心の交差。

ゆーり。

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幼馴染の交差。

幼馴染の交差②

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数分前


時は少し遡る。 未来は今、目の前にいる男たちのことをジッと見据えていた。 未来はいじめや犯罪は絶対に許さない人だ。
そのため彼らのもとへ自ら向かうとなったら、こうなることは想定の範囲内だった。

―――こうなったら、ここは一緒にやられるか・・・?

悠斗は今の状況を見てそう思う。 何とか男たちの意識をサラリーマンから外せたことに安堵するも、次は自分たちが標的となってしまった。
相手の気が済むまでボコられ続け、何も抵抗しない悠斗たちに相手が飽きたら自然と喧嘩が終わる。 これも結黄賊がよく使う手だった。
または喧嘩ができないとなると、こちらからは一切攻撃を仕掛けず相手からの攻撃を全て避け続け、相手をバテさせ喧嘩を終わらせるという方法もある。 そのどちらかだった。
だが前者を選んだとしたら、傷を負った悠斗たちを見て結人は何を思うのだろう。

「悠斗」
この状況の中でそのようなことを考えていると、少し斜め前にいる未来に名を呼ばれた。
「?」
「俺がここで時間を稼ぐから、今のうちに近くで交番を探して警察を連れてこい」

―――・・・え?
―――それって、未来を一人にするっていうこと?
―――そんなこと俺が許すわけないじゃないか。

悠斗は未来を置いてここから離れたくなかった。 だが未来の背中を見る限りそれは本気だと伝わってくる。 このまま時間が経つと未来は怒りが抑え切れなくなり、いつかは暴走してしまうだろう。
未来は感情的になるのが早いため、今こうして冷静にいられているだけでも凄いことだった。 だが暴走してしまう前にこの状況を何とかしなければならない。

「・・・でも」

―――未来を放ってはおけない。

「何だよ、俺たちとやる気かぁ? そんなに小さい身体して俺たちに勝てると思ってんの? 逃げるなら今のうちだぜ」

余裕そうな笑みを浮かべる彼らに悠斗の気持ちも焦り出す。 その気持ちを読み取ったかのように未来は振り向きもせずこう言った。

「悠斗、大丈夫だって。 俺は喧嘩はしない。 絶対に」

―――・・・未来。

未来の背中から先程まで男たちに囲まれていたサラリーマンを見る。 だがそこには誰の姿もなかった。
どうやらカツアゲされていたサラリーマンは、悠斗たちが男たちと絡んでいる間に逃げることができたようだ。
―――んー・・・。
―――あのサラリーマンの人が無事なら、まぁいいかな・・・。
悩んだ挙句、これ以上未来に怒りを与えないようその指示に従うことにした。
「未来、気を付けて」
悠斗はこの場から走り去った。 今から向かうのは交番だ。 または警察を見つけさえすればいい。 必死に周囲を注意しながら走っていると、後ろからかすかに男の声が聞こえてきた。

―――ッ・・・!
―――付いてくる。

後ろから二人の男が悠斗の後を追っていた。 “捕まったら終わりだ”という恐怖心と闘いながら周囲に視線を巡らす。
―――交番ってどこにあるんだ・・・!?
当然この街へは今日初めて来たため、交番がある場所なんて把握しておらずすぐに見つかるわけがない。
遊び疲れたため少し休もうと人気の少ない場所へ向かおうとしたら、あの男たちのいる場所まで行ってしまったのだから。 走り続けて15分が経つ。
未だに交番は見つからず、なおも後ろから男が付いてきていた。

―――・・・しつこいなぁ。

正直無我夢中に走り回っていたせいで、今自分がどこにいるのかすらもよく分からなくなっていた。 見覚えのある道へ出ようとするも、今まで通ってきた道には交番なんてなく戻っても意味がない。
本当は身体が疲れて仕方がないのだが、怖いモノに逃げている時人間はこうなるのだろうか、走る体力は結構残っていた。
―――早くしないと、未来が・・・ッ!
更に5分が経つ。 だがここで走っていた悠斗の足がピタリと止まった。

―――嘘、でしょ・・・?

