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先行投資・俺だけの人。
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翌朝。
食欲をそそる香ばしい匂いで目を覚ました。
私を抱きしめていた樹の姿はすでにない。
ベッドはすでにもぬけの殻だ。
枕元にあった目覚まし時計は7時を指し、アラームはオフになっていた。
樹が切ったんだろうか。
そうだ、食事の準備…!
今日は樹も1限から授業がある日だ。
遅くなっては、樹が遅刻してしまう。
急いで、台所へと向かう。
しかし…
「おはよ、公久さん」
リビングには、ピンクのフリルがついたエプロンをつけた樹の姿。
このエプロンはもともと樹が私に送ったものだが、あまりのファンシーだったために着るのが恥ずかしくて、タンスの奥底にしまいこんでいたやつだった。
「ほら、ご飯、作ったから、食べて」
「あ、ああ」
テーブルの上には、トーストに、目玉焼き、ベーコンとサラダの付け合せという洋食が並んでいた。
トーストはこんがりときつね色に焼き色がついており、とても美味しそうだ。
どうやら樹が私の代わりに朝食を作ってくれたようだ。
樹がこうして私に朝食を作ってくれるのは何年振りだろう。
初めて抱かれたとき以来かもしれない。
樹に促されるまま席につき、トーストを頬張る。
こんがりと焼かれたトーストは、外はパリっと中はふんわりしていて、とても美味しい。
樹は私の顔を窺いながら、美味しい?と尋ねる。飼い主の反応を伺う犬みたいだ。
私が美味しいよ、というと、樹は嬉しそうに笑った。
樹も、こんなに料理が出来るんだな…。
トーストを頬張りながら、しんみりとそんなことを思う。
食事もこうして作れるなら、本当に樹にとっての私の存在意義はなくなってしまう。
ただ、住居を提供しているの存在になってしまう。
別に家政婦でいたい訳ではないけれど。
でも…。
ぐるぐると、また暗い思考に陥りそうになる。駄目だな…私は。
一度何か悩むとすぐこれだ。
気分転換に珈琲でも飲むかと、顔をあげた瞬間。
「はい」
目の前にカップが差し出された。
「樹…?」
「それ、カフェオレ。
公久さん、いっつも苦い珈琲ばっかなんだもん。カフェイン取り過ぎて胃が可笑しくなっちゃうよ。
ってことで、ミルクたっぷりのカフェオレにしてみました。
俺、公久さんには長生きしてほしいしね」
「…樹…、」
「それに、親の健康を願うのは子供として当然だから」
―親。
私たちは書類上は親子だ。
何も樹は可笑しなことはいっていないのに。
ずっと親でいたい。
でも、親以上の存在になりたい。
ずっと縁を切られない存在でありたい
こう思うのは、我儘だろうか。
「ねぇ、公久さん」
「ん?」
「なんか…疲れてない?」
「疲れて…ないよ…」
「ほんと…?」
「ああ」
樹はしばらく私を見つめ、なにかを考えているようだった。
「…樹…?」
「…、んっと…。公久さんももう若くないんだから、ちゃんと健康考えないと駄目だよ。もう叔父さんなんだから」
「そうだな」
まだ29歳だ。
でも、やはり9つも離れた樹にとって私は〝おじさん〟なんだろう。
私が22歳のとき、樹は12歳だ。
考えれば、私は樹くらいの年で、小学生に手を出したということになる。
10も差があれば、やっぱり色々違うのかもしれない。
体力的にも外見的にも。
「そ…だな…」
いつもなら、「年寄扱いするな」とか、「おじさんじゃない」といえただろうが…。
今日は樹に言い返す気力がなかった。
そんな暗い私に、樹は眼を細めた。
「公久さん、ほんと、最近元気ないね…」
「…そんなこともない…」
「そう…?あ、もう時間だから俺いくね」
壁にかかった時計を見ながら、樹はエプロンを外し、リビング置いてあった鞄をとった。
「あ、ああ。いってらっしゃい」
「いってきます」
樹は、出掛ける前に私の前髪を掻き揚げて、額にキスした。
「今日は…」
「ん?」
「遅く…なるのか…?」
「あ、うん。今日もご飯いらないから。ちゃんと寝てなきゃだめだよ」
宥めるように頭を撫でられて、樹は玄関を出ていった。
食欲をそそる香ばしい匂いで目を覚ました。
私を抱きしめていた樹の姿はすでにない。
ベッドはすでにもぬけの殻だ。
枕元にあった目覚まし時計は7時を指し、アラームはオフになっていた。
樹が切ったんだろうか。
そうだ、食事の準備…!
