心の交差。

ゆーり。

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執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂㊾

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「悪いけど伊達。 伊達が今一番こん中で混乱していると思うけど、もう少し待っていてな。 俺、最初にみんなに話しておきたいことがあるんだ」
伊達が頷いたことを確認し、結人はみんなの目の前に立った。 その瞬間、御子紫が結人に向かって口を開く。

「ユイ、先に言っておく。 今からユイが何を言おうとも、俺はずっとユイの味方だから」

そんな優しい気遣いをしてくれた御子柴に対し、結人の心は落ち着きを取り戻した。 そして彼に向かって小さく頷き、覚悟を決めて言葉を紡ぎ出す。
「さっき起きた、コウがレアタイのリーダーを傷付けた話なんだけど」
そこまで言うと、みんなの顔が少し強張ったことが分かった。 だが今からこのことを説明しても、みんなは『だと思った』と思うことだろう。

「コウには、俺から頼んだんだ。 ・・・アイツらから、言われてさ。 俺たちの『無傷な喧嘩はもう通用しないから、人を傷付ける練習をしてこい』って。
 でも俺は、最後まで人を傷付けたくなかった。 だけど念のため、コウに頼んでおいたんだ。 まぁ・・・結局相手は負けを認めてくれなかったから、使っちまったけどな。 
 他の奴に頼まなかったのは、みんなは本当の喧嘩を知らないから。 だから一番喧嘩慣れしているコウに頼んだんだ。 
 それに・・・みんなにこのことを言うと、すぐに反対されると思って。 だから言えなかった。 ・・・みんな、悪い」

結人は頭だけを下げ、仲間の反応を待つ。 きっとすぐに怒ってくる者が出てくるだろう。 だが――――いくら待っても、返事はこなかった。
「・・・何か言ってくれよ。 怒りの言葉でも、不満な言葉でも、何でもいいから」
反応が待ち切れず、自らみんなからの返事を求めた。 すると最初に、先刻北野に手当てをされ頭に包帯を巻いている未来がそっと口を開く。
一番最初にコウに向かって怒ったのが彼だ。 だから相当怒り狂っていてもおかしくはない。 結人は覚悟を決め、未来から出る言葉を待った。

「・・・何だよ。 そんなことなら、早く言えっての。 リーダーの命令だからコウは従ったんだろ? だったら別に文句は言わねぇ。 ユイが決めたことなんだし。 
 ・・・あぁ、そんなことならさっきあんなにコウに向かって怒っていた自分が馬鹿みてぇ。 コウ、さっきは悪いな」

「いいよ、俺は別に」

―――え・・・それだけ?
「他には何かねぇのかよ。 もっと俺に対して怒れよ!」
「なーんで、俺たちが将軍に対して怒らなきゃなんねぇんだよ」
「別にリーダーが決めたことなら構わないし」
「コウは裏切ってなんかいなかったんだね! よかったぁ」
椎野、夜月に引き続き、コウと一番仲がいい優は安心した表情をしてそう言った。
「あのー、えっと・・・」
またもや意外な返事がきて、結人は戸惑い何も言葉を発せられなくなる。 

―――こんなんで終わらせていいのか? 
―――俺が納得できねぇ。

「ユイが今何を思っているのかは知らないけどさ。 俺たちは常にリーダーであるユイの言うこと、聞いているでしょ?」
「そーだよ。 どんだけ俺らを信用してねぇんだ」
悠斗の発言に、未来は言葉を付け足してそう発する。
「信用はしているさ! だけど・・・みんなをあまり、酷い目に遭わせたくないっていうか・・・」

「だーかーらー! そういう気持ちが迷惑なの! 分かる!? ユイが一人で背負い込んで、俺たちには何も言わずに黙っている。 それこそが迷惑なんだ!」

「ッ・・・」

未来のその言葉に、結人は言い返せず口を噤んだ。 そして続けて、彼は言葉を紡いでいく。
「まぁ、今回はコウにこのことを話していたからチャラにしてやる。 レアタイの件も、夜月には話してあったみたいだからそれもよしとしておく」
「・・・未来」
未来からの思ってもみなかった発言に、結人は思い知らされた。 彼は普段明るくて元気で、うるさくて。 そして感情豊かなため、怒りっぽいけどお調子者で。
そんな少年だと思っていたが、ちゃんとリーダーのことを信じ付いてきてくれていたのだ。

「だからさ。 今から話す次の話も、気楽に話してよ。 俺たち、何を言われてもユイの言うことは全て受け入れるからさ。 
 ・・・俺たちは、ユイに付いていくって決めたからここまで付いてきたんだ。 その意志は今も変わらねぇ。 ここにいない真宮も、きっと同じことを思っているだろうしな」

その言葉に、他のみんなも頷いた。

―――・・・ありがとうな、みんな。 
―――俺はみんなに甘えていたと思っていたけど、実際はそうじゃなかったのかな。 
―――・・・いや、もうよく分かんねぇや。

「じゃあ、コウの話は解決したってことで次!」
話がひと段落したところで、御子紫が次の話を促した。 この流れで、結人は口を開いていく。
「ん、分かった。 ・・・次はさ、柚乃のことなんだけど」
「柚乃さん?」
優のその発言に頷き、話を進めた。
「柚乃が立川へ来た理由は、俺に会うためだったんだ。 柚乃はまだ俺のことを諦めてはいなかった。 『よりを戻そう』って何度も言われたけど、俺はそのたびに断っていた。
 ・・・でも、少しだけ柚乃に気持ちが傾いた時はあったんだ。 でもそれを止めて、俺を見守ってくれていたのが夜月だった」
そう――――これは、今ここにいるみんなには関係のない話だった。 これは夜月、ただ一人に向けて放った言葉だ。 だが夜月と一対一で、対面して話せる勇気はなかった。
だから結人は、この場を借りて言うことにしたのだ。

「だけど俺は決めた。 俺には藍梨がいるし、こんなところで迷っていたら駄目だと思う。 ・・・俺は、ちゃんと柚乃を振るよ。 この気持ちに偽りはない」

そう言うと、この話に一番肝心だった夜月が口を開きこう口にする。
「ん、了解。 頑張れよ」
そう言って、結人に向かって笑いかけてくれた。 彼のその言葉と表情に物凄く安心する。 

―――本当にここにいるみんなには、感謝し切れないな。


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