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第二章 貴族は皆、息吐くように嘘をつく
第43話 使命
しおりを挟む『ゼフラーダに異常あり』
ひと月程前軍の拠点の一つ、リサベナ領から連絡があった。
リサベナはゼフラーダと領土を一つ隔てた皇都寄りの領地だ。
辺境伯領近くに軍事拠点の一つを置き権力の偏りを防ぐ目的もあるが、リサベナはゼフラーダの監視より国内の平和維持の為の拠点という意味合いの方が大きい。
ゼフラーダは国境の要。異常には至急対処せねばならないが、しかし場所柄その対応如何では国際問題に発展しかねない。近年魔術持ちは減少傾向にある。それでも要所であるゼフラーダには配置すべきだが、かの地は長年それが不発に終わっている。
先代も今代当主も魔術の素養を受け継がず、次代当主にもその片鱗が現れなかった。当代の伴侶は魔術の素養を持った公爵家から降嫁した姫君であったのだが、それでも駄目だったのだ。こればかりは持って産まれたものとしか言えないのだが、流石にこの辺境伯領ではそれは通じない。
素質が無いならある者に継がせるべきだという意見も出始めているが、アーサーの考えは少し違った。
当代は、公爵家から降嫁した辺境伯夫人がその役割を担っているので口を出す者はいないのだが。次代も素質無しとなれば、また同じように魔術の素養のある伴侶を得るか、親類の中から素養のある者を選び直すか取るしかなかろう。
リヴィアとの婚約は既得権益を手放すつもりのないゼフラーダの布石だったと思われる。
現辺境伯夫人の立てた策だったが、肝心の伯は傍観を決め込んでいる。無能と言われ妻の影に隠れているが、どうだかなというのはアーサーの見解だ。
その目に宿るものは理知か、野望か。いずれにしても馬鹿ではない。私兵の増強に力を入れては、他領からは批判されている。だがそれも愚かな臆病者を演じのらくらと躱している。
魔術の素養を持たぬ自分には、結界陣などその存在を感じられ無いし、怖いのだと。
領主の多くが呆れるこの発言にこそ、アーサーは危機感を覚えている。見えない物を妄信するこの国の在り方。
領土を治める貴族の殆どが魔術の素養を持たない。けれど魔術はこの国の日常に根付き、当たり前のように民の生活と共にある。誰もその在り方を疑わない。
魔術は目視出来ないのが普通であり、見える者が管理する。そしてそれは労働であり平民の仕事である。
抜け出さなければならない。
アーサーはそれこそ自分の使命だと思っている。
ただ……
魔術が好きと言ったあの令嬢は悲しむ未来になるかもしれないけれど。
◇ ◇ ◇
ゼフラーダの事を調べようとすると、何故か求める答えに辿り着けず尻切れトンボになってしまう。理由を調べようと動き始めた頃リサベナから連絡があった。
今までの視察で何も気になる事はなかった。
だからこそおかしいと思うのだ。
アーサーはそっと自分の目を押さえた。
皇族の中の男子で、次期皇帝とならぬ者が継ぐ「陣」。
アーサーの身体にはそれがあった。そしてそれがあるからこそゼフラーダの異変に気づけなかった事が異常なのだ。
あの地で誰かが何かをしている。
それを父に告げた。
父は見てこいと行った。
何かを知っている目で。
出来ればリヴィアを連れて行きたくは無かった。異変の本質が掴めない事が不気味であったし、何よりも元婚約者という、あのくだらない男にリヴィアと引き合わせたく無かった。しかもそれをするのが自分かと思うと、腹立たしい事この上ないのだ。
確か元婚約の男が連れて歩いていたのは、土地の豪商の娘だった。二人は浮かれた恋人同士のようで、これが次期辺境伯夫妻かと、話にならないと思ったのを覚えている。
絵に描いたようような貴族で、魔術の恩恵にべったりと張り付きながら、そのしくみを理解するのは平民の仕事と放棄している。
いくら数百年国境の平和を守護した一族であり、血脈を大事にすると言っても、そろそろ国家が口を挟むべきだろう。
アーサーは指でトントンと自分の腕を叩いた。
「ねえアーサー、そちらの方を紹介をしてくださらないの?」
横から聞こえてきた軽やかな声にアーサーは目を開けた。
思わず顔を向けた先では、湖水の瞳が困惑に満ちていて、アーサーは目を瞬いた。
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