心の交差。

ゆーり。

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うそつきピエロ。

うそつきピエロ㉚

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((今日もいい人気取りかー))
((はいはい、今日もいい子ちゃんですねー))
((もっともっといい子になりましょうねー))

(止めろ・・・)

((もっともっと、俺たちを楽しませてよ))
((今日も俺たちのために、明日の宿題をやってよー))
((そうそう、頭いいんでしょ? だったら俺たちの分、すぐ終わるよねー))

(止めろよ・・・!)

((俺困っているんだぁー。 だから、助けてよ))
((明日掃除嫌だなぁ。 そうだ、俺と代わってくれない?))
((マジ俺苦し過ぎて、不登校になっちゃいそー。 だから助けてー))

(おい、止めろよ・・・)

((この自己犠牲野郎))
((自己犠牲))
((俺を助けてよ、この自己犠牲野郎))

「コウは自己犠牲野郎なんかじゃない!」

―ハッ。

―――俺は・・・一体・・・。
優の目の前には今、白い天井が広がっている。 
―――どうして、天井が? 
―――いや・・・俺は寝ているのか。 
だがここは、自分の家の天井ではない。 
―――じゃあ、誰の・・・? 
―――そうか、ここは・・・。 
そして優は、この天井には見覚えがあることに――――次第に気付いていく。
―――てか、何だよあの夢! 
―――何で今更、あの時の光景が・・・。
乱れている呼吸を整え、ふと右の方へと首を動かした。

「あ・・・。 コウ」
「・・・優」

彼は今風呂上りなのか、外に出るような服装ではなく部屋着になっていて、濡れている髪を首に巻いてあるタオルで拭きながら、優のことをじっと見ている。
だけど、現在進行形ではない。 髪を拭いている手が――――止まっていた。 

―――それにしても・・・コウはカッコ良いな。 
―――本当に俺の憧れだ。 
―――男の俺が見ても、魅了される。
―――でもそこまでカッコ良いと、コウの隣に俺がいても本当にいいのかなって、今でも不安になっちゃうよ。

「・・・あ、優大丈夫か?」
ふと我に返ったのか、コウは急いで優のもとへ駆け付けてくれる。
「うん、大丈夫だよ。 ありがとうコウ」
優は笑顔でそう答えた。 彼に、心配をかけないように。
「うん・・・。 あのさ、優」
「ん?」
コウは優の名を呼び――――静かな口調で、言葉を紡ぎ出した。
「優、ありがとな。 もういい、俺はそのままでいいって言ってくれて・・・すげぇ嬉しかった」
「・・・コウ」
「俺は、優が思っているよりも弱いんだよ。 本当、どうしようもないくらいにさ。 ・・・いつもは、強がっていただけなんだ。 それに、いつも助けを求めていた。 
 “誰か早く俺の心の叫びに気付いてほしい”って、何度も思った。 “俺は、いつまで耐えたらいいんだよ”って・・・ずっと思っていた」
初めて聞いた、コウの気持ち。 やはり、彼は今まで苦しんでいたのだ。 コウは実際泣いていなくても、彼の心はずっと泣いていた。 

―――コウは人間だもん。 
―――そりゃあ、苦しくもなるよね。 
―――今まで『苦しくない』とか言っていたのは・・・全部、嘘だったんだよね。

「でもそんな俺を、優は救ってくれた。 優は最初から、俺のこの気持ちに気付いてくれていたよな。 『苦しいなら苦しいって言えよ』って。 だけど俺は、素直になれなかった。 
 そのせいで、俺は優を傷付けることになってしまった。 ・・・あの時俺が素直になっていれば、優はこんなことになる必要なんてなかったのに」
そう言って、コウは優のことを悲しい目で見てきた。 そんな彼に対し、反論しようとする。
「違うよ、コ・・・」
だがそんな優の口元に、コウは優しく人差し指を当ててきた。 

―――黙っていろ・・・っていう意味なのかな。

「優。 優は、今の俺が好きって言ってくれたよな。 嬉しかったよ、マジで。 ・・・こんな俺を、優は認めてくれた気がして」
「・・・コウ」
「まだ時間はかかるかもしれない。 だけど、これからはちゃんと優にも言うようにする。 もしまた俺が苦しい目に遭って優に助けを求めなかったとしても、待っていてほしい。
 ・・・俺から、助けを求めるのを。 俺自身も、頑張るからさ」
「あぁ・・・もちろんだよ。 待ってる・・・ずっと待ってる!」
コウからそう言われて、とても嬉しかった。 自分を頼ってくれることが、何よりも嬉しかった。 だって人に頼らないコウが――――自分に、そう言ってくれたのだから。
自分にとって一番大切な友達のコウが、自分に助けを求めてくれる。 こんなに嬉しいことは、他にない。
「あのさ、優」
「何?」
そう言うと、コウは真剣な顔をして――――言葉を綴り始めた。
「今まで苦しい思いをさせてごめん。 それに、あの時は優のことを嫌いだなんて言って、本当にごめん。 俺はそんなこと、本当は思ってなんかいないんだ。
 あの時はカッとなって、あんなことを言っちまった。 それを言った後、俺は何度も自分を責めたよ。 ・・・何で、あんなことを言ってしまったんだろうって」
「コウ・・・」
「でも、今なら言える」
「?」
「俺、本当は優のことが大好きだ。 ずっと前からも、これから先も」
「ッ・・・」
その言葉が嬉しくて、優の目からは思わず涙が出てしまった。 何度目だろう、涙を流したのは。 コウに『好き』と言ってもらえて――――凄く嬉しかった。
いや――――違う。 『嫌い』と言ったのは嘘だった、という事実が嬉しかったのだ。 嘘で、よかった。 

本当に――――よかった。

「コウ、俺も今なら言える」
「何?」
「あの時言った『コウは自己犠牲野郎だ』って言ったのは嘘だ。 本当はそんなこと、思ってなんかいない。 だから、本当に・・・ごめんなさい」
そう言うと、コウは申し訳なさそうに苦笑いをしながら言葉を返した。
「いいよ。 つか、自己犠牲するのが俺の欠点だから、優にそう思われていてもおかしくはない。 だから、優は合ってんだよ」
「でも・・・」
「これが、俺だから」
そう言って、コウは優しく笑った。 優もそんな彼に向かって、小さく頷く。 

―――そうだ、これがコウなんだ。 
―――コウはそうでなくちゃ・・・ね。

―ぎゅるるる・・・。
「あ・・・」
突然この和やかな空気を断ち切るように、優の腹の音がこの場に鳴り響く。 
―――最近、ちゃんと食べていなかったからな・・・。
コウはそんな優を見かねたのか、笑いながら口を開いた。
「飯でも食う? 今から作ってやるよ。 今日の飯は、優の大好きなオムライスな」
「え、本当!? わぁ、めっちゃ嬉しい!」
日付は既に変わっていて、深夜1時になろうとしていた。 こんな時間まで、コウは起きてくれていたのだ。 そんな彼に心から感謝する。 そして、優たちは仲直りをした。 
久しぶりにコウと話す時間はとても楽しく、とても幸せだった。 またこんな時間を味わえるなんて、思ってもみなかった。

―――よかったよ、コウと元の関係に戻れて。 
―――もう俺はコウを絶対に離さない。 
―――もう、見捨てたりなんかしない。 
―――だから、コウも俺に頼ってよね。 

―――頼りないかもだけど・・・コウを思う気持ちは、ユイたちよりも絶対に負けていないんだから。


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