今宵、君と、月を

槇村焔

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2話

・・・

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「宮沢さん…!」

先生の家から自宅へ帰宅する途中。
最寄駅で、ばったりと夏目君に出くわした。

「夏目くん…どうして…?」
「俺は、椎名先生の家の帰りです。
宮沢さんは相良先生ですか?」
「うん」
「待ち合わせもしていないのに、こんな偶然あるんですね。
途中まで一緒に帰りませんか?」

夏目くんのお誘いに二つ返事で頷き、夏目くんの隣を歩く。

「今日もお仕事ですか?」
「いや…。
今日は仕事じゃなくてプラーベートで椎名先生から呼び出されまして…」

頼られるのはいいですけど…頻度が多いとちょっと、と椎名先生への愚痴を零した。


「椎名先生、やっぱり忙しいんですか?」
「そうですね。ほどほどには。
新作出したばかりだし、映画化される作品もありますからね。

なんか色々と大変みたいですよ。
だからって、俺をマネージャー代わりに呼ぶのは勘弁して欲しいんですけどね。
八つ当たり係ですよ、俺。先生、友達が少ないですから。愚痴れる相手、俺くらいしかいないんです」
「夏目くんが頼もしいから、椎名先生はつい呼び出しちゃうんですよ」
「そう言われると、光栄ですね」


ニッコリと、夏目くんは僕に視線を合わせて笑う。
久しぶりに見た笑顔に、カァ…と顔が熱くなる。
恋なんてしないんだ…と心に誓ったばかりなのに、夏目くんの笑顔を前にするとそんな決意も崩れ去ってしまいそうだ。
離れていて落ち込んでいた気持ちは、夏目くんにあっただけで簡単に浮上する。


「椎名先生って、どんな人ですか?」
「どんな…ですか?
そうですね、とっても面白い人ですよ。
かなり手のかかる子供みたいな…」
「子供みたいな人?」
「ええ、だから贔屓しているわけじゃないんですけど、ついつい椎名先生には厳しいことを言ったりプライベートでも色々と相談に乗ってしまうんですよね。
仕事以外のこともおせっかい妬いてますよ」
「プライベートも…」

それって、椎名先生が夏目君にとってそれだけ特別な人なんだろうか…。

「あの人あれでいて、凄く内面が弱い人なので。
俺の知り合いに似て、なんとかしてあげなくちゃ…と思うんです」
「知り合い…?」
「ええ。子供っぽい人でした。
椎名先生みたいに自己主張激しい人ではありませんでしたが、とにかく目が離せない人でしたよ。
何もないところで転ぶし、すぐ迷子になるし…。
ドがつくほどのお人好しで…。あの人の笑顔で何度も救われました…。俺の初恋の人です」


初恋の人。
それって、今でも好きな人?

「その…初恋の人って…いうのはーー」

僕の問いかけに、夏目くんは小さく口元に笑みを受けべ「今はもう会えないんです」と呟いた。

「会えない?」
「会う資格がないんです。俺はあの人が困っている時に助けることができなかった。

あの人の笑顔が段々と陰っていたのを気づいていたのに、俺はあの人の大丈夫という言葉を鵜呑みにして助けてあげられなかった。

あの時の俺は、自分の感情を受け止めるのに必死で、初恋の人が出しているSOSに気づいてあげられなかったんです。

そうしてあの人からは少しずつ笑顔が消えて…

苦い初恋の思い出です。青春時代にありがちな…」
「苦い思い出、ですか…」
「あの日の出来事があって…、好きな人には頼ってもらえる人間になりたいと思いました。
助けを求められたら、すぐに飛んでいって手を差し伸べてあげることができる、そんな男になりたいと思ったんです。

好きな人には甘えてほしいし、俺を頼りにして欲しい。
俺がいないと生きていけない…って、そんな風に好きな人には思って欲しいですかね」

なんて、改めて言うと恥ずかしいですね…、と夏目くんは照れ臭そうにほおをかく。

「甘えられるタイプ…」

夏目くんは、甘えてくるような子が好き。
僕は他人に甘えるようなタイプでもないし、どちらかといえば世話好きでなんでもしたがるタイプで、好きな人に甘えられるような可愛らしい性格はしていない。


「宮沢さん…?」
ずーんと落ち込んで無口になった僕を訝しみ、夏目くんが僕の顔をのぞきこんだ。

「僕も…です」
「え?」
「僕も、夏目くんみたいに人の世話をするのが好きなんです。
特に好きな人のことはあれこれ世話をしたがるタイプなんです」
「好きな人の…」
「はい。夏目くんと同じタイプかもしれませんね。
好きな人にならなんでもやってあげたくなるんです。
思う存分、甘えられたいっていうか…。
我儘も言うよりも好きな人にはどんどん頼られていたいタイプで…」

仕事でドジばっかしてるけど、家事は得意なんですよ…そう微笑むと夏目くんは顔を赤らめさせて、視線を彷徨わせる。


「…なつめくん?」
「いや…ちょっと…。き、気にしないでください。
そ、それじゃあ…また…」

そういうと、夏目くんは僕に背をむけて駆け出していった。




それから、数日後。
椎名先生の映画のキャスティングがついに決まった。
キャスティングは今流行りの若手俳優が主演に決まり、脇役に小田切勝彦、ヒロインに本城寧々子という、豪華キャストだった。

 映画化される作品は椎名先生の思い入れのある作品らしくて、製作会社も先生がよく知る監督さんのところらしい。
夏目くんに色々と映画のことを尋ねると、「詳しいことは椎名先生とか映画の製作会社の話になるからよくわからない」と言っていた。担当といっても、マネージャーのような役割はしていないようだ。

相変わらず夏目くんは忙しそうにしていたのだが、時々僕を飲みに誘ってくれた。
夏目くんと一緒に夜道を歩く瞬間が、僕の密かな楽しみになっていて。

「月が綺麗ですね…宮沢さん」
そう、はにかんで笑う夏目くんに僕は毎度、年甲斐もなくときめいていた。
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