前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

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はじめてのおつかいは保護者の方が疲れる sideリーフェ

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 今日はうちの末っ子、ミィがはじめてのおつかいに行く日だ。
 ミィにはじめてのおつかいをさせることを決断したはいいが、心配でたまらない。それはもう、心配で心配で心配でたまらない。
 おつかいの道中、こんなにかわいいミィは攫われたりしないだろうか。
 心配なのでモフ丸にリアルタイムで監視できる魔道具を取り付けた。今日はどうせみんな心配で仕事にならないから家族みんなでミィを見守る予定だ。

「では、いってきます!!」
 元気に挨拶をするミィをハンカチを握りしめて見送った。



***



 みんなでミィの様子を映しだす鏡を食い入るように見つめる。

 初めて一人でダンジョンに入ったミィはちょっと緊張気味だ。
 だが、若干顔がこわばってるミィは美しいダンジョンを見て徐々に表情をほころばせていく。かわいいなぁ。父上と兄達も顔がデレデレだ。
 ミィは水遊びがしたくなっちゃったのかキョロキョロとそこかしこから流れ出る水を見ている。今度一緒に水遊びしよ。

 ミィとモフ丸は水辺で遊びたいだろうに寄り道することなくダンジョンを進んでいった。いい子達だ。
「そろそろあいつを出した方がいいんじゃないか?」
「そうだね」
 俺は魔力を飛ばしてあいつに指示を出した。

『ぴきゅ』
『ん? モフ丸?』
『我ではないぞ』
 鏡の向こうでミィがキョロキョロしている。

『ぴっきゅ!』
『……リス?』
 お、ミィが気付いてくれた。
 このリスは俺の使い魔だ。今回のためだけにテイムした。
 こいつに最深部までの近道を案内させるのだ。

『クッキー食べますか~?』
 ミィはリスにクッキーを与えた。
「ミィは優しい子だな……」
「ああ~、得体の知れない動物にあんな無防備になって……」
 オルフェ兄上はミィとリスの絡みを素直に愛でてるけどイルフェ兄上は無防備なミィを心配してる。
 ちなみに父上は無言で涙を流してる。ミィが一人で出かけてることとか、いろんなことに感動してるんだろう。父上は基本無表情だけど結構感受性が豊かだからね。


 リスの案内でミィは無事にダンジョンの最深部に辿り着いた。とりあえず一安心だ。
 そしてミィは水龍を呼び出し、俺が預けた手紙を渡した。
「なあリーフェ、あの手紙にはなにが書いてあるんだ?」
「ん? 簡単な近況報告とミィの可愛らしさを書いた惚気だよ。水龍とは文通してるんだ」
「お前文通なんてしてたのか……」
 イルフェ兄上がビックリしてる。確かに今どき文通やる人って珍しいよねぇ。
「まあ水龍は俺の仲良しさんだから、ミィを彼のダンジョンにやっても安全だと思ってはじめてのおつかい先に選んだんだよ」
「そうだったのか」


 水龍が俺の手紙を読んでる間に、ミィは気が抜けたのか眠くなってしまったようだ。
 あ~あ~、モフ丸の毛に埋もれたら眠くなるに決まってるじゃないか。

「まあ普段じゃありえないくらい動いたもんなぁ」
「仕方がないな」
 ミィは運動不足だからね。将来肥満にならないか心配だ。まあモチモチしたミィもかわいいんだろうけど。


『ミィ』
『んん~! ねむいぃぃぃ!!』
 ミィはモフ丸の胴体に頭をのせたままゴロゴロと転がる。
『んにゃ~!!』

「あ~、ぐずり始めちゃったねぇ。ミィにはちょっと距離が遠かったかな……」
「一人で外出する気疲れもあったんだろうな」


「仕方がない、我が迎えに行こ……」
 父上がおねむなミィを迎えに行くと言おうとした瞬間。

『おや? ミィ……?』

「「「「!?」」」」
 俺達はいる筈のない奴の声がして目を剥いた。

『にゃ? ……あ、お兄さん』

「父上! なんであいつがいるの!? 人界に帰ったんじゃないの!?」
「いや、帰った筈だが……」

 あれよあれよという間にミィは奴に抱っこされてしまった。

『ミィはこれからどこかに行くの?』
『おてがみをもってかえります……』
『ふむ……じゃあ僕が出口まで運んであげるよ。神獣様、いいですか?』
『うむ、むしろこちらから頼みたいくらいだのう』
 出口まで運んであげる……?
「この会話の流れなら魔王城うちまで送ってあげるって言いそうなもんだけど……」
「確かになぁ」
 俺の呟きにイルフェ兄上が同意する。

