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3話
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日も落ちかけ、園内は鮮やかにライトアップされる。
もう数時間もすれば、閉園時間だった。
「遊んだ遊んだ…。久しぶりですよ、俺こんなにはしゃいだの」
「僕も…」
「付き合ってくれて、ありがとうございました…」
「僕の方こそ、ありがとう…。凄く楽しかった…です」
仕事を忘れて心から遊べたのは、久し振りだった。
始終、夏目くんの冗談や言動に笑っていた気がする。
先生の担当から外されて、ミス連発でどっぷり落ち込んでいたのに。
夏目くんと関わると、僕の気持ちはジェットコースターのように激しく浮上したり落ち込んだり、胸を弾ませたり一喜一憂したり。
夏目くんと一緒にいるドキドキは、ジェットコースターに乗った時のようだった。
嫌じゃない興奮するドキドキ。
「また誘ってもいいですか?」
「僕でよければ喜んで…」
そう答えると、夏目くんは嬉しそうに笑った。
高揚感に、胸が弾む。
このまま、告白してみたらどうだろう…。
見ているだけでいい。この気持が伝わらなくてもいい。
そう思っていたけれど、今日一日でぐぐっと近づいた距離に僕の心は貪欲になってしまっている。
夏目くんならば、この気持ちを知られても酷く傷つけられることはないんじゃないだろうか…って。
伝えるだけ伝えてみるか…なんて。
「夏目くん…あの…僕。君に…っ」
「あの…」
僕がかけた言葉と、背を向けていた夏目くんが振り返るのは同時だった。
「えっと…」
「宮沢さんからどうぞ」
「いや、夏目くんから…」
双方会話を譲り合って苦笑する。
「僕のは…ほんと、あとでいいので…」
「では…あの、最後に、観覧車に乗りませんか?」と夏目くんは観覧車を指差した。
その大観覧車は、ちょうど、僕らの仕事場から目につく大観覧車だった。
「ここの観覧車、30分かけて一周回るんです。この時間は園内の夜景が一望できて、凄く綺麗ですよ。キラキラしたイルミネーションは、夜の世界に迷い込んだみたいにきれいなんです」
「観覧車…」
「宮沢さん、いつも観覧車、見てましたよね。
ずっと乗りたかったんじゃないですか?」
僕が残業中、休憩室の窓から観覧車を見ていたのを夏目くんも見ていたらしい。
あいにく、乗りたかったわけではなかったけれど。
「観覧車は、ちょっと…」
「高いところ嫌いでしたか?」
「いや…ちょっとトラウマがあって…」
「トラウマ…ですか?」
観覧車に対し、いい返事をしない僕に夏目くんは遠慮がちに理由を尋ねた。
「昔さ、約束したんです」
「約束…?」
「そう。付き合っていた人と」
僕は同性ということを除いて、彼との付き合いを簡単に夏目くんに話した。
僕は凄く好きだったけれど、付き合っていた相手には別の相手もいたこと。
尽くすだけ尽くして、その気持ちが重いと言われたこと。
今も、誰かを好きになるたびに、重いと言われた言葉が蘇り、自然と相手に壁を作ってしまうことなど。
自分を見失いかけていることなど。
「僕は相手が望むならなんでもしてきたけど、相手からしてみれば僕は好きな相手じゃなくて、ただの召使みたいな感じになっていたのかもしれません。
次第に僕もあの人も愛がなんなのかわからなくなってたました。
あの人への僕の最後の我儘が、遊園地で観覧車に乗ることでした。
馬鹿みたいだけど、初めて二人でいった遊園地に行けば、また観覧車に乗ればまた昔を思い出してくれるかもしれない…ってそんなことを思って…。
でも、まっていたのは、虚しい別れでした…。
以来、観覧車は僕のトラウマなんです」
あの別れ以来、観覧車を前にすると足が鉛のように動かなくなり、その場から動かなくなってしまう。
身体が拒否反応を示しているように。
「未練はないはずなんですが…、なんでしょうね。
いつまでたっても自分の中で割り切れないんです…。心のどこかで、怖いと思ってる」
僕にとって観覧車は見るだけのもの。
恋愛と同じだから。
「だから、観覧車は…」
「怖いんですか…?
いらないって言われたことが…。
気持ちが重すぎると言われたことが…。
その言葉が蘇って怖いから、乗れないんですか…」
「そう…ですね。たぶん、そう。足が竦むんです。もう思い出したくない…って。過去の思い出に無理矢理蓋をしているんです。
あの時の思い出がよぎって、恋に臆病になって、必要以上に他人の顔色を伺って、いらないって言われないよう息を殺して生きている…」
先生のように、僕だってあと一歩が踏み出せない。
勇気を持って、観覧車に乗ってしまえば、過去の出来事なんて踏ん切りがつくかもしれない。だけど、その一歩がどうしても動かないのだ。
変わろうと、変わりたいと思っているのに。
「だから、乗れないんですか…。」
夏目くんは小さく呟くと、僕の手を取って、「じゃあ今日でそれも終わりにしましょう」と観覧車の列に並んだ。
「夏目くん…だから、僕は…!」
「大丈夫ですよ、乗れます」
「無理だよ。
だって、何回も試したけど今まで一度も乗れなかったんだ。今までどれかでやってもダメだったんだ。
だから…」
だから、乗れっこないよ。
駄々を捏ねる僕に、夏目くんは立ち止まると
「じゃあ、おまじない、かけましょうか」
「…え…?」
おまじない?
尋ねる前に、唇に夏目くんの唇が掠めた。
これは…キス?
