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◆◇第一章 宮廷の姫君◇◆
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「まぁ……!」
クレアは驚きを隠さずに声を上げた。
「きれいなところね、王宮って……」
初めて見るそれに、喜びを隠さない。クレアは、旅立ちの興奮を隠さずに声にした。
まるで田舎から上がってきたばかりのお上りそのままの姿に、彼女に生まれたときから仕えている侍女がそっと声をかけた。
「姫さま、そのような大きな声で……」
「だって、こんなに素敵なところだとは思わなかったもの」
クレアは開けられた馬車の扉からぴょんと地面に跳ね下りた。それがまた、侍女の眉をしかめさせた。
「もう、そのお転婆、どうにかして下さいませ。陛下がごらんになれば、呆れておしまいになられますわ」
「陛下、って、お父様のこと?」
初めて会うこのおきゃんな姫君に、少々戸惑いながら手を差し伸べる従者に手をとられ、クレアは振り返った。
「私、お父様のお顔、覚えていないわ。お父様は私のこと、覚えていらっしゃるかしら」
「それは、もちろんでございましょう」
彼女の後に恭しく付き従っていた侍女が言った。
「何と言っても、王妃様の忘れ形見でいらっしゃいますもの」
自分を産んですぐに死んだ自分の母のことを、クレアは話にしか知らない。その肖像画は離宮のある一室に飾られていたが、自分の成長とともにまるでそれが鏡のように、自分がその絵に似て来るのをクレアは驚きの気持ちで見ていた。十五歳の今では、それは自分だと言っても誰も驚かないほどに、そっくりな絵がそこにあった。
「もっとも、王妃様はもっと儚げで、淑やかな方でいらっしゃいましたけれど」
澄ました顔でそう言う侍女に、クレアは顎を反らして見せる。
「何を言うの、マリエル」
クレアと、彼女に仕える侍女の一行は、その時初めて王宮に足を踏み入れた。真っ白な大理石が貼られた廊下が彼女を迎える。
「私は、これから淑女になるのよ。お母様にも負けないくらいの立派な淑女になって見せますわ」
「誠でしょうか」
くすっと笑って見せる侍女に、クレアは憤慨して自分の手を取る従者から身を翻し、彼女の方に向き直って見せた。
「まぁ、なぜ笑うの。いいこと、そのうちお前も驚くような淑女になって見せるから」
「それは、楽しみだね」
低く響く声がした。クレアは驚いて振り返る。吹き抜けになった二階の廊下、その手すりにもたれてこちらを見ている影があった。
「お兄、様……?」
その髪の色、瞳の色。その優しい口調にも覚えがあった。八年来会わずとも、その色を見忘れるはずはない。
この長い月日の間、再会した兄にどういう反応を示そうか、クレアはずっと考えていた。兄に再会できたならば、その胸に飛び込んで、八年前と同じように甘えよう。そう決めていた。その瞬間、八年間の月日の長さもあっという間に溶けてなくなるはずだった。
これが、あの兄だっただろうか。あの頃あった、少年らしいあどけなさはすっかり影を潜め、そこには王者たる風格にふさわしい威厳と、落ち着いた瞳。真っ白な衣装もその体に吸い付くような印象を与え、彼の立つ地位にふさわしい色を兼ね揃えていた。
クレアは気後れした。飛び込もうと思ったその胸には飛び込めなかった。クレアが立ち止まって戸惑ううちに、大理石を踏む高い音がこだまする。それが。セラフィスの靴の音だと気づいたとき、彼女は彼に手をとられ、目の前には久しく間近に見る兄の顔が笑っていた。
「元気そうだね、クレア」
「お兄様、こそ」
セラフィスはクレアに付き従う従者に目で合図し、自ら彼女の手を取って先導を買って出た。
「変わってないね、嬉しいよ」
その微笑みも、わずかに低くなった声も、確かにあの兄のものなのに、クレアはその顔をまともに見られなかった。頬をわずかに染めて、下を向いているしかできなかった。
「陛下がお待ちだよ、行こう」
そんなクレアの手を取って、彼女の心中に気づいているのか否か、セラフィスは歩みを進める。
「陛下も、クレアにお会いになるのを楽しみにしているんだから」
「お父様が……?」
クレアには、母の記憶もおろか、父の記憶すらほとんどなかった。物心付いたときから、兄とともに育ったあの離宮にいたし、そこに父が来ることはほとんどなかった。父の顔は肖像画でしか知らなかった。
「お父様、私の顔をご存知なのでしょうか……?」
不安げに言うクレアを、セラフィスは微笑んで見つめた。
「もちろんだよ、お忘れになるはずがない」
「そうなの……?」
セラフィスに手をとられ、ここに来るために初めてまとった長いドレスの裾を危なげにつまみ上げ、従者にかしずかれて目指すのは謁見の広間。
「私、お父様のお顔を覚えてはいませんわ」
階段を上るとき、クレアはささやくようにセラフィスに言った。
「それなのに、お父様は私のことを覚えていらっしゃるのかしら」
「そりゃあね」
つまづきそうになった一歩に、セラフィスの腕がクレアを支えた。その腕に抱きかかえられてクレアはぱっと頬を染め、慌てて言葉を紡いだ。
「クレアは、お母様にそっくりだということだから」
「そう、なの」
セラフィスにとられた手が震える。その震えを、兄はどのように受け取っているのだろうか。クレアはそれを気に病んだ。
「クレアこそ、私の顔を忘れてたんじゃないのかい?」
からかうような口調でセラフィスが言う。
「そんなわけありませんわ!」
思わず声高に言って、クレアは慌てて口を押さえた。
「そんな、私が、お兄様を見忘れることなんて絶対ありません」
「そう、それならば、とても嬉しいよ」
向けられる笑顔が眩しくて、クレアは目を細める。
「クレアは、きれいになったね。八年前よりもずっと」
その微笑み方は変わらなかった。ただ、その中に含まれる影が以前よりもずっと濃くなっただけで。それは、今のクレアには理解できない影だった。
「まぁ……」
目を細めるセラフィスの視線にいたたまれず、クレアは下を向いた。
「さぁ、お父様にお目にかかりなさい」
重い音がして扉が開く。真っ赤な絨毯が引かれ、長い廊下の向こう、細かな装飾のされた大きな椅子に、髭を生やした、すでに老人といってもいい年の男が座っている。その姿にクレアはすくんだ。セラフィスにせかされなかったら、ずっとそこに立ち尽くしていたに違いなかった。
「陛下、クレアをお連れいたしました」
セラフィスは声を張り上げてそう言い、クレアを促して彼の前にまで連れて行く。クレアにその前に膝まづくようにささやきかける。
「クレアか」
低い声が彼女の名を呼ぶ。クレアは体を強ばらせながらその前に膝を突いた。
「お父様には、ご機嫌麗しく」
「ああ」
