大好きな小説の悪役令息に転生したら、婚約破棄するはずの婚約者に執着されていました

エアコン

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4章

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食事が終わり、解散となった頃。カプトがパキプスに小瓶を手渡した。
パキプスは無言で頷き、その中身を一息に飲み干す。

次の瞬間、彼の身体から魔気が溢れ出し、冷気が周囲の温度を一気に引き下げた。

ティペスは表情を引きつらせ、カプトを見る。

「明日の朝まで“ゆっくり”お休みください」

にこやかに告げられたその言葉と同時に、パキプスはティペスの首根っこを掴み、そのまま床を引きずり始めた。

「嘘だろ!頼むパキプス!今日はまだソフォラを全然摂取できてない!!せめてあと一回だけ!!」

どれだけ懇願されても、パキプスは無言のまま歩みを止めない。
ティペスは抵抗しようと魔法で周囲の温度を上げるが、それ以上に冷気が強まり、パキプスの歩いた跡は次々と凍りついていく。

「ソフォラーー!おや――」

言い切る前に、口元が凍りつき、声が封じられた。

「あれはあれで嫌だな……」
「我が息子にとっては一番の罰だな」

疲れ切った父親たちが、揃ってため息をつく。

「お兄様に挨拶できませんでした……」

しょんぼりと呟くソフォラの頭を、トネリコが優しく撫でた。

「今日は仕方ない。明日きちんと挨拶してやりなさい。……とてつもなく喜ぶだろうから」

眉を下げて告げられ、ソフォラは小さく頷く。

一方のヘンリーは、顔を真っ青にしたまま立ち尽くしていた。

「ソフォラ……言えなくなる前に言っておく。おやすみ」

首を傾げるソフォラに、カプトが穏やかな笑みで続ける。

「賢明なご判断です。ヘンリー様のお部屋は、ソフォラ様のお部屋から二つ下の階――ちょうど真下にご用意しております」

「つまり顔も見せてもらえないってことか……はぁ」

アデニウムに連れられ、ヘンリーは肩を落として去っていく。

「おやすみ」

ソフォラが背中に向かって声をかけると、ヘンリーは力なく片手を上げた。

ーーー

部屋に戻り、窓を開ける。
ティペスの部屋の窓は、氷で完全に覆われていた。中の様子は見えず、灯りがついているのかさえ分からない。

(お兄様、大丈夫かな……明日、一緒に温かいココアを飲もう)

炎属性だから問題ないと分かっていても、不安は消えない。

スピノーサに促され寝衣に着替え、灯りを落としてもらう。

「おやすみなさいませ、ソフォラ様。今夜は静かにお休みいただけるはずです」

布団を掛けられ、「おやすみなさい」と返すと、スピノーサは微笑んで退出した。

(せっかくヘンリーが来てくれたのに……一緒に夜も過ごせると思ったのに)

以前もブラインドリー公爵夫人オトンナによって部屋を分けられ、今回も同じ。
ソフォラは小さく息をついた。

「クゥン?」

「大丈夫だよ、レイブン。おやすみ」

心配そうに近づいてきたレイブンを撫で、ベッドへ戻してやる。

(明日まで我慢しないと……)

「はぁ……」

廊下にはサンセベリアがいる。仮に許してくれたとしても、カプトやスピノーサが許すはずがない。

(せっかく会えたのに……明日の朝には帰ってしまうのに)

胸の奥に、寂しさがじわりと広がる。

(お花、持ってきてくれるって言ってたけど……次はいつ会えるんだろう)

かつての孤独よりも、今のほうが寂しいと感じてしまう自分に戸惑う。

(今まで我慢できていたのに)

目尻に涙が溜まった、そのとき。

――コンコン、と小さな音がベランダから響く。

気のせいかと思い布団に潜るが、再び同じ音が鳴った。

(……やっぱり、気のせいじゃない)

そっとベッドを降り、ベランダの扉を開ける。

「よっ」

そこには、しゃがみ込んだまま片手を上げるヘンリーの姿があった。

「!!ヘン――」

「シーッ!」

素早く部屋に入り込み、ヘンリーはソフォラの口を手で押さえる。

ふぅ、と息を吐く彼に、ソフォラは思わず抱きついた。

「会いたかった……」

「はは、俺も」

ヘンリーは優しく抱きしめ返した。

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