驚きに目を見開けば、夏目くんの視線とぶつかった。
交差する、視線。
夏目くんの真剣な表情に、痛いくらい鼓動が高鳴る。
もう数時間もすれば、閉園時間だった。
「遊んだ遊んだ…。久しぶりですよ、俺こんなにはしゃいだの」
「僕も…」
「付き合ってくれて、ありがとうございました…」
「僕の方こそ、ありがとう…。凄く楽しかった…です」
仕事を忘れて心から遊べたのは、久し振りだった。
始終、夏目くんの冗談や言動に笑っていた気がする。
先生の担当から外されて、ミス連発でどっぷり落ち込んでいたのに。
夏目くんと関わると、僕の気持ちはジェットコースターのように激しく浮上したり落ち込んだり、胸を弾ませたり一喜一憂したり。
夏目くんと一緒にいるドキドキは、ジェットコースターに乗った時のようだった。
嫌じゃない興奮するドキドキ。
「また誘ってもいいですか?」
「僕でよければ喜んで…」
そう答えると、夏目くんは嬉しそうに笑った。
高揚感に、胸が弾む。
このまま、告白してみたらどうだろう…。
見ているだけでいい。この気持が伝わらなくてもいい。
そう思っていたけれど、今日一日でぐぐっと近づいた距離に僕の心は貪欲になってしまっている。
夏目くんならば、この気持ちを知られても酷く傷つけられることはないんじゃないだろうか…って。
伝えるだけ伝えてみるか…なんて。
「夏目くん…あの…僕。君に…っ」
「あの…」
僕がかけた言葉と、背を向けていた夏目くんが振り返るのは同時だった。
「えっと…」
「宮沢さんからどうぞ」
「いや、夏目くんから…」
双方会話を譲り合って苦笑する。
「僕のは…ほんと、あとでいいので…」
「では…あの、最後に、観覧車に乗りませんか?」と夏目くんは観覧車を指差した。
その大観覧車は、ちょうど、僕らの仕事場から目につく大観覧車だった。
「ここの観覧車、30分かけて一周回るんです。この時間は園内の夜景が一望できて、凄く綺麗ですよ。キラキラしたイルミネーションは、夜の世界に迷い込んだみたいにきれいなんです」
「観覧車…」
「宮沢さん、いつも観覧車、見てましたよね。
ずっと乗りたかったんじゃないですか?」
僕が残業中、休憩室の窓から観覧車を見ていたのを夏目くんも見ていたらしい。
あいにく、乗りたかったわけではなかったけれど。
「観覧車は、ちょっと…」
「高いところ嫌いでしたか?」
「いや…ちょっとトラウマがあって…」
「トラウマ…ですか?」
観覧車に対し、いい返事をしない僕に夏目くんは遠慮がちに理由を尋ねた。
「昔さ、約束したんです」
「約束…?」
「そう。付き合っていた人と」
僕は同性ということを除いて、彼との付き合いを簡単に夏目くんに話した。
僕は凄く好きだったけれど、付き合っていた相手には別の相手もいたこと。
尽くすだけ尽くして、その気持ちが重いと言われたこと。
今も、誰かを好きになるたびに、重いと言われた言葉が蘇り、自然と相手に壁を作ってしまうことなど。
自分を見失いかけていることなど。
「僕は相手が望むならなんでもしてきたけど、相手からしてみれば僕は好きな相手じゃなくて、ただの召使みたいな感じになっていたのかもしれません。
次第に僕もあの人も愛がなんなのかわからなくなってたました。
あの人への僕の最後の我儘が、遊園地で観覧車に乗ることでした。
馬鹿みたいだけど、初めて二人でいった遊園地に行けば、また観覧車に乗ればまた昔を思い出してくれるかもしれない…ってそんなことを思って…。
でも、まっていたのは、虚しい別れでした…。
以来、観覧車は僕のトラウマなんです」
あの別れ以来、観覧車を前にすると足が鉛のように動かなくなり、その場から動かなくなってしまう。
身体が拒否反応を示しているように。
「未練はないはずなんですが…、なんでしょうね。
いつまでたっても自分の中で割り切れないんです…。心のどこかで、怖いと思ってる」
僕にとって観覧車は見るだけのもの。
恋愛と同じだから。
「だから、観覧車は…」
「怖いんですか…?
いらないって言われたことが…。
気持ちが重すぎると言われたことが…。
その言葉が蘇って怖いから、乗れないんですか…」
「そう…ですね。たぶん、そう。足が竦むんです。もう思い出したくない…って。過去の思い出に無理矢理蓋をしているんです。
あの時の思い出がよぎって、恋に臆病になって、必要以上に他人の顔色を伺って、いらないって言われないよう息を殺して生きている…」
先生のように、僕だってあと一歩が踏み出せない。
勇気を持って、観覧車に乗ってしまえば、過去の出来事なんて踏ん切りがつくかもしれない。だけど、その一歩がどうしても動かないのだ。
変わろうと、変わりたいと思っているのに。
「だから、乗れないんですか…。」
夏目くんは小さく呟くと、僕の手を取って、「じゃあ今日でそれも終わりにしましょう」と観覧車の列に並んだ。
「夏目くん…だから、僕は…!」
「大丈夫ですよ、乗れます」
「無理だよ。
だって、何回も試したけど今まで一度も乗れなかったんだ。今までどれかでやってもダメだったんだ。
だから…」
だから、乗れっこないよ。
駄々を捏ねる僕に、夏目くんは立ち止まると
「じゃあ、おまじない、かけましょうか」
「…え…?」
おまじない?
尋ねる前に、唇に夏目くんの唇が掠めた。
これは…キス?
驚きに目を見開けば、夏目くんの視線とぶつかった。
交差する、視線。
夏目くんの真剣な表情に、痛いくらい鼓動が高鳴る。
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