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二章

【閑話】お掃除をします!

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 その日は、珍しく子竜軍団が暴走した。

 事は、王城の外壁を塗り直しの日に起こった。


「きゅ~」
「きゅる~きゅる~」
「きゅ~るるるる~」
「今日はみんなごきげんですね」

 外壁がペンキでどんどん綺麗にされていく様子を見て、子竜達がきゅるきゅるとご機嫌そうに鳴いている。滅多にみない光景だから楽しいんですかね。
 そんな微笑ましい子竜をのんびりと眺めていられたのも束の間、いきなりリューンが走り始めた。

「え!?」

「きゅ~!!」
「きゅ!」

 リューンの後に続いてカノンとノヴァも駆け出す。もちろん、塗装の最中の城壁目がけて。

「ちょっ!? 三頭とも!?」

 こんな時に限ってシアラさんが席を外してるんです。だから今現在、子竜を監督しているのは私だけだ。
 慌てて三頭を追いかける。

「って、みんな足早いですね!」

 全速力で走っても全然追いつけない。むしろどんどん距離を離されていく。
 私も子竜になって追いかけるしかないですね。

「きゅ~!」

 一瞬で変化して翼を動かし、三頭を追う。飛ぶことに関してはまだ三頭よりも私の方が上手いから、ちょっとだけ距離が縮まる。
 だけど、私はすんでのところで間に合わなかった。

 ばっしゃ~ん!!

「きゅあぁぁ~ (ひぇぇぇ)」

 三頭はなんと、ペンキの入った容器に突撃し、ひっくり返してしまったのだ。しかも、その拍子にしっかりとペンキを浴びてしまっている。

「きゅぁ?」
「きゅ!?」
「きゅぅ!!」

 色の付いた水だと思っていたのか、三頭は重いの他ベタベタするペンキに驚いて暴れまわった。
 子竜達はそれぞれ縦横無尽に駆けずり回る。

「きゅ、きゅ~……」

 誰を追いかければいいんでしょう……。ああ、カノン、ノヴァ、別方向に走り去らないでください……。
 おろおろとしていると、リューンがこっちに向かってダダダッと走ってきた。
 そして全くスピードを弱めず、私に突撃する。

「きゅぇ!! (ぐぇっ!!)」
「きゅ~!」

 リューンにぶつかると同時に、リューンに付いていた白いペンキが私にもべっちょりと付着した。

「きゅ~……」

 テンションが下がる私を見てリューンがきゅるきゅると笑う。
 わざとぶつかってきましたね……?
 ジロリと睨むと、リューンは片眉を上げるような憎たらしい顔をして私から逃げ出した。

「きゅ! (あ! リューン!!)」

 このぉ~!!

「きゅ~! (まってください!!)」

 駆け出したリューンを追いかける。
 くぅ、全然捕まりません。
 リューンは楽しそうにちょろちょろと逃げ回る。

 そして、リューンはついに王城の中に入ってしまった。もはやカノンのノヴァの行方は分からない。
 って、あ!!

 ペンキが付いたまま走り回るからリューンの足跡が床についてしまっている。

「きゅ~! (リューン! とまってくださ~い!!)」
「きゅるきゅるきゅる~」

 それからリューンは華麗に逃げ回り、漸く捕まえた頃にはすっかりペンキは乾ききってしまっていた。



***



 場所は正面玄関。

「きゅ~……」

 ヴォルフス様に向けて頭を下げる。土下座だ。
 ペンキが乾いてまだら模様になっている三頭は私が何をしているのか分からないのか、一様に首を傾げてこちらを見ている。
 ひょいっと私の脇に手を差し込んで抱き上げたヴォルフス様は苦笑していた。

「謝らなくてもいい。元々子竜ってのはやんちゃなもんなんだ。リアが来てからの聞き分けの良さが異常だったんだよ」
「きゅ~……」
「そうそう、私がいてもこの子達は止められませんでしたよ」

 シアラさんがヴォルフス様の援護射撃をする。

 ヴォルフス様が私の頭を撫でた。

「そんなに落ち込まないでくれ。リアが悲しいと俺も悲しくなる」
「きゅ~……」
「さて、子竜軍団はそのかわいい模様を落とさないとな」

 微笑まし気に私達のことを見るヴォルフス様。

「床に残ったかわいい模様ももったいないけど落とさないとな」
「きゅ~……」

 そう、私とリューンが走り回ったせいで王城の廊下に真っ白い竜の足跡が残ってしまったのだ。
 自分が完全なる第三者だったらかわい~、で済んだんですけど、当事者だから申し訳なさしかないです。

 とりあえず、自分の体を綺麗にしちゃいましょうかね。ペンキがパリパリして気持ち悪いですし。
 魔術でさらっと体を綺麗にする。
 リューン達も流石に気持ち悪かったのか、自分達で体を綺麗にしていた。普段は人に拭いてもらった方が気持ちいいから自分の体を綺麗にするのに魔術は使ってないんですけどね。


「きゅるるる (みんな、わたし達がよごしちゃったんだから自分達できれいにしますよ)」
「「「きゅ~ (は~い)」」」

 いい子の三頭は揃っていいお返事をしてくれる。

「きゅ~ (じゃあいきますよ~!)」
「「「きゅ~!!!」」」

 私の後をすっかりピカピカになった三頭がついてくる。

 そして、私達は点々と残っている小さな足跡を魔術で消して回った。

「きゅ」
「きゅ」
「きゅきゅっ」
「きゅきゅ」

 ぽてぽてと歩いて一個一個足跡を消していく。
 足跡を一つ消す度に鳴き声が出ちゃうのはどうしてなんでしょうね? わかんないですけど、なんか鳴きたくなっちゃうんですよね~。子竜の習性なんでしょうか。

 お掃除の途中、ちらりと振り向いてみたらヴォルフス様とシアラさんが蹲って悶えていた。

「グゥッ……! お掃除する子竜かわいすぎる……!! かわいい足跡も消すのがもったいないな。だが、一応正面玄関だし……」

 そんな感じでヴォルフス様が悩んでいる間に、仕事の出来る私達は全部の足跡を消し終えました。

 汗なんてかいてないけど短い腕で汗を拭うフリをする。

「きゅ!」

 ふぅ、いい仕事をした気分です。

 その後は四頭揃って大層褒められました。
 ヴォルフス様の腕の中で私はあることに気付いて首を傾げる。

 ……ん? 自分達で汚して自分達でお掃除しただけなのに。
 こんなに褒められていいものかと疑問に思う。

 もしかしてこれがマッチポンプってやつですかね。
 ヴォルフス様やシアラさん、リューン達の顔をそれぞれ見つめていく。


 ――うん、でもみんな嬉しそうだからいいですかね。










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