前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

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ミィの前世の話なのです!

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 ある日、段ボールにスッポリ納まっているわたしを見てモフ丸が言った。
「そういえば、ミィ、お主はは前世どのような暮らしをしていたのだ?」
「? ミィは猫でした。食っちゃ寝ごろりんちょの生活をおくってたのです」
「それは知っておるわ」
 モフ丸にむぎゅっと狐パンチをくらわされた。肉球がふにふになのです。これはむしろご褒美ですね。

「えっと、ですね、ミィは多分人界で飼われてた猫ちゃんだったのです。ご主人さまに角とかは生えてなかったですし、今思い出してみるとご主人さまの言葉もわかるので」
「ほう」
 ミィの前世話に興味があるのかモフ丸の尻尾がユラユラ揺れる。そんな反応されると話しがいがあるのです。

 前世で住んでいたちょっとボロっちい建物を思い浮かべる。
「ミィはですね、前世の記憶と照らし合わせて気付いたんですけど教会で飼われてた猫ちゃんっぽいのです」
「ほう」
「そこにいた若い神父さんがわたしのご主人さまでした」
「男だったのか?」
「はい」
 今考えるとご主人さまはとってもイケメンさんでした。でもあんまりモテる感じではなかったですね。なんでだろ。

「教会に住んでたので、ご近所さん達がいっぱい甘やかしてくれましたねぇ」
 お魚をくれたり、お肉をくれたり。あと事あるごとに撫でてくれましたね。いい思い出なのです。




***




「んな~」

 くあ~とあくびをして後ろ足でカカカッと首の後ろをかく。

「あ、おはよう。今日もかわいいね」
「んな~」
 身支度を整えてきたご主人さまに抱き上げられる。長い指で首の下をかかれたらゴロゴロ喉が鳴っちゃいます。
「今日はお魚焼いてあげるからね」
「にゃん!」
「ごはんの時だけかわいい声だしちゃって~。現金なヤツだな~」
 ご主人さまはそう言いつつもデレデレとした顔で頬を擦り付けてくる。おちょろさんです。

 にゃふにゃふとお魚を食べ、ご主人さまにお口を拭いてもらう。

 朝ご飯終わったらご主人さまはお家の前を掃除する。
 フリフリと動く箒にじゃれじゃれするのを必死に我慢するのがみーのお仕事です。
 みーが土の上を歩くと雑草が育っちゃうのでよくご主人さまが苦笑いしてます。なので土の上はご主人さまの抱っこで移動が基本になりました。楽ちんなのです。

 お掃除が終わると、ちらほらと近所の人がやってくる。ご近所さんは、なんか両手を組んで目を瞑ったり、ご主人さまに困りごとを相談したりしてるのです。
 ご主人さまはこの周辺ではかなり若い方で、よく駆り出されたりしている。

 今日はどうやら畑の作物の実りが悪いと相談されたみたいです。
 クルンと丸くなってご主人さまを眺めてたら、ビローンと両脇に手を差し込まれて抱き上げられた。顔を上げてご主人さまのお顔を見る。
「うに?」
「みー今の表情最高にかわいい!!」





 ご近所さんの畑に移動したのです。ふかふかな土の上に下ろされました。
 にゅこにゅことご主人さまに頭を撫でられる。
「にゅい?」
「みー、畑で遊んでおいで?」
「んな~」
 ご主人さまに促され、みーは畑の土の上を歩きだします。畑で遊んでおいでと言われるのも変な話ですよね。近所のわんたんは畑に入っちゃいけないって言われてたのに。
 ぴょんこぴょんこと作物を避けて畑を駆け回り、土の上でゴロゴロと転がる。ご主人さまはそんなみーをプルプルと震えながら見守ってます。

 みーが通った道の横に生えている作物はみるみるうちに瑞々しさを増し、一回り大きくなる。


 さて、大体畑を一周したのでご主人さまの元に帰りましょうか。そう決めると、みーはご主人さまの方へと一直線に駆け出す。
「にゅぁ~」
「みーおかえり!ありがとうね!」
 ご主人さまはみーの毛皮に付いた土を軽く払うと迷いなくみーを抱き上げる。ご主人さまの白い服にみーの足跡が付いちゃいました。
「ふふっ、足の裏が真っ黒だねぇ。帰ったらお風呂に入ろうか」
「んな~」
 みーは猫だけどお風呂は嫌いじゃないのですよ。暴れたりしない良い子でお風呂に入ります。




 ゴシゴシと毛皮を擦られ丁寧に泡立てられる。
「にゅふにゅふ」
「みーはいい子だねぇ。気持ちいいかい?」
「んにゃ~♪」


 お風呂に入った後はソファーの上で仰向けになったご主人さまのお腹にのって寛ぎつつ、タオルで水気を拭われます。ぺっとりとした毛が違和感でブルブルしちゃいます。
「うわっ!ふふっ、みー冷たいよ」
「んに~」
 ごめんなさいなのです。

「今日は頑張ったから夜ご飯はお肉だよ」
「にゃん♪」
 お魚も好きですけどお肉も大好きなのです。



 お腹いっぱいお肉を食べた後はいよいよ就寝です。
 みーはご主人さまと寝起きしているので夜行性じゃないですよ。夜も昼もしっかり寝ます。

 ご主人さまと一緒にベッドに入る。
 みーは気分でご主人さまのお腹の上や足の間に寝たりします。今日はご主人さまの顔の真横で丸くなりました。
 頭から尻尾の先までご主人さまの手が行き来する。

「おやすみ、みー」
「んなぁ~」



 おやすみなさい、ご主人さま。







***




「―――ご主人さまとの生活、懐かしいのです」
「楽しく暮らしてたのだな」
「……はい……」
「どうしたのだ?ミィ」
 モフ丸が少し俯いたわたしの顔を覗き込んでくる。

「……ご主人さまのことを思い出したらちょっと寂しくなっちゃったのです」
「そうか」
 モフ丸が慰めるように隣にきてわたしの膝に尻尾をのせてくれる。……あったかいのです。

「……今日はリーフェ兄さまと一緒に寝ます。モフ丸、一緒にリーフェ兄さまの部屋に行ってくれますか?」
「よいぞ」
「モフ丸も一緒に寝ましょうね」
「うむ」

 リーフェ兄さまは喋り方がちょっとご主人さまに似てるのです。

「じゃあ兄さまのお部屋に突撃するのです!」
 ぬんっとモフ丸を抱っこして自分の部屋を出ようとする。でも足と尻尾は床についてるので、モフ丸をズリズリと引きずることになってしまう。
 ……進まないのです。
 ホールドしていた腕を解いてモフ丸を床に下ろす。どうせ抱っこでは運べないのに、ついつい勢いで抱っこしようとしちゃうんですよねぇ。

「ミィ、我は自分で歩くぞ」
「はいなのです」





 リーフェ兄さまのお部屋はもう電気がついてなかったのでこっそり侵入しました。ミィの思い出話で随分夜更かししちゃったのでもう兄さまは寝ちゃってるかもしれないのです。

 足音を消して兄さまが寝ているベッドに近付いていく。抜け足差し足忍び足なのです。
 小声でモフ丸に話し掛ける。
「モフ丸、せーのでリーフェ兄さまのベッドにダイブしますよ」
「うむ」
 深夜ってなんかテンション上がりますよね。モフ丸もワクワクしてるのかブンブン尻尾を振ってるのです。

「「せーのっ!」」


 ボフンッ!

「うわぁっ!?なに!?」

 お腹にミィとモフ丸がのったリーフェ兄さまが驚いて飛び起きました。
 兄さまと目が合う。

「ミィ!?どうしたんだいこんな時間に」
「今日は兄さまと寝ます」
 わたしは兄さまの布団の中に潜り込む。ぬっくぬくなのです。
 モフ丸もわたしの隣に寝ころびました。
「ミィ、どうしたの?寂しくなっちゃった?」
「寂しくなっちゃったのです」
「ん~、かわいい!」
 兄さまもボフンとベッドに倒れ込みました。モフ丸ごとむぎゅううううと抱き締められます。

「ん~ミルクの匂い」
「ミィもうミルク飲んでないのです」
「ん~?」
 ……兄さまちょっと寝ぼけてますね。

「ミィももう寝な」
「あい……」

 兄さまにお腹をポンポンされ、寂しさを感じる間もなく眠気がやってきました。




 ―――そういえば、あの子はミィが死んだ後も元気でやってたのでしょうか。


 眠りに落ちる前、真っ白な毛皮が脳裏に浮かんだ。







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