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34. 誓い

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 この人を守りたい。
 義務でなく、私は心からこの人を愛し、抱きしめたいと思うようになってしまって。傷つけたくないとか迷惑に思われたくないなんて言い訳だと気付いた。
 だってそれ以上にこの人が好きで、誰にも渡したくないし、この人の隣に別の誰かがいるだなんて想像したくない。
 言えない自分の醜い本音を隠したくて、私は両手で顔を覆った。

「あなたの事が好きです……この半年、この思いは掠れる事もなく。ずっとお慕いしてまいりました」
 私の心の本質は、結局たったこれだけ。
 けれど自分の心を口にするだけなのに、どうしてこんなに勇気がいって、身体が震えるのか。
 イーライ様は何度も伝えてくれたのに。

 沢山くれた勇気に私も応えたくて、いつもくれる言葉に頷くだけでなく、自分から言いたかった。
 ……でもやっぱり恥ずかしい。

 先程まで読んでいた手紙が頭を掠める。
 それは妹、ビビアからの手紙。
 辺境の地で元気でやっている事。婚約者が決まった事。自分なら当然だという自信から、お姉様はちゃんと幸せを掴む努力をしているのかという心遣いが、ビビアらしい文面で綴られていて──

 勇気を貰った。
 不思議なものだ、もう関係ないと思っていたのに。
 あの子の成長が、こんなにも嬉しい。

 だから私も踏み出したいと思った。
 自分を顧みてしょげかえる事ばかりせず。
 前向きに変わる……幸せを掴む努力を……

 目を逸らしては駄目だとイーライ神官に視線を向ければ、彼は瞳を揺らして私を見つめていた。

「レキシー」
 イーライ様はゆっくりと立ち上がり、私をきつく抱きしめた。
「私もです、あなたの事以外、全てどうでもいい」
「イーライ様……それは言い過ぎです」
 思わず脱力しそうになって、それから変わらぬ彼らしい物言いに、くすくすと笑いが込み上げる。
 それを見てイーライ様は少しだけ不満そうに、綺麗な柳眉に皺を寄せた。

「私はあなたを手に入れる為に、邪魔なものは全て排除する事もやぶさかではありません」
「そんな必要ありませんよ」
 そう言って首を振ると、イーライ様はいつものように不安そうな、困り顔になった。

「イーライ様」
 私はそっとイーライ様の頬に手を添えて口の端を持ち上げた。

「大丈夫ですよ。あなた以上に気になる方なんていませんから。……それに私が見てないと、あなたは暴走してしまうのかなあと……観念しました」
「えっ」
 がんっ、という効果音が聞こえるような顔をされた。

「──そ、そこは惚れ抜いたと言ってくれませんか」 
 ちょっとだけ口を尖らせてはいるが、その様子がなんとも可愛くてつい意地悪を言ってしまう。
「絆されたのでは嫌ですか?」

 するとイーライ様の顔にじわじわと笑みが深まり、そのまま嬉しそうに両手を広げた。
「まさか……だって、これで私はあなたの一番になれるのでしょう? ずっとずっと待っていました、この時を!」

 感極まったのか、イーライ様は私の腰を取り、高く持ち上げた。
「きゃあ!」
 驚きに首に抱きつく私を覗き込み、イーライ様は瞳を輝かせている。
「レキシー、私と結婚して下さい!」
「……っはい、イーライ様。喜んで……お受けします!」
 嬉しさに涙が溢れるのに、不思議と笑みが込み上げて。

 イーライ様は私をを掲げたままくるくると回り、勢いのままぎゅっと抱きすくめた。
「もう、目が回ったわイーライ様」
「ごめんね、レキシー」
 言いながら、そっと唇を重ねる。
 この半年の間にそれとなくと奪われては、その度に叱ってたけれど。今日はそんな事はしない、その代わり──

 はしゃくイーライ様はまだ私を抱き上げたまま、落ち着かないのか早足で歩き回っている。
「やっとレキシーが私のものになった。広く周知して他の男が手を出さないようにしなければ!」
「もう! そんな人いないから、大丈夫です!」

「……君はお人好しだから信用ならないな。勝手にくっついてくる野良犬に絆されて餌を与えているうちに、君自身が食われてしまったらどうするんだ」
「イーライ様! 馬鹿な妄想をしないで! わ、私はこれでもあなたしか好きになった事が無いんですから! そ、そこはっ、信頼してください!」

「……っ、信じるとも! ただそれと心配は別だというだけで……」
 ごにょごにょと口籠るイーライ様の頬をそっと包み、私から口付けた。誓いの口付けは、自分からしたかったのだ。

「約束ですよ?」
 でも同じように思って欲しくてじっと見上げれば、吸い込まれるようにイーライ様から再び口付けて。
「信じるよ」
 
 嬉しいけれど。
 きっと掻き乱されるこの心は、いつまでもこの人に翻弄されるのだろうと。今はただ、近い未来も、遠い未来も、瞳に映るお互いの心が永遠である事を願い、誓った。



 ◇



お読み頂いてありがとうございました!

元々短編で書こうとしていた話なのですが、その時点で三万字くらいになってしまって。中編にしようかな……とあれこれ書き足していたら、思ったより長くなってしました。
まだ足りてないところもあるような気がしますが、取り敢えず最後まで投稿できて一安心。
お付き合いありがとうございます。

おまけ一本用意しましたので、そちらも読んで頂けると嬉しいです。(明日投稿予定)
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