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御子柴からユイへの想い。
御子柴からユイへの想い③
しおりを挟む同時刻 1年の廊下
結人が屋上の前で何もできず一人立ちすくんでいる頃、未来たちは屋上から戻ってきた日向に声をかけていた。
「お前、御子紫に何をしたんだよ」
「は? 急に何だよ」
突然目の前に現れ行き先を阻まれた日向は、不機嫌そうな顔をしながら適当に言葉を返していく。 そんな彼の態度に負けじと、未来も対抗し続けた。
「さっき、御子紫と一緒にどこかへ行っていたんだろ? 御子紫は何故か知らないけど怒っていたし、まぁ、よく分かんねぇけどお前が何かしたにちがいない!」
日向に向かって人差し指を突き出しながら、勝手な言いがかりを押し付ける未来。 だがもちろん未来は、本気で怒ってなどいなかった。
本当に日向が御子柴に悪いことをしたとは限らなかったし、何よりも証拠がなかったからだ。
だけど仲間が嫌な思いをして大きな事件になるのを事前に防ぐため、軽い行動を起こそうとしただけだった。
そんな未来の発言を隣で聞いていた椎野も、続けて日向に問いかけていく。
「そうそう。 それにお前と御子紫が一緒にどこかへ行ったっていうことを聞いて、ユイは教室を飛び出していったけど、ユイも何か関わってんの?」
「・・・」
真剣な表情を浮かべている椎野を見たせいか、日向は視線をそらし黙り込んでしまった。
だけどこの時の日向は図星だから無言になったというわけではなく、彼の顔を見る限り“このやり取りをすること自体が面倒くさい”という雰囲気を纏っているのが、見て分かる。
「俺たちの話をちゃんと聞いてんのかー?」
「大人しく全てを話してくれたら、解放してあげるっつーのに」
なおも無言状態を貫く彼に、少し苛立たし気に尋ねていく未来と椎野。 だが次の瞬間、突然聞き慣れた声が背後から耳に届き、この尋問を強制的に止められた。
「二人共、そこらへんにしておけよ」
やんわりとこの場を制御するような発言を聞いた未来は、振り返りながら日向のことを鋭く指を差す。
「あぁ? でも、コイツが絡んでんのは確かなんだぞ!」
未来と椎野を止めに入った少年――――夜月は、その立ち止まり困った表情をしながらも日向をフォローしていった。
「人を指差すな。 というより、まだソイツが犯人って決まったわけじゃないだろ」
「えー、でもさ夜月」
「それに」
未来の発言を否定された今、今度は椎野が代わりに何かを言おうとするが、それは夜月によって遮られる。 そしてそのまま、夜月は続きの言葉を冷静に紡ぎ出した。
「それに、今お前たちがしていることを、ユイは望んでいるのか?」
「「・・・」」
その問いには何も答えられず、二人は大人しく黙り込む。 だけど――――最終的には未来たちが折れ、嫌々ながらも空き教室へ戻ることにした。
「へいへーい」
「分かったよー」
二人が離れて行くと、日向も“やっと解放された”という顔をしながら自分の教室へ戻っていく。
未来と椎野は、夜月よりも一足先に教室へ戻ろうとしたのだが――――タイミングがいいのか悪いのか、この時丁度ある一人の少年と出くわした。
「あれ」
「ユイ?」
「・・・」
廊下を歩いているところを、未来と椎野に見つかってしまった結人。
本当はこのまま屋上へ行き、真宮たちの中に交ざろうかとも思ったのだが“今の自分では行っても迷惑がかかるだけだ”と思い、踵を返したのだ。
だけどみんなとは顔を合わせにくく、仲間がいる空き教室には戻りにくい。 きっとみんなは『御子紫は?』と、質問攻めをしてくるだろうと思ったから。
それを避けるためこのまま5組の教室へ向かおうかとも考えたが、そこには藍梨がいる。 今は彼女に、会いたい気分ではなかった。
かといって屋上も、真宮たちがいるため行くことはできない。 できれば今は一人になりたかった。 だけど行く当てが特にないため、適当に校内を彷徨っていたのだ。
だがそんな時――――運悪く、未来と椎野に見つかってしまう。 結人は二人に会っても何も言うことができなく素直に黙り込んでいると、気を遣ってくれたのか椎野が先に口を開いてくれた。
「どうしたんだよ? 用はもう終わったのか? あ、真宮もユイを追いかけていったけど、真宮とは会えたか?」
「・・・あぁ」
その問いに、彼から視線を外して答えていく。 そんな椎野に続けて――――未来も、淡々とした口調で質問をしてきた。
「御子紫は?」
「・・・」
―――やっぱりか。
未来が遠慮なしに、御子柴の名を口にする。 嫌な予想が的中するが、これは予め想定していたため今更戸惑うことはなかった。
だけどこのままうじうじしていても駄目だと思い、二人には御子柴のことを話そうと意を決して口を開く。
「あのさ」
「「?」」
が――――なかなか、先の言葉が出てこない。
そんな意気地のない自分に呆れ、結人は思わず溜め息をついた。
「・・・悪い、やっぱり何でもねぇわ。 御子紫には今、真宮が付いているよ」
それだけを言い、もう一人になることは無理だと諦め、二人の返事を聞かずみんなのいる教室まで足を進めていく。
そして最初に座っていた席まで戻り目の前にある弁当へ視線を移すが、食欲がなく手を付けることができなかった。
そんな結人を見かねたのか――――コウと優が、静かにこちらへやってくる。 この二人と真宮だけは、御子紫の事情を知っている者だった。
「ユイ、大丈夫?」
結人のことを心配して、優しく声をかけてくれる優。 そんな彼にあまり心配をかけないよう、柔らかい表情を作りながら言葉を返していく。
「あぁ、俺は平気だよ」
「そっか。 ・・・御子紫は、どう?」
「・・・」
“またか”と内心思いつつ、もう一度心の中で溜め息をついた。 だがそう聞かれても、御子紫に関しては実際のところ結人でもよく分かっていない。
だから答えられないのは本当だった。 御子柴の事情をより把握し彼を助けるために、結人は追いかけたのだ。 だけど、何もしてあげることができなかった。
いや、それよりももっと最悪なことは――――御子柴に事情を聞けなかったのは意気地のない自分のせいだと分かっていながらも、彼を犠牲にしたことだった。
「アイツ、何があったのか話してくれないんだよ。 だからまずは、御子紫から事情を聞かないとな」
―――そんなことを言ってしまった自分は・・・最低だ。
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