今目の前にしているモノを見て思わず息を呑んだ。 走り疲れているというのに呼吸をするということも忘れていた。 これ以上道なんてモノは存在していなかったのだ。
行き止まりだと分かり慌てて後ろを振り返る。 男たちは勝ち誇ったように、ゆっくりと歩きながら徐々に距離を詰めてきた。

―――・・・もう、無理だ。





路地裏


痛い、痛い、痛い。 先程から身体に伝わってくるものはその形容詞だけだった。 男たちは未来へ向かって暴行を繰り返しているが、未来は抵抗せずに全ての攻撃を受け止めている。
未来は喧嘩のやり方を知っていた。 だからこの攻撃を避けるのは簡単だ。 全てを避けられるわけではないが、ほとんどの攻撃は避けることができるだろう。
だがここで避けたら相手の怒りが増し、より攻撃が酷くなる可能性があった。
―――悠斗は、まだなのか・・・?
悠斗がここを離れてから結構な時間が経っただろう。 強い攻撃に耐えながら、未来の心は徐々に不安な気持ちに支配されていく。

―――どうして、どうしてなんだよ・・・。
―――悠斗は今、どこにいんだよ・・・。
―――悠斗はどこへ行っちまったんだよ・・・ッ!

今はかなりの攻撃を食らっているため身体へのダメージは大きい。 そして信頼している悠斗の姿も一向に見えない。
必ず戻ってくると分かっていたらまだ耐えられるのだが、本当に戻ってくるのか分からないとなると心が折れ、同時に身体にも力が入らなくなってしまう。
そしてついにこの状況のせいで正気が保てなくなってしまい、最悪なことを考えてしまった。

―――悠斗が、俺を裏切った・・・?

“悠斗が俺を置いてどこかへ一人逃げてしまった”

そんな最低なことを考えてしまったのだ。

殴られてから約30分が経過した。 未来の身体は既にボロボロだ。 普通ならばこんなに攻撃をされていては意識が遠のいていってもおかしくはない。
未来は喧嘩慣れしていて身体も丈夫なため、何とか意識は保つことができていた。 だが流石の未来でももう限界で意識があと少しで飛びそうになった時、目の前にいる男が攻撃を止めた。
「もう一度聞く。 お前の学校はどこだ?」
「・・・」
これ以上耐えるのには限界があった。 かといって今男に手を出しても、未来の体力が彼らよりも先に尽きるのは目に見えている。 こんなことは言いたくなかった。 悠斗を信じてあげたかった。
沙楽学園や結人たちに迷惑をかけたくなかった。 だが既に未来の身体と心は限界を迎えている。

もし次に一発でも殴られたとしたら―――― そのような恐怖から自然と口が動いていた。

「・・・沙楽、学園・・・」
結局未来は自分に負け、仲間を守り切ることができなかった。 男たちはそれを聞くと何事もなかったかのようにこの場から離れていく。 未来は一人残され壁にぐったりと背中を預けると辺りを見回した。
周りに人は誰もいなく悠斗が戻ってくる気配もない。
―――・・・帰ろう。
小さく溜め息をつき残りの体力を振り絞って未来もこの場から立ち去った。 駅へ向かいながらスマートフォンを操作する。 警察へ連絡するとしても相手の姿が見えないためもう遅い。
悠斗には連絡したくなかった。 悪いと思っていながらも自分から連絡することには躊躇いがあったのだ。 だがせめてこの傷は何とかしようと結黄賊の仲間である一人の少年に電話をかけた。
「・・・北野か? あのさ、頼みたいことがあるんだけど」

そして未来が現場を後にした10分後に悠斗は戻ってきていた。 だがそこに未来の姿はどこにもなかった。


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