答えは短かった。その後続いた長い沈黙に耐えきれず、顔をあげると鋭いまでの視線が彼女を射ぬいた。体がすくむ。クレアは、それ以上一言も発することができなかった。
◆◇
「お父様って、怖い方ですの?」
久々の親子の対面も終わり、クレアのためにしつらえられた部屋に通されたとき、彼女はやっと息をついてそうごちた。
「私、何もしゃべれなかったわ……」
くすくす笑って、妹をその部屋に案内した兄はそれを慰めるように言った。
「怖い方というわけではないのだけれどね、長い間王という座に座っていれば自然厳しくもなられるよ」
「お兄様も、そのうち王になられるのでしょう?」
クレアは、その部屋の絨毯がことのほか柔らかいのに気づいた。壁には優しい白の壁紙が貼られ、薄赤を基調とした家具の数々はことのほか美しかった。
「お兄様は、怖い王様にはならないでくださいね。ずっと、優しいままでいらしてね」
それにも、セラフィスは微笑みで答えるだけだった。クレアはその部屋の美しさに息を飲む。
「まぁ、なんて美しい……」
その色は、クレアのもっとも好きな色だった。柔らかな色合いは長旅の後の父との会見にすり減らした神経を慰めてくれ、クレアはこの城に立ち入ってから初めて息をつけたような気がした。
「気に入ってもらえたかい?」
セラフィスが命じると、侍女のひとりが窓を開けた。そこから吹き込む穏やかな風がクレアの髪を揺らした。
「ここからは、庭が一望できるよ」
「まぁ……」
クレアは声を失う。窓にかけよってその外の景色を見る。生い茂る緑、咲きほころぶ花。すべてがクレアを魅了した。
「素晴らしいわ、本当に、素晴らしい……」
踊り上らんばかりにクレアは声を上げ、兄を振り返る。
「お兄様が用意して下さったの?」
彼は声に出さずに肯定した。クレアは両手を顔の前であわせて満面の笑みを作り、そして歓喜の声を洩らした。
「嬉しいわ、とっても。お兄様、ありがとう」
クレアは、兄に駆け寄ろうとした。確かに、八年前のクレアなら迷わずそうしただろう。しかし、彼女は何かの力に押されるように兄の首に回そうとした腕を押しとどめ、代わりにドレスの裾をつまみ上げて頭を下げた。
「喜んでもらえて、嬉しいよ」
その声には、確かにクレアのそういった行動に戸惑う色があり、クレアもそれを感じ取りはしたが、かといってどうしても兄に抱きつくことはできなかった。
「今日から、ここがお前の部屋だよ。明日、早速お前にこの城や国のことについていろいろと教えてくれることになっている者を紹介しよう」
「まぁ……」
今度のその声は、喜びに満ちたものと言うより、むしろ気が乗らないといったものだった。
「王宮に着いて、早速お勉強、ですのね」
「おや」
セラフィスは笑って言った。
「クレアは、勉強が嫌いなのか?」
「そう言うわけではないですわ」
精いっぱいの否定を込めて彼女は言った。
「ただ、これだけの美しいお城の探検もせずにお部屋に閉じ込められるのがちょっと嫌なだけなのですわ」
「その気持ちも、わからなくはないけれどね」
セラフィスはしつらえてある椅子に腰を下ろした。その前に置いたテーブルの脇にあるもうひとつの椅子にクレアが腰を下ろすと、運ばれてきたのは香り立つ琥珀色の茶だった。
「でもね、クレア。もう十五になったのだから、いろいろと覚えておかなくてはならないことがあるのだよ。王宮の探検もいいけれど、現国王の娘、王太子の妹ともなればそれに伴う義務や責務がある。それを、少しずつでも自覚していくようにしてもらわなければ」
「……」
今までまったく縁遠かったそれらの言葉に面食らいながら、クレアは目の前に茶器に視線を注いだ。
「いい香りがするわね」
「ああ」
やっと気づいたかのように、セラフィスも同じところに視線をそそぎ、そして微笑みながらうなずいた。
「エクス・ヴィトが作ってくれた葉で淹れたものだよ。お前にも、ぜひ味わってもらいたいと思って取っておいた」
「エクス・ヴィト?」
まだ熱いその茶器を手に取って、中の液体に口を付けたクレアは眉をしかめてそれを置いた。
「苦いです」
セラフィスは笑って、自らは満悦の表情でそれを口に運んでから言った。
「クレアには、まだそのままは早すぎたかな。砂糖を入れてごらん」
クレアは砂糖の粒をいくつも茶器の中に沈めて、また兄を笑わせた。
「エクス・ヴィトは、我が側づきの魔道師だ。国の魔道師たちの、頭領という立場にある」
「魔道師ですの」
クレアは目の前の茶器をしげしげと眺めながら言った。
「これも、魔法で作ったのかしら」
「まさか」
空になった茶器を置くと、そこに侍女がすっと歩み寄り、茶器と揃いのポットから新しい茶を注ぎ入れようとした。
「いや、もういい」
その声に彼女は引き下がり、セラフィスは立ち上がった。
「お兄様」
クレアは顔をあげた。
「もう、行ってしまわれるの?」
セラフィスは妹の掛ける椅子に歩み寄り、その肩に優しく手を置いて言った。
「今日は、お前が初めてこの王宮に来る日だったから前々から時間を明けておくように計画していたのだけれどね、もう、仕事に戻らなければ」
「明日、またお目にかかれますの?」
その言葉に、セラフィスはあやふやに首をかしげるだけだった。
「どうだろうか。時間が空けば、お前の相手をしてやるつもりもあるのだけれど、はっきりと約束はできないよ。許しておくれ」
クレアは失望に眉が下がるのを懸命に堪えた。そして微笑みを浮かべて、小さく言う。
「お兄様、……お忙しいのね」
セラフィスはその言葉尻に潜む色を見抜いたのか、妹の肩に置く手に少しだけ力を込め、寂しげな笑みを浮かべてこう言った。
「昔のままでは、いられないんだよ」
「お兄、様!」
クレアはセラフィスの方を振り向いて、口を開こうとした。そしてその顔を凝視して、言うべき言葉を失ってそれを飲み込んでしまった。
「なんだ?」
「なんでも、ありませんわ」
そこにあったのは、八年前とは明らかに違った兄の顔。面影も、そこに漂う色も、それがあの兄だとはっきりと見て取れるのに、自分の傍らに立つ彼はまるで別人のようで。クレアは彼には見られないように小さく唇を噛んだ。
「明日、エクス・ヴィトとユーヌス、お前の勉強の世話を頼んであるふたりをよこすよ。彼らと相談して家庭教師の人選を始めるといい。それまでは、ゆっくり休んでおいで」
「はい、お兄様」
クレアは立ち上がって精いっぱいの笑みを作った。それに安心したようにセラフィスは妹の頭を幾度か撫で、そして忙し気にそこを立ち去った。
取り残された妹はひとり、小さな茶会の後片付けをする侍女たちや、彼女の荷物を運び入れる従者たちに囲まれながら、小さく呟いた。
「これが、決別、と言うものなのかもしないわね……」
それを聞きとがめた一番の古なじみの侍女が問い返す言葉に、クレアは首を振った。
