰のあたりが妙にふっくらしている。足元は少し大きめの二枚下駄を履いており、それは男性物の下駄のように見える。
そして問題の手に持つお膳。次第に近づいてくる幽霊の手元を見ると、橋本の言った通り黒塗りのお膳の上の真ん中に石が一つ乗っているだけだった。

「しぃ~」

俺はお面を取ると大きく息を吸う。緊張の為か息をするのを忘れていたらしい。

「どうだった?」

女将と橋本が同時に聞く。

「うん。見えたよ。あの人が俺のひいお祖母ちゃんなんだな。それに石も見たよ」

「何なんだろうな。石を乗せたお膳を持ってひたすらここを歩いてるんだろ?何の意味があるんだ?よし!」

橋本は外したお面をまたつけると幽霊を待ち始めた。すると幽霊が来たのか顔がゆっくりと何かを追い始め、突然

「あの~何で石なんて持ってるんですか?」

橋本は言った。

俺と女将は驚いて顔を見合わせる。何と橋本は幽霊に話しかけたのだ。何度か話しかけていた橋本だったが

「駄目だ。話は出来ないみたいだな」

お面を取りながら残念そうに言う橋本に

「お前。よく話しかけたな。怖くないのかよ」

「ん?別に怖くないね。お前のひいお祖母ちゃんだろ?それにしてもこれからどうする?」

「どうするって・・・・・・」

確かに幽霊の正体が分かったところで、俺達がここに来た目的が果たせたわけではない。チヨ達の供養が目的だ。

「日引さんの話では、チヨは丘の所にある小川で殺されたって言ってただろ?そこへ行こうかな」

「え?丘の上の小川?」

女将がその言葉に食いついた。

「ええ。それがどうかしましたか?」

「私が君たちを連れて行きたかったのはその場所なのよ。朝早くに行くと丘の上から見る村が朝靄に包まれてとても幻想的なの。でも、もう十時か。間に合わないわね。でも、そこに行きたいのなら案内してあげるわ」

「お願いします」

なんてラッキーなんだ。初めて来る村での探し物だから、長期戦は覚悟していたがこんなにスムーズにいくなんて。

ここからそう遠くないと言うので、俺達は女将の案内でその丘に歩いて向かう事にした。丘に向かっている途中、橋本の携帯に水島から電話が入る。かなりのオカルト好きと言う事だったし進展が気になるのだろう。橋本は少し興奮気味に村に来てからの事、今丘の方へ向かっている事を話ている。
俺は前を歩く女将の横に並ぶと

「あの。女将は何でその丘の場所を知ってるんですか?」

「え?ああ・・・・・・話したじゃない?旦那を早くに亡くしたって。その時は旦那が死んだことが悲しくて悲しくて泣いてばかりいたの。でも、日々の生活は私のそんな感情を黙って待ってはくれないのよね。あんな宿だけどお客さんは来るし。宿にいるとさ、旦那を思い出したり、これから先の不安とかに押しつぶされそうになるのよ。でね、もう嫌になって夜にドライブに出かけたの。昼間はお客様を接客しなくちゃいけないからね。その時に見つけたのよ。あれは不思議だったわ~」

そう言う女将は、その時の事を思い出しているのか遠くを見ながら話した。

「その場所に来るのはその時が初めてだったんだけど、今日来た道をゆっくり走ってたのね。そうしたら、山の方がぼんやりと光ってて、何だろうと思って車で近くまで行ったら、その光は今向かってる丘の方だったの。暗かったけど、やけに月が大きい夜だったから月明かりだけで大丈夫かなと思って、車を降りるとその光の方へ歩いて行ったのね。誰か人がいるのかしら、だとしたら何をしてるんだろうとか思いながらね。でもね、丘についてみると誰もいなかった。代わりにいたのが、無数の蛍よ」


「蛍?」

「そう。それも凄い数の蛍!初めて見たわ。無数の蛍が光を放ちながら飛んでるの。その中でも特に蛍が群がっている場所があってね。それが小川の所だったの。凄かったわよ~光の川よ」

「光の川・・・・・・」

「うん。水面上に飛び交う蛍。水際にいる蛍。成虫の蛍って水しか飲まないの知ってる?」

「え?そうなんですか?」

「何だ君。そんなのも知らないの?なぁんて、私も後で調べて知ったんだけどね」

女将はいたずらっぽく笑いながら言った。

「アレは凄かったわよ。でね、結局その光景に見とれて朝を迎えちゃったのよ。その時に見たの。朝日に照らされてるんだけど、少し雲がかかったような村をね。そんな高い場所にある丘ではないんだけど。凄かったわ。その光景を見たら何か勇気が湧いてきてね。一人でもやってやろう!って。だから、君たちに教えてあげたかったの」

余程その光景に感動したのであろう。凄いと何度も連呼し興奮しながら女将は話す。

「何で俺達に?」

「だって、うちに来た時の二人の顔凄い顔してたわよ?何て言うか、何か重いものをしょってきたって言うか、不安って言うか・・・・・・だから、あの場所に連れて行ってあの光景を見せれば何か変わるきっかけになるかもって思ったのよ」

「そうですか」

初めて会う人に、分かってしまうぐらい顔に出ていたのかと思うと、少し恥ずかしかった。

「大丈夫よ。あなたの為にここまで一緒に来てくれる友達がいるんだから!」

ニコリと笑いながら言った女将の顔は柔らかく穏やかな顔だった。

「さて、ここを上って行くの。そんなに遠くはないわ。足元が悪いから気を付けてね」

橋本の方を見るとまだ電話が続いているようだが、しっかりと俺達の後についてきている。登りと言っても緩やかな上り坂なので左程疲れは感じなかった。

「着いた」

女将に案内され着いた場所は、見渡す限り草に覆われているが、その中に一際大きな楠が一本、自分を誇示するかのようにどんと立っている。その近くには澄んだ小川が流れており太陽の光をキラキラと反射している。丘の端の方へ行くと先程までいた村が一望できる。今は緑豊かな村だが、四季折々の村を眺めるのには絶好の場所だろう。

俺は小川に近づくと水を手ですくってみた。山から流れ出る水はとても冷たかった。しかし、この場所でチヨは俺のひいお祖母ちゃんに殺されたのだ。左程深くもない川で。顔を押し付けられながら。そう考えると、冷たくて気持ちよかった水が急に淀んだような気がする。

「ここだな」

電話を終えた橋本が、俺の隣に来て言った。

「ああ」

「さてと、あの楠の所だろ?双子の遺体を置いたのは。どうするんだ?」

確かに、供養すると言っても坊さんを連れてきたわけでもないしどうしたらいいのか。

「そうねぇ。手を合わせるだけでもいいんじゃない?」

俺達の後ろで話を聞いていた女将が言った。

「ま、それしかないか」

橋本は楠の方に歩いていくので、俺も女将も後に続く。
本当に大きな木だ。樹齢何年なんだろう。周りにはここまで大きな木はなく、太陽の光を独り占めにして来たのか青々とした葉をたくさん枝に付けている。その葉の間から漏れている光が地面に万華鏡のようにキラキラと降り注いでいた。
俺は箱からお面を取り出すと、箱を木の根元に置き、ソレを台替わりにしてその上に二つのお面を置いた。その前に三人でしゃがみ込み手を合わせる。

しおりを挟む

処理中です...