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先行投資
先行投資~出会いと始まり
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―なにがあっても、裏切らない。
そんな言葉なんて、あてにならない。
言葉なんて、すぐに変わる。
人の感情なんて、秋の天気よりも移ろいやすい。
人間、誰もが裏切りの可能性を孕んでいる。
境遇や立場により、人間の立ち位置は常に変わり続ける。まるで一枚のコインの様に、クルクルと簡単に裏返ってしまう。
私、戸塚公久《とつかきみひさ》はドがつくほど人間不信で、他人を信じることができない人間だった。
他人との共同作業が苦手で、相手と合わせるのが苦痛を感じ人の目を見て話せない。
人の言葉を素直に受け取ることができないし、他人へ好意を抱くことに恐怖を抱いてしまう。
人に期待されたくなくて、他者を必要以上に排除してしまうのだ。
私が、最初に人間の愛情に悲観的な想いを抱いたのは、実の父と母だった。
父は本妻がいたにも関わらず、若く美しかった母に戯れに手を出した。
母は母で、養育費目当てに私を産むとあとは見向きもせず、祖父母に私を預けどこかへいってしまった。
祖父母は、食事を用意はしてくれたものの、愛情はなく、躾と称し私に手をあげることもしばしばあった。
“正しい人間でないといけない”
“我儘など言ってはいけない”
“ただ、息を殺すように生きろ”
幼い頃はそんな祖父母がただただ怖くて、近くの公園へと逃げ出し一人膝を抱えて泣いていた。
いつしか泣いてばかりだった私は、すべてが面倒になって感情をおし殺すようになり、諦めることを覚えた。
冗談一つもいえず、能面のような私の顔は、他人に威圧感を与えるようで遠巻きにされた。
頭は昔から悪くなかったが、要領は悪く誰かに助けを求めるということもできなかった。
他人のぬくもりをもとめられない私は、変わりに金という絶対的な対価を求めた。
裏切られる人に引き替え、金という存在はいい。
金は人を裏切らない。
金は感情も境遇もない。
金さえあれば人間付き合いなんていらないし、金さえあれば人間だって感情を抜きにして動く。
一度だけ高校の時に恋心を抱いてしまった人間に拒絶されて以来、私は愛情より金を求めた。
愛情なんて不確かなものを求めるよりかは、金のように確かなものを求めたほうが合理的だと思ったからだ。
愛情なんて求めたところで、なんの意味もない。
そんな私は投資で一山当てて以来、専業投資家となった。
PC一つで投資先に投資できる今の世の中では、必要以上に他人に合わせることなく結果はすべて自己責任で、人間嫌いな私には天職ともいえた。
今や一歩間違えれば数千万の借金を負うかもしれないイチかバチかのハイリスクな賭けに勝ち、この歳で億の資産を持っている。
金はくさるほどにある。
なんでも手に入れることができる。
だけど、毎日なにかが足りなくて。
どうしようもない虚無感が毎日つきまとっていた。
私は、繰り返される毎日を、まるでロボットのように繰り返し繰り返し過ごしていた。
あの日、私の天使に会うまでは。
その日。
確か、年があけたばかりの日だったと思う。
朝から雪が降っていて、冷たい冷気がまとっていた。
気分転換に夜の散歩をしていた私は、たまたま、近所の公園でベンチ眠る少年を見つけた。
時刻は真夜中。
こんな真夜中に子供が1人公園で寝ているだなんてただ事ではないだろう。
ただ人間嫌いな私はあいにくと、一般的な優しさというものは持ち合わせていなかった。
子供なんて厄介事、いつもの私であれば絶対に見向きもしなかっただろう。
ここが公園で、彼が昔の私と重なって見えてしまったから、だから足が止まってしまったんだと思う。
「ん…」
私の気配に気づいたのか、少年はフサフサの睫毛で覆われた瞼を震わせ、瞳を開いた。
子供らしい無垢な瞳が、私を映す。
少年は、どうやら外国の血が入っているようで、青い青い目をしていた。
ずっと見ていると吸い込まれそうな海のように深い青色をしていた。
髪の毛は、焦がしたキャラメル色。
日本人が髪を染めてもこんな綺麗な色を作る事はできないだろう。
まるで、作り物のような…ファンタジーの世界から出てきたような小さな王子様のようだった。
少年はベンチに身をおこし…虚ろな目で私を見つめた。
一秒…二秒…三秒…
どれくらい、お互い視線を合わせていただろう。
「お兄さん…だれ…」
少し、舌ったらずな、子供らしい高い声でぼんやりと彼は私に尋ねた。
「天使…?」
「な、わけないだろう」
天使な訳ない。現実世界にそんなものはいない。
でも、もし仮にいるとするならば、目の前の少年のような容姿だと思う。
目の前にいる少年こそ、絵画に出てくる天使のように愛らしかった。
背中に羽がないか、一瞬凝視したくらいだ。
青い瞳に、白い肌。