「なんでもないわ」
以前読んだ小説で見知ったその言葉に今の自分を重ね合わせながら、クレアはひとり嘆息した。
◆◇
「はぁぁ……」
マインラード王国の末の姫君は、早くもその名を宮殿中にとどろかせていた。つまり、手に負えないお転婆姫、いたずら姫、その噂は馨しいとは言いがたかったが、それらの言葉に悪意はなく、ともすれば愛情をもって語られていた。クレアの名が宮廷中の臣下たちの微笑みを勝ち取るのにそう時間はかからなかった。
「まぁ、姫さま!」
いつも、甲高い叫び声をあげるのは家庭教師のひとり、舞踏を教える眼鏡をかけた中年の女性だった。
「そんな格好で寝台に上がるのは淑女のなさることではありませんよ。さぁ、お降りになって。授業の時間です」
クレアはその声に、しぶしぶ起き上がった。
「まぁ、靴もお召しになったままで」
頭に響くその声に、クレアは眉をしかめて立ち上がった。
「いいじゃないの。少し、眠かっただけです」
「お昼寝なら、ちゃんとお召しものを替えてからなさいませ。それに、この時間はいつも私が参る時間だと申し上げているではありませんか」
クレアは寝台から飛び降り、そして家庭教師をまた慌てさせた。
「姫さまっ!」
「あああ、もう、いいわ」
いちいちの小言閉口して、クレアは頭を抱えた。
「もう、どうしてみんなそんなふうにうるさいのかしら。たまには私だって寝台から飛び降りたいときだってあるわ」
「姫さまは、いつもじゃございませんか」
家庭教師がどさり、と教科書を机の上に置いたのを見てクレアはまた眉を伏せた。
「殿下も心配しておられましたよ」
「お兄様が……?」
クレアはまた小さく息をついた。
「もぅ、お兄様ったら心配性だわ。私も、ちゃんとお勉強しようという気はあります」
「では、それを態度で示していただかなくては」
クレアが口先で逃れようとしても、家庭教師の方も心得たもの、クレアはさっさと椅子に腰掛けさせられ、教科書の朗読を始めさせられる。
「はぁぁ……」
姫君のため息は、その後も何度も家庭教師の眉を顰めさせた。
そっとあたりを見回して、白い衣装の裾が土の上に擦らないようにつまみ上げ、クレアの青い靴が地面に着いた。抜け出した窓を外から閉め、改めて周りの視線を確かめてから、クレアはぴんと胸を張って太陽に顔を向けた。朝から教科書の顔ばかり見ていたあとでは、この明るい日差しが心地いい。クレアはその暖かさににっこりと笑みを作り、そして前を向いて歩き出した。
王宮の庭園、目指す先はその片隅の、誰も知らないような秘密の場所。王宮に来て、初めて庭園の散策を許されたとき、クレアはここを見つけた。まるで誰からも忘れられたように、小さく区切られたその一角はおざなりな手入れだけで放られている。そのような片隅に立ち入る者もないのだ。そして、その周垣には人ひとりが通れるほどのほころびがあることをもクレアは知っていた。そこから王宮の外に出ることもできるのだ。
そこに足を踏み入れる好機を得て、クレアは得意満面に歩いた。そこにいれば、日が暮れるまで続く家庭教師たちの押し込みから逃げられる。きっと、あとで叱られることになるのだろうが、教科書を前にあくびをしたと叱られるのであればそれはどの道同じだと思っていた。
影が差した。急に現れたその影を訝しんで、顔を上げるより先に声がかかった。
「姫さま、どちらへおいでですか」
顔を見なくても誰かはわかった。セラフィスが選んだ、クレアのお目付け役のうちのひとり、エクス・ヴィトだ。自分の背丈を追い越すほどの長い影、低い声、その中にある、深く落ち着いた印象は彼以外の誰でもなかった。
「別に、どこへというわけでもないわ」
つんと顎を反らすと、エクス・ヴィトは笑って、そしてクレアの行く先を阻む。クレアは顔を上げた。
「どいてちょうだい」
「おや、つれないことですね」
せっかくの憩いの時間を邪魔されて、クレアはいささか機嫌を損ねた。しかし、エクス・ヴィトの方はそれに頓着する様子もない。
「家臣に黙ってのお出かけは、よろしくありませんよ」
微笑みさえ浮かべながらそう言うエクス・ヴィトを、クレアは疑わしそうな顔で見つめた。こんな穏やかな話し方をしていても、腹の中では何を考えているのかわかったものではない男だということを、すでに学習していたからだ。
「嫌です、エクス・ヴィトに教えたら、邪魔されますから」
「そうですか」
素っ気なくそう言われて、それ以上追及されないことにクレアはかえって不満を覚えた。そして、エクス・ヴィトの方を振り返った。
「あら、それはなに?」
エクス・ヴィトは、いつもまとっている、魔道師らしい長いローブの中から、何か大きなものが顔をのぞかせていた。布を貼った板、そして何かを詰めた袋。
「なんなの、それ?」
クレアの視線に気づいたエクス・ヴィトは、にやりと笑って、それをことさらにローブの後ろに隠そうとする。
「姫さまが私にお出かけ先をお教え下さらないのに、私もお教えするわけには行きませんね」
「もう、エクス・ヴィト!」
クレアは飛び上がった。
「教えてよ、それ、なんなの?」
「気になりますか?」
「なるわ、とっても」
じれたようにローブの中をのぞき込むクレアを笑って交わし、エクス・ヴィトは視線をそらした。そして、何かを見つけたように声をあげる。
「ああ、ラーケンですね」
クレアがエクス・ヴィトの視線の先を見ると、そこには人影があった。それがラーケン・レオス、宮廷に直属の魔道研究院の若き秀才のものであることはクレアも、もうひとりの守り役、ユーヌス・キオニアから聞き知っていた。二十代にしてすでに魔道研究院の最高幹部の座にまで上り詰め、国中の魔道師たちの束ね役であるエクス・ヴィトの直属の部下だった。ラーケンとユーヌスは幼なじみということで、ユーヌスがクレアに話してくれたのだ。
彼は、何かを探すようにきょろきょろあたりを見回している。あまり外出が好きでないという彼の姿を王宮の庭園などで見かけるとは珍しかった。
「珍しいですね」
エクス・ヴィトも同じことを思っていたらしく、そんなことを口にした。
「何を探しているんだか」
そして、彼はクレアが驚くほどの声を張り上げた。
「ラーケン・レオス、何をお探しですか」
ラーケンがこちらを振り向いた。ふたりの姿を見ると、面倒だというそぶりでそれでも会釈はし、そしてまたあたりを見渡し始めた。
「何をしているんですか」
彼のもとにエクス・ヴィトはつかつかと歩み寄り、ラーケンを驚かせる。
「別に……」
彼の専売特許である愛想のなさでラーケンは答えた。
「申し上げるほどのものではありません」
「そういう言い方されると気になりますね」
エクス・ヴィトはわざと大きな声で言った。
「そうは思われませんか、姫さま」
振り返るエクス・ヴィトに、クレアも同調した。
「もちろんだわ」
そして、呼び止められたことを迷惑そうに顔をしかめるラーケンの方をのぞき込む。「私たちにお手伝いできることもあるかもしれまないわ。何を探してたのか、教えて」
ラーケンは口ごもり、やがて小さく言った。
「アーシュラを見ませんでしたか」
「アーシュラ?」
エクス・ヴィトが声をあげ、そして首を振った。
「いいえ、見ませんでしたけどね」
「アーシュラ?」
クレアがその横から口を出した。
「誰なの、それ」
ラーケンがしまったというような顔をした。エクス・ヴィトはそれを見て、また、いつもの悪戯をたくらむような表情を浮かべた。
「姫さまはご存じなかったですか、ラーケンの拾った孤児のこと」
「孤児ですって?」
ラーケンと子供。おおよそ似付かわしくないその取り合わせに、クレアは目をしばたたかせた。
「どういうこと?」
ラーケンはますます嫌な顔をする。
「姫さまがお気になさるような者ではありません」
「孤児ですって? ラーケンが、孤児を拾ったの?」
自分の言葉を無視されたことに、ラーケンはため息をついた。
「そうなんですよ、私も信じられませんけどね」
エクス・ヴィトがそう言って、ラーケンに睨まれた。
「この間、騎士団の遠征訓練に付きあったとき、森の中で見つけたんですよ。遠くの国から逃げ出してきたらしいんです」
「そうなの」
クレアは熱心にエクス・ヴィトの顔を見る。
「身寄りも、帰るところもないっていうから、最初に彼女を見つけたラーケンが」
ラーケンが肩をすくめてまた息をついた。
「別に、好きで面倒を見ることになったんじゃありませんよ」
クレアの好奇心に満ちた顔と、エクス・ヴィトの意味あり気な笑いに挟まれて身動きが取れなくなったラーケンは、降参したと言ったように口を開いた。
「帰るところも身寄りもない、と言われちゃ放っておけないじゃありませんか。別に、俺の意志じゃありません」
いかにも興味がないと言ったふうに、彼は言い捨てた。
「おまけに鉄砲玉で、研究院からはあまり出るな、と言うのにすぐ抜け出すんです。今日も、部屋を通りかかってみたらもぬけの殻。まだ王都のこともよくわかっていないんだから、あんまり出歩くなと言ってあるのに」
「どこぞの誰かさんみたいですね」
エクス・ヴィトがちらりとクレアを見て、唇の端を持ち上げた。クレアはその視線に軽くせき払いをして見せ、そして言った。
「私で良かったら探して差し上げるわ。どんな子なの?」
ラーケンはふたりに捕まりながらも、視線だけはその孤児を探してあたりをさまよっている。
「見れば、すぐにわかりますよ。見たことのないような髪の色をしていますから」
ラーケンの視線を追うクレアに、エクス・ヴィトはささやきかけた。
「姫さま、また、余計なことを考えていらっしゃるんじゃありませんか?」
「な、なんなの、余計なことって」
クレアは心の底を見透かされてどきりと彼を振り返った。
「ラーケンの手伝いをだしに、城を抜け出そうとか」
「そんなこと、考えていないわっ」
顔を真っ赤にしてそう言うクレアに、ラーケンはしれっと言った。
「いりませんよ、姫さまに手伝っていただくほどのことではございません」
にやにや笑うエクス・ヴィトは、膨れっ面のクレアを慰めるように言った。
「まぁまぁ、せっかく抜け出してこれたんですからね、お城の外に出ることはさすがに勧められませんが、私にお付き合いなさいませんか?」
ラーケンが、何かを見つけたように、失礼します、と軽く会釈をしてその場を急ぎ足で去っていった。その後ろ姿を残念そうに見送るクレアにエクス・ヴィトが続けた。
「お勉強よりは、楽しいと思いますけどね」
「なんなの?」
ローブに隠した道具を振り回して見せ、エクス・ヴィトはクレアを誘いざなった。
「こちらです」
その先は、煉瓦でかこった四角い花壇。そこかしこいっぱいに広がったそれは、たくさんの緑の芽を吹き出していたが、きっとその先につくと思われる花はまだひとつも開いてはいなかった。
「花壇、なの?」
「そうですよ」
そして、クレアがあれほど見たいとねだったローブの奥の道具は、その時になってやっと取り出された。
「まぁ」
クレアはそこから飛び出した、見たことのないものに声をあげた。
「エクス・ヴィト、絵を描くの?」
小さな椅子。布を貼った板。それを支える、木の衝立。そして、たくさんの筆と色々な色が塗り付けられたパレット。
「そうです」
エクス・ヴィトは折り畳まれた椅子をその形に整え、木の板を衝立に立て掛け、そして、すっかり画家の風情になってにこりとクレアの方を振り向いた。
「何を、書くの?」
目の前の花壇にあるのは、まだ花開かぬ蕾ばかり。緑だけのその彩りの中、クレアは筆を動かすに値するものを探した。
「これです」
エクス・ヴィトは何を言う、と言わんばかりにその緑の花壇を指さす。
「お花がまだ咲いていないのに?」
「それが、いいんですよ」
にっこり笑い、そしてそこにしつらえた椅子に腰を下ろす。
「ううう……」
緑の小さな芽ばかりで、華やかな彩りはまったくないそれを見て、クレアはうなった。
「お花のない花壇なんて、つまらないわ」
にこやかな笑顔を崩さないままのエクス・ヴィトを見上げて、クレアは膨れっ面をした。
「花壇って、いつもきれいなお花が咲いているものだと思ってたわ」
エクス・ヴィトは小さく微笑んで、クレアの頭をくしゃっとなでた。
「ここは、夏に咲く花が植えてありますから。今は、まだ準備中なんです」
「準備中……?」
不満な表情は隠さずに、それでもエクス・ヴィトの動かし始めた木炭の先をじっと見つめるクレアは、その言葉を聞き返した。
「そう、準備中。どんなきれいな花も、こうやって地面の中で力を蓄える時間が必要なんです。そこでじっと我慢して、だからこそきれいな花が咲くんですよ」
頭を出している芽を指先でそっとなでて、その存在を確認するようにクレアは視線を近づけた。
「そう」
蕾と、下絵を形作ってゆくエクス・ヴィトの指先を交互に見つめ、クレアはため息をついた。
「花が咲く前は、そりゃ見栄えはしないかもしれませんが、その中で、より美しい花を咲かせようと、頑張っているんです」
「……そう」
エクス・ヴィトの言葉の裏に気がついて、クレアは振り返った。
「つまり、私にきれいな花を咲かせるためにも、もっとお勉強しなさい、ってこと?」
「まぁ、姫さま次第ですけどね」
黒い塊をつまんだ指先を止めて、エクス・ヴィトは試すようにクレアを見た。
「……でも」
その言葉にすぐにはうなずけず、クレアは蕾を指先でもてあそびながらつぶやいた。
「時々なら、こうやって抜け出すことも許してもらえるでしょう?」
すがるような視線をエクス・ヴィトに向けて、彼から再び微笑みを引きだしたことに、クレアも笑う。
「ときどき、ならね」
