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うそつきピエロ。
うそつきピエロ㊳
しおりを挟む翌日 放課後
「日向ー! 一緒に帰ろうぜ」
「・・・は?」
今日向の目の前には、色折結人という少年が一人笑顔で立っている。 この状況を、一体どうやって理解をしたらいいのだろうか。
「日向ー、一緒に帰ろうよー」
理解不可能な言動をしている結人を無視し、日向はクラスを出て一人で昇降口へと向かった。
「なぁなぁ、聞いてんのかー?」
外靴に履き替え、正門へ向かう。 牧野たちとは家が反対のため、いつも通り今日も一人で下校した。
「日向ー、俺を置いていくなよー」
昨日の出来事は忘れてなんかいない。 流石にあの動画を見せられたら、どうしようもできなかった。
納得はできていないが、しばらくは手を出さない方がよさそうだ。 いや――――もしまた誰かに手を出したら、優が黙ってはいないだろう。
またあの動画を見せてきて、きっと脅すのだ。
「そういやさー、未来の奴また悠斗と喧嘩したみたいなんだよー。 二人の喧嘩について俺に意見を求めてくるとか、もうマジ勘弁」
牧野と秋元に関しては、今日はいつも通りに接してくれた。 休み時間も、普通に話しかけてくれた。
そしてクラスのみんなも、あんなにシスコン呼ばわりしてからかっていたのに、今日は何事もなかったかのように接してきた。
これも全て、優がやったということなのだろうか。
「アイツら次の日になったらケロッとした状態に戻ってんのにさー。 どうせまた、未来から悠斗に謝るんしょ。 だってそう思うだろ? 日向も」
だとしたら優は一体何がしたかったのだろう。 本当に日向に仕返しをしたかったのだろうか。 だったら何故、物を隠したのにわざわざ返してくる必要がある?
クラスのみんなだって、どうしてあんなにからかっていたのに今日はいつものように戻っているのだろうか。
「日向ー、俺の話聞いてんのー?」
「あぁもう、うっさいな! さっきから鬱陶しいんだよ、どうして俺に付いてくる!」
日向は限界がきて後ろへ振り返る。 声を張り上げながらそう言うが、結人は相変わらず笑顔を絶やさない。
―――つか、どうして色折が俺に関わろうとするんだ!
―――俺に対しての嫌がらせか?
「どうして、って言われても・・・。 まぁ、見張り?」
「はぁ?」
「そう、見張り! また日向が誰かをいじめないようにさ」
―――・・・何だよ、それ。
「ふざけたことを言ってんな。 さっさと失せろ!」
「ひっでぇなぁ。 日向はいつも帰り一人で寂しそうだから、俺はお前にわざわざ付き合ってやってんのによ」
「そんなこと、頼んだ憶えはねぇ!」
―ドスッ。
結人のことを見ながら話していると、突然誰かとぶつかり転びそうになるが、そこは踏ん張り何とか耐えることができた。 どうやら相手は集団でいるみたいだ。
そんな彼らに、日向は咄嗟に口を開いた。
「ッ・・・。 あっぶねぇな、おい! ・・・あ」
「あぁ? 何だよ、俺に喧嘩売ってんのか?」
「あの、いや・・・。 す、すいません・・・!」
―――ヤバい。
―――この状況はマジでヤバい。
「おいおい、さっきまでの威勢はどこへいったんだよ。 別に今時間あっから、相手してやってもいいぜ? お前なんざ興味ねぇけどな」
「あ・・・。 いや、その・・・」
―――また・・・やられる。
「あの! さっきからアンタ何なんすか。 コイツ、ちゃんと謝っているじゃないっすか」
やられる覚悟をし目を固く瞑ろうとした瞬間、結人が日向と男の間に割って入ってきた。 そんな行動に、男も結人を睨み付ける。
「あぁ? 何だお前」
―――マズい、このままだと!
「色折、いいからよせって」
「いいから、お前は少し離れておけ」
「いや、だから!」
結人を何とかしてこの場から離れさせようとするが、彼は一向に動こうとしない。
―――何してんだよ!
―――このままだったらお前もやられるぞ!
