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結人と夜月の過去。
結人と夜月の過去 ~小学校一年生①~
しおりを挟む小学校一年生 秋 横浜
これは、結人が小学校1年生の時のこと。 結人は親の仕事の都合上、静岡から横浜へ引っ越すことになった。 まだ小学校に入学してから半年も経っていなく、突然の出来事だ。
だけど結人は明るい性格でどんな人ともすぐに仲よくなることができるため、引っ越し自体は心配なかった。 元気で活発で、かつ人思い。
これが、当時の結人の性格だった。
「転校生を紹介するよー! みんな席に着いてー」
9月。 夏休みが終わった後、いよいよ横浜での小学校生活が始まろうとする。
期待と不安で胸を膨らませながら、結人はこれから約7ヶ月間を過ごすことになる教室の前で待機した。
―――明るく、元気よく・・・!
どんなに活発な結人でも、初めての場所は流石に緊張する。 自分に何度もそう言い聞かせ、第一印象をいいものにしようと頑張っていた。
「それじゃあ結人くん、入って!」
教室の中から担任の先生の声が聞こえ、気を引き締める。 ランドセルを背負ったまま、肩かけを両手で強く握り締めた。
そして意を決し、教室のドアを開けゆっくりと足を前へ進める。 ざわつく教室の中――――不安に押し潰されながらも、教卓の目の前で足を止めた。
足先を生徒の方へ向け、ゆっくりと顔を上げて教室全体を見渡す。
―――・・・あ。
その時、結人はある一人の少年とふと目が合った。 その彼の席は、廊下側の一番後ろ。
角の席なので目が行きやすいというのもあるが、結人はその少年の何かに惹かれ思わず目を合わせてしまったのだ。
―――・・・仲よく、なれるかな。
彼は小学1年生にしては身長が高い方で、一見とてもクールそうに見える。 かつ落ち着いていて、大人っぽい印象だった。
「自己紹介してくれる?」
いつの間にか担任が黒板に結人の名を大きく書いており、声をかけてくる。 そう言われた途端我に返り、とびっきりの笑顔で自己紹介をした。
「静岡から来ました、色折結人です! 僕はみんなと仲よくしていきたいと思っています。 まだ分からないことだらけですが、よろしくお願いします!」
そして、一礼。 そうすると、クラスは拍手で覆われた。 そんな温かいクラスに安堵した表情を見せると、隣から先生が優しい口調で口を開く。
「みんな出席番号順で座っているから、結人くんもそれでいいかしら? 結人くんは、あの空いている席ね」
そう言って、空いている一つの席を指差した。 そこは右から二列目で、真ん中のところだ。
「はい」
結人は笑顔でそう返事をし、自分の席へと向かう。 そして、着いた瞬間――――周囲の生徒から、早速質問攻めが始まった。
「ねぇ色折くん! 静岡から来たんだって?」
「静岡といったら富士山だよね!」
「富士山か! 写真とか持っていないの?」
「富士山があるっていうことは、お水は美味しいのー?」
「結人くん、好きな教科は?」
一斉に質問をされ結人は嬉しく思いながらも困ったような表情を見せると、先生がフォローに入ってくれる。
「はいはい、お話は授業が終わった後ねー! 授業始めるわよ」
その発言により周囲の生徒たちは静かになり、黒板に集中し始めた。 そんな状況に安心し、結人も授業を真面目に受け――――無事に終わり、初めての休み時間に入る。
―――教科書をまだ貰っていないから、次の授業の支度はできないなぁ・・・。
―――校舎でも見て回ってこようかな。
周りの生徒たちが友達と楽しそうに話しながら次の授業の準備をしているのを見ると、結人はそう思い席を立った。 そして身体を後ろへ向け、席から離れようとした――――その時。
「色折結人くん!」
「え?」
突然フルネームを呼ばれ、驚いて声の方へ振り返る。 そこにいたのは、とてもキラキラとした笑顔で立っている一人の少年だった。
「色折結人くん・・・だよね? 名前憶えたよ!」
その一言を嬉しく思い、笑顔で礼の言葉を言う。
「わぁ、ありがとう! えっと・・・」
そこで相手の名を呼ぼうとしたのだが、彼の名が分からず口を噤んでしまった。 そんな結人のことを見て察してくれたのか、再び少年は笑顔で口を開く。
「あ、僕の名前は朝比奈理玖! よろしくな」
朝比奈理玖(アサヒナリク) これが――――理玖との、初めての出会いだった。 とても笑顔が似合う少年で、元気で明るい子。 少し結人と似たような感じだった。
理玖は結人にとって、横浜で初めてできた友達とも言える。
「理玖くん、って言うんだ。 よろしくね」
結人も負けじと、笑顔で返した。
「僕のことは理玖って呼んで! 呼び捨てでいいから」
「うん、分かった! じゃあ僕のことも、結人で呼び捨てで」
「おっけい! いつも仲のいい友達には、下の名前で呼び捨てにしているんだ。 だから結人も、これで仲間だな」
「ありがとう!」
下の名で素直に呼んでくれることに、結人も嬉しく思った。 そして今度は、理玖が突然あることを思い出す。
「あ、そうだ! 結人、僕の一番の友達を紹介するよ。 来て!」
そう言って結人の腕を引っ張り、彼にとっての一番の友達のところまで連れていってくれた。 そして――――その席へ向かうと、少し驚いた表情を見せる。
―――あ・・・さっき、目が合った子だ。
―――本当に、仲よくなることができるのかな。
理玖が紹介したいと言った友達は――――先刻目が合った一人の少年だった。 このような必然的な出来事に、少し運命を感じる。
「夜月! 結人、この子の名前は八代夜月って言うんだ」
「ライト・・・?」
「そう! カッコ良い名前だろ? 僕の自慢の友達なんだ」
―――八代・・・夜月。
この時結人は“理玖は本当に夜月くんのことが好きなんだな”と心から思った。 友達のことをこんなに綺麗な笑顔で紹介できるなんて、素晴らしいと思ったからだ。
だからそんな理玖の気持ちに応えるよう、そして運命を感じていた夜月と少しでも距離が近付けるよう、彼に向かっても優しい笑顔で言葉を紡ぎ出す。
「夜月くん・・・で、いいかな? よろしくね」
「・・・」
しかし夜月は一瞬結人のことを睨み付け、何も言わずにそのまま教室から出て行ってしまった。
「あ、夜月!」
―――・・・何か僕、マズいことを言っちゃったかな。
初めてとられた冷たい態度に、少し自分を責める。 だが結人は――――この時から“自分は夜月くんに嫌われている”と、確信していた。
「結人、ごめんな。 ・・・夜月、今日は体調でも悪いのかな」
「大丈夫だよ。 紹介してくれてありがとう」
理玖の優しい気遣いに少し苦しくなりながらも、笑顔でそう返す。 結人は――――夜月がする自分への態度が、この時から気になり始めていた。
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