大好きな小説の悪役令息に転生したら、婚約破棄するはずの婚約者に執着されていました

エアコン

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3章

3-5



夕食を終え、一行はトネリコの書斎へと移った。
ティペスは当然のようにソフォラの隣に座り、

「お腹いっぱいになった?」
「馬車での移動、疲れただろう?少し休む?」

と、絶え間なく声をかけてくる。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

ソフォラが微笑むと、

「うっ……!」

ティペスはまた胸を押さえてうめいた。

「……はぁ、もういいかティペス?」

呆れた声でトネリコが言うと、ティペスはじとりとした視線を向ける。

「満足などしていませんが……父上の手紙に対応した件、報告は必要ですね」

そう言って背筋を伸ばし、眼鏡をクイッと押し上げた。

その横で、側近のパキプスが音もなく紅茶を差し出す。

「手紙が届いたのは、お二人が到着する約一時間前です」

一口紅茶を含み、淡々と続ける。

「離れの使用人は全員拘束し、地下牢へ収監しました。ソフォラを虐げていた者など不要でしょう?……殺していないだけ感謝していただきたいですね」

穏やかな口調のまま、さらりと恐ろしいことを言う。

「大半は自ら出頭しましたが、乳母のユーカリを含め数名は逃走を図りましたので、捕縛ついでに離れの“掃除”も済ませておきました」

再び紅茶に口をつけ――ふと思い出したように顔を上げる。

「ああ、ソフォラの部屋はそのまま残してあります。他は不要ですので、建物が崩れない程度に処理しました。荷物の搬出が終わり次第、離れは解体します」

にこりとトネリコへ笑い、次にソフォラへ視線を向ける。

「部屋についてはソフォラと相談して決めたかったから、今日は客間で我慢してもらえるかな?離れはもう使えないから」

「ね?」

そう言って、やさしくソフォラの手に触れた。

その笑顔とは裏腹に、行われたことはあまりに苛烈だった。
それでも――

(怖い……けど)

(ちゃんと見てくれてたんだ)

胸がじんわりと温かくなり、ソフォラの瞳に涙がにじむ。

「今日はここまでにしましょう。ソフォラも疲れているでしょうし、続きは明日で」

「そうだな……ありがとう、ティペス」

トネリコがわずかに口元を緩めると、

「仕方ありませんからね。明日からは働いていただきますよ、ご当主様?」

ティペスは眼鏡をきらりと光らせ、うっすら笑った。



その後、ティペスはトネリコと話があると言い、側近のパキプスがソフォラを部屋まで案内することになった。

パキプスは長身で細身、二メートル近い体躯をしている。
淡い水色の長髪をゆるく一つに束ね、表情はほとんど動かない。

無言のまま歩き出し、時折ちらりとソフォラを見下ろす。

(やっぱり……闇属性だから嫌なのかな)

そう思い、少し俯いたときだった。

「どうされましたか」

低い声とともに、パキプスが片膝をつく。
視線の高さを合わせ、そっと前髪をかき上げられた。

「歩く速度が少し落ちていました。体調が優れませんか?……もしよろしければ、抱えて運ぶことも可能です。たぶん」

真顔のまま言う。

(たぶんって言った……)

思わず目を瞬かせる。

「その……表情が変わらないので、嫌なのを我慢されているのかと思って……」

おずおずと伝えると、パキプスは一切顔色を変えずに答えた。

「生まれつきです。変えられませんが――」

一拍置いて、

「ソフォラ様のことを嫌だと思ったことはありません」

淡々と、しかしはっきりと言い切る。

「ソフォラ様はお優しいですね。私のような者にまで気を遣われる」

そのまま続ける。

「ちなみに主のティペス様の方が、性格はだいぶ面倒です」

(言い切った……)

「属性は関係ありません。嫌な人間はどの属性にもいます。ソフォラ様は“いい子”です」

その言葉の直後――

「では、失礼します」

ひょい、と。

ソフォラの両脇を持ち上げ、

「ん……っ」

わずかに震えながら、肩の上に乗せた。

「非力な私でも持ち上げられました。……ぎりぎりですが」

「わぁ……!」

突然の高さに驚きつつも、思わず笑い声がこぼれる。

パキプスは慎重に歩き、部屋の前で止まった。

そっと膝をつき、ソフォラを下ろす。

「こちらが本日お休みいただく部屋です」

扉を開けると、赤と黒を基調にした落ち着いた部屋が広がっていた。

ベッドに手を押し当てると、ふわりと沈み込む。

「もしお気に召さなければ、ティペス様を追い出してそちらを使っていただいても構いません」

「えっ!?だ、大丈夫です!とても素敵なお部屋です!」

思わず強く否定すると、

「……そこまで力強く言わなくても大丈夫です。冗談ですので」

一拍置いて、

「この顔だと、冗談に見えませんね」

最後まで無表情のまま言った。

(……やっぱり、この人いい人だ)

ソフォラはくすっと小さく笑った。
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