【完結】暴君王子は執愛魔王の転生者〜何故か魔族たちに勇者と呼ばれ、彼の機嫌を取る役割を期待されています〜

藍生蕗

文字の大きさ
40 / 51

おまけ 魔族は献身する

しおりを挟む

 自分ほど主に忠実な魔族はいないと思う。
 魔王に付き従い時空を越えて、魔族にとっては生命力と等しい魔力をほぼ無くした。
 そしてその上で彼が伴侶を捕まえる手段を甲斐甲斐しく手伝っている。

 その一つがこれ。

「セドリックさん! こちらもありました! すみません遅くなって!」

「ああ、悪かったなホーンズ。書類はそこに置いておいて貰えるかい」

 そう言って、大して整理されていないテーブルを指し示したセドリックもまた、積み上がった書類の間から顔を覗かせていた。

 その言葉にホーンズは、少しばかり顔を引き攣らせ、「僕、片付け手伝いますね」と、テーブル周りを片付けだした。

 その言葉に礼を述べ、再び目の前の書類に向き直り────
 ふるふると頭を振る。

 今は城の人事についてをまとめている。
 必要な人間の配置に頭を悩ませる。

 あの娘にちょっかいを掛ける、或いは興味を引くような輩は遠ざけ、且つ必要人事に影響を与えないような配置。
 
 そう言えば王族用の教育が始まったり、彼女につける騎士の配置も決めたりしなければならない。
 何でも主人は女性騎士がいいと言い張り、騎士団長を困らせていたらしく、セドリックにまで愚痴が回って来た。

 それを宥め透かし、果ては女房との痴話喧嘩にまで付き合う羽目になり……

 (……)

 セドリックはため息を飲み込む。
 何故こんな事をしているのかと、思った方が負けなのだ。


 不思議なもので、一度忠誠を誓ってしまうと魔族というものはその意識を外せないようで。

 セドリックはわざわざ人間に擬態し城内に忍び込み、日々魔王に献身している。

 ……献身……しているのだ。

 思わず頭を抱えたくなる衝動をなんとかやりすごし、セドリックは思いを馳せる。魔王と初めて会ったあの時を────思い出そうとして、気分が悪くなって止めた。

 何故あの生意気なクソガキとの出会いを、わざわざ思い出さねばならぬのだ。
 番が見つからないなどと抜かし、三百年も待たせやがって。
 人間なんてどれも一緒だろうが。どれでもいいからさっさと済ませろと悪態をついたら、おばばにぶん殴られた。

「馬鹿な事言ってるんじゃないよ! 番ってのは特別な一人の事だ! 誰にも代わりなんて出来るもんか!」

 ……そうだった。この婆さんの前でこの手の話は、何故だか禁句なのだ。妙に人間に肩入れする魔族。とはいえ魔族らしく人に無関心な面も当然あるが、通常の魔族の感覚で言うと、彼らに対し、遥かに深い「情」をもっている。

 セドリックはおばばより生まれが遅い為、詳しくは知らないが、どうやら、この婆さんは昔人間と恋仲だったのだとか……

 魔族の中でこの婆さんの噂話を嬉々として話す輩は珍しい。何故なら大抵の魔族は、生まれたばかりにはこの婆さんに世話を焼かれ、人の世への馴染み方やら振る舞い方などを仕込まれる。

 婆さんを知らない魔族は大抵その習わしを軽んじ、人間を害する。そして婆さんに叩きのめされるのだ。

「いたずらに人間を害するんじゃない!」

 けれど、以前そんな婆さんの考えに反感を持った魔族が徒党を組み、婆さんを襲った。
 セドリックは特に関心も無かったので、傍から眺めて見物していたが、おかげで彼らが一瞬で吹き飛ばされていく様を目の当たりにしてしまった。

 逆らう者には容赦しない。
 遠慮なく奴らを踏みつけて消滅させるおばばを目にし、あそこにいるのが魔王じゃないか? とぐるりを囲んでいた魔族たちは全員怯えていた。

 とは言え魔族には魔力が必要なもので、どうしても人に対する害意は持つものだ。
 けれど、おばばは別に異形が生きる手段を無くすつもりは無く、魔族が一方的に彼らに京楽を求める事や、嬲(なぶ)り殺しを嫌うようだった。

