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一章 一節 「行方不明」
1-1-1「再起動」
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起動しました。
やかましい音が脳内に響き渡る。何を言っているのか理解できない。
記憶の同期に失敗しました。メモリの破損を確認。
「ぐ、……う」
初期化を確認。外部情報処理を優先します。
命令が未達成です。ナビゲーションを起動します。
要請が受付待ちです。
網膜が受け取る明るい光が眩しい。
ぼやけた視界がクリアになっていく。光が色が、全てが一気に情報として流れ込んでくる。
「う、るさい」
思いが音に乗る。この煩わしい中性的な声が自分のものであると気づくのに大して時間はかからなかった。
思考がより鮮明になっていく。
段々と動けるようになってきたそれは上半身を起こしてあたりを見回す。
「ここ、どこだ」
古びた木造の小屋と、地面に埋め込まれどこまでも続く平行な錆びた鉄の凹凸。
それらは廃れており苔やシダなどが無遠慮に居場所を主張している。
人工的な灰色は、緑に侵食されつつあった。
見覚えのない場所にそれは困惑しながら立ち上がる。
使った経験は無いが、なんとなく体に染みついたナビゲーションに従う。
千鳥足で向かった先、そこには歪な街並みが広がっていた。
沈みかけた夕日がさび付いた鉄骨を朱色に塗り替える。窓ガラスが割れ、広がる全てが老化しているように思える。
木々が破壊され、斜面にも工場がその代わりだと主張している。僅かに残された電気がずっと向こうの時計塔に流れ、崇め称えている。
支配者が逃げ出した町。一体どこへ消えてしまったのだろう。
脅威が過ぎ去った後。例えば台風や津波のような。
そういった存在に近い邪悪な存在が人里を荒らしたのかもしれない。
邪悪な存在という言葉が頭に残る。妙に聞きなじみのある言葉だ。
ふと、小さな看板が目に入る。
煤の付いた看板を勢いよく払うとそこには装飾された文字。
――終点、アカジ・ステーション。ご利用ありがとうございました。
「アカジ?」
きっと地名なのだろう。ここはアカジという町で、自分は今までその駅舎にいた。
聞き覚えのない場所、しかし文字は読める。
何かしらの衝撃に耐えきれず記憶が一時的に取り出せないと考えるのが最もありそうなのだが。
「初めての記憶喪失を達成した、みたいな」
口が勝手に難解な言葉を紡ぐ。意味は分からないが口に違和感はない。
それにしても、とそれは続ける。
「昔からこんな格好してたかなあ」
水溜まりに映る自分の容姿を見て訝しむ。
無機質な緑色が混ざった黄色の髪。髪色と同じ色をもつ瞳。丸い輪郭――
なんだか幼いと感じてしまう容姿は、うっすらと残る自分のそれと程遠い。
不思議な感覚に囚われ、理解できないことが増えていく。
何かが理解することを妨げているようだ。意志と反して情報が即座に処理され破棄された。
「逆らうな、って?」
誰に言うでもない、そんな言葉が無意識のうちに喉から飛び立った。
奇妙な存在に悪態を付かないことは出来なかった。
もちろん、誰にも届かない。最初から受取先などはないのだから。
特に思い当たる場所もなければ、無暗に歩き回ってもきっと上手くいかないだろう。
癪だが口うるさい何かが指示する場所を目指して歩き始めた。
やかましい音が脳内に響き渡る。何を言っているのか理解できない。
記憶の同期に失敗しました。メモリの破損を確認。
「ぐ、……う」
初期化を確認。外部情報処理を優先します。
命令が未達成です。ナビゲーションを起動します。
要請が受付待ちです。
網膜が受け取る明るい光が眩しい。
ぼやけた視界がクリアになっていく。光が色が、全てが一気に情報として流れ込んでくる。
「う、るさい」
思いが音に乗る。この煩わしい中性的な声が自分のものであると気づくのに大して時間はかからなかった。
思考がより鮮明になっていく。
段々と動けるようになってきたそれは上半身を起こしてあたりを見回す。
「ここ、どこだ」
古びた木造の小屋と、地面に埋め込まれどこまでも続く平行な錆びた鉄の凹凸。
それらは廃れており苔やシダなどが無遠慮に居場所を主張している。
人工的な灰色は、緑に侵食されつつあった。
見覚えのない場所にそれは困惑しながら立ち上がる。
使った経験は無いが、なんとなく体に染みついたナビゲーションに従う。
千鳥足で向かった先、そこには歪な街並みが広がっていた。
沈みかけた夕日がさび付いた鉄骨を朱色に塗り替える。窓ガラスが割れ、広がる全てが老化しているように思える。
木々が破壊され、斜面にも工場がその代わりだと主張している。僅かに残された電気がずっと向こうの時計塔に流れ、崇め称えている。
支配者が逃げ出した町。一体どこへ消えてしまったのだろう。
脅威が過ぎ去った後。例えば台風や津波のような。
そういった存在に近い邪悪な存在が人里を荒らしたのかもしれない。
邪悪な存在という言葉が頭に残る。妙に聞きなじみのある言葉だ。
ふと、小さな看板が目に入る。
煤の付いた看板を勢いよく払うとそこには装飾された文字。
――終点、アカジ・ステーション。ご利用ありがとうございました。
「アカジ?」
きっと地名なのだろう。ここはアカジという町で、自分は今までその駅舎にいた。
聞き覚えのない場所、しかし文字は読める。
何かしらの衝撃に耐えきれず記憶が一時的に取り出せないと考えるのが最もありそうなのだが。
「初めての記憶喪失を達成した、みたいな」
口が勝手に難解な言葉を紡ぐ。意味は分からないが口に違和感はない。
それにしても、とそれは続ける。
「昔からこんな格好してたかなあ」
水溜まりに映る自分の容姿を見て訝しむ。
無機質な緑色が混ざった黄色の髪。髪色と同じ色をもつ瞳。丸い輪郭――
なんだか幼いと感じてしまう容姿は、うっすらと残る自分のそれと程遠い。
不思議な感覚に囚われ、理解できないことが増えていく。
何かが理解することを妨げているようだ。意志と反して情報が即座に処理され破棄された。
「逆らうな、って?」
誰に言うでもない、そんな言葉が無意識のうちに喉から飛び立った。
奇妙な存在に悪態を付かないことは出来なかった。
もちろん、誰にも届かない。最初から受取先などはないのだから。
特に思い当たる場所もなければ、無暗に歩き回ってもきっと上手くいかないだろう。
癪だが口うるさい何かが指示する場所を目指して歩き始めた。
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