64 / 367
執事コンテストと亀裂。
執事コンテストと亀裂㉒
しおりを挟む―――俺は・・・何を言ってしまったんだろう。
結人は伊達と別れ、藍梨を捜し続けている。 そんな中、つい先程起こった出来事に反省していた。
―――伊達と藍梨はもう付き合っているかもしれないというのに、あんなこと言うなんて・・・俺は、ただの負け犬じゃねぇか。
もう過ぎてしまったことは仕方ないが、言ってしまったことには後悔している。
―――・・・でも、さっきの伊達の反応。
結人には一つ、気がかりなことがある。 『藍梨のことは、好きか?』と聞いた後、彼はすぐに反応してこちらへ振り返った。 あれは、一体どういう意味なのだろうか。
おそらく、藍梨に気があるのは確かだ。 それに、伊達の反応は思っていたよりも大きなものだった。
恋愛には慣れておらず、だからあのような――――というわけでもなさそうだ。 もし二人が付き合っていたら、そんなに反応は大きくないはずなのに。
なら、まだ二人は付き合ってはいないのだろうか。 伊達は“藍梨のことが好き”ということが結人に見破られて、それで驚いてあんな大きな反応をしてしまっただけなのだろうか。
―――・・・まぁ、いいや。
―――今更伊達のことを色々と考えていたって無駄だ。
―――藍梨に対する気持ちは、変わらないんだから。
そう思い、今のやるべきことに集中する。 先刻から藍梨を捜しているが、彼女の姿は全く見つからない。
―――どこにいんだよ・・・藍梨。
~♪
藍梨を捜していると、突然携帯電話が鳴り響いた。 相手は未来からだ。 藍梨の何かしらの情報が得られたのかと思い、慌てて電話に出る。
「もしもし?」
『ユイか? 藍梨さん、無事に見つかったって』
「あ・・・そうか。 なら、よかった」
その言葉を聞いて、走っていた足をその場に止めた。
―――藍梨が、無事ならよかった。
自分で藍梨を見つけることができなかったが、彼女が無事だと聞き安堵する。 すると電話越しから、未来の小さな声が聞こえてきた。
『・・・伊達が、見つけたって』
「・・・そっか」
―――伊達・・・か。
結人は、藍梨を見つけることができなかった。
―――いや・・・俺は、藍梨を見つけることができないのかな。
また結人は空回りしている。 最近藍梨とは、ずっとすれ違っているような気がした。
―――そんな気がすんのは・・・俺だけかな。
『おう。 じゃあな』
そして未来との電話を切り、梨咲のいる教室へ戻る。
―――俺は・・・一体何をしていたんだろう。
―――・・・馬鹿だな、俺。
この時、藍梨は――――物置き場所となっている教室の中にいた。 物がたくさんあって少し汚いが、今の藍梨には何故かこの場所が落ち着いて感じる。
何もない空っぽの教室よりは、周りがごちゃごちゃしていた方がよかったのだ。
―――早く・・・結人のことを、諦めなきゃ。
―――・・・どうしてこんなに私は、弱いんだろう。
寂しい気持ちになっていると、勢いよくこの教室のドアが開いた。
「ッ、藍梨!」
伊達だ。 伊達が、藍梨を見つけてくれた。 彼は今、少し息が上がっている。
―――・・・私のために、走ってきてくれたんだね。
「藍梨・・・。 よかった、見つかって。 あ、ちょっと待って」
伊達が藍梨の前まで近付くと、そう言って携帯を取り出した。 何か文字を打っている。 しばらくその光景を見ていると、彼は携帯をしまい藍梨に向かって口を開いた。
「大丈夫?」
彼は藍梨を心配してくれている。 どうして伊達は、藍梨に対してこんなにも優しいのだろうか。
「やっぱり、最初に私を見つけてくれるのは・・・直くんなんだね」
「え?」
そう言って、藍梨はまた涙を流した。 藍梨には“もしかしたら結人が捜しに来てくれるのかもしれない”という僅かな期待があった。
“どうして結人じゃなくて直くんなんだろう”思ってしまった藍梨は、自分でも最低な人間だと思う。
―――でも、そんな期待をした私が馬鹿だったのかな。
―――・・・もう結人には、甘えないって決めたのに。
「藍梨さ、最近様子が変だよ。 何かあったの? ・・・言ってくれなきゃ、俺はどうしたらいいのか分かんねぇよ」
伊達は藍梨から目をそらし、小さな声でそう呟いた。 そんな彼に、藍梨の心には罪悪感しかない。
―――・・・ごめんね、何も言えなくて。
そう、伊達から見たら藍梨はただ泣いているだけ。 どうして泣いてるのかも分からないため、どう対処したらいいのかいつも困っていたことだろう。
だけど彼は、いつも藍梨の隣にいてくれた。
―――直くんにも、私は甘えていたのかな。
―――・・・直くんにも、たくさん迷惑かけちゃったよね。
「・・・ごめんね」
だが今の藍梨には、ただ謝ることしかできなかった。 その言葉を聞いた伊達は、複雑そうな表情を浮かべる。
「あ、いや・・・謝らなくていいよ。 ごめん、ちょっと色々考え過ぎちゃってて、今の俺・・・どうかしてるわ」
「・・・」
今の彼に何もしてやれない不甲斐なさを感じ、藍梨は何も言えなくなる。
「とにかくさ、もし何かあったら俺に言って? 別に無理に聞こうとはしない。 だけど、藍梨が一人で抱え込んでいる姿を見るのは・・・俺が、苦しいから」
その言葉を聞き、藍梨は小さく頷いた。
―――直くんはいい人だよね。
―――私には勿体ない。
―――なのにどうして・・・私を誘ったんだろう。
「・・・藍梨ってさ」
「?」
伊達が静かに口を開く。 そして少しの間を置いて、次の一言をゆっくりと放った。
「好きな人、いる?」
「え?」
思ってもみなかった質問に驚いてしまい、思わず言葉が詰まる。
―――好きな人って・・・結人のことだよね。
―――こんなこと、今言ってもいいのかな・・・。
もし今ここで結人の名を口にしたら、伊達はどんな顔をするのだろう。 だが『いない』と答えることもできない。 彼には嘘をつきたくない。
だから、ここは『いる』と答えた方がいいのだろうか。 何て返事をしたらいいのか困っていると、伊達は続けて言葉を放った。
「今付き合っている人とかは、いる?」
「・・・今付き合っている人は、いないよ」
藍梨は本当のことを言った。 好きな人のことは言いにくかったため、付き合っている人がいるかどうかはハッキリと答えを出した。
「・・・そっか」
返事はそっけないが、伊達の表情はどこか安心しているようにも見える。 すると突然、彼は安堵した表情から一気に笑顔になった。
「よし! 藍梨、今日はもう帰ろう。 少し寄りたいところがあるんだ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる