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番外編 異類婚姻譚 ー魔族と人ー 2. 移住
しおりを挟む「隣国へ渡ろう」
そう言って彼と森を歩いた。
昨日のような野犬や獣たちを、彼は難なく払った。
追っ手に掛かると面倒臭いからと、酷い悪路を歩かされた。
よたよたと前を進む彼に着いていく。
彼は時々振り返っては、少しずつ歩みを遅くして行った。
「俺の聞いている魔性とは違うな」
一休みする中で、彼は呟いた。
しげしげと彼女────セラを眺める瞳は心底不思議そうだ。
「お前は弱い魔性なのか?」
その台詞にセラはむっと顔を顰めた。
「産まれたばかりなだけだ」
男は目を丸くした。
そう言えばこの男に返事をした事は無かったかもしれない。
と、そこまで考えてセラはある事に思い至る。
「お前の名前を聞いていない」
セラを、じっと見つめた後、息を吐き出しながら、男は苦笑した。
「レイディ。レイでいい」
それからレイは少しずつ自分の話をし出し、セラの事を聞くようになった。
レイはセラが魔族だと思っていても、特に気にした風でも無い代わりに、魅了すらされていないようだった。
セラの自尊心は傷つけられる。
自分は産まれたばかりとはいえ、魔族なのに。
他の魔族は産まれたばかりの時、皆同じように人に翻弄されるものなのだろうか。
翻弄……
セラは前を歩くレイの背中を見つめた。
人に対してそんな感情を抱いたのは初めてだった。
◇
やがてセラが住んでいた街とは違う街に辿り着いた。
そこで船に乗り、隣国へ。
産まれて初めて見る海に目を輝かせ、潮風の心地よさに心が浮きだった。
船を降り見渡せば、今まで暮らしていた場所とは風土の違う環境がセラを囲んでいた。
景色を楽しむセラにレイは微妙な顔を向ける。
「その……どうする?」
セラは首を傾げた。
「一緒に来るか?」
もう一度問われたその言葉にセラは目を見開き、そのまま勢いよく首肯した。
◇
レイは騎士団に所属していた。
第三騎士団という、部隊で、任務は他国も含む情勢調査。
騎士団へ報告を済ますべくセラを伴ったレイは、団員に大層驚かれた。
宿舎にセラを住まわせられるかと聞いてみたが、宿舎は独り身専用だと事務担当にニヤついた顔で返され、苦虫を噛み締めた。
(……別に、一時的に保護しただけだ)
拾ってからひと月も経たないが、本当に人に混じって暮らしていたのかと不思議に思う位不器用だった。
確かに綺麗な顔をしている事には驚いたが、どこかぼんやりとしているのに、興味を持ったものには目を輝かせ頬を紅潮させていて……
子どものようだと思った。
産まれたばかりだと言っていたから、間違えてはいないだろう。だからあんな純粋な反応で────
そこまで考えてレイは顔を顰めた。
純粋な魔性など……
けれど言い得て妙だと思う自分も確かにいた。
まあつまり、魔族とは言え子どもを害する気にはなれなかったのだ。
「揶揄ってやるな。こいつに限ってそんな筈は無いだろう。また捨てられて途方にくれてる奴を拾って来ただけだ。一緒に暮らすわけじゃあ無いんだろ?」
ふと掛けられた声にレイは顔を上げた。
「隊長……」
「良く戻ったな、レイ。任務遂行により、お前の実績は確実に積み上がったぞ。また一歩前へ進んだな」
「……ありがとうございます」
いくつかの書類を受け取り、レイは目を伏せた。
「ああーそうか、もうすぐ結婚するんだったなあ。おめでとうレイ」
違う方から飛んできたその言葉に顔を向け、レイは軽く頭を下げた。
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