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14. 恋人宣言

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「ナタナエル殿下、その、宜しければ二人でお話ししませんか? お庭の薔薇が見頃だそうですよ」

 こちらもまたシーラが目に入らないようで、リュフィリエナはナタナエルにふわりと微笑んだ。だが、そっと伸ばされたその手を避け、ナタナエルはシーラの肩を抱いた。

「あなた方の信仰する神とやらは、祝福を与える相手を選ばれるのか? 何故シーラを無視するのか理解出来ない。兄上、そもそも僕は見合いなどするつもりは無いとお伝えした筈です。あなたが見初めた相手なのですから、あなたが結婚したら宜しいでしょう」

 ナタナエルの言葉にロイツは初めてシーラに目を向けた。
 次期国王の視線が下級貴族シーラに突き刺さる。
 いや、別に放っておいてくれて良かった。

「……分も弁えず申し訳ありません。お話の邪魔をするつもりはありません」

 シーラの台詞にロイツはナタナエルに向き直った。

「私は司祭だ。結婚はしない。だが王となるなら後継が必要だろう。お前と聖女リュフィリエナ王女の子なら相応しいという話だ」

「……兄上は神様が大好きですからね。けれど王となるなら婚姻を結び、次代に繋げるのは義務ですよね?」

「次代の事なら考えているだろう。私の結婚は関係のない事だ」

「大有りですよ」

 ナタナエルの声が信じられないくらい低い。
 シーラは背中に汗を感じながら、何も出来ずに固まっていた。

「ロイツ殿下、わたくしたちは出会ったばかりなのですから、仲良くなるのはこれからだと思うのです」

 そう言ってナタナエルに向かい小首を傾げ、ね。と口にするリュフィリエナはなんとも無邪気で愛らしいのだが……シーラは言いたい。

 空気読め!

 ナタナエルからはどす黒い何かが巻き上がっていて、シーラの肩に置かれた指が食いこんでいる。

 何故弊害が自分に来るのだろう……

 あああ、帰りたい。王族怖いしもうこの空気嫌だ。

「そこなる女がお前に仕えているという噂は聞いているよ。幼なじみだそうだな。リュフィリエナ王女の侍女に良いかと思ってラフィムに命じて様子を見させたが、魔に魅入られた可能性があると聞いている」

 ラフィムはメシェル国の人間だったのか。そう言えば信心深い人だったし、勇者の子孫とか言ってたな。
 だがその言いがかりに思わず顔を顰めそうになる。

「兄上、彼女は子爵令嬢です。王となるなら礼を失するべきではありません。魔に魅入られるとは何ですか? そんなくだらない不可視な現象を僕の恋人に見出さないで頂きたい」

 思わぬ言葉にシーラは弾かれたようにナタナエルを見た。

 ……いや、照れないで欲しい。こっちが恥ずかしくなってくるじゃないか。

 恐らくナタナエルはこの縁談を退ける為にシーラに白羽の矢を立てたのだろう。確かに事前に相談されていたら、決死の覚悟で逃げ出していただろうけど。

 それにしても、三人纏めて良く似た兄弟だと思う。

 長男は真実の愛とやらの為に王位を放棄し、次男は自らの思想の為に婚姻を拒み、三男は……何か知らないけど聖女との婚約を嫌がっている。

 いや、全く覚えが無い訳では無いけど……
 シーラは胸を過ったものを振り払うように、一つ息を吐いた。
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