吸収

玉城真紀

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親子という者

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それから三日後、マスターと伊集院の占いの家へ行く日になった。
夜の外出を行平に怪しまれないよう嘘をつき、早めに家を出る。
店は閉まっていたが明子がドアをノックすると、私服のマスターがにこやかに開けてくれる。
「早いですね」
「すみません。早く伊集院さんにお礼が言いたくて」
「そうですか。きっとあの方も喜ばれると思いますよ」
コーヒーを飲みますか?と聞いてくるマスターの気づかいをやんわりと断り、出発の時を待つ。
「お待たせしました。では行きましょう」
「お願いします」
店の前に用意した車に乗り込み走り出す。
伊集院の店が近づくにつれ次第に寂しくなっていく風景も、今の明子にはのどかでいい場所に移る。
「はい。着きました」
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
「?」
丁寧な言葉使いをするマスターではあるが、今の「こちらこそ」の意味が明子には理解できなかった。
「こんばんは」
マスターが店の玄関を開け、明子を促し入れるとドアを閉めた。
店の中は相変わらず、ぼんやりとした照明が暗い部屋を照らし奥の机には、初めて見た時と同じ服を着た伊集院がニコニコしながら座っていた。
「お久しぶりです。早くからすみません」
「いいんですよ。どうぞ座って」
目の前にある椅子に座るよう促す。その勧められた椅子はとても立派な革張りの一人用ソファだ。前にマスターが持ってきた椅子は簡易の折り畳み椅子。前回と少し扱いが違うようだ。
そのソファに腰を下ろした明子は、体がめり込んで行きそうな感覚がする。それ程、柔らかく高級感のある椅子だった。
「その後どう?」
「ええ。アドバイス通りやってたら、おかしな事が起こらなくなったんです。本当にありがとうございました」
「そうですか。それは良かった」
伊集院は細い目をより細くしながら笑顔を見せる。
「それで・・これは、ほんの気持ちなんですが」
明子は持っていたカバンから封筒を出し伊集院の机の上へと滑らせる。
「あらあら。そんなお気遣いいりませんのに」
「私の気持ちですから」
「そうですか?では・・」
伊集院は封筒を取るとマスターへと渡した。
その動きを見て、伊集院とマスターの関係が少し気になった明子だったが聞いていいものか分からなかったので黙っていた。
「あなたの今の表情を見て、もう心配なさそうですがああいう輩はしつこいものです。もう少し続けた方が良さそうですね。そう言えば、もうそろそろお香に入れる葉っぱがなくなる頃ではないですか?」
「ええ」
「ではすぐに用意しましょう」
その声に反応するかのようにマスターが動き、手早く袋に入った葉っぱを持って来ると伊集院の前に置いた。
「こちらですね」
「はい。ありが・・」
お礼を言いながら、明子が机の上の袋を取ろうとした瞬間それよりも素早い動きで伊集院が袋を手にする。
「え?」
伊集院の行動が理解できない明子はポカンとして伊集院の顔を見つめた。
「行平さんでしたっけ?」
「は・・はい」
「申し訳ないんですけど、この袋からは有料になるんですよ。最初にお渡ししたのはサービスです」
「え・・そうなんですか」
「はい。こちらもビジネスですからね」
伊集院はニコリと笑う。
「おいくらなんでしょう」
「五千円です」
「五千円?結構するんですね」
「ええ。私が調合した特別な葉ですから」
明子は、鞄から財布を取り出し五千円を出すと伊集院の机の上へ置いた。
(結構な散財だわ。最初に渡した袋には三万円も入れたのにまた五千円取られるなんて・・でも、変な事が起きなくなったんだから我慢しなくちゃ)
かなり痛い出費だったが、何とか良い方に考え納得させる。
「では、こちらをどうぞ」
伊集院は明子に袋を渡した。
「あの~」
「はい?」
「この袋の葉っぱが終わったらもうお香は炊かなくても大丈夫ですか?」
「なくなったらまたここへ来てみてください。私があなたを見て判断します」
「そうですか。わかりました」
「それにしても、いい方向に向かっているようなので安心しました。前回いらっしゃったときよりも顔色もいいしそれに・・・」
「?」
「あなたの足元に纏わりついていた顔もいなくなっていますしね」
「え⁉」
明子は驚いて自分の足元を見た。勿論何も見えない。
「その袋は、念のためと思ってください。もう大丈夫な気もしますが念には念を入れといたほうがいいからね」
「分かりました・・・あの・・顔って人間の顔って事ですよね?」
「ええ。顔だけしかありませんでしたね」
「顔だけ・・」
明子はあの香織の部屋で見た真っ赤な二つの目を思い出した。アレが自分の足元に憑いていたというのか・・足元がざわつき冷えてきた。
「前に言った男の人ですよ。ああ、あの時は男性が一人いるって言ったんでしたっけね。いたのはいたんだけど、顔だけだったの。血まみれになった顔だけ。でも、そんな事言ったら怖がってしまうからああ言ったの。まぁ、今はもういないから大丈夫ですよ」
伊集院は軽く言い放つが、明子としては何となくすっきりない。
その後、またこう言う事が起きた時の対処法や伊集院の経験談などを聞いた後店を出た。
前回の帰りの車の中では、希望の光と共に家路についていたが今の明子の心境は複雑だった。
「あの~」
「はい?」
「伊集院さんとマスターってどう言う関係なんですか?」
「え?はははは。そうですよね。不思議に思われますよね」
「すみません」
「いえいいんですよ。私とあの方との関係は親子なんです」
「は?」
「ははは。皆さん同じリアクションを取りますねぇ。あの方は私の一人娘なんですよ」
「娘さん・・・・」
「ええ。家内はあの方を産んですぐに亡くなりましてね。私が一人で育てたんです。近くに身内がいなかったもんですから結構大変でしたねぇ」
「そうですか・・すみません。言いづらいらい事聞いてしまって」
「いいんですよ。皆さん不思議に思われますから」
「・・・・・・」
明子は、失礼ついでに聞いてしまおうと思った。
「あの・・娘さんという事は父親ですよね?なぜ、「あの方」と言う言い方をするんですか?」
「・・・・・・・」
今まで物腰柔らかく何にでも返事をしていたマスターが初めて黙った。
(聞いちゃいけなかったかしら・・)
明子も黙り込み、マスターが話し出すのを待つ。
しかし、マスターはそれ以降話す事はなかった。沈黙の中、車は喫茶店の前に到着。
「あ、有難うございました」
ばつが悪かった明子は急いで車を降りドアを閉めた。すると、車の窓が突然下がり
「あの子は「神」だからですよ。じゃ、またお店に来てくださいね」
マスターはそう言い、いつもの笑顔を見せると車を走らせた。

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