 確かに人族相手に魔族がそれをやるのは、質が悪いような気がするが、あなたがそれを言うかとは、塵になった同族を見送った皆が思った事である。



 おばばは、人に考え方が近いような気がする。
 以前噂で聞いた事がある、生まれたばかりの魔族が人間に保護されるとどうなるか……

 でも、そんな話信用出来ない。
 人間は生まれたばかりの魔族を見れば、欲を持つ。
 そして生まれたばかりでは、魔族は魔力を扱えず、無力だ。

 その時ばかりは魔族は人族から害される弱い立場なのだ。
 だから、そんな関係は成り立たない。



 セドリックは、自身もそうであった経験から、新たに生まれた魔族はおばばの元に連れて行っていた。
 生き方を知らぬ、弱い者たち。
 けれど彼らも、人の世で過ごせば自然と魔力は高まる。

 ただ、秩序に触れず過ごした魔族は、稀に非常にタチの悪いものになる。
 別に魔族は人を支配したい訳では無い。
 大抵の魔族はそんな考えは持たず、人に紛れて生きていた。



 現魔王は、セドリックがおばばの元へ連れた内の一人であった。

 おばばは魔王を見て確信したようだった。
 彼が次代のそれであると。

 そしてその後見たものは、セドリックは今でも見間違いだっのでは無いかと疑っているのだが……



「あら、精が出るわね」

 その言葉にセドリックは、傍に置いてあるお茶を溢した。
 ガチャンと言う音にホーンズが顔を上げ、目を丸くした。

「エ、エデリー様? 何故こんなところに?」

 その言葉にエデリーおばばは、いたずらっぽく目を細めた。

「あら、ここは宰相直轄の部署なのでしょう? わたくしのお父様の部下の仕事を見たくなっただけよ」

 その言葉にセドリックは冷や汗を垂らした。

 以前魔王に勇者襲っちゃえと告げたところ、魔王自体にも断られたのだが、それをどこからか聞きつけたおばばに低く脅された。


「余計な真似すんじゃねえ」


 令嬢の品位かけらもなかった。
 年寄りの威厳しか感じられなかった。

 その場に居合わせたセドリック他魔族たちは、恐怖の余り失神しそうになった。
 得てして生き物というのは、三つ子の魂百まで……どころでは無く死ぬまでらしい。
 もう生涯おばばが怖い。きっと生まれ変わっても怖いのである。

 こんな婆さんを妻に選んだパブロは見る目も趣味も悪いものだと、白けたものだが、彼もまた何と言うか……魔族から見ても病んでいるようで、お似合いらしい。それは……



「ねえ、セドリック? 構わないわよね」

「はい勿論です。エデリー様」

 反射で笑顔と肯定の返事が出る。
 仕方がないのだ。三つ子の魂は永遠なのだから。

 満足そうに頷くエデリーは、その後目を留めた書類についていくらか質問をし、今後のスケジュールを確認していたところで、婚約者であるパブロが顔を出した。



「ここにいたのか」

 ホッとした顔をして、直ぐにエデリーの腰に手を回して隣に立つパブロに、彼女もまたくすぐったそうに笑っている。

「もうお仕事は終わったのかしら?」

「とりあえず今日の分は……まだ聞きたい事があるからと、オフィールオが……」

 はあ、とため息をつくパブロの頬を慰めるように撫で、エデリーは、目を細めた。


 (あ……)


 すると、はっとするセドリックにパブロがじろりと目を向けた。

「なんだ?」

 セドリックは肩を竦める。

「……いえ、仲がよろしいなと」

 その言葉にエデリーも首肯する。

「当然だわ。わたくしたちは、長く婚約関係にあるのだから。さあ、そろそろ戻りましょうか。わたくしの確認も終わりましたから」

 そう言って二人は連れ立ち去って行った。



 セドリックは、はあと息を吐く。

「いやあ、本当にパブロ様はエデリー様を愛してらっしゃるんですねえ」

 ほうと息を吐いてホーンズが口にする。

「……そうだな」

 エデリーとおばばは、時々同じ目をする。
 それを見たのはたったの二度だけど、セドリックにはとても稀有なものに見えた。

 それは生まれたばかりだったナタナエルを拾い、おばばの元へ連れて行った時。

 おばばはナタナエルを見て次期魔王と確信を持った。
 けれど、あの時同時に何かを見ていた。

 それは何だったのかはセドリックには分からないけれど、鬼の目にも涙というのは流石に衝撃だった。
 おばばは隠そうとしていたようだったけれど、それなりに長い付き合いだった自分には分かってしまった。

