大好きな小説の悪役令息に転生したら、婚約破棄するはずの婚約者に執着されていました

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7章

サイドストーリー

生徒会役員の一日


生徒会長ディスキディアの一日は、常に過密だ。
日々の書類仕事に加え、年間行事の管理、そして——問題児の後始末。

今回問題を起こしたのは四人。
婚約関係にある二年生の男女。そして本来別の授業を受けていたはずの三年、ヘンリー・ブラインドリー。
さらに、それに加担し闘技場の床を粉砕したドラセナ・アステライトだ。

彼らを連れてきたのは——

「ありがとうございます、ソフォラ様」

精神的に戦意喪失したヘンリーとドラセナを小脇に抱えたまま、穏やかに微笑むサカキ・グロリア。

「ありがとうソフォラ。あとはやっておくから寮へ帰っていいよ」

「……わかりました。お願いします」

素直に頷いたソフォラの腕を、二人が必死に掴む。

「嫌だ!ソフォラー!」
「置いていかないでぇー!」

困って足を止めるソフォラ。視線がディスキディアへ向く。

「帰っていい。——これ以上、彼に醜態を晒したいのか?」

その一言で、二人は黙り込んだ。

「……お願いします」

小さく頭を下げ、ソフォラは部屋を後にする。

扉が閉まると同時に、空気が変わった。

「サカキ、降ろしていい。二人とも席に」

指示に従い、大人しく座る二人。

先に座っていた男女の生徒たちは反省文の紙を前にすると、すぐに不満を漏らした。

「なんで書く必要があるんだ!俺はもう反省してる!」

机を叩き、声を荒げたのは赤髪の男子生徒だった。

「は?そもそもアンタが勝手に暴れたせいでしょう!?なんで私まで書かなきゃいけないのよ!」

対する茶髪の女子生徒も負けじと睨み返す。
互いに譲る気など一切なく、再び口論が始まりかける。

ディスキディアがわずかに眉を寄せた、その瞬間。

隣に、音もなくサカキが立つ。

何も言わず、ただ二人を見つめるだけ。

——それだけで、空気が凍りついた。

先ほどまで声を張り上げていた二人の顔色が、みるみる青ざめていった。

「……っ」

言葉を飲み込み、視線を逸らす。

やがて、逃げるように手元のペンを取り——黙って反省文を書き始めた。

(……相変わらず、よくできた子だ)

小さく笑い、横を見ると、サカキは柔らかく微笑み返してくる。

この二人は反省文で十分。
だが——

(あとの問題児二人は別だな)

そう考えたところで、教師が入室する。

「会長、そっちは反省してるか?」

「ええ、まぁ」

軽く答え、視線をヘンリーとドラセナへ向ける。

「お前たち。やったことは停学でもおかしくない」

重い声。

「だが理由は理解している」

婚約者、友人。
守ろうとした結果なのは、誰の目にも明らかだった。

「……だが、それでもやりすぎだ」

静かに告げられる言葉に、二人は不満げに視線を逸らす。

(反省してないな)

「その状態で書かせても意味がない」

ディスキディアは顎に手を当て、考える。
そして、サカキへ視線を送る。

それだけで、意図を理解したサカキが口を開いた。

「お二人とも、ソフォラ様を大切に思っていらっしゃる」

穏やかな声。

「でしたら、ソフォラ様に判断していただくのはいかがでしょう」

——一瞬で凍りつく二人。

「それはやめてくれ!!」
「絶対ダメです!!」

必死な様子に、教師が苦笑する。

「なら簡単だ。次やったら——」

ディスキディアが言葉を引き継ぐ。

「ソフォラに報告して、“無視してもらう”」

その一言で、完全に沈黙した。

結果、二人は大人しく反省文を書き上げ、とぼとぼと帰っていった。

ーーー

静かになった生徒指導室。

残ったのは、ディスキディアとサカキだけ。

「サカキ、少し付き合ってくれ」

「はい」

並んで歩き、生徒会室へ入る。
扉を閉めた瞬間、外界と切り離されたような静寂が落ちた。

「……お疲れ様です、会長」

ソファに座り、見上げてくるサカキ。

その視線が、いつもより近い。

いつもは見上げる存在が、今は手の届く位置にいる。

——その距離の近さが、張り詰めていた理性をわずかにほどく。

ディスキディアは、そのままサカキの顎に手をかけ、唇を重ねた。

「……疲れた。少し、癒してくれ」

「っ、だ、ダメです……学園で……」

慌てる様子が、あまりにも無防備で。

思わず、もう一度口づける。

「城では一緒にいられない。ここでも遠慮する理由はないだろう?」

「ですが……」

言葉は続かない。

ただ、拒みきれないまま揺れる瞳。

(……本当に、優しすぎる)

だからこそ——苦しい。

「サカキ」

名前を呼び、額に軽く触れる。

「待たせることになる」

「……はい」

「それでも、必ず迎えに行く」

サカキの表情が、僅かに歪む。

「……そのお言葉が、一番つらいのです」

ぽつりと落ちた本音。

「私は、殿下に相応しくありません」

「そんなことはない」

即答だった。

だがサカキは首を振る。

「私は“影”です。光の隣に立つ存在ではありません」

その声音は穏やかで、けれど揺るがない線引きがあった。

グロリア伯爵家――王家に仕え、代々“裏”を担ってきた一族。
闇属性を用い、表に出ることのない命令を遂行する影。

その役目は、誇りであると同時に――決して光の下には出られないという枷でもある。

「我が一族は、王家の影として存在するものです。殿下の隣に立つなど……許されるはずがありません」

伏せられた紫の瞳が、わずかに揺れる。

「それに……殿下の御父君は、闇を嫌っておられる」

吐き出すようではない。
ただ事実をなぞるだけの、静かな声音。

だが――その一言で十分だった。

ディスキディアの目が、すっと細められる。

「……だから、この国は間違っている」

低く、押し殺した声。

「都合のいい時だけ影を使い、用が済めば切り捨てる」

思い出すのは、幼い頃から見てきた光景。
功績は表に出ず、罪だけを押し付けられる存在。

そして何より――

「お前たちに血を流させておきながら、“穢れている”と切り捨てる王が、正しいなどと、認めるつもりはない」

吐き捨てるように言い切る。

サカキが息を呑む気配がした。

「……殿下」

「黙れ」

即座に遮る。

「これは私の問題だ」

一歩、距離を詰める。

「だが一つだけ言う」

その手が、サカキの顎に触れる。

逃がさないように、けれど強すぎない力で。

「君を影のまま終わらせる気はない」

まっすぐに見つめるその瞳には、揺るぎない決意があった。

「このままでは、君と並んで歩けない」

それが——すべてだった。

「……ディスキディア様」

「名前で呼んで」

一歩、距離を詰める。

「……ディスキディア」

初めて、呼ばれた名前。

それだけで、胸が満たされる。

「愛している」

触れるだけの、優しいキス。

それ以上は踏み込まない。

踏み込めば——壊れてしまう関係だと、わかっているから。

「……私も、愛しています」

それでも、離れられない。

触れれば終わるかもしれない距離で、
それでも互いを求めてしまう。

——それが、二人の在り方だった。
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