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2章 隣国ノウルでの役割

43. 猜疑心と確信 ※ 前半シモンズ・後半ティリラ視点

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 ティリラ妃と穏やかな顔で会話をするフォリムを眺めながら、シモンズは大丈夫だろうかと、ふとそんな疑念が湧いた。
 だがすぐそんな自分に内心で首を横に振る。
 基本フォリムはブレない人間だ。意思も強い。

 今も穏やかな好青年に扮しているフォリムには隙は見えない。
 そして相手に興味を示しているようで、その瞳の奥は凍っている。いつものフォリムだ。
 元々ヴィオリーシャの婚約者だった頃から、周囲につけ込まれないようにと身に付けた彼の処世術。
 この妃も自分に向けられる表情に疑いを持っていない。
 それは恐らくフォリムの目的の為なのだろうけれど……

 シモンズは、もうその辺はこの主人に任せておけばいいと思っている。この人が美人局などするのなら、自国の肩書きを抜きにしても間違いはないのだから。けれど……

「私の事はティリラと呼んで下さい、あの……フォリム様、とお呼びしても?」

 上目遣いで恥じらう様子のティリラにフォリムは目を細めて首肯した。

「勿論ですティリラ。あなたの事をもっと知りたい」

「そんなっ、婚約者がいるのに、そんな物言いは良くありませんわっ」

 頬に手を当て身をくねらすティリラをフォリムは変わらぬ様子で見つめている。その雰囲気に少しだけ違和感を覚えつつも、シモンズはひとりごちた。

(それより向こうは大丈夫かな)

 何となくグロリオサの棟の方へと視線を向ける。
 意外な事にマリュアンゼはこの短期間でロアンの心を開いてしまった。
 彼女の様子を見るに、フォリムの態度を見て誤解しただろうと思う。もしかしたら、このまま……なんて、余計な考えが頭を掠めては首を横に振る。

(無いな)

 この数ヶ月の主人の様子を思い出しては、その考えは否定する。この場合、否定は願望なのだけど。
 マリュアンゼを妙に気に入っている主人なら、傷害があれば全力で排除するだろうから。
 けれど視線を戻し再び主人の横顔を眺め、シモンズは固まった。同じようにグロリオサの棟を見つめるフォリムの目が、酷く冷たいものに見えたから。
 



 ◇




 明日の約束を取り交わし、別れ際には寂しそうな顔を作ってフォリムをじっと見つめてみせた。
 フォリムは目を細め、またすぐに会いに来ると応じてくれて。ティリラは口元を綻ばせ、雨の棟から去って行くフォリムを見送った。
 自室に戻ったティリラはくるりと一回りして、胸元で手を組んだ。

 まさかこんなタイミングでフォリムに出会えるなんて。ティリラの胸は喜びに弾む。
 三年も待った甲斐があったというものだ。これで今度こそ王族の仲間入りが出来る。きっと大事にされるに違いない。フォリムは会った時からティリラに夢中になる設定だ。
 事実、フォリムはティリラから目を離せずにずっと固まっていた。

 ゲーム転生して、学園内では楽しい時間を過ごせたけれど、卒業してからは全くヒロインの扱いを受けず、鬱屈として生きてきた。それともいうのも夫となったロアンが自分を全く顧みなかったせいだ。強がりをせず自分を妻と受け入れれば、彼も幸せになれたのに……頑固と言うか、バグというか……思い通りにならない行動に随分イライラさせられて来たのだが、それがいよいよ報われる。

 とは言え三年も待つ事になったのは、やっぱり何かしらのバグのせいだと思うけれど……プレイヤーがゲームに入りこむのはバグじゃなだろうなあと思う。
 基本このゲームは一人プレイなのだし、リアルな実体験とは言わなくても、個々人はそれぞれ違うのだから、ヒロインの個性が違うからって登場人物の対応が変わるはずは無いと思うのだ。

 でも実際に展開も少し変わって来ている……本当ならフォリムとの出会いは婚約期間中に発生するイベントなのに? 
 ……まあいいか、考えても答えなんて分からない。それより、

「ロアンだけね、駄目だったのは」

 ティリラはぽつりと呟いた。
 他は皆思う通りの反応が返ってきたのに。
 ところどころシナリオには無い動きがあったけれど、本編に影響のある話では無かった。
 そもそも王家の後継争いなんて難しい事はティリラには分からないし、王族になれれば贅沢な暮らしが出来るだろうから、王位にも特に拘らなかった。
 それで第二王妃の話に乗ったのだけど───

 結果ロアンからあんなに邪険にされるなんて思っていなかった。
 攻略対象から好かれたり、攻略が成功すれば楽しいけど、ゴミでも見るような眼差しを向けられれば腹立たしい。
 ロアンのあの容姿は好きだけれど、もういいと思った。あの頃、ロアン以外の全員が候補だったのだから。

 だからこの状況から救い出して欲しくて彼らを待った。けれど待てど暮らせど誰も来ない。ティリラは社交に全く顔を出さないに、心配では無いのだろうか?
 痺れを切らしてこちらから連絡を取ってみても梨の礫で……
 思い余って当時歯牙にもかけていなかった使いっ走り君たちを頼ってしまったくらいだ。……まあ彼らはここから自分を出せる手段を持ち合わせていないけれど。自分のささやかなお願い位は聞いてくれる、使い勝手のよい人たちだ。

「でもまあもういいわ! フォリムがここから出してくれるんだし! 今度こそ愛されヒロインエンドまっしぐらよ!」

 鏡に向かってにっこりと微笑む。
 学園卒業から三年。まだまだ愛らしい美少女……でもイケる自分をみてティリラの気持ちは益々昂った。
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