 そして、さっきも少しだけおばばに同じものを感じたのだ。その目はパブロを見ていたけれど……


 セドリックにはやはり分からなかった。
 誰かに特別な感情を持つという事……

 けれど、恐らく魔王はどれ程回りくどくとも、勇者の心を真に射止めるまで彼女を伴侶にはしないだろう。

 何よりエデリーがその考えを支持しているというのだから、自分たちに異を唱える術など無い。



 そんな事を考えていると、ホーンズが作業を再開する。
 セドリックはその様をぼんやりと眺めながら不思議に思う。

 人間とは不思議だ。
 生きた年月から多くを見てきたものの、その生態は未だよく分からない。例えば今のホーンズの行動。
 セドリックに媚びて身の回りの世話を焼いているのではない。
 何故か彼はそれを喜びの一つとして行うのだ。



 彼は平民で、やはり身分と言うのは今の世では絶対だ。
 そんな中、彼が以前貴族の服を汚したと言う理由で、投獄されそうな場面に出くわし、助けた事から始まった。

 彼が掃除した場所で貴族がすっころんで恥をかいたと、八つ当たりでホーンズを罪に問おうとした。
 そいつはアンニーフィス家と懇意にしていた家の者で、助けに入れる者はいなかった。

 馬鹿馬鹿しいとは思ったものの、仕方が無いのでセドリックは割って入った。真面目に働く輩はセドリックが重宝する、大事な人材だったからだ。
 彼に掃除を指示したのは自分だと、代わりに謝った。
 セドリックは城でまあまあの立場にいる者なので、相手も何とか黙ってくれた。……というか面倒なので魔力を使った。


 うっせーから黙れ


 それからホーンズはセドリックに懐いた。
 裏表無く接し、セドリックに仕えるように働くようになった。
 魔族は害意には慣れているが、純粋な物には余り縁が無い。だから実はセドリックはホーンズが苦手だ。
 でも嫌いでは無い。

 自分の考えにも首を捻る。
 不思議な生態を持つ人間と共に過ごすと、自分にも不思議なものが生まれるらしい。

 ただ、それでも魔王のように、人を愛する感情を持つ事は、叶わないのだろうけど。
 そして恐らくそれが魔王となれる条件。
 他の魔族が持てない感情もの


 やがて自分の仕事に満足をしたホーンズにお礼の菓子を握らせを見送り、セドリックは再び一人机に向かう。
 
 そして目の前の書類に集中をすれば、やがて外は暗くなり、セドリックは一人、静かな部屋で仕事に勤しんだ。



 数年後、魔王が子を成すのを見届け、セドリックの魔力は尽きた。
 けれど彼は最後に忠義を発揮し、よせばいいのにルデル王国内のある貴族の三男の胎児に宿った。そして将来シャオビーズ家の嫡男の侍従を務める事となる。
 そこには魔族であった頃の記憶は無く、当然魔力も無い。



 彼は初対面からシャオビーズ夫人を苦手にする自分を不思議に思った。優しく微笑まれると、背筋が凍るような感覚を覚える。それもまた不思議で。

 幸いにして、大して関わり合う事があまり無かった為、侍従の仕事に不都合は無かった。
 ただ一度だけ、夫人の横顔が誰かに似ているような錯覚を覚え、つい口にしてしまった。


 夫人は驚いていたようだったが、


「三つ子の魂は永遠なのね」


 と、懐かしいものを見るように目を細め、はぐらかされてしまった。

 彼は首を捻ったものの、掴み損ねた何かに捕らわれる事はなく、そのまま人として生きて行った。
 やがて愛を知り、苦悩しながら。ごく平凡な一人の人間として。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

処理中です...