ひーやん

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小学6年生までの話

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 その日は緊急で6時間目が学級活動になった。
 担任の坪山は、渡辺光くんのことについて話しますと深刻そうに言った。
 ひーやんは「はっけつびょう」にかかったらしい。はっけつびょう?白血病。あの、白血病。
 国語の教科書に載っていた女の子の話を思い出した。原爆によって白血病にかかり、折り鶴に祈りを込めながら死んでしまった女の子の話。あの子と同じ、白血病?
 死んじゃうんじゃと思ったけど、坪山は今は死ぬ病気じゃないと言った。入院が必要になるけど絶対戻ってくる、と。
 「光くんは、みんなには心配かけさせたくないから言わないでほしいと言ってました。だから今まで1週間黙ってたけど、もう隠せないから言っていいって。みんなで光くんを励ますために何ができるか考えよう。」
 みんなに心配かけさせたくないから。なんとも彼らしかった。みんなの前では笑顔でいる人だった。自分が苦しんでいるところは絶対に見せたくない、努力してるところも見せたくない、カッコ悪い。と言っていたのを思い出した。
 学級委員長のえだちゃんと書記のちっぴーが前に出る。何か意見はありませんかとえだちゃんが言って、話し合いは始まった。
 結局クラスで千羽鶴を作って、寄せ書きを作って、それぞれで手紙を作って、ビデオレターを作るということになった。
 ビデオレター撮影日。出席番号順に廊下に出てカメラの前に座る。話したいことは考えてこなかった。ただ、頑張ってる光くんにに頑張ってとだけは言わないようにと坪山に事前に言われていた。
 坪山の隣にえだちゃんと副学級委員長のゆうやんがいた。こんな場面見られるの恥ずかしい。
 「ひーやんはあかりのことが好きなんですよ」とゆうやんは坪山に向かって言った。
 「え、そうなの?じゃあとびっきりの笑顔でお願いね、あかりちゃん。」
 運動会で保護者の人が持ってそうなビデオカメラのレンズが無機質にこちらを見つめている。頑張って笑顔を作る。
 「光くん、久しぶり~。…」
 呼びかけの言葉は、「光くん」だった。そんなふうに呼んだこと一度もないのに。
 カメラの中の私はなぜか「ひーやん」と呼べなかった。
 
 
 
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