雪がうっすらとつもったその身体は、地上に降りた天使かと思うほど綺麗で美しかった。
そんな言葉なんて、あてにならない。
言葉なんて、すぐに変わる。
人の感情なんて、秋の天気よりも移ろいやすい。
人間、誰もが裏切りの可能性を孕んでいる。
境遇や立場により、人間の立ち位置は常に変わり続ける。まるで一枚のコインの様に、クルクルと簡単に裏返ってしまう。
私、戸塚公久《とつかきみひさ》はドがつくほど人間不信で、他人を信じることができない人間だった。
他人との共同作業が苦手で、相手と合わせるのが苦痛を感じ人の目を見て話せない。
人の言葉を素直に受け取ることができないし、他人へ好意を抱くことに恐怖を抱いてしまう。
人に期待されたくなくて、他者を必要以上に排除してしまうのだ。
私が、最初に人間の愛情に悲観的な想いを抱いたのは、実の父と母だった。
父は本妻がいたにも関わらず、若く美しかった母に戯れに手を出した。
母は母で、養育費目当てに私を産むとあとは見向きもせず、祖父母に私を預けどこかへいってしまった。
祖父母は、食事を用意はしてくれたものの、愛情はなく、躾と称し私に手をあげることもしばしばあった。
“正しい人間でないといけない”
“我儘など言ってはいけない”
“ただ、息を殺すように生きろ”
幼い頃はそんな祖父母がただただ怖くて、近くの公園へと逃げ出し一人膝を抱えて泣いていた。
いつしか泣いてばかりだった私は、すべてが面倒になって感情をおし殺すようになり、諦めることを覚えた。
冗談一つもいえず、能面のような私の顔は、他人に威圧感を与えるようで遠巻きにされた。
頭は昔から悪くなかったが、要領は悪く誰かに助けを求めるということもできなかった。
他人のぬくもりをもとめられない私は、変わりに金という絶対的な対価を求めた。
裏切られる人に引き替え、金という存在はいい。
金は人を裏切らない。
金は感情も境遇もない。
金さえあれば人間付き合いなんていらないし、金さえあれば人間だって感情を抜きにして動く。
一度だけ高校の時に恋心を抱いてしまった人間に拒絶されて以来、私は愛情より金を求めた。
愛情なんて不確かなものを求めるよりかは、金のように確かなものを求めたほうが合理的だと思ったからだ。
愛情なんて求めたところで、なんの意味もない。
そんな私は投資で一山当てて以来、専業投資家となった。
PC一つで投資先に投資できる今の世の中では、必要以上に他人に合わせることなく結果はすべて自己責任で、人間嫌いな私には天職ともいえた。
今や一歩間違えれば数千万の借金を負うかもしれないイチかバチかのハイリスクな賭けに勝ち、この歳で億の資産を持っている。
金はくさるほどにある。
なんでも手に入れることができる。
だけど、毎日なにかが足りなくて。
どうしようもない虚無感が毎日つきまとっていた。
私は、繰り返される毎日を、まるでロボットのように繰り返し繰り返し過ごしていた。
あの日、私の天使に会うまでは。
その日。
確か、年があけたばかりの日だったと思う。
朝から雪が降っていて、冷たい冷気がまとっていた。
気分転換に夜の散歩をしていた私は、たまたま、近所の公園でベンチ眠る少年を見つけた。
時刻は真夜中。
こんな真夜中に子供が1人公園で寝ているだなんてただ事ではないだろう。
ただ人間嫌いな私はあいにくと、一般的な優しさというものは持ち合わせていなかった。
子供なんて厄介事、いつもの私であれば絶対に見向きもしなかっただろう。
ここが公園で、彼が昔の私と重なって見えてしまったから、だから足が止まってしまったんだと思う。
「ん…」
私の気配に気づいたのか、少年はフサフサの睫毛で覆われた瞼を震わせ、瞳を開いた。
子供らしい無垢な瞳が、私を映す。
少年は、どうやら外国の血が入っているようで、青い青い目をしていた。
ずっと見ていると吸い込まれそうな海のように深い青色をしていた。
髪の毛は、焦がしたキャラメル色。
日本人が髪を染めてもこんな綺麗な色を作る事はできないだろう。
まるで、作り物のような…ファンタジーの世界から出てきたような小さな王子様のようだった。
少年はベンチに身をおこし…虚ろな目で私を見つめた。
一秒…二秒…三秒…
どれくらい、お互い視線を合わせていただろう。
「お兄さん…だれ…」
少し、舌ったらずな、子供らしい高い声でぼんやりと彼は私に尋ねた。
「天使…?」
「な、わけないだろう」
天使な訳ない。現実世界にそんなものはいない。
でも、もし仮にいるとするならば、目の前の少年のような容姿だと思う。
目の前にいる少年こそ、絵画に出てくる天使のように愛らしかった。
背中に羽がないか、一瞬凝視したくらいだ。
青い瞳に、白い肌。
雪がうっすらとつもったその身体は、地上に降りた天使かと思うほど綺麗で美しかった。
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