大好きな小説の悪役令息に転生したら、婚約破棄するはずの婚約者に執着されていました

エアコン

文字の大きさ
91 / 101
9章

9-6



昼休み、生徒会室にディスキディア、サカキ、ゼブリナ、ダプサスが集まっていた。
ヘンリーはソフォラの様子を気にして、後から合流する予定だ。

「今朝から調べた結果ですが——出生届のない者もいるため、把握できている範囲になりますが」

サカキが淡々と告げる。

「死亡者は二十六名。闇属性者のおよそ八分の一です。多くが乳児や高齢者、そして王都近郊の居住者です。国境付近や遠方では、死亡例は確認されていません」

静かな声なのに、その内容はあまりにも重い。

「父にも事情を話し、協力を仰ぎました。情報の信頼性は高いと思われます」

グロリア伯爵家——闇属性者を多く抱える家。
その長である父は、王家に忠誠を誓いながらも、領民を守ることを最優先にする人物だ。

闇が減れば、国が傾く。
それを、誰よりも理解している。

「……ありがとう、サカキ」

ディスキディアが真剣な眼差しで礼を述べる。

サカキは小さく頷き、そのまま一歩下がり、彼の斜め後ろに立った。

「ダプサス、国民の動きは?」

「はい」

差し出された紙を受け取りながら、ディスキディアは視線を落とす。

「現在、国民の多くが“光の聖人”の行動に強く感化されています。光の神への信仰は、急激に高まっています」

その横で、ゼブリナが続けた。

「それに伴い、魔獣の動きも活発化している。特に王都近郊の村で被害が出始めている状況だ」

「物流にも影響が出ています」

ダプサスが補足する。

「現時点で深刻な食糧不足には至っていませんが……時間の問題でしょう」

重苦しい沈黙が落ちる。

ディスキディアは深く息を吐き、生徒会長の椅子に腰を下ろした。

「——父上は、この流れを利用するつもりだ」

低く、しかしはっきりと告げる。

「闇属性者の排除。……光だけで十分だと、そう言いたいんだろう」

拳が、机の上でわずかに震える。

本当は知っているはずだ。
この国の成り立ちも、闇が果たしてきた役割も。

それでも——覆そうとしている。

ゆっくりと顔を上げる。

「……このままじゃ、国が壊れる」

静かに言い切った。

そして、まっすぐ二人を見る。

「——手伝ってくれ」

その言葉に、迷いはなかった。

ゼブリナは胸に手を当て、力強く頷く。

「当然です」

ダプサスも、短く息を吐き。

「最初からそのつもりですよ」

と応じた。

ディスキディアは小さく目を閉じ、そして開く。

その瞳には、もう迷いはない。

——国を立て直す。

その覚悟だけが、そこにあった。


ーーー

ソフォラは机に向かい、昨日の出来事を整理していた。

誰にも読まれないように——
“日本語”で。

(この時期……小説では)

ペン先が紙をなぞる。

(ソフォラの嫌がらせが激しくなって……ヘンリーとドラセナの距離が近づく)

そこまで書いて、手が止まる。

(……違う)

ゆっくりと息が浅くなる。

(協会の集会があって——魔獣被害が増える)

ぞくり、と背筋に冷たいものが走った。

手が震える。

インク瓶にペン先を差し込もうとして——倒した。

黒い液体が、ノートを染めていく。

「……お兄様の死が近い」

零れた瞬間、息が止まる。

——いやだ。

受け入れたくない。

広がるインクが、じわりと紙を侵していく。
まるで、決まってしまった未来みたいに。

首を振る。何度も。

(違う、違う……)

見なかったことにしたい。

考えなければ、なかったことになる気がして——

震える手でノートを掴む。

ぐしゃり、と潰す。

ペンも、インクも、視界に入るもの全部が嫌で、

乱暴にかき集めて、そのままゴミ箱へ叩き込んだ。

机に広がった黒を、必死に布で拭いながら。

呼吸が乱れる。

心臓がうるさい。

でも——

消えない。

ぽつり、と浮かぶ考え。

縋るみたいに。

「……帰らないと」

今度は、はっきりと。

そうしなければいけないと、

自分に言い聞かせるように呟いた。

広がる黒は、まるで——

未来そのものみたいだった。

その時、扉がノックされた。

「ソフォラ?」

ヘンリーが顔を覗かせる。

「起きてたのか。体調はどうだ?」

いつものように、やわらかく微笑む。

——その顔を見た瞬間。

胸が、きゅっと締め付けられた。

「……どうした?」

ヘンリーが異変に気づき、表情が曇る。

ソフォラは咄嗟に顔を逸らした。

視線の先——姿見。

そこには、

強張った顔の自分が映っていた。

(だめだ)

気づかれる。

急いで首を振る。

「ごめん……まだ本調子じゃなくて」

無理に笑う。

「ちょっとしんどいかも」

「そっか」

すぐに距離を詰め、腰を支えられる。

そのままソファへ。

隣に座らされ、肩を抱かれる。

「無理するなよ」

やさしい声。

「昨日、あんなに魔力使ったんだ。……生きててくれて、本当によかった」

そっと頭にキスが落ちる。

そのまま、額を寄せられた。

「食べられそう?」

バスケットの布を外してくれる。

サンドイッチと、湯気の立つティーポット。

「ソフォラの好きなやつ。サーモンとクリームチーズ」

丁寧にカップに紅茶を注ぎながら、

「食べられる分だけでいい。残りは俺が食べるから」

そう言って、差し出される。

一口、かじる。

——味がしない。

何も。

砂を噛んでいるみたいだった。

それでも、飲み込む。

何度も。

「……美味しい」

そう言うと、

ヘンリーは安心したように微笑んだ。

その笑顔が、あまりにもあたたかくて。

——だからこそ。

ソフォラの胸の奥は、静かに凍えていった。
感想 6

あなたにおすすめの小説

愛しのスパダリに窮地を救ってもらってエンダァァァ!したと思ったらスパダリが誠実すぎてゴールラインを超えられなかった件

KP
BL
突発的な短編その二。 これまたタイトル通りです(笑) よろしければどうぞ。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

儚げ侯爵令息の怠惰な檻 ~前世が社畜だったので、公爵様の重すぎる溺愛が極上の福利厚生に見える~

千葉琴音
BL
前世で過労死した社畜男子が転生したのは、触れたら折れそうな超・美少年。 目指せ、究極の光合成ライフ! でも、隣にいるハイスペック公爵様の愛が、ちょっと(かなり)重すぎて……!?

