輪(りん)

玉城真紀

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あれから十数年が経った

あの後、実家を売りに出した俺は東京に戻り二度と故郷には戻らなかった。
両親の墓は東京へ移した。近くにあった方がすぐに墓参りできると思ったからだ。橋本や相馬とは今でも連絡を取り合っている。

一度だけ、突然日引が俺の所へ来たことがあった。いつものように髪を高い位置でお団子にして、今回は皺くちゃの顔の中に埋もれている目は笑っているように見えた。手には巾着。相変わらずゆったりと着物を着こなしている。
家の中に招き入れようとしたが

「頑張るんだよ」

と一言だけ言うと、くるりと背を向けトコトコと行ってしまった。

呆気にとられた俺だったが、その言葉通り受け取ることにした。何故なら、聞いても教えてはくれない事は知っていたからだ。

あの丘での後、宿に戻った俺は久しぶりにぐっすりと寝た。

翌朝、女将にお礼を言い水島のおんぼろ車で帰った。車の中で、橋本は日引に色々と話を聞いていたが、日引は「ヒヒヒ」と笑うだけで何も語ろうとはしなかった。

日引の家につき、俺は車の外に出て改めてお礼を言う。車の中では何も話さなかった日引は

「昔の人がやって来た事というのは、迷信めいたものが多いかもしれないが、無駄な事はないもんさ。大変だろうけど頑張るんだよ。あんたには縁が結ばれちまったんだからね」

と言った。
どういう意味なのか分からず、聞こうとしたが恐らく教えてはくれないだろう。その後、実家の方での不思議な声や得体のしれないものを見る事もなくなり、大丈夫になったんだと少しずつ思うようになった。

以前勤めていた会社を辞め、出来る仕事ではなくやってみたい仕事を探し挑戦した。ⅠT関連の企業で、初めはとても苦労したが自分の人生を悔いなく過ごしてみたいと頑張ってきた。亡くなった両親が心配しないようにと言う思いもある。そこで出会った女性と結婚し、結婚生活3年を経て待望の子供が出来た。

そして今、俺は出産という生命の誕生の現場で、苦しむ女房の隣で頑張れと声を掛けながら励ましている。

立ち合い出産を望んだ女房は俺の手をあらん限りの力で握りしめている。医者や看護師がもう少し、もう少しと今の女房には気休めにもならない言葉を繰り返している。
知らなかったが、お産と言うものは陣痛の間隔が狭くなればなるほどクライマックスに近づいているらしい。

そして何十回目かの陣痛が来た。女房は額に玉のような汗を浮かべ、顔を真っ赤にして大きく息を吸う。口元を真一文字にして歯を食いしばり、息を止め思い切りいきんだ。


「この辺りに埃や汗が溜まりやすいのでよく洗ってあげてくださいね」

産まれたばかりの赤ん坊を産湯で洗う。

「大変だとは思いますが、お父さんも出来る限り積極的に育児を手伝ってあげた方がいいですよ」

慣れた手つきで一人目を洗い終えた看護師は、手早く産着を着せ寝かせると、もう一人はお父さんで入れて見ますか?と場所を譲られた。

そう。双子が産まれたのだ。男の双子。

始め知った時はドキリとしたが、あの件はもう終わっている。大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせる。

ギクシャクとした沐浴が終わり、お産を終えたばかりの女房の所へ行く。女房は疲れているらしく、少し眠りたいと言うので、明日も来ることを約束し家に帰った。

家に帰り、一人きりで子供が産まれた祝杯を缶ビールで挙げていると、ふと思い出した。
実家から俺が小さい頃使っていたお絵かき道具やら玩具を持ってきていたのだ。このために持ってきた訳ではないが、何となく捨てることが出来なくて持ってきてしまったのだ。

押し入れから段ボールを取り出し、一つ一つ玩具を取り出していく。一つしかない玩具達を見て、双子だから喧嘩してしまうかもしれないなと苦笑しながらも、産まれたばかりの二人の赤ん坊の顔を思い出しながら見ていく。

「あれ?」

最後の段ボールがやけに浅いことに気がついた。

妙な既視感を感じながら段ボールを逆さにし、それを取り出す。
見覚えのある箱。俺は蓋をそっと開ける。徐々に箱の中身が見えてくる。

赤い布・・・・・・尖った角の様なもの・・・・・・白い顔・・・・・・

「本当だ。・・・縁を結んじまったらしいな」




                                              終
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