やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜

藍生蕗

文字の大きさ
8 / 45

8. 初恋の君は ※ 智樹視点

しおりを挟む

「智樹」

 言いながら背中に凭れる可愛い人に頬が緩んでいたのは、いつまでだっただろうか……

「ねえ智樹、何考えてるの?」

 今はもう重くて仕方がない。
「別に何も」
 ふふと笑いながら、彼女──愛莉が背中に頬を擦り寄せる。
「ねえ智樹、私の事好き?」
「……好きだよ」

 その言葉にじゃれるように益々しがみつく愛莉。
「嫌、もっとすぐに言ってよ。あともっと情熱的に」

 くすくすと笑い声を立てる愛莉への溜息を、ぐっと飲み込む。
「私たちって運命的よね」
「そうだね……」

「ずっとずっと一緒だったのに、上京してから結ばれるなんて、ロマンス小説みたい」
 うっとりと口にする彼女のその科白は、何度目だろうか。

 小説みたいと愛莉が喜んでるのは、俺に彼女がいた……というところだろう。
 多分それが愛莉に火を点けた。
 彼女のいる相手から選ばれる女性。それこそ小説のような恋だと、胸を高鳴らせたのだろう。
 ……ヒロインに憧れる彼女。



 愛莉の事が大好きだった。
 子供の頃からずっと。
 可愛いくて、猫みたいで、ふわふわと甘い雰囲気の幼馴染。
 男子に人気があったから、ずっと手なんて届かなかったけど。
 愛莉は中高と学園中の人気者と付き合っては別れてを繰り返して、女子に嫌われていた。

 モテるから僻まれるんだろうな、そう思って泣いてる愛莉を慰める男子もまた多くて。俺も愛莉が気の毒で、彼女を悪く言う女子を叱ったり睨みつけたりしていた。

 ……そんな俺は愛莉のお眼鏡には敵わなかったけど、それでもたまに「ありがとう」と、目を潤ませてお礼を言われれば、天にも登る気持ちだったんだ。



 愛莉が好き過ぎて、俺は上京した。
 愛莉が東京の学校に行くと言っていたから。
 けれど愛莉は志望校に落ちてしまった。
 がっくりと落ち込むところに雪子が現れて……

 受験の日に見かけたなあ、なんて。
 隣の席に座っていた人を、席を立つ時に目印にしていたから覚えている。
 物静かな雰囲気だけど、暗いとかでは無くて、楚々とした印象の人だった。
 何となく嬉しくなって話し掛けたのが始まりだった。

 俺は愛莉が可愛すぎて今まで他の女子に興味を持つ事が無くて。そもそも愛莉は、何故か殆どの女子に嫌われていたから、そんな奴らと仲良くなんて出来る筈も無かった。

 けれど雪子は他の女子たちと違っていて。
 気付けば俺は愛莉への想いを雪子に話して、恋愛相談みたいな事をしていた。



「雪子さんに悪いわ……彼女、大丈夫なのかな?」
 ぴくりと身体が反応する。
「……いい加減もう、大丈夫だろう」
 雪子に伝えたのは一週間前、愛莉に伝えたのは二年前。
 雪子へのお別れの言葉──

 愛莉と同棲するにあたって、流石に雪子と付き合い続ける事は出来なかったから。

 この二年、愛莉は事あるごとに雪子の名前を出しては、申し訳無いと悲しそうに話してきた。
 その度に俺の罪悪感も積もっていく。

 雪子の気持ちは嬉しかった。
 ずっと愛莉への想いが叶わなくて、思い詰めては愚痴り、落ち込む俺を励まして認めてくれた、唯一の人だったから……

 だけど別れを選んだ人。
 だってやっぱり俺は愛莉が一番で──

 愛莉に、雪子と付き合う事にした。と報告したのは、気持ちの区切りを付けたかったから。
 だけど……大切な幼馴染の彼女に是非会ってみたい。と愛莉に言われれば、やっぱり何かを期待してしまって断れなくて──

 それからすぐに好きだと涙ながらに告白された時、やっぱり愛莉がいいと思ってしまったのだ。
 雪子とは上手くいかなくて、別れてしまったと了承すれば、愛莉は驚いていたけれど。嬉しいと抱きついてきて……

 愛莉と付き合うと決めた時、本当に雪子と別れれば良かったんだけど、雪子は意外と男女問わず人気があった。真面目だし、人当たりの良い性格だからだろう。

 だから付き合って直ぐに俺の都合で別れれば、非難の目はこちらに向けられるだろうとつい怖くなって、別れを先延ばしにする事にした。
 ほとぼりが冷めるまで……

 そう安易に考えていたものの、雪子との付き合いは、なかなか終えられなかった。

 なんて言うか……雪子は癒された。
 愛莉が奔放に振る舞う分、雪子といると心が休まる感じがして……手放せなかったのだ。

 けれどそれも学生が終わるまで。
 愛莉が一緒に住みたいと言い出したから。
 愛莉は俺たちの事を親に話してしまった。

 俺たちは幼馴染だし、お互いの親も悪いとは言わなかった。
 元々愛莉の親は一人暮らしの娘を心配していたし、智樹君なら──と、一緒に暮らす事を提案してきた。勿論将来を視野にいれて。
 どうやら同棲を望んでいた愛莉は、それを手放しで喜んでいた。

 愛莉が笑えば俺も嬉しい。
 けど──
 雪子がいないのに、大丈夫かなとも思った。

 疲れた時、落ち込んだ時に愛莉と会うと余計に辛くて……そんな時ばかりは雪子じゃないと駄目だったから。
 そんな考えに首を振り、愛莉と目を合わせる。

(こんなに可愛い愛莉と四六時中一緒にいられる事を……ずっと望んでいた)

 同棲の先には結婚が待っている。マリッジブルーなんてまだ早い。
 けれどそう信じてきて、たったの二月で、俺の心は折れそうで……

「ねえ、また先輩から誘われちゃった。断り辛いから、一回だけ行って来ていい?」

 ひくりと頬が強張るのを感じる。
 男の先輩からの合コンの誘い。
 同棲相手がいると知っても誘うらしい。

「お願い、智樹」
 擦り寄る愛莉にいつもの返事をする。
「いいよ」
 するとぱあっと花のような笑顔が返ってきて。
「嬉しい! 智樹、大好き! じゃあお金持って行くね!」

 嫌な顔をすれば愛莉は泣くから……
 先輩に怒られてしまうと、職場で嫌われる。と──

 二人で貯めようと始めた結婚準備金。
 貯金箱に入れては出すを繰り返すから、銀行に預ける間もなく無くなっていく。
 他の男と飲むために減っていく俺たちのお金。

 俺に黙って行くのは忍びないから、と始めたこの報告は、いつまで続くんだろう……
 知っても知らなくても頭が痛い。

 もしかして結婚してからも……
 いや、そんな筈はない。

 首を横に振る。
 愛莉はそんな女じゃない。

 ──そんな女って、どんな女だ……?

 一瞬過った考えを振り切るように、俺は身を捩り、背中にいる愛莉を抱きしめた。

「愛莉、愛してる」
「私もよ、智樹」

 嬉しそうに背中に回される腕に答えるように、俺も愛莉の小さな身体を一層きつく、抱きしめた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

いつから恋人?

ざっく
恋愛
告白して、オーケーをしてくれたはずの相手が、詩織と付き合ってないと言っているのを聞いてしまった。彼は、幼馴染の女の子を気遣って、断れなかっただけなのだ。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

処理中です...