未練

玉城真紀

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それぞれに・・

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日引が外に出ると、心配そうに水島が見ている中、健太の母親が健太を抱きかかえている。息子は、健太が見えることに驚きながらも、母親の隣で健太の名を呼んでいる。健太の方は目をつむったままだ。
「健太、健太」
何度も呼び掛けるが目を覚まさない。日引は、母親の近くによると
「お母さん。健太を戻してあげないといけないんだよ」
母親は涙でぐしょぐしょの顔で日引を見ると
「どこにですか?健太が帰る場所はここです!」
「そうだね。でも健太は死人だ。一時的なものなんだよ。いつまでもこの世にいることは出来ないんだ。分かるよね。それともこのままにしておくかい?そうなると死人はいつか良くないものに変わっちまうんだけどね」
「怨霊ですか」
水島が言う。
「それに近いものだね。私は、あの世から魂を行き来させる事しか出来ない。だからまた健太は前のようにこの世に残っちまう。でも、今のあんたと一緒に供養すれば、成仏出来るだろ。ここに来た時に見た健太はとても幸せそうだったからね」
それを聞いた途端、母親は健太を抱きしめながら泣き崩れた。その後日引はまたあの鈴の音を鳴らし健太の額に数珠をあて、あの世に戻した。今まで母親の腕の中にいた健太は、消えてしまった。
「やっぱり疲れるね。でも、まだまだ終わらないよ」
「え?でも、女の方はいなくなったんですよね?それに、男の方はどうなったんですか?」
日引から話を聞いた水島が不思議そうに聞いた。
「男の方は大丈夫だ。あの女が全ての根源だ。女が消えた時点で男の方もいなくなる。残りは三人だ」
「三人?」
項垂れた健太の母親を、家の中に連れて行った息子が帰ってきて聞いた。
「あんたの母親と女の子、そして健太だ。これもあげなくちゃいけない」
それを聞いた俺は嫌な気持ちになった。
あの時・・・・・・お袋の事故の連絡を警察から貰い病院に駆けつけた時、お袋が死んだと聞いた時、それほどのショックは受けなかった。
「ついに死んだか」
そんな言葉さえも出たぐらいだったのに。それなのに・・・・・・日引の話を聞いた時のこの嫌な気持ちは何だ。
(嫌だ)
そう。俺はお袋と離れるのが嫌だと思うようになっている。そんな俺をよそに日引は事を進める。
「健太の事は、みずっちに任せていいかい?さっき言ったとおりだよ」
「分かりました」
「さて、先ずは女の子の方からにしようかね」
日引はそう言うと、家の中で、座ったままの真理の近くにゆっくりと近寄って行った。
「あんたは、何で自分が死んだのか分からないだろうね。この人にあたってしまったからなんだよ。運が悪かったね。輪廻転生。知ってるかい?本当にそんなものがあるのか分からない。生まれ変わったとしても記憶は消えているから、実際は誰にも分からないんだ。でも、新しく生まれ変われると考えた方が前に進めるだろ?」
チリン
日引はそう言いながら、数珠を真理の額にあてる。額に数珠をあてられた真理はビクッと体を震わせた。私はそれを見ているしか出来なかった。何も声をかけることも出来なかった。次第に真理の姿が消えていく。初め不安そうな顔をしていた真理だったが、次第に穏やかな顔をして薄くなっていく。真理は私の方を見ると
「おばさん。楽しかったね。お母さんにありがとうって言っといて」
とニコッと笑った。笑った残像を残し真理は消えてしまった。
呆気なかった。真理と初めて会った時の事、健太の事で話し合った事、好きなアーティストがどうとか話した事、このわずかな日数で沢山あった。早すぎる展開に私の頭はついていけない。
「ふぅ~。次はあんただね。あんたの場合はここでは無理なんだ。あんたの家に行こうか」
頭の中が混乱し、整理もつかない私を残し日引は淡々と事を進めていく。
部屋の中では、泣き崩れている健太の母親の側で、水島が慰めにもならない言葉を言っている。庭では息子が不安そうな顔をして日引と何やら話している。
「おばさん」
その声で我に返った私は声がした方を見ると、健太がすぐ隣で私を見上げていた。
「おばさん。お姉ちゃんいなくなっちゃったね」
「・・・・・・」
「お姉ちゃんどこに行ったの?」
なんて説明したらいいのか・・・・・・いや。正直私にも分からない。どこに行くのか。
「真理はね。先に公園に遊びに行ったんだよ。健太も行けるから大丈夫だよ」
「そうなの?ねね。お母さん何で泣いてるの?」
健太には先程の騒動の記憶がないのか、不安そうに母親を見ている。
「お母さんは大丈夫だよ。きっと大丈夫」
「ふ~ん」
「健太。健太は少しお母さんと一緒にいてあげな。私は帰るから」
「うん。分かった。今日お母さんカレー作ってくれないかなぁ」
健太は泣き崩れている母親を見てのんきな事を言った。
「・・・・・・分かったよ。美味しいカレー作ってくれってお母さんに伝えあげるよ」
私は健太の隣にしゃがみ健太の顔をじっくりと見つめる。本当に素直でいい子だ。他にも話したいことが沢山あったが、黙って家を出た。

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