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うそつきピエロ。
うそつきピエロ㉕
しおりを挟む翌日
そして――――何事もなく、次の日を迎える。 コウと一緒に登校し、2組の前で彼と別れ結人は一人5組へと向かった。
「おはよー、ユイ!」
「ん、おはよ」
教室へ入ってすぐに、真宮は結人のもとへやってきた。
「昨日は色々あって大変だったよなー。 そういや、ユイは怪我大丈夫なのか?」
「ん? まぁ、大丈夫ってわけでもねぇけど。 また北野に手当てをし直してもらうかな」
そう言いながら、北野が包帯で巻いてくれた左手を見る。 昨日風呂に入る時も濡らさないように入ったため、もちろん包帯を一度も解いてなどいない。
―――その前に、解く勇気がそもそもない・・・。
―――ナイフを手で受け止めた時、左手で止めておいてよかった。
―――右手だったら、シャーペンすら持てやしねぇ。
「日向の奴さー。 もう懲りて、いじめを止めてくれればいいんだけどな」
「あぁ、そうだな」
そうだ。 日向がいじめを止めるというより、いじめること自体を止めてくれたらそれでいい。 そう簡単に上手くいくかは分からないが、流石に今回は停学を食らうだろう。
それで反省してくれたらいいのだが。
チャイムが鳴り、皆一斉に席に着く。 朝のホームルームの時間だ。 先生が教室へ入ってくる前、藍梨に左手のことを問われた。
『大丈夫だよ』と言ったが、彼女は心配そうな顔で覗いてくる。 そんな藍梨を見て、申し訳なく思ってしまった。
―――だから、そんなに心配しなくてもいいっての。
そして先生は教卓の前に立ち、話し始める。 今日もまた、新たな一日が始まるのだ。 朝の挨拶、今日の授業日程、そしてお知らせ。
そのお知らせを聞く時――――結人は衝撃的な出来事を、耳にすることになった。
結人はいつも通り、先生の話を聞かずに隣にいる藍梨と楽しく会話をしていた。 昨日は夜月と何をしていたのか、とかを聞いたりして。
「ほら色折ー! ちゃんを前を向け」
突然先生は、名を呼び注意した。
―――何だよ、どうして今日に限って注意をするんだ。
―――いつもは藍梨と話していても、見過ごしてくれていたのに。
藍梨が注意されなかったのは、女子だから先生も気を遣っているのだろう。
「へいへーい」
適当に返事をし、身体を黒板のある方へ向ける。 だが注意されたためちゃんと話を聞くことが嫌になり、肘を付いて先生を睨むようにして見た。
だがそんな結人をよそに、先生は淡々とした口調でお知らせを伝えていく。 だが、次の一言により――――結人はそんな態勢を、思わず崩してしまった。
「えー、そしてお知らせはもう一つ。 1組の日向くんがー・・・昨日の夜から、入院をしました」
―――ッ・・・は?
「だからみんなも、怪我とかには気を付けるようにー。 じゃ、朝のホームルームは終わりー!」
―――え・・・待てよ。
―――どういうことだよ。
―――日向が、入院?
―――・・・一体、どうして。
―――日向は昨日、夕方まで俺たちと一緒にいたはずだ。
―――怪我なんてしていなかった。
―――・・・じゃあ、どうして入院なんてしてんだよ。
―――日向が怪我をして入院することなんて、まず考えられないだろ!
そしてこの時――――ある一人の仲間の顔が、頭を過った。
―――・・・優。
―――嘘だろ、嘘だよな?
―――そんなことは絶対ねぇ。
―――アイツはそんなことを、するような奴じゃねぇ。
―――だって、優が日向を入院させるなんて・・・ッ!
「ユイ!」
真宮だ。 ホームルームが終わってすぐ、真宮は結人のもとへ駆け付けてくれた。 おそらく、彼も今同じことを思っているのだろう。
「真宮、俺2組へ行ってくる」
「あぁ」
1限目が始まるまでにはまだ5分はある。 結人は走って、2組へと向かった。 日向が入院されたということは、既にどのクラスにも知れ渡っていることだろう。
「優! ・・・うわッ」
2組の教室へ入ろうと左へ曲がろうとした、その瞬間――――ドアの前には、人が立っていた。 ――――優だ。
「何だよ・・・。 驚かせんなよ」
乱れていた呼吸を整えつつ、優の様子を窺う。 だが彼は結人が突然現れたことにも驚かず、今にも泣きそうな顔でずっと俯いていた。
―――優・・・それは一体、どういう気持ちでそんな顔をしてんだよ。
彼を傷付けないよう、優しく日向のことについて聞き出そうとする。
「なぁ、優。 ・・・その、日向のことなんだけど・・・」
「・・・ない」
「え?」
「・・・俺じゃ、ない」
優は顔を上げて、結人の目を見ながらそう言ってきた。
「えっと・・・」
まだ何も言っていないというのに、優に自ら『違う』と言われた。 言おうとしていたことが簡単に見破られ、予想外なことが起きて少しテンパってしまう。
「・・・どうせ、ユイは俺が日向をやったって、思ったんでしょ・・・? ・・・俺が、日向のことを嫌って、いる、から・・・」
―――俺の思っていたことが・・・優には、バレていたんだ。
どうして優のことを疑ってしまったのだろう。 どうして優のことが、頭を過ってしまったのだろう。 今思えば、昨日は悠斗とずっと一緒にいたはずだ。
だから優が日向に手を出すことなんて、できるはずがない。 手を出そうとしても、悠斗が止めに入るだろう。
―――なのにどうして、優のことを少しでも疑ってしまったんだ。
―――優は、何も悪くないのに・・・ッ!
「ごめん・・・優。 ・・・少しでも、疑ったりして」
大切な仲間を、結人は疑ってしまった。 そんな自分は――――最低だ。
「ううん。 ・・・仕方ないよ、ね」
そう言って、優は笑ってみせた。 だがその笑顔は、いつもみんなに見せてくれる癒しの笑顔ではない。
―――無理して笑おうとするなよな、優。
―――・・・見ていて、こっちが苦しくなる。
一度優とは別れ、結人は2組の教室全体を見渡した。 優が自分の席へ戻ろうとしている時、一人の少年と目が合う。 ――――コウだ。
コウは結人と優のやり取りを、ずっと見ていたらしい。 優に気付かれないよう、彼を廊下へ呼び出した。
「日向の件だけどさ。 ・・・言うのは、日向が退院してからでもいいか?」
「・・・あぁ、もちろん」
コウからの確認を取り、一人考える。 やはり日向を病院送りにさせた人物が、誰なのか気になった。
また最低なことを考えているのかもしれないが――――結人の仲間。 つまり結黄賊の誰かが日向に手を出したのではないか、と考えてしまうのだ。
だって他に日向を病院送りにさせる理由が見つからない。 未来? 悠斗? 真宮?
―――一体、誰なんだ。
仲間を疑って、信じていないわけではない。 だがもし仲間が手を出していたとしたら、それは結人が望んでいることではないため、ソイツを厳しく叱るだけだ。
―――・・・まぁ、本当に俺の仲間が日向を病院送りにさせていたら・・・の話だけど。
結人は放課後日向のいる病院まで行って、直接本人に誰にやられたのかを聞きに行くことに決めた。
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