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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。
結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑭
しおりを挟む12時40分 路上
結黄賊の仲間たちと別れた結人は、自分が指定された場所まで足を運ぶ。 いざ一人になると、やはり不安で仕方がなかった。
仲間のことが心配だし、クリアリーブル集会にいる伊達のことも気になる。
『もし俺に何かあったら連絡する、そしたら助けに来てくれ』と昨日は言ったが、先刻の出来事のせいでそれは不可能となってしまった。
そのことが、より結人に懸念を抱かせていく。 みんながリーダーの指示に従いそれぞれの場所へ向かっている中、結人はポケットから黄色いバンダナとバッジを取り出した。
―――確かに今の俺は、一人だし何も持っていない。
―――だから、喧嘩を売られたとしたら終わりだ。
―――こんな精神が不安定の中・・・俺は、大丈夫かな。
手の中にあるバンダナを数秒キツく睨み付けた後、覚悟を決めてそれを首に巻いた。
―――まぁ、その・・・何だ。
―――いつまでうじうじしていても、結局は何も変わらねぇんだろ。
―――だったら・・・今日一日で、全てを終わらせてやるさ。
そして――――指定された薄暗い路地へ着くと、そこには既に5人の男が待ち構えていた。 だけど結人は彼らの姿を目にしようが、真剣な面持ちのまま足を進める。
「待っていたぜ。 お前が、結黄賊のリーダーだな?」
―――コイツは・・・この中でのリーダーなのか?
先日クリアリーブルのアジトを襲撃する時、結人は確かにそこにはいたのだが奥までは進むことができず、事件の中心人物である奴らを実際目にしていない。
どうやらそれは相手も同じようで、結人が結黄賊のリーダーであるかどうかも分からないようだ。 だがここで嘘をついても無意味だと思い、事実を素直に口にする。
「あぁ。 俺が、結黄賊のリーダーだ」
「よし。 じゃあ今からお前には、俺たちのアジトまで付いてきてもらうぜ」
集団の真ん中にいる男がそう口にした瞬間、両サイドにいた者が突然動き出し結人の両腕を強く掴んだ。
あまりの痛さに顔を少し歪めるが、相手を下手に刺激しないようこの場を何とか耐え切る。
そしてそのまま彼らのアジトへ連れて行かれる中、結人は男らにあることを尋ねた。
「おい・・・。 お前らは、クリーブルか?」
「ふッ、分かってんならいちいち聞くなよ」
相手は鼻で笑いながら返す。 予想していた通りの答えが返ってきたため今の表情から一切変えず、もう一つの疑問を彼らにぶつけた。
「俺たち結黄賊とお前らクリーブルの抗争は、この間の件で片付いたはずだ。 それなのに、まだ俺たちに何か用があるのか?」
「・・・」
その問いには、相手は何も返事をしてこない。 そんな彼らに対し、心の中で軽く舌打ちをする。
―――何だよ・・・答えねぇっていうのか。
そして結人たちは、クリアリーブルのアジトへ着いた。 今いるところはこの間訪れたアジトではなく違う場所。 そこで結人は、彼らのアジトはたくさんあるのだと確信する。
だが場所は、人気がなく閑散としたところにあるということは変わりなかった。 “賑わっている街だというのに、静かな場所はたくさんあるんだな”とここで思う。
「入れ」
そして今もなお両腕を掴まれたまま、強引にアジトの中へと引っ張られていく。
奥へ進んでいくにつれ、たくさんの男たちの声が聞こえ始めると――――結人の心は、次第に余裕がなくなっていった。
―――マジ・・・かよ。
アジトの奥へと入っていくと、一面に広がる広い空間。 照明はとても明るいというのに、ここにいる男らによって空気が汚れているように見える。
周りには大した物はなく、人が座れるような汚いソファーやドラム缶などがあちこちに置かれていた。
本当にここはクリアリーブルの溜まり場のようで、今目の前には約20人もの男たちがこの場にたたずんでいる。 当然コイツらに、結人は敵うはずがない。
「お、結黄賊のリーダーのお出ましかー」
「よッ、将軍!」
「「「将軍! 将軍! 将軍・・・!」」」
―――・・・くそッ。
―――こんな奴らに、将軍呼ばわりされたくねぇ。
“将軍”コールがひたすら鳴り響く中、今は何も手は出せないため歯を食いしばりこの場を何とかやり過ごす。 そんな結人を見て、目の前にいるリーダーらしき男は嘲笑った。
「どうだ? 仲間でもない奴らに、将軍って呼ばれる気分はよ」
「ッ・・・」
「ま、いいさ。 いつかは慣れる」
「・・・?」
「よし、連れて行け」
好き勝手に物を言っていく彼にどう対処したらいいのか分からず口を閉じたままでいると、再び両サイドにいる男らは前へと歩き出した。
結人も彼らに引っ張られていく中、必死に周囲を見渡して現状を確認する。 そこで、あるモノに目が付いた。
―――鉄パイプ・・・バールに・・・バット・・・だと・・・?
部屋の壁に沿って一列に並べてあるそれらのモノを見て、思わず息を呑む。
―――アイツらがそれらを手に取ったら・・・俺は本当に、勝ち目がねぇじゃねぇか!
―――いや、その前に・・・互いに素手でやるだけでも、この人数じゃ無理あるか。
自分が今置かれている厳しい状況に一人もがいていると、いつの間にか一つのドアの目の前に立たされていた。
そして扉を開けるなり、両隣の男に思い切り背中を押され部屋の中へと倒れ込む。
「ッ・・・」
あまりにも雑な扱いに呆れていると、リーダーらしき男が倒れ込んでいる結人の顔に自分の顔を近付けた。
「・・・何だよ」
相手の凄まじい威圧感に耐えられず恐る恐る口にすると、彼は不気味な笑顔を浮かべて言葉を放つ。
「今からお前に、二つの選択肢を与える。 どちらを選んでも構わない」
「・・・?」
そして淡々とした口調で、結人に向かって言葉を紡いでいく。
「まず一つ目、今すぐ結黄賊を解散させる」
「だから、それは」
「二つ目。 お前が結黄賊を辞めて、クリーブルに入る。 そしたら結黄賊を、解散させる必要はない」
「は・・・?」
突然放たれた言葉に理解できず固まっていると、彼はその場にゆっくりと立ち上がり最後の一言を呟いた。
「まぁ、じっくり考えていればいいさ。 時間はまだ、たっぷりあるからよ」
そう口にした後、男は勢いよく部屋のドアを閉め去っていった。
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