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

『断罪予定の悪役令息ですが、冷酷第一王子にだけ求婚されています』

常陸之介寛浩📚️書籍・本能寺から始める
BL
あらすじ 侯爵家の嫡男ルシアンは、ある日、自分が前世で遊んでいたBLゲームの世界に転生していることに気づく。 しかも役どころは、ヒロインに嫉妬して破滅する“断罪予定の悪役令息”だった。 このまま物語通りに進めば、婚約者候補への嫌がらせや数々の悪行を理由に社交界から追放。家は没落し、自身も悲惨な末路を迎える。 そんな未来を回避するため、ルシアンは決意する。 目立たず、騒がず、誰とも深く関わらず、特に本来の攻略対象である第一王子には絶対に近づかない、と。 けれど、なぜか本来は誰にも心を許さず冷酷無慈悲と恐れられている第一王子アルベールが、ルシアンにだけ異様に執着してくる。 人前では冷ややかなまま。 なのに二人きりになると、まるで逃がすつもりなど最初からないと言わんばかりに距離を詰め、甘く、重く、求婚めいた言葉を囁いてくるのだ。 「君がどれほど逃げようとしても、私だけは君を離さない」 断罪を避けたいだけなのに、王子は人前で彼を庇い、社交界では“第一王子の寵愛を受ける悪役令息”という噂まで広がり始める。 さらに、ルシアンを陥れようとする貴族たち、王位争い、侯爵家に隠された事情まで絡み、物語はゲーム本来の筋書きから大きく外れていって――。 これは、破滅するはずだった悪役令息が、冷酷第一王子のただ一人の執着相手になってしまう、 甘くて重くて逃げられない、宮廷逆転溺愛BL。

【8話完結】ざまぁされて廃嫡されたバカ王子とは俺のことです。

キノア9g
BL
廃嫡され全てを失った元王子。地道に生きたいのにハイスペ幼馴染が逃がしてくれません。 あらすじ 「第二王子カイル、お前を廃嫡する」 傲慢な振る舞いを理由に、王位継承権も婚約者も失い、国外追放されたカイル。 絶望の最中、彼に蘇ったのは「ブラック企業で使い潰された前世の記憶」だった。  「もう二度と、他人任せにはしない」 前世の反省を活かし、隣国の冒険者ギルドで雑用係(清掃員)として地道にやり直そうとするカイル。しかし、そんな彼を追いかけてきたのは、隣国の貴族であり幼馴染のレオナードだった。  「君がどんな立場になろうと、僕にとっては君は君だ」 落ちぶれたカイルに変わらぬ愛を注ぎ、元婚約者の悪意ある噂からも守り抜くレオナード。 すべてを失った元バカ王子が、社畜根性と幼馴染の溺愛によって幸せを掴むまでの、再起と愛の物語。 全8話。

転生したけれど就職したからにはなんとか生きてみせる

向井日向
BL
十四歳の誕生日、孤児院から奉公先の貴族の屋敷へ向かう途中で俺は転生したことを思い出した。確か日本にいたはずの俺はある日交通事故に遭いそのまま目の前が真っ暗になったのだ。 今更日本に戻りたいと思っても死んでしまってからにはどうあがいても戻れない。 仕方なく目の前の現実から目を背けず自分らしく生きようと決意する。 そして就職先のお屋敷で俺を引き取った主人からどうか息子の友人になってくれと頼まれる。 執着強めの美形×鈍感能天気な主人公 のBLです

当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音
BL
※長そうで読むのをためらっている方へ※ 後半の番外編♡は、溺愛の甘々な二人の短編になります。そちらを読んでいただいて、興味をもっていただけたら、ぜひ本編を読んでみてください! ※第一部から加筆修正してます。 わかりにくいところの修正と、敬称や一人称の統一をしています。 (凍てつく夜に、光は生まれるの章まで修正しました) 第一部・完(修正中) 箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。 キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・ 僕は当て馬にされたの? 初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。 そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡ 第二部・完 『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』 ・・・ エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。 しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス…… 番外編  『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』 ・・・ エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。 『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。 第三部  『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』 ・・・ 精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。 第四部 『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』 ・・・ ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。 第五部(完) 『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』 ・・・ ジュリアンとアンドリューがついに結婚! そして、新たな事件が起きる。 ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。 書きたかったことが書けた感じです。 S S 不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。 この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。 番外編♡ 『僕だけを見ていて』(全5話) ・・・ エリアスはマクシミのことが大好きなのです。なんか、甘めの話を書いてみたくなりました。 『マクシミのお返し』(前後編です) ・・・ エリアスからのプレゼントのお返しをするマクシミのお話です。 ホワイトデーなので、それっぽく書いてみました。 SSと同じですが、番外編♡に甘々な話をあげていきます。 エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃) マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子) ♢ アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王) ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃) ※扉絵のエリアスを描いてもらいました ※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。