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三章
ワーカーホリック再発
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ギュッと書類の山に引っ付いて離れない私をヴォルフス様が後ろからヒョイっと抱き上げる。
抵抗しようと、空中で犬かきをするように手足をジタバタ動かす。だけど、私が力でヴォルフス様に敵うはずがない。
「おーよしよし、落ちつこうな~」
「でも……おしごと……」
「よしよーし、リアがやらなきゃいけない仕事はないんだぞ~」
ギュッと両腕でホールドされる。足はまだぷらんと浮いたままだ。
「リア……」
ハッ!
気付けば、お父さんが悲し気な顔をしてこちらを見ていた。
お父さんを悲しませたいわけじゃないのに。そんな顔されたら――
「リア――へ?」
ヨタヨタと歩み寄ってくるお父さんの手から、私はピュッと書類を奪い取った。
手の中が空になったお父さんはポカンと口を半開きにする。
「り、リア……?」
「……」
書類をお腹に隠すように、手足をギュッと空中で抱え込む。まだヴォルフス様に持ち上げられたままだ。力持ちですね。
「グウッ! うちの子がかわいい……」
書類を抱え込んだままちらりと顔を窺えば、お父さんが空になった手で自分の胸を押さえた。
そして何やら悶えたかと思えば急に我に返る。
「――ハッ! いやいや、リア、駄目だよ? お父さんに書類を返してくれる?」
「……」
私も作業を中断させて迷惑をかけているのは分かってる。だから書類を返したいのは山々なんですけど……。
「ぐうぅ、手が書類を離してくれません……!」
私の思考とは裏腹に手は書類を離してくれない。それどころか無意識にペンまで求める始末。
「習慣が怖いです!」
「俺としてはリアにそんな習慣をつけた環境が一番怖いがな」
耳元でヴォルフス様が低く呟く。
「まあまあ二人共、そんなにやりたそうなんだから姫様にやらせてあげなよ。我慢は体に悪いよ~?」
ほわほわと私の援護に入ってくれたのは宰相さんだった。
「その書類、数字の確認するだけでしょ? 別に姫様にやらせてあげてもいいんじゃない?」
「……エリックがそう言うなら」
お父さんは渋々納得してくれたようだ。
そして、ヴォルフス様がやっと私を地面に下ろしてくれた。
「姫様~こっちおいで~」
宰相さんがこいこいと私を手招きし、自分の隣に招いてくれた。
そして他の補佐官さんによって簡易的な椅子がサッと用意される。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
余計な手間をかけさせてしまったことに、申し訳ない気持ちがムクムクと湧いてくる。
だけど、私はほぼ無意識に手元の書類に目を通していた。
どの数字をどうやって計算すればいいかはすぐに分かった。
パッと私の頭の中で数字が処理される。
そしてペンを取り、間違っている箇所の数字を正しく直した。
よし、次。
計算し終えた書類を机のわきによけ、次の書類に取り掛かる。
そちらもシャシャッっと間違っている箇所を書き込み脇によける。
お父さんから奪えた書類はそんなに多くなかったので、そんな作業を十回ほど繰り返せば手元の書類は全てなくなってしまった。
やることが亡くなってしまい、パッと顔を上げると、お父さんやヴォルフス様、宰相さんに補佐官のみなさんが作業する手を止めてこちらを見ていた。
全員が見事にこちらを見ているものだから、ちょっとびっくりしちゃいました。集中してて周りのことなんて目に入ってませんでしたけど、そういえば妙に静かだった気もしますね……。
その沈黙を破ったのはヴォルフス様だった。
「――す、すごいぞリア!!」
早足で近付いていたヴォルフス様が椅子に座る私の脇に手を差し込み、高い高いをする。
「数字の処理がすごく早いな。ちゃんと合ってるし。リアは天才だ!」
「えへへ」
ヴォルフス様が私を高い高いしたままその場でクルクル回る。
かなりテンションの上がっているヴォルフス様だけど、私が目を回す前にクルクルを止めて床に下ろしてくれた。
ヴォルフス様に下ろしてもらうと、微妙な顔をしたお父さんが私の頭を撫でてくる。
「リアすごいね」
浮かない顔でよしよしと私の頭を撫でるお父さん。
「お父さん……?」
「自分の子が得意なことは褒めてあげたいんだけど、得意になった考えると素直に喜べない……っ!」
ギュッとお父さんに抱き締められる。
「え~、僕としては是非スカウトしたいんだけど~?」
先程とは少し目付きの変わった宰相さんが話しかけてくる。
「リアがやりたいことならいいんだけどな。リア、書類仕事は好きか?」
「ん~、好きかと言われれば違うかもしれません。なんというか、目の前にあるとやらなきゃいけない気になるというか……」
条件反射みたいなものですよね。今はちょっと落ち着きましたけど、まだソワソワしますし。
そう言うと、お父さんがまた悲しそうな顔になった。
「マジであいつ……絶対に許さない……」
ボソリとお父さんが呟く。
どうやら叔父へのヘイトを溜めているようだ。
ヴォルフス様が宰相さんの方に向き直る。
「リアが特に好きではないのならここに就職するのは却下だ。俺としてもリアのワーカーホリックが再発するのは避けたいしな」
うん、私も今は魔術の方に興味があるので、魔術の出番がなさそうなここへの就職はちょっと避けたいです。
「まあ、僕としても姫様には健康でいて欲しいしね。残念だけど勧誘は諦めることにするよ」
宰相さんもそこまで本気では言ってなかったのか、あっさりと引きさがってくれた。
抵抗しようと、空中で犬かきをするように手足をジタバタ動かす。だけど、私が力でヴォルフス様に敵うはずがない。
「おーよしよし、落ちつこうな~」
「でも……おしごと……」
「よしよーし、リアがやらなきゃいけない仕事はないんだぞ~」
ギュッと両腕でホールドされる。足はまだぷらんと浮いたままだ。
「リア……」
ハッ!
