心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校四年生②~

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―――というより・・・ストレートに、そう聞かれてもなぁ・・・。
結人はどんな返事をしようかと考えながら、背負っているランドセルを床に置き、コップなどが置かれている机の前に座り込んだ。
その様子を見ていた悠斗も合わせるように、対面する形をとってその場に腰を下ろす。 そして、一人考え始めた。 
何と言って返すのが一番いいのだろうと、思考を巡らせていると――――ふとあることが頭を過る。

―――そう言えば・・・どうして理玖は、僕を理玖たちの輪に入れていたんだろう。
―――今まではてっきり夜月くんを僕に任せるために、一緒にいさせたんだと思っていたけど・・・。
―――今思えば、夜月くんを任せるのは悠斗や未来でもよかったはず。

そう思った結人は、か細い声で目の前にいる悠斗に向かってそのことを尋ねてみた。
「どうして理玖は、僕をみんなと一緒にいさせたの?」
すると彼は、何の迷いもなく答えを述べてくる。
「それは、ユイと友達になりたかったからじゃないかな」
「友達って・・・」
「友達になりたい理由なんて、ないでしょ?」
「・・・」
確かに、友達になりたいということに理由なんて必要なかった。 ただシンプルに、友達になりたいからなりたい。 
大人になると、この人と関係を作れば自分にとっては都合がいいだとか、そういうあまりよくない考えを持って『友達になろう』と、せがんでくることがあるのかもしれない。
だけど今の結人たちには、そんな難しいことは考えられなかった。
「・・・これ、言ってもいいのかな」
「何を?」
尋ねると、悠斗は少しの間黙り込む。 そしてしばらくすると意を決したかのように、力強く言葉を放してきた。

「理玖がね、僕と未来に言ったんだ。 『夜月の隣にいるのは僕じゃなくて、結人の方なんだ』って。 
 友達になりたいという理由もあるかもしれないけど、そう思ったことからも無理に一緒にいさせていたのかもしれない」

「どうして・・・」
―――どうして理玖は、そんなことを・・・。
少し嫌味にも聞こえる理玖の発言に複雑な気持ちになっていると、結人が疑問に思っていたその答えを、続けて言葉にして紡ぎ出す。
「『自分勝手に行動して夜月を強引に引っ張っていく僕よりも、人思いで仲間のことを大切にしてくれる結人の方がきっと最適だ』って」
「そんなことはない!」
すぐさま否定すると、更に理玖の代弁をしてきた。
「『・・・本当は、誰かに甘えたくても素直に甘えられない夜月には、僕が無理に引っ張って付いてこさせるよりも、人の意見をちゃんと取り入れて、
 人のことを第一に考えてくれる結人の方が、合っている』って」
「甘えられないなら、理玖みたいに無理に引っ張っていった方がいいじゃないか!」
「それじゃ駄目なんだよ」
「どうして!」
そこで悠斗は、少し感情的になってしまっている結人から視線をそらし、落ち着いた低い声のトーンで理由を口にする。
「そうしたら夜月、甘えっぱなしになってこれから先もずっと、人に付いていくことしかできなくなるから」
「・・・」
「でも僕も未来に引っ張られてばかりだから、人のことは言えないんだけどね」
夜月をフォローするように、苦笑を交えながら最後に言葉を付け足した。 

―――いや・・・悠斗はちゃんと未来には意見を言えているから、大丈夫だよ。

そう言おうとしたのだが、折角の気遣いを無駄にはしたくないため、ここはグッと堪える。 説得力のある発言に反論する言葉がなくなると、一つの疑問を彼にぶつけた。
「・・・でも、どうして理玖は僕のことをそう思ったんだ? 人の意見を取り入れたり人のことを第一に考えたりする素振りなんて、一度も見せた覚えがないのに」
その疑問に対しても、悠斗はさらりと答えていく。
「それも、理玖から聞いたよ。 理玖と夜月が言い争っている時、ユイは二人の会話を聞いていたんでしょ?」
「え」
それは――――小学校1年生の時の出来事だった。 





小学校1年生 廊下 理玖と夜月の会話


「夜月! 待ってよ!」
呼ばれた夜月は、静かにその場に立ち止まる。 だが理玖の方へは、顔すらも向けてこなかった。 そんな彼に向かって、心配そうな面持ちで尋ねかける。
「夜月、僕何かした?」
理玖は――――ついに夜月との気まずい関係に耐えられなくなり、本人に直接聞こうとしたのだ。 だがその問いに対して、彼は振り向かないまま一言だけを返す。
「別にしていない」
そのような答えを聞いても、すぐには引き下がらない。
「じゃあどうして僕を避けるんだよ!」
「理玖は避けていない」
「避けてるよ!」
「・・・」
強めの口調で言うと、夜月は黙ってしまった。 その様子を見て理玖も態度を改め、落ち着いた口調で言葉を紡ぎ出す。
「・・・夜月、僕が何かをしたのなら言ってよ」
「だから、理玖は何もしていないって」
「夜月にとって何か嫌なこと、僕がしちゃったんでしょ? だったら言ってよ、直すから!」
必死になってそう言うと、夜月はやっとのことで理玖の方へゆっくりと身体を向ける。
「・・・?」
突然振り返られ、不思議そうな顔で彼のことを見つめた。  すると――――夜月は理玖のことを見据えながら、力強くある一言を言い放つ。

「色折は偽善者だ」

「え?」
いきなり放たれたその一言が理解できず、思わず聞き返した。
「偽善者って・・・何だよ」
「・・・」
「それはどういう意味だよ、教えてよ!」
「・・・」
「夜月!」
当然小学校1年生である理玖は、難しい単語なんて知らない。 だから“偽善者”という意味を聞こうと、必死に尋ね続ける。
だが夜月はその問いを無視し、小さな声で呟いた。
「・・・色折は偽善者だから、俺は気に入らない」
「だから、その偽善者ってどういう意味?」
今もなお同じことを聞き返してくる理玖を見て、彼は少し呆れた表情を見せる。 そして――――理玖のことを睨み付けながら、力強く言葉を放した。

「理玖。 もう色折とは関わるな」
「え? どうして」
「これ以上関わると、いつか色折に騙されて裏切られるぞ」
「え・・・。 あ、夜月!」

言い終えると、理玖の返事も聞かずにこの場から去ってしまう。 だがそんな夜月を、追いかけることができなかった。


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