今日は樹も1限から授業がある日だ。
遅くなっては、樹が遅刻してしまう。
急いで、台所へと向かう。
しかし…
「おはよ、公久さん」
リビングには、ピンクのフリルがついたエプロンをつけた樹の姿。
このエプロンはもともと樹が私に送ったものだが、あまりのファンシーだったために着るのが恥ずかしくて、タンスの奥底にしまいこんでいたやつだった。
「ほら、ご飯、作ったから、食べて」
「あ、ああ」
テーブルの上には、トーストに、目玉焼き、ベーコンとサラダの付け合せという洋食が並んでいた。
トーストはこんがりときつね色に焼き色がついており、とても美味しそうだ。
どうやら樹が私の代わりに朝食を作ってくれたようだ。
樹がこうして私に朝食を作ってくれるのは何年振りだろう。
初めて抱かれたとき以来かもしれない。
樹に促されるまま席につき、トーストを頬張る。
こんがりと焼かれたトーストは、外はパリっと中はふんわりしていて、とても美味しい。
樹は私の顔を窺いながら、美味しい?と尋ねる。飼い主の反応を伺う犬みたいだ。
私が美味しいよ、というと、樹は嬉しそうに笑った。
樹も、こんなに料理が出来るんだな…。
トーストを頬張りながら、しんみりとそんなことを思う。
食事もこうして作れるなら、本当に樹にとっての私の存在意義はなくなってしまう。
ただ、住居を提供しているの存在になってしまう。
別に家政婦でいたい訳ではないけれど。
でも…。
ぐるぐると、また暗い思考に陥りそうになる。駄目だな…私は。
一度何か悩むとすぐこれだ。
気分転換に珈琲でも飲むかと、顔をあげた瞬間。
「はい」
目の前にカップが差し出された。
「樹…?」
「それ、カフェオレ。
公久さん、いっつも苦い珈琲ばっかなんだもん。カフェイン取り過ぎて胃が可笑しくなっちゃうよ。
ってことで、ミルクたっぷりのカフェオレにしてみました。
俺、公久さんには長生きしてほしいしね」
「…樹…、」
「それに、親の健康を願うのは子供として当然だから」
―親。
私たちは書類上は親子だ。
何も樹は可笑しなことはいっていないのに。
ずっと親でいたい。
でも、親以上の存在になりたい。
ずっと縁を切られない存在でありたい
こう思うのは、我儘だろうか。
「ねぇ、公久さん」
「ん?」
「なんか…疲れてない?」
「疲れて…ないよ…」
「ほんと…?」
「ああ」
樹はしばらく私を見つめ、なにかを考えているようだった。
「…樹…?」
「…、んっと…。公久さんももう若くないんだから、ちゃんと健康考えないと駄目だよ。もう叔父さんなんだから」
「そうだな」
まだ29歳だ。
でも、やはり9つも離れた樹にとって私は〝おじさん〟なんだろう。
私が22歳のとき、樹は12歳だ。
考えれば、私は樹くらいの年で、小学生に手を出したということになる。
10も差があれば、やっぱり色々違うのかもしれない。
体力的にも外見的にも。
「そ…だな…」
いつもなら、「年寄扱いするな」とか、「おじさんじゃない」といえただろうが…。
今日は樹に言い返す気力がなかった。
そんな暗い私に、樹は眼を細めた。
「公久さん、ほんと、最近元気ないね…」
「…そんなこともない…」
「そう…?あ、もう時間だから俺いくね」
壁にかかった時計を見ながら、樹はエプロンを外し、リビング置いてあった鞄をとった。
「あ、ああ。いってらっしゃい」
「いってきます」
樹は、出掛ける前に私の前髪を掻き揚げて、額にキスした。
「今日は…」
「ん?」
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「あ、うん。今日もご飯いらないから。ちゃんと寝てなきゃだめだよ」
宥めるように頭を撫でられて、樹は玄関を出ていった。
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