風は暖かく、この分では固い蕾たちがほどけてゆくのも程ないことだと思われた。
クレアは驚きを隠さずに声を上げた。
「きれいなところね、王宮って……」
初めて見るそれに、喜びを隠さない。クレアは、旅立ちの興奮を隠さずに声にした。
まるで田舎から上がってきたばかりのお上りそのままの姿に、彼女に生まれたときから仕えている侍女がそっと声をかけた。
「姫さま、そのような大きな声で……」
「だって、こんなに素敵なところだとは思わなかったもの」
クレアは開けられた馬車の扉からぴょんと地面に跳ね下りた。それがまた、侍女の眉をしかめさせた。
「もう、そのお転婆、どうにかして下さいませ。陛下がごらんになれば、呆れておしまいになられますわ」
「陛下、って、お父様のこと?」
初めて会うこのおきゃんな姫君に、少々戸惑いながら手を差し伸べる従者に手をとられ、クレアは振り返った。
「私、お父様のお顔、覚えていないわ。お父様は私のこと、覚えていらっしゃるかしら」
「それは、もちろんでございましょう」
彼女の後に恭しく付き従っていた侍女が言った。
「何と言っても、王妃様の忘れ形見でいらっしゃいますもの」
自分を産んですぐに死んだ自分の母のことを、クレアは話にしか知らない。その肖像画は離宮のある一室に飾られていたが、自分の成長とともにまるでそれが鏡のように、自分がその絵に似て来るのをクレアは驚きの気持ちで見ていた。十五歳の今では、それは自分だと言っても誰も驚かないほどに、そっくりな絵がそこにあった。
「もっとも、王妃様はもっと儚げで、淑やかな方でいらっしゃいましたけれど」
澄ました顔でそう言う侍女に、クレアは顎を反らして見せる。
「何を言うの、マリエル」
クレアと、彼女に仕える侍女の一行は、その時初めて王宮に足を踏み入れた。真っ白な大理石が貼られた廊下が彼女を迎える。
「私は、これから淑女になるのよ。お母様にも負けないくらいの立派な淑女になって見せますわ」
「誠でしょうか」
くすっと笑って見せる侍女に、クレアは憤慨して自分の手を取る従者から身を翻し、彼女の方に向き直って見せた。
「まぁ、なぜ笑うの。いいこと、そのうちお前も驚くような淑女になって見せるから」
「それは、楽しみだね」
低く響く声がした。クレアは驚いて振り返る。吹き抜けになった二階の廊下、その手すりにもたれてこちらを見ている影があった。
「お兄、様……?」
その髪の色、瞳の色。その優しい口調にも覚えがあった。八年来会わずとも、その色を見忘れるはずはない。
この長い月日の間、再会した兄にどういう反応を示そうか、クレアはずっと考えていた。兄に再会できたならば、その胸に飛び込んで、八年前と同じように甘えよう。そう決めていた。その瞬間、八年間の月日の長さもあっという間に溶けてなくなるはずだった。
これが、あの兄だっただろうか。あの頃あった、少年らしいあどけなさはすっかり影を潜め、そこには王者たる風格にふさわしい威厳と、落ち着いた瞳。真っ白な衣装もその体に吸い付くような印象を与え、彼の立つ地位にふさわしい色を兼ね揃えていた。
クレアは気後れした。飛び込もうと思ったその胸には飛び込めなかった。クレアが立ち止まって戸惑ううちに、大理石を踏む高い音がこだまする。それが。セラフィスの靴の音だと気づいたとき、彼女は彼に手をとられ、目の前には久しく間近に見る兄の顔が笑っていた。
「元気そうだね、クレア」
「お兄様、こそ」
セラフィスはクレアに付き従う従者に目で合図し、自ら彼女の手を取って先導を買って出た。
「変わってないね、嬉しいよ」
その微笑みも、わずかに低くなった声も、確かにあの兄のものなのに、クレアはその顔をまともに見られなかった。頬をわずかに染めて、下を向いているしかできなかった。
「陛下がお待ちだよ、行こう」
そんなクレアの手を取って、彼女の心中に気づいているのか否か、セラフィスは歩みを進める。
「陛下も、クレアにお会いになるのを楽しみにしているんだから」
「お父様が……?」
クレアには、母の記憶もおろか、父の記憶すらほとんどなかった。物心付いたときから、兄とともに育ったあの離宮にいたし、そこに父が来ることはほとんどなかった。父の顔は肖像画でしか知らなかった。
「お父様、私の顔をご存知なのでしょうか……?」
不安げに言うクレアを、セラフィスは微笑んで見つめた。
「もちろんだよ、お忘れになるはずがない」
「そうなの……?」
セラフィスに手をとられ、ここに来るために初めてまとった長いドレスの裾を危なげにつまみ上げ、従者にかしずかれて目指すのは謁見の広間。
「私、お父様のお顔を覚えてはいませんわ」
階段を上るとき、クレアはささやくようにセラフィスに言った。
「それなのに、お父様は私のことを覚えていらっしゃるのかしら」
「そりゃあね」
つまづきそうになった一歩に、セラフィスの腕がクレアを支えた。その腕に抱きかかえられてクレアはぱっと頬を染め、慌てて言葉を紡いだ。
「クレアは、お母様にそっくりだということだから」
「そう、なの」
セラフィスにとられた手が震える。その震えを、兄はどのように受け取っているのだろうか。クレアはそれを気に病んだ。
「クレアこそ、私の顔を忘れてたんじゃないのかい?」
からかうような口調でセラフィスが言う。
「そんなわけありませんわ!」
思わず声高に言って、クレアは慌てて口を押さえた。
「そんな、私が、お兄様を見忘れることなんて絶対ありません」
「そう、それならば、とても嬉しいよ」
向けられる笑顔が眩しくて、クレアは目を細める。
「クレアは、きれいになったね。八年前よりもずっと」
その微笑み方は変わらなかった。ただ、その中に含まれる影が以前よりもずっと濃くなっただけで。それは、今のクレアには理解できない影だった。
「まぁ……」
目を細めるセラフィスの視線にいたたまれず、クレアは下を向いた。
「さぁ、お父様にお目にかかりなさい」
重い音がして扉が開く。真っ赤な絨毯が引かれ、長い廊下の向こう、細かな装飾のされた大きな椅子に、髭を生やした、すでに老人といってもいい年の男が座っている。その姿にクレアはすくんだ。セラフィスにせかされなかったら、ずっとそこに立ち尽くしていたに違いなかった。
「陛下、クレアをお連れいたしました」
セラフィスは声を張り上げてそう言い、クレアを促して彼の前にまで連れて行く。クレアにその前に膝まづくようにささやきかける。
「クレアか」
低い声が彼女の名を呼ぶ。クレアは体を強ばらせながらその前に膝を突いた。
「お父様には、ご機嫌麗しく」
「ああ」
答えは短かった。その後続いた長い沈黙に耐えきれず、顔をあげると鋭いまでの視線が彼女を射ぬいた。体がすくむ。クレアは、それ以上一言も発することができなかった。
◆◇
「お父様って、怖い方ですの?」