 すると、鏡越しにヤツと目がパッチリ合った。
「ヒィ! 父上! こいつ絶対なんか盗聴とかしてるよ! 父上がダンジョンの入り口まで迎えに来ること知ってんだって!!」
「ううむ……」
 父上は腕を組んで眉を寄せている。
 すると、オルフェ兄上が勢いよく立ち上がった。
「ミィを迎えに行くぞ」
「だな」
 イルフェ兄上もその後に続く。

 そうして俺達は転移でダンジョンの前に飛び、これから出てくるヤツとミィ達を待ち構えた。

 そして暫くするとミィを抱っこしたヤツがダンジョンから出てきた。
「おや、皆さんおそろいで」
 やはり知っていたのか、ここに俺達が揃っていることに驚いた様子はない。
「挨拶は後だ。まずはミィを受け渡してもらおうか」
「ええ。どうぞ」
 ヤツはあっさりと父上にミィを手渡した。
 ミィはぐっすり眠っていて起きる気配はない。

「お前ミィの行動を監視してるな?」
「やだなぁ、ちょっと盗聴してるだけですよ」
「ちょっとじゃねぇから。十分犯罪だから」
 イルフェ兄上が睨んでもヤツはニコニコと笑っている。
 オルフェ兄上が一歩前に出た。
「ミィに付けている盗聴器を外せ」
「は~い。ちょっと失礼」
 ヤツは父上が抱いているミィに近付くと、ミィの靴のかかと部分から何かを取り外した。そんなところに付いてたのか。

「じゃあ、またミィに会いにきますね」
 そう言ってヤツは帰っていった。

「チッ食えないガキだ。あいつ本当に14歳かよ。鯖読んでんじゃね?」
 ヤツが見えなくなった後、イルフェ兄上が憎々し気に呟いた。

「モフ丸、なぜ奴にミィを任せた」
 オルフェ兄上がモフ丸に問うた。堅物な兄上が「モフ丸」って言うと違和感がすごいな。似合わない単語すぎだろ。
「ふむ、ヤツはミィに危害を加える気が全くなかったからだのう。ヤツの行動は善意百パーセントだぞ」
「それは確かなのか?」
「もちろんだ。神獣を舐めるでない」
「そうか、ならいい。ミィの付き添いをしてくれてありがとう」
 オルフェ兄上は少し表情を緩めてしゃがみ、モフ丸の頭を撫でた。実は動物大好きなんだよねぇ。


「とりあえず家に帰るぞ」
 父上に促され、俺達は転移で家に帰った。


「お前達、ミィのことは我が見ているから準備をしてきなさい」
「でも父上……」
「ミィはちゃんとおつかいをしてきたんだ。祝ってやるのだろう?」
「「「はい……」」」
 帰ってからずっとミィの近くに張り付いていた俺達は、父上に言われてミィのお祝いの準備をしに食堂へ向かった。

 ちょうど準備が終わったところで父上からミィが起きたという念話が入った。
 その念話を受けて俺達兄弟は競うように父上の部屋に向かった。一刻も早くミィを褒めてあげたい。

「ミィィィイ!!」
「あ、リーフェ兄さま」
 ああ、寝てるミィもかわいいけどやっぱり起きてるミィの方がかわいい。
「ミィィィィィイ!! 頑張ったねぇ。兄さまは感動したよ」
「半分は自分で歩いてないですよ?」
「そんなの些末なことだよ!!」
 むしろあんなやつ足に使ってやれ。

 ピクンと何かを思い出した様子のミィがカバンをゴソゴソ漁って手紙を取り出し、それを俺に手渡してきた。
「どうぞ兄さま」
「ありがとうミィ」
 これではじめてのおつかいは完遂だ。
 正直この手紙の存在忘れかけてたけど。

「ミィ、今日は疲れたでしょう。ごはん食べに行こう」
「はい!」
 俺はミィを抱き上げて食堂に向かった。

 食堂の扉の前に着いたので、一旦ミィを下ろして扉を開ける。
「!!」
 ミィが驚きの声を上げる。
 そこには『ミィ、お疲れさま!』と書かれた横断幕がでかでかと飾られている。そしてテーブルの上にはミィとモフ丸の好物ばかりが並べてあった。

「ふおおおお!」
 ミィは両手で自分の頬を覆い感動している。
「いっぱい食べるんだよ。モフ丸もね」
「はい!」
「うむ」
 うん、二人が喜んでくれて何よりだ。

「これならミィ毎日でもはじめてのおつかいしたいです!」
「それはもう”はじめて”のおつかいじゃないね。ただのおつかいだよ」
 単純な妹がかわいくて自然と微笑みがこぼれる。


 でもなんだかこっちが気疲れしちゃったから、ミィのおつかいは暫くいいかな……。








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