日向がわざわざ心配してやっているのをよそに、結人は男に喧嘩を売っていた。
「謝ったんだから許してやれよ。 コイツだって、悪気があ・・・って・・・え?」
―――・・・ん?
彼は強気になって言葉を発していたが、次第に語尾が小さくなっていく。
―――何があったと言うんだ?
「あ・・・。 お前!」
何かを思い出したのか、男はそう言って結人の顔をまじまじと見た。
「ほぉ・・・。 ここで会えるとはな」
「・・・俺はアンタなんかと、会いたくなかったっすよ」
―――え、知り合い?
―――二人は知り合いなのか?
「丁度いい。 今日で決着をつけようじゃんか。 ・・・彼女をめぐって、さ」
「まぁ、受けたくはないけど・・・。 いいっすよ」
結人は男の喧嘩を買い、本気となっている。 そんな彼に日向は止めに入った。
「おい色折! 止めておけよ、お前が勝てる相手じゃ」
「日向」
彼は名を呼び、静かに日向の方へ身体の向きを変える。
「大丈夫。 俺は強いから」
「は・・・。 いや、でも」
「すぐに終わる。 だからここから少し離れていろ」
―――何を言ってんだよ、色折。
―――だって、だってアイツは・・・。
すると結人は、日向の肩を軽く押した。 “向こうへ行っていろ”という意味なのだろうか。 彼はもう一度相手のことを見て、そして――――ついに、喧嘩が始まった。
「先輩、俺らがやりますよ。 こんな高校生相手、先輩がやっちゃ勿体ないっす」
「あぁ、そうかぁ? そんじゃ任せるわ」
どうやら男の後輩が結人の相手をするらしい。 だが後輩と言っても、相手は強そうだ。 しかも3人もいる。
―――これ、後輩にでも負けるだろ!
そう思ったのは束の間――――結人はその彼らを、一瞬にして無力化した。
「え・・・?」
その光景を見て、日向は言葉が出ずにいる。 今の一瞬の出来事が、よく理解できなかった。 この事態に把握できたのは、後輩らがやられてから数秒後。
―――・・・強い。
そう、そのたったの一言だった。 結人は日向が思っていたよりも、はるかに強かったのだ。 あんな一瞬で終わる喧嘩なんて、今まで見たことがない。
―――色折・・・お前は一体何者なんだよ。
―――どうしてこんなに強い相手を、素手だけで勝つことができる!
そして――――もう一つ、思ったこと。
―――・・・俺は、こんな奴を標的にしようとしていたのか。
そう思うと、身体の震えが止まらなくなった。
―――一歩間違えていれば、俺はアイツらと同じように・・・。
「さぁて・・・。 次はアンタっすよ」
「へぇ。 お前、結構強いんだな」
ついに、男と結人の一対一の勝負が始まった。 本当は今危険な状態にいるのだが、日向は彼らの喧嘩を釘づけとなって見ていた。
彼がまた、カッコ良い技を見せてくれるのではないかと、僅かな期待を持ち合わせながら。 だが――――現実は、そうはいかず。
「・・・くッ」
結人が――――やられている。
「お前はその程度か? ははッ」
上手いこと相手の攻撃を避けようとしているが、それは叶わず攻撃はほとんど結人に命中していた。 だが彼は、負けじと相手に何度も食らい付いている。
結人は強いとはいえ、まだ高校生で人間だ。 この男に勝てるはずがない。
―――くそッ、どうして俺は油断しちまったんだ!
―――・・・どうしよう。
―――このままだと確実に色折はやられる。
―――じゃあどうしたら、どうしたら・・・!
そこで日向は、ある少年が頭の中を過った。
―――・・・神崎。
―――確か、神崎の家はこの近くのはずだ。
―――神崎をいじめている時、アイツの情報を得るために尾行をして付いていったことがある。
―――だったら・・・色折のダチにでも助けを求めるか。
―――俺がいても、何もすることができない。
―――だったらせめて、色折のダチでも連れてきて・・・!
そう決意し、酷くやられている結人をよそに、目を瞑りながらこの場から走り去った。
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