久々の親子の対面も終わり、クレアのためにしつらえられた部屋に通されたとき、彼女はやっと息をついてそうごちた。
「私、何もしゃべれなかったわ……」
くすくす笑って、妹をその部屋に案内した兄はそれを慰めるように言った。
「怖い方というわけではないのだけれどね、長い間王という座に座っていれば自然厳しくもなられるよ」
「お兄様も、そのうち王になられるのでしょう?」
クレアは、その部屋の絨毯がことのほか柔らかいのに気づいた。壁には優しい白の壁紙が貼られ、薄赤を基調とした家具の数々はことのほか美しかった。
「お兄様は、怖い王様にはならないでくださいね。ずっと、優しいままでいらしてね」
それにも、セラフィスは微笑みで答えるだけだった。クレアはその部屋の美しさに息を飲む。
「まぁ、なんて美しい……」
その色は、クレアのもっとも好きな色だった。柔らかな色合いは長旅の後の父との会見にすり減らした神経を慰めてくれ、クレアはこの城に立ち入ってから初めて息をつけたような気がした。
「気に入ってもらえたかい?」
セラフィスが命じると、侍女のひとりが窓を開けた。そこから吹き込む穏やかな風がクレアの髪を揺らした。
「ここからは、庭が一望できるよ」
「まぁ……」
クレアは声を失う。窓にかけよってその外の景色を見る。生い茂る緑、咲きほころぶ花。すべてがクレアを魅了した。
「素晴らしいわ、本当に、素晴らしい……」
踊り上らんばかりにクレアは声を上げ、兄を振り返る。
「お兄様が用意して下さったの?」
彼は声に出さずに肯定した。クレアは両手を顔の前であわせて満面の笑みを作り、そして歓喜の声を洩らした。
「嬉しいわ、とっても。お兄様、ありがとう」
クレアは、兄に駆け寄ろうとした。確かに、八年前のクレアなら迷わずそうしただろう。しかし、彼女は何かの力に押されるように兄の首に回そうとした腕を押しとどめ、代わりにドレスの裾をつまみ上げて頭を下げた。
「喜んでもらえて、嬉しいよ」
その声には、確かにクレアのそういった行動に戸惑う色があり、クレアもそれを感じ取りはしたが、かといってどうしても兄に抱きつくことはできなかった。
「今日から、ここがお前の部屋だよ。明日、早速お前にこの城や国のことについていろいろと教えてくれることになっている者を紹介しよう」
「まぁ……」
今度のその声は、喜びに満ちたものと言うより、むしろ気が乗らないといったものだった。
「王宮に着いて、早速お勉強、ですのね」
「おや」
セラフィスは笑って言った。
「クレアは、勉強が嫌いなのか?」
「そう言うわけではないですわ」
精いっぱいの否定を込めて彼女は言った。
「ただ、これだけの美しいお城の探検もせずにお部屋に閉じ込められるのがちょっと嫌なだけなのですわ」
「その気持ちも、わからなくはないけれどね」
セラフィスはしつらえてある椅子に腰を下ろした。その前に置いたテーブルの脇にあるもうひとつの椅子にクレアが腰を下ろすと、運ばれてきたのは香り立つ琥珀色の茶だった。
「でもね、クレア。もう十五になったのだから、いろいろと覚えておかなくてはならないことがあるのだよ。王宮の探検もいいけれど、現国王の娘、王太子の妹ともなればそれに伴う義務や責務がある。それを、少しずつでも自覚していくようにしてもらわなければ」
「……」
今までまったく縁遠かったそれらの言葉に面食らいながら、クレアは目の前に茶器に視線を注いだ。
「いい香りがするわね」
「ああ」
やっと気づいたかのように、セラフィスも同じところに視線をそそぎ、そして微笑みながらうなずいた。
「エクス・ヴィトが作ってくれた葉で淹れたものだよ。お前にも、ぜひ味わってもらいたいと思って取っておいた」
「エクス・ヴィト?」
まだ熱いその茶器を手に取って、中の液体に口を付けたクレアは眉をしかめてそれを置いた。
「苦いです」
セラフィスは笑って、自らは満悦の表情でそれを口に運んでから言った。
「クレアには、まだそのままは早すぎたかな。砂糖を入れてごらん」
クレアは砂糖の粒をいくつも茶器の中に沈めて、また兄を笑わせた。
「エクス・ヴィトは、我が側づきの魔道師だ。国の魔道師たちの、頭領という立場にある」
「魔道師ですの」
クレアは目の前の茶器をしげしげと眺めながら言った。
「これも、魔法で作ったのかしら」
「まさか」
空になった茶器を置くと、そこに侍女がすっと歩み寄り、茶器と揃いのポットから新しい茶を注ぎ入れようとした。
「いや、もういい」
その声に彼女は引き下がり、セラフィスは立ち上がった。
「お兄様」
クレアは顔をあげた。
「もう、行ってしまわれるの?」
セラフィスは妹の掛ける椅子に歩み寄り、その肩に優しく手を置いて言った。
「今日は、お前が初めてこの王宮に来る日だったから前々から時間を明けておくように計画していたのだけれどね、もう、仕事に戻らなければ」
「明日、またお目にかかれますの?」
その言葉に、セラフィスはあやふやに首をかしげるだけだった。
「どうだろうか。時間が空けば、お前の相手をしてやるつもりもあるのだけれど、はっきりと約束はできないよ。許しておくれ」
クレアは失望に眉が下がるのを懸命に堪えた。そして微笑みを浮かべて、小さく言う。
「お兄様、……お忙しいのね」
セラフィスはその言葉尻に潜む色を見抜いたのか、妹の肩に置く手に少しだけ力を込め、寂しげな笑みを浮かべてこう言った。
「昔のままでは、いられないんだよ」
「お兄、様!」
クレアはセラフィスの方を振り向いて、口を開こうとした。そしてその顔を凝視して、言うべき言葉を失ってそれを飲み込んでしまった。
「なんだ?」
「なんでも、ありませんわ」
そこにあったのは、八年前とは明らかに違った兄の顔。面影も、そこに漂う色も、それがあの兄だとはっきりと見て取れるのに、自分の傍らに立つ彼はまるで別人のようで。クレアは彼には見られないように小さく唇を噛んだ。
「明日、エクス・ヴィトとユーヌス、お前の勉強の世話を頼んであるふたりをよこすよ。彼らと相談して家庭教師の人選を始めるといい。それまでは、ゆっくり休んでおいで」
「はい、お兄様」
クレアは立ち上がって精いっぱいの笑みを作った。それに安心したようにセラフィスは妹の頭を幾度か撫で、そして忙し気にそこを立ち去った。
取り残された妹はひとり、小さな茶会の後片付けをする侍女たちや、彼女の荷物を運び入れる従者たちに囲まれながら、小さく呟いた。
「これが、決別、と言うものなのかもしないわね……」
それを聞きとがめた一番の古なじみの侍女が問い返す言葉に、クレアは首を振った。
「なんでもないわ」
以前読んだ小説で見知ったその言葉に今の自分を重ね合わせながら、クレアはひとり嘆息した。
◆◇
「はぁぁ……」