気付けば、お父さんが悲し気な顔をしてこちらを見ていた。
お父さんを悲しませたいわけじゃないのに。そんな顔されたら――
「リア――へ?」
ヨタヨタと歩み寄ってくるお父さんの手から、私はピュッと書類を奪い取った。
手の中が空になったお父さんはポカンと口を半開きにする。
「り、リア……?」
「……」
書類をお腹に隠すように、手足をギュッと空中で抱え込む。まだヴォルフス様に持ち上げられたままだ。力持ちですね。
「グウッ! うちの子がかわいい……」
書類を抱え込んだままちらりと顔を窺えば、お父さんが空になった手で自分の胸を押さえた。
そして何やら悶えたかと思えば急に我に返る。
「――ハッ! いやいや、リア、駄目だよ? お父さんに書類を返してくれる?」
「……」
私も作業を中断させて迷惑をかけているのは分かってる。だから書類を返したいのは山々なんですけど……。
「ぐうぅ、手が書類を離してくれません……!」
私の思考とは裏腹に手は書類を離してくれない。それどころか無意識にペンまで求める始末。
「習慣が怖いです!」
「俺としてはリアにそんな習慣をつけた環境が一番怖いがな」
耳元でヴォルフス様が低く呟く。
「まあまあ二人共、そんなにやりたそうなんだから姫様にやらせてあげなよ。我慢は体に悪いよ~?」
ほわほわと私の援護に入ってくれたのは宰相さんだった。
「その書類、数字の確認するだけでしょ? 別に姫様にやらせてあげてもいいんじゃない?」
「……エリックがそう言うなら」
お父さんは渋々納得してくれたようだ。
そして、ヴォルフス様がやっと私を地面に下ろしてくれた。
「姫様~こっちおいで~」
宰相さんがこいこいと私を手招きし、自分の隣に招いてくれた。
そして他の補佐官さんによって簡易的な椅子がサッと用意される。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
余計な手間をかけさせてしまったことに、申し訳ない気持ちがムクムクと湧いてくる。
だけど、私はほぼ無意識に手元の書類に目を通していた。
どの数字をどうやって計算すればいいかはすぐに分かった。
パッと私の頭の中で数字が処理される。
そしてペンを取り、間違っている箇所の数字を正しく直した。
よし、次。
計算し終えた書類を机のわきによけ、次の書類に取り掛かる。
そちらもシャシャッっと間違っている箇所を書き込み脇によける。
お父さんから奪えた書類はそんなに多くなかったので、そんな作業を十回ほど繰り返せば手元の書類は全てなくなってしまった。
やることが亡くなってしまい、パッと顔を上げると、お父さんやヴォルフス様、宰相さんに補佐官のみなさんが作業する手を止めてこちらを見ていた。
全員が見事にこちらを見ているものだから、ちょっとびっくりしちゃいました。集中してて周りのことなんて目に入ってませんでしたけど、そういえば妙に静かだった気もしますね……。
その沈黙を破ったのはヴォルフス様だった。
「――す、すごいぞリア!!」
早足で近付いていたヴォルフス様が椅子に座る私の脇に手を差し込み、高い高いをする。
「数字の処理がすごく早いな。ちゃんと合ってるし。リアは天才だ!」
「えへへ」
ヴォルフス様が私を高い高いしたままその場でクルクル回る。
かなりテンションの上がっているヴォルフス様だけど、私が目を回す前にクルクルを止めて床に下ろしてくれた。
ヴォルフス様に下ろしてもらうと、微妙な顔をしたお父さんが私の頭を撫でてくる。
「リアすごいね」
浮かない顔でよしよしと私の頭を撫でるお父さん。
「お父さん……?」
「自分の子が得意なことは褒めてあげたいんだけど、得意になった考えると素直に喜べない……っ!」
ギュッとお父さんに抱き締められる。
「え~、僕としては是非スカウトしたいんだけど~?」
先程とは少し目付きの変わった宰相さんが話しかけてくる。
「リアがやりたいことならいいんだけどな。リア、書類仕事は好きか?」
「ん~、好きかと言われれば違うかもしれません。なんというか、目の前にあるとやらなきゃいけない気になるというか……」
条件反射みたいなものですよね。今はちょっと落ち着きましたけど、まだソワソワしますし。
そう言うと、お父さんがまた悲しそうな顔になった。
「マジであいつ……絶対に許さない……」
ボソリとお父さんが呟く。
どうやら叔父へのヘイトを溜めているようだ。
ヴォルフス様が宰相さんの方に向き直る。
「リアが特に好きではないのならここに就職するのは却下だ。俺としてもリアのワーカーホリックが再発するのは避けたいしな」
うん、私も今は魔術の方に興味があるので、魔術の出番がなさそうなここへの就職はちょっと避けたいです。
「まあ、僕としても姫様には健康でいて欲しいしね。残念だけど勧誘は諦めることにするよ」
宰相さんもそこまで本気では言ってなかったのか、あっさりと引きさがってくれた。
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