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第65話 逆鱗
しおりを挟む誠司が己の過ちに気付いた時には、もう全てが遅かった。毎日いたグラウンドに二度と立つことはなく、最終学歴は中卒。最悪の汚名をさせられ、友人もいない。
不祥事の事件以来も、最後まで味方をしてくれた両親まで事故で亡くした。それも、誠司は自分が与えた心労が原因だと思っている。
その後、誠司は自暴自棄となり、周囲との関わりを遮断した生活を送り続けたのだ。誠司に出来た大きな傷が、他人との関わりを受け入れられなかったのではないか。
それが、誠司がこれまで歩んで来た人生だというのだ。
「なあ、誠司! 誠司が悪いって勘違いしてる奴らに、本当のこと話そうぜ」
「話さねぇよ。今更だ」
「絶対おかしいって! 仲良かった奴もいたんだろ? そいつらから誤解といてさ、みんな信じてくれるって」
「さっきも言ったろ。話したところでどうなるもんでもねぇ。もうこの件に関わるつもりはねぇよ。話はこれで終わりだ」
あしらうばかりの誠司に、琥珀は溢れる気持ちが止まらない。どうして、そんな理不尽がまかり通ってしまうのだ。優しい人間が馬鹿を見るなんて、全てを奪われてしまうなんて、そんなことがあっていいはずないだろう。
「変わる! みんなが本当の誠司を知ったら、変わるよ」
「変わらねぇって。いい加減にしろ」
強制的に話を終わらせようと、雑に洗濯を干した誠司が、この場から離れようとする。その背中を追いかけて、琥珀はなおも詰め寄った。
「だって、終わってねぇじゃん! この件に関わるつもりねぇって言ったって、誠司はずっとそこにいるだろ!」
「あ?」
田淵や高橋とかいう事件を起こした元凶は、今日までどれほど思い返したことがあるのだろう。田淵の様子を見た限りでは、毎日毎日、自責していたようにはみえなかった。
毎日、後悔して自分を責め続けているのは、誠司の方だ。十代後半という若さで、世の中に関わることをやめ、じっと一人で死を待つだけの日々を送っている。光の無い場所で、ずっと立ち止まって、動けずにいるのだ。
「誠司の中では、なんも終わってねぇ! そんな風に平気なフリしても、わかって」
「しつけぇって!」
琥珀の言葉は、誠司の怒鳴り声で遮られる。振り返った誠司は大きく顔を歪ませて、忌むものでも見るかのように、琥珀に冷たい視線を向けた。
「お前に関係ねぇだろ。何も知らねぇくせに、黙ってろ」
俺のことは放っておいてくれと、誠司は苛立ちを隠さずに告げる。琥珀は初めて、本気で怒った誠司を見た。
これまでとは異なる明らかな怒気をはらんだ言動と拒絶は、誠司の深層に触れたということなのだろう。それは、誠司が十三年経った今でも、乗り越えられていないことを示してもいた。突然与えられた傷は、癒えることなくグズグズに膿んでしまっているのだ。
乾くことがないそれを、見ないようにすることで何とかやり過ごしてきたのである。
結局、誠司は首を縦に振らなかった。
歪んだ表情と荒い口調から、誠司の気持ちに負荷がかかっていることがわかる。説得をしようとする度に、誠司の傷口をナイフで抉っていくようで、琥珀は泣きたくなった。
誠司を傷付けたいわけでも、追い詰めたいわけでもないのだ。
もう何年も、誠司は道を見失っている。新しい道を探す気すら起きないほど、気力は根こそぎ奪われたままだ。
伝わらないことが、たまらなく悲しくなる。誰より優しいくせに、自分のことを底辺な人間だと認識している現状が憎かった。
この一件から、縮まっていた琥珀と誠司の距離は再び開くことになる。
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