マインラード王国の末の姫君は、早くもその名を宮殿中にとどろかせていた。つまり、手に負えないお転婆姫、いたずら姫、その噂は馨しいとは言いがたかったが、それらの言葉に悪意はなく、ともすれば愛情をもって語られていた。クレアの名が宮廷中の臣下たちの微笑みを勝ち取るのにそう時間はかからなかった。
「まぁ、姫さま!」
いつも、甲高い叫び声をあげるのは家庭教師のひとり、舞踏を教える眼鏡をかけた中年の女性だった。
「そんな格好で寝台に上がるのは淑女のなさることではありませんよ。さぁ、お降りになって。授業の時間です」
クレアはその声に、しぶしぶ起き上がった。
「まぁ、靴もお召しになったままで」
頭に響くその声に、クレアは眉をしかめて立ち上がった。
「いいじゃないの。少し、眠かっただけです」
「お昼寝なら、ちゃんとお召しものを替えてからなさいませ。それに、この時間はいつも私が参る時間だと申し上げているではありませんか」
クレアは寝台から飛び降り、そして家庭教師をまた慌てさせた。
「姫さまっ!」
「あああ、もう、いいわ」
いちいちの小言閉口して、クレアは頭を抱えた。
「もう、どうしてみんなそんなふうにうるさいのかしら。たまには私だって寝台から飛び降りたいときだってあるわ」
「姫さまは、いつもじゃございませんか」
家庭教師がどさり、と教科書を机の上に置いたのを見てクレアはまた眉を伏せた。
「殿下も心配しておられましたよ」
「お兄様が……?」
クレアはまた小さく息をついた。
「もぅ、お兄様ったら心配性だわ。私も、ちゃんとお勉強しようという気はあります」
「では、それを態度で示していただかなくては」
クレアが口先で逃れようとしても、家庭教師の方も心得たもの、クレアはさっさと椅子に腰掛けさせられ、教科書の朗読を始めさせられる。
「はぁぁ……」
姫君のため息は、その後も何度も家庭教師の眉を顰めさせた。
そっとあたりを見回して、白い衣装の裾が土の上に擦らないようにつまみ上げ、クレアの青い靴が地面に着いた。抜け出した窓を外から閉め、改めて周りの視線を確かめてから、クレアはぴんと胸を張って太陽に顔を向けた。朝から教科書の顔ばかり見ていたあとでは、この明るい日差しが心地いい。クレアはその暖かさににっこりと笑みを作り、そして前を向いて歩き出した。
王宮の庭園、目指す先はその片隅の、誰も知らないような秘密の場所。王宮に来て、初めて庭園の散策を許されたとき、クレアはここを見つけた。まるで誰からも忘れられたように、小さく区切られたその一角はおざなりな手入れだけで放られている。そのような片隅に立ち入る者もないのだ。そして、その周垣には人ひとりが通れるほどのほころびがあることをもクレアは知っていた。そこから王宮の外に出ることもできるのだ。
そこに足を踏み入れる好機を得て、クレアは得意満面に歩いた。そこにいれば、日が暮れるまで続く家庭教師たちの押し込みから逃げられる。きっと、あとで叱られることになるのだろうが、教科書を前にあくびをしたと叱られるのであればそれはどの道同じだと思っていた。
影が差した。急に現れたその影を訝しんで、顔を上げるより先に声がかかった。
「姫さま、どちらへおいでですか」
顔を見なくても誰かはわかった。セラフィスが選んだ、クレアのお目付け役のうちのひとり、エクス・ヴィトだ。自分の背丈を追い越すほどの長い影、低い声、その中にある、深く落ち着いた印象は彼以外の誰でもなかった。
「別に、どこへというわけでもないわ」
つんと顎を反らすと、エクス・ヴィトは笑って、そしてクレアの行く先を阻む。クレアは顔を上げた。
「どいてちょうだい」
「おや、つれないことですね」
せっかくの憩いの時間を邪魔されて、クレアはいささか機嫌を損ねた。しかし、エクス・ヴィトの方はそれに頓着する様子もない。
「家臣に黙ってのお出かけは、よろしくありませんよ」
微笑みさえ浮かべながらそう言うエクス・ヴィトを、クレアは疑わしそうな顔で見つめた。こんな穏やかな話し方をしていても、腹の中では何を考えているのかわかったものではない男だということを、すでに学習していたからだ。
「嫌です、エクス・ヴィトに教えたら、邪魔されますから」
「そうですか」
素っ気なくそう言われて、それ以上追及されないことにクレアはかえって不満を覚えた。そして、エクス・ヴィトの方を振り返った。
「あら、それはなに?」
エクス・ヴィトは、いつもまとっている、魔道師らしい長いローブの中から、何か大きなものが顔をのぞかせていた。布を貼った板、そして何かを詰めた袋。
「なんなの、それ?」
クレアの視線に気づいたエクス・ヴィトは、にやりと笑って、それをことさらにローブの後ろに隠そうとする。
「姫さまが私にお出かけ先をお教え下さらないのに、私もお教えするわけには行きませんね」
「もう、エクス・ヴィト!」
クレアは飛び上がった。
「教えてよ、それ、なんなの?」
「気になりますか?」
「なるわ、とっても」
じれたようにローブの中をのぞき込むクレアを笑って交わし、エクス・ヴィトは視線をそらした。そして、何かを見つけたように声をあげる。
「ああ、ラーケンですね」
クレアがエクス・ヴィトの視線の先を見ると、そこには人影があった。それがラーケン・レオス、宮廷に直属の魔道研究院の若き秀才のものであることはクレアも、もうひとりの守り役、ユーヌス・キオニアから聞き知っていた。二十代にしてすでに魔道研究院の最高幹部の座にまで上り詰め、国中の魔道師たちの束ね役であるエクス・ヴィトの直属の部下だった。ラーケンとユーヌスは幼なじみということで、ユーヌスがクレアに話してくれたのだ。
彼は、何かを探すようにきょろきょろあたりを見回している。あまり外出が好きでないという彼の姿を王宮の庭園などで見かけるとは珍しかった。
「珍しいですね」
エクス・ヴィトも同じことを思っていたらしく、そんなことを口にした。
「何を探しているんだか」
そして、彼はクレアが驚くほどの声を張り上げた。
「ラーケン・レオス、何をお探しですか」
ラーケンがこちらを振り向いた。ふたりの姿を見ると、面倒だというそぶりでそれでも会釈はし、そしてまたあたりを見渡し始めた。
「何をしているんですか」
彼のもとにエクス・ヴィトはつかつかと歩み寄り、ラーケンを驚かせる。
「別に……」
彼の専売特許である愛想のなさでラーケンは答えた。
「申し上げるほどのものではありません」
「そういう言い方されると気になりますね」
エクス・ヴィトはわざと大きな声で言った。
「そうは思われませんか、姫さま」
振り返るエクス・ヴィトに、クレアも同調した。
「もちろんだわ」
そして、呼び止められたことを迷惑そうに顔をしかめるラーケンの方をのぞき込む。「私たちにお手伝いできることもあるかもしれまないわ。何を探してたのか、教えて」
ラーケンは口ごもり、やがて小さく言った。
「アーシュラを見ませんでしたか」
「アーシュラ?」
エクス・ヴィトが声をあげ、そして首を振った。
「いいえ、見ませんでしたけどね」
「アーシュラ?」
クレアがその横から口を出した。
「誰なの、それ」
ラーケンがしまったというような顔をした。エクス・ヴィトはそれを見て、また、いつもの悪戯をたくらむような表情を浮かべた。
「姫さまはご存じなかったですか、ラーケンの拾った孤児のこと」
「孤児ですって?」
ラーケンと子供。おおよそ似付かわしくないその取り合わせに、クレアは目をしばたたかせた。
「どういうこと?」
ラーケンはますます嫌な顔をする。
「姫さまがお気になさるような者ではありません」
「孤児ですって? ラーケンが、孤児を拾ったの?」
自分の言葉を無視されたことに、ラーケンはため息をついた。
「そうなんですよ、私も信じられませんけどね」
エクス・ヴィトがそう言って、ラーケンに睨まれた。
「この間、騎士団の遠征訓練に付きあったとき、森の中で見つけたんですよ。遠くの国から逃げ出してきたらしいんです」
「そうなの」
クレアは熱心にエクス・ヴィトの顔を見る。
「身寄りも、帰るところもないっていうから、最初に彼女を見つけたラーケンが」
ラーケンが肩をすくめてまた息をついた。
「別に、好きで面倒を見ることになったんじゃありませんよ」
クレアの好奇心に満ちた顔と、エクス・ヴィトの意味あり気な笑いに挟まれて身動きが取れなくなったラーケンは、降参したと言ったように口を開いた。
「帰るところも身寄りもない、と言われちゃ放っておけないじゃありませんか。別に、俺の意志じゃありません」
いかにも興味がないと言ったふうに、彼は言い捨てた。
「おまけに鉄砲玉で、研究院からはあまり出るな、と言うのにすぐ抜け出すんです。今日も、部屋を通りかかってみたらもぬけの殻。まだ王都のこともよくわかっていないんだから、あんまり出歩くなと言ってあるのに」
「どこぞの誰かさんみたいですね」
エクス・ヴィトがちらりとクレアを見て、唇の端を持ち上げた。クレアはその視線に軽くせき払いをして見せ、そして言った。
「私で良かったら探して差し上げるわ。どんな子なの?」
ラーケンはふたりに捕まりながらも、視線だけはその孤児を探してあたりをさまよっている。
「見れば、すぐにわかりますよ。見たことのないような髪の色をしていますから」
ラーケンの視線を追うクレアに、エクス・ヴィトはささやきかけた。
「姫さま、また、余計なことを考えていらっしゃるんじゃありませんか?」
「な、なんなの、余計なことって」
クレアは心の底を見透かされてどきりと彼を振り返った。
「ラーケンの手伝いをだしに、城を抜け出そうとか」
「そんなこと、考えていないわっ」
顔を真っ赤にしてそう言うクレアに、ラーケンはしれっと言った。
「いりませんよ、姫さまに手伝っていただくほどのことではございません」
にやにや笑うエクス・ヴィトは、膨れっ面のクレアを慰めるように言った。
「まぁまぁ、せっかく抜け出してこれたんですからね、お城の外に出ることはさすがに勧められませんが、私にお付き合いなさいませんか?」
ラーケンが、何かを見つけたように、失礼します、と軽く会釈をしてその場を急ぎ足で去っていった。その後ろ姿を残念そうに見送るクレアにエクス・ヴィトが続けた。
「お勉強よりは、楽しいと思いますけどね」
「なんなの?」
ローブに隠した道具を振り回して見せ、エクス・ヴィトはクレアを誘いざなった。
「こちらです」
その先は、煉瓦でかこった四角い花壇。そこかしこいっぱいに広がったそれは、たくさんの緑の芽を吹き出していたが、きっとその先につくと思われる花はまだひとつも開いてはいなかった。
「花壇、なの?」
「そうですよ」
そして、クレアがあれほど見たいとねだったローブの奥の道具は、その時になってやっと取り出された。
「まぁ」
クレアはそこから飛び出した、見たことのないものに声をあげた。
「エクス・ヴィト、絵を描くの?」
小さな椅子。布を貼った板。それを支える、木の衝立。そして、たくさんの筆と色々な色が塗り付けられたパレット。
「そうです」
エクス・ヴィトは折り畳まれた椅子をその形に整え、木の板を衝立に立て掛け、そして、すっかり画家の風情になってにこりとクレアの方を振り向いた。
「何を、書くの?」
目の前の花壇にあるのは、まだ花開かぬ蕾ばかり。緑だけのその彩りの中、クレアは筆を動かすに値するものを探した。
「これです」
エクス・ヴィトは何を言う、と言わんばかりにその緑の花壇を指さす。
「お花がまだ咲いていないのに?」
「それが、いいんですよ」
にっこり笑い、そしてそこにしつらえた椅子に腰を下ろす。
「ううう……」
緑の小さな芽ばかりで、華やかな彩りはまったくないそれを見て、クレアはうなった。
「お花のない花壇なんて、つまらないわ」
にこやかな笑顔を崩さないままのエクス・ヴィトを見上げて、クレアは膨れっ面をした。
「花壇って、いつもきれいなお花が咲いているものだと思ってたわ」
エクス・ヴィトは小さく微笑んで、クレアの頭をくしゃっとなでた。
「ここは、夏に咲く花が植えてありますから。今は、まだ準備中なんです」
「準備中……?」
不満な表情は隠さずに、それでもエクス・ヴィトの動かし始めた木炭の先をじっと見つめるクレアは、その言葉を聞き返した。
「そう、準備中。どんなきれいな花も、こうやって地面の中で力を蓄える時間が必要なんです。そこでじっと我慢して、だからこそきれいな花が咲くんですよ」
頭を出している芽を指先でそっとなでて、その存在を確認するようにクレアは視線を近づけた。
「そう」
蕾と、下絵を形作ってゆくエクス・ヴィトの指先を交互に見つめ、クレアはため息をついた。
「花が咲く前は、そりゃ見栄えはしないかもしれませんが、その中で、より美しい花を咲かせようと、頑張っているんです」
「……そう」
エクス・ヴィトの言葉の裏に気がついて、クレアは振り返った。
「つまり、私にきれいな花を咲かせるためにも、もっとお勉強しなさい、ってこと?」
「まぁ、姫さま次第ですけどね」
黒い塊をつまんだ指先を止めて、エクス・ヴィトは試すようにクレアを見た。
「……でも」
その言葉にすぐにはうなずけず、クレアは蕾を指先でもてあそびながらつぶやいた。
「時々なら、こうやって抜け出すことも許してもらえるでしょう?」
すがるような視線をエクス・ヴィトに向けて、彼から再び微笑みを引きだしたことに、クレアも笑う。
「ときどき、ならね」
風は暖かく、この分では固い蕾たちがほどけてゆくのも程ないことだと思われた。
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