前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

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夏の風物詩なのです

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  注:大きい虫が出てくる描写があります。苦手な方は前半を飛ばしてください。

******



 この魔界にも夏はやってきます。

 夏の風物詩といえばかき氷にプール、そして―――。




「ぴやあああああああああああああああああああ!!!」

 ミィのマヌケな叫び声が辺りに響き渡ります。そこの騎士さん、半笑いしてないで助けてくださいなのです!
 ミィ、久々の全力ダッシュです。隣にはモフ丸が伴走してますよ。

 そして、ミィ達の後を追いかけてくるのが魔界の夏の風物詩、ホメティックノミです。
 ホメティックノミは、簡単に言うと固い殻を持った巨大なノミだ。体高だけでミィの二倍はあるめちゃでかいやつです。
 ほんとにこんなでかい害虫どっから湧くんでしょうね。これ、たまに普通サイズの家にも湧くんですよ?

 ミィはこのノミが大嫌いなのです。普通のノミも嫌いですが、ホメティックノミはもっと嫌いなのです。
 なぜかこのノミ、ミィのことばっか追いかけてくるんですよ。前世が猫だからですかね。ミィはおこですよおこ!!
 背中にぞわぞわとした悪寒を感じつつも必死に走ります。城内で魔法をぶっぱなしちゃったらいろんなとこが壊れちゃいますからね。一回お外に出ないといけません。
 幸い、メイドさんや侍従さんが扉を開けておいてくれるためスムーズにお外に向かえます。そんな気遣いよりもホメティックノミから助けてほしいのですが……。

 まあ、なにをしてもホメティックノミのターゲットはミィから変わらないのでしょうがないです。でも今年はモフ丸もターゲットみたいです。やっぱりモフモフだからですかね。

「魔界にはこんな虫がいるのか!?」
 モフ丸が叫ぶ。
「ほんとに不思議ですよねぇ」
「のんきか!!」
 モフ丸はホメティックノミを見るのは初めてらしく、もう半泣きになってる。気持ちはよく分かりますよ。

 毎年、ミィにはこのホメティックノミを一匹は駆除するというノルマが課されているのです。なので、この一匹はどんなに嫌でもミィが倒さなきゃいけません。あとは兄さま達や父さまが倒してくれます。
 なぜか魔王城のホメティックノミは王族が倒すのがしきたりらしく、本当にピンチの時しか騎士さん達は助けてくれません。
 まったく、嫌な伝統です。



「にゃあああああ!!!」

 やっと訓練場に辿り着きました。外です!魔法使えます!!

 スッと掌をホメティックノミに向ける。

「『燃えるのです!』」

 火炎魔法を使ったので、ホメティックノミが勢いよく燃え上がりました。同時に風魔法を使ってさらに炎を上へ上へと燃え上がらせる。
 火炎魔法を使うのは死骸を残さないためなのですよ。固い殻も燃やしちゃえば意味なののです。

 一片も残さず塵にするのです!

 わたしはさらに火力を上げた。
 ゴウゴウと燃え盛る炎の熱がこちらにまで伝わってくる。モフ丸が「暑いのう」とボヤいてます。モフ丸が暑いのは久々に走ったからだと思うのです。

 一分くらいでホメティックノミは燃え尽きた。


 気付いたら兄さま達も来ていて、ホメティックノミを倒し終わってました。


 フッと影が差して、後ろから誰かに抱き上げられた。
「頑張ったなミィ」
「イルフェ兄さま!」
 兄さまの片腕に座らされる。
「ミィはもうノルマを果たしましたからね!もう駆除はやらないのですよ!」
「ハハッ、ミィはほんとにホメティックノミが嫌いだな。まあ毎年追いかけられてるしな」
「ほんとですよ!」
「ホメティックノミも猫っぽいミィに寄生したいんだろうな」
「自分より大きい化け物に寄生されてたまるかなのです」
 前世でもノミは大嫌いでした。


「まあ今日はがんばったからな、兄さまがかき氷を作ってやろう」
「!」
 かき氷!
「ミィ、いちご味がいいのです!練乳もかけていいですか?」
「おう」
 ニカッと笑ったイルフェ兄さまにガシガシと頭を撫でられる。



 わたし達はそのまま食堂に向かい、そこでかき氷を作ることにした。

「兄さま、いちごシロップ持ってきたのです」
「おう、そこに置いておいてくれ」
「はいです」
 兄さまは今、ガリゴリと氷を削っている。なんか職人さんみたいです。

「兄さまももう駆除は終わったんです?」
「ああ。ミィがノミと追いかけっこしてる間に三匹は仕留めたからな。毎年あのデカノミが出るのは六匹くらいだし、あとは兄上やリーフェとかが駆除してんだろ」
「ほうほうです」
 じゃあもうあのノミは出ないんですね。一安心なのです。



「お、なんか涼し気なことしてるね」
 リーフェ兄さまがひょこっと顔を出した。
「かき氷を作ってるのです。リーフェ兄さまも食べますか?」
「うん。もらうよ」

 リーフェ兄さまはそう言うと、シロップを選びにいった。


***



「いただきますなのです」

 ミィはパクンと一口かき氷を口に含みました。冷たくて甘い氷の粒が口の中で溶けてくのです。
「おいしいです!」
「お~」
 イルフェ兄さまはわたしの横でガツガツとかき氷を食べ進め、さっさと自分でおかわりを作り始めた。
 頭きーんてなんないんですかね。

 モフ丸もメロン味のかき氷をおいしそうに食べてます。尻尾がもふもふと揺れててかわかわなのです。

「あ~涼しい~」
 リーフェ兄さまがスプーンを咥えたまま机の上に伸びてます。ぐにーんて伸びて寝てる猫ちゃんみたいですね。


「ほれミィ」
「?」
 イルフェ兄さまに二つのかき氷が乗ったトレーを渡されました。
「ミィこれ以上食べたらお腹痛くなっちゃうのです」
「この食いしん坊さんめ。ミィのじゃなくて父上と兄上への差し入れだ。届けてこい」
「なるほどなのです」
 ほれって渡されたらミィのかと思っちゃうのです。



 十分涼んだミィは、この後父さま達にかき氷を届けた後、お昼寝をして過ごしました。


 夢にホメティックノミが出てきやがったのは絶対に許さないのです。






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