心の交差。

ゆーり。

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執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂㉖

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結人たちはあの後カラオケを再開し、時間がきたところでカラオケボックスを後にした。
「ねぇ結人! 次はプリ撮りに行こう!」
「えー? それはー・・・」
普段のノリでなら即OKするはずだが、プリクラを撮るということに対しては流石に戸惑う。
「どうしても駄目? 最初で最後なんだよ」
「・・・」
梨咲の顔をふと見ると、寂しそうな表情をしていた。 そんな彼女に負け仕方なくOKを出したら、すぐ笑顔になり喜んでくれる。

―――俺は甘いな・・・梨咲が相手だと。

そして――――プリクラコーナーに着いた。 やはりここにも、人がたくさん集まっている。 男子だけは禁止。 女子だけはOK。 カップルもOK。
―――んー・・・? 
―――俺たちはカップルじゃねぇけど、入ってもいいんだろうか・・・。
「ほら結人、早く行くよ!」
その案内が書かれている入口の前で立ち止まっていると、梨咲はそう言いながら腕を引っ張り人混みの中へと入っていく。
どの機種がいいかなどはさっぱり分からないため、それに関しては全て彼女に任せた。
「先にお金を入れるんだって」
「ん、俺が出すよ」
「駄目だよ。 さっきもカラオケで奢ってくれたし、だからせめてプリは私に払わせて。 ・・・ほら、そんなに結人から貰いっぱなしだと、七瀬さんに悪いから」
「ッ・・・」

―――藍梨・・・か。

今日、梨咲の口から“藍梨”という名が出るとは思ってもみなかった。 だがここで藍梨のことを考えてしまうとこの先が苦しくなるため、今は無理に藍梨のことを忘れようとする。
「ねぇ、結人はどれがいい?」
梨咲は既にお金を入れていたらしく、今は撮影するためのサイズや背景を決めていた。
「んー、じゃあ、この黄色かな」
背景を全て決め終えた後、プリクラ機の中へと入る。 女子とこの中に入るのは3回目だった。 1回目は柚乃、2回目は藍梨。 そして3回目は梨咲。
柚乃と付き合う中学までは藍梨のことをずっと想っていたため、身近な人と恋愛をすることはまずなかったのだ。
『いくよー? ハイ、チーズ!』
撮影が終わり、落書きコーナーに移動する。 だが何を書いたらいいのか分からず、さりげなく梨咲の書いた落書きを見た。

“私の好きな人” “幸せな時間” “いい想い出”

―――なッ・・・! 
―――よくこんなことが書けるな・・・。
そう思いながら梨咲の方へ目をやると、彼女はとても幸せそうな顔をしていた。 そんな彼女の表情を見て、少し口元を緩ませる。
―――まぁ、いいか。
そう思い、落書きの内容を考えた。 “今日は楽しい時間をありがとう” この時梨咲は、結人の書いている落書きを見ていた。

そしてその落書き内容を見ていた梨咲は、嬉しそうに笑っていたことを――――今でも結人は、知る由もない。

落書きを終え、結人たちはプリクラコーナーを後にした。





「なぁ梨咲。 折角だし、映画でも見に行かね?」
渋谷の通りを歩いていると映画の広告がふと目に付いたため、彼女を誘ってみた。 最近よくCMで流れている映画だ。
評判もいいみたいだし、見るには丁度いいのではないかと思い提案する。
「うん、行く!」
その誘いに、笑顔で返事をしてくれた。 

そして他愛もない会話をしながら、映画館へ向かっていると――――突如、後ろから声をかけられた。 
「あのー、すいません。 少しお時間いいですか?」
声のした方へ振り向くと、そこにはカメラを持った人とマイクを持った二人の男が目に入る。
―――え?
―――・・・何だよこれ。
「今ちょっと、カップル特集っていうのをやっているんですよ。 それでなんですけど、お二人のことを色々聞かせてもらってもよろしいですか?」
「え、いや」
「いやぁ、それにしてもお似合いのカップルですよね! まさに美男美女カップルって言いますか、もう眩しいくらいで」
マイクを持った男の人と目を合わすことが苦しくなり、思わず視線を梨咲の方へずらす。 そしたら梨咲は、顔を真っ赤にして俯いていた。
そんな彼女を見て、結人はインタビューをしている人の声を遮り大きな声で言葉を放つ。
「俺たちはカップルじゃありませんッ!」
その言葉を聞いた瞬間、一瞬だけキョトンとした表情を見せるが、マイクを持った男の人はすぐ笑顔になった。
「え、そうなんですか? じゃあ折角なので、これを機に男性の方から告白しちゃいましょうよ!」
「はッ・・・!?」
そう言って、インタビューをしている人は結人にマイクを向けてくる。

―――告白って・・・。 
―――本命は他にいるんだから、そんなことできるわけねぇだろ!

「すいませんが、俺たちはこれから行くところがあるので失礼します」
それだけを言い捨て、梨咲の手を取りその場から急いで離れた。 そしてその後の彼らの会話は、当然耳にも届いていない結人たちは知らない。

「え・・・。 今二人は手を繋いでいるし、本当にカップルじゃないのかなぁ? 美男美女だったから、視聴率アップすると思ったのに」

梨咲を連れて、映画館へと急ぐ。 すると彼女は、突然後ろから声をかけてきた。
「・・・ねぇ、いつまで手を繋いでいるの?」
「このまま映画館まで行く」
梨咲と今でも手を繋いでいた理由などは特になかった。
とにかくあの場から早く抜け出したかったのと、カップルに間違えられた後の彼女との会話が気まずくなるのを防ぐため、会話する隙を与えないよう早歩きで映画館へ向かおうとした。
だから梨咲とはぐれないように、今でも繋いでいる。 ただ――――それだけのことだった。

そして映画館へ着き、梨咲にどの映画を見たいのかと尋ねたら丁度結人が見てみたかったのと同じ作品だったため、すぐに決まりチケットを取る。
「映画とか久しぶりだなー」
「あんま見に来ねぇの?」
「んー、まぁね」
映画が始まり、モニターに集中する。 

始まってから一時間くらい経ちふと梨咲の方へ目をやると、眠たそうにうとうとしている彼女が目に入った。
「眠いのか?」
「んー・・・」
「ちゃんと昨日の夜、寝なかったのかよ」
目線はモニターに集中しているものの、苦笑しながらそう言葉を放つ。
「寝ようとしたけど、寝れなかったの」
「どうして?」
「・・・好きな人と明日遊ぶ約束をしていたら、緊張して眠れなくなるのが普通でしょ!」
そう小声で言って、梨咲は顔を真っ赤にした。 

―――梨咲は意外と、素直な奴なんだな。

「ありがとな」
小声でそう返すと、彼女はより顔を赤くしてモニターに再び視線を移しこう言った。
「ちゃんと映画は見るもんっ!」
結人のために頑張って起きてくれているのか、それとも結人の発言に気が障ったのかは分からないが、そんな梨咲が可愛く思えてしまいつい笑ってしまった。

そして――――映画が終わり、映画館から出る。
「ラストのシーン、すっごく感動した!」
梨咲は満足そうに笑顔でそう口にした。
「途中寝てたくせに」
「なッ! 最後はちゃんと見ていたからいいでしょ!」
「はいはい。 まっ、梨咲が楽しかったのならよかったよ」
携帯を取り出し時間を見ると、時刻は18時半になろうとしている。 あまり遅い時間まで梨咲を出歩かせたくなかったため、結人はこう口にした。
「そろそろ帰るか。 駅へ行こう」
そう言って、結人たちは渋